15~廃教会の戦利品
「――静けさを乱さぬように。
そして、お前たちの歩む先で、新たな記録を残すことだ」
そう言い残し、ヴォルグが奥へ引き返そうとした時、ノーラが声をかけた。
「ちょっと待って」
全員の視線がノーラに集まる。
「ここには、廃教会の調査依頼で来てるの。
街のギルド経由で、《忘れ谷の聖遺物》の回収も頼まれてるわ。
銀の燭台とか、聖水杯とか……まだ残っているならだけど」
フレアリスが扇子で口元を隠しつつ、こくこくと頷く。
「そうですわ。わたくし、高貴な聖遺物を持ち帰る凱旋ポーズをすでに頭の中で練習してましたのよ。手ぶら帰還なんて絵的によろしくありませんわ」
ミントがぼそりとつぶやく。
「依頼クリアしないと、報酬も出ないしね……」
ヴォルグはしばし黙考し、それからセラに視線を向けた。
「セラ。お前はどう思う」
セラは少しだけ迷ったように目を伏せ、それからノーラたちを見た。
「……ここを壊さないなら。
記録石と、祭壇と、お墓に手を出さないなら……」
小さく息を吸う。
「物は、持って行ってもいいと思う。
光る器や飾りは……あたしには、もう必要ないから」
ノーラが目を瞬かせた。
「随分とあっさりしてるのね。そういうのって、教会にとっては大事な物じゃない?」
「物だけ、守っても意味がないよ」
セラは静かに言った。
「ここに祈る人たちは、もういない。
残ってるのは、燃え残った記録と、あたしみたいな半端者だけ」
そう言って、セラは立ち上がる。
「こっち」
彼女に導かれ、一行は祭壇横の小さな扉へ向かった。
扉の中は、かつて祭服や聖具をしまっていたであろう部屋――祭具室だ。
棚は崩れ、布は虫に食われてぼろぼろになっている。
だが、隅の方にだけ、埃を被った木箱が二つ積まれていた。
「開けていい?」
ジンジャーが確認すると、ヴォルグが静かに頷く。
「鍵は……もうとっくに朽ちてるよ」
セラがそう言うのとほぼ同時に、ジンジャーがこじ開けた。
ガコン、と鈍い音を立てて開いた木箱の中には――
「おお……」
銀色にくすんだ燭台が二本。
側面には、エル=ラミナ聖印の刻印がかすかに残っている。
底には、金メッキの剥がれかけた聖水杯が一つ、斜めに転がっていた。
「依頼票に書いてあった品目と、一致してるな」
ソルトが目を輝かせる。
「銀製聖印燭台・一対と旧式聖水杯。これ持ち帰れば、依頼達成です!」
ノーラはしゃがみ込み、燭台の台座を指でこつこつと叩いた。
「銀の比率は低い合金ね。細工も大量生産品。
素材価値としてはさほどでもないけど――“公的な聖遺物”って看板がつくと、
市場での値段はもうちょっと跳ね上がるかも」
「ノーラさん、今それ考えます?」
ソルトが苦笑する。
「当たり前でしょ。儲けの匂いは逃さないわよ」
もう一つの木箱に、ノーラが手を伸ばす。
「こっちは……っと」
蓋を開けると、中には布にくるまれた何かが詰められていた。
布をめくると、そこからは古い木製の聖句板と、小さな銀のメダイが転がり出る。
「聖句板……こっちはあんまり値はつかないかな」
ノーラは一瞥し、すぐにメダイを摘まみ上げた。
「でもこれは、悪くないわね」
銀のメダイには、小さな祝福印と教会の紋章が刻まれていた。
裏面には、読みにくいほど摩耗した古い文字。
「ギルドへの納品は、燭台と杯で十分でしょ。依頼書にもそれしか書いてないし」
ノーラはさらりと言った。
「このメダイは発見報酬として回収で。文句ある?」
「そうね、依頼品に入ってないなら、現場判断で拾った戦利品……ギリセーフ」
ミントが腕を組む。
「わたくしはむしろ、もっとキラキラした王冠とかが欲しかったのですけど……」
フレアリスは名残惜しそうに木箱を覗き込んだ。
「まあいいですわ。高貴なるわたくしの実績欄に 聖遺物回収 という一行が刻まれますもの」
セラは、その様子をどこか不思議そうに見つめていたが、やがて小さく笑った。
「持って行って。
その代わり――そのメダイを、どこかで捨てないで」
「……捨てないわよ」
ノーラは一瞬だけ真顔になり、メダイを灰のローブの内ポケットに滑り込ませる。
「ちゃんと元がどこだったか覚えておく。
忘れ谷の廃教会で拾ったものって、ね」
ヴォルグが短く頷いた。
「それでいい。
物を持ち出すなら、どこから来たかだけは、忘れないことだ」
こうして一行は――
ギルド依頼の聖遺物と、ささやかな宝箱二つを手に入れた。
それは、大金にはならない。
だが、燃え残った記録と同じように、ここに確かに何かがあった」という証として、ノーラたちの旅の荷物の中に、静かに加わるのだった。
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