フォル
それからというもの。
本当に僕の家で暮らすことになった転生者ははじめこそ「本当にこの家に住んでるの?」とひきつった顔をしていたが、数日後には慣れたように生活し始めていた。
僕自身も少し他人がいる生活に不覚にも慣れ始めてしまっていた。
そんなある日。
「フォル君、君は私が嫌いでしょう」
突然、料理をしていた後ろから声をかけられる。
「なぜそう思うんですか。というか、今日の討伐は終わったんですか」
転生者は以外にも仕事をきちんとこなしているようで、朝から晩まで村の外で魔物を退治していた。
それなのに今はお昼だ。
いつもなら帰ってきていない。
「今日の討伐はいったん休憩。」
「そうですか」
「それで私を嫌いだなって思った理由としては、君の魔力が私をこの村から追い出そうとしてるからかな」
野菜を切っていた手を止めずに笑う。
「なにいってるんですか。僕に魔力はないですよ」
「嘘だね」
「嘘じゃないですよ、ほら」
証拠を見せるように、転生者に向き直り、僕は持っていた包丁で左手を切りつけた。
血が流れ出る。
「ね?魔力があればこの傷は消える。けど、消えない。これが証拠では?」
「そうだね。魔力があればその傷は自然と治癒される。」
「でしょう。だから僕に魔力なんて「でも知ってた?」」
転生者の顔から笑顔が消える。
「治らないことを知っている人間は、そう簡単に自分を傷つけられない」
ポタリと血が流れる。
思っていたよりも深く切ったのか、血が止まる気配はない。
ゆっくりと転生者が近づいてくる。
僕はそれをぼんやりと見つめていた。
腕が熱を持っている。
「君はその傷を治せるはずだ。__ その右手で」
転生者が僕の腕に触れようとしたときだった。
「キャー!!!!!!」
外からそんな悲鳴が聞こえたのは。
僕は転生者を押しのけ家の外に飛び出す。
そこには、ありえない光景が広がっていた。
___暴れていた魔物が村を襲っていたのだ。
「なんで!」
逃げ出す村人。
容赦なく食らう魔物。
ありえない。
だってこの村に魔物が入れないように
僕が防御壁を作っていたのに!!!
「ごめんね。君の防御壁が私を拒むから、村に入るために壊しちゃった」
そんな僕の焦りを知ってか、転生者が言う。
「何を!?」
「仕方なくない?」
「何がしかたないんだ!?そのせいで今!」
「それよりも、あの子いいの?」
転生者が指さす先に視線をやればこけたレティが魔物に襲われかけていた。
「あの子、死んじゃうね」
「っ」
「君なら、ここにいる魔物全員一気に殺せるはずだよ」
動く気配がない転生者。
レティが僕を見た。
恐怖に染まった瞳と目が合った。
その口が動く
『たすけて』
「ほら、早くしないと「うるさい!!!」」
うるさいうるさい!
くそったれ!
何が転生者だ!
何が討伐だ!
僕は右手を正面に突き出す。
風が自身を包み込む。
指をゆっくりと開けば徐々に魔力の流れを感じた。
左腕から流れていた血も止まり、傷が消えていくのが感覚でわかる。
なぁ、師匠。
やっぱり転生者ってくそだよ。
目の前で人が死んでいくのを見て何もしないんだぜ。
あの時だってそうだった。
あの時だって、赤い血を見て笑ってた。
あいつらへの憎しみがこみあげてくる。
「死ね!!!」
広げた指を一気に閉じれば、目の前が光る。
ぎゃあああああなんて汚い魔物の声が耳を貫く。
死んでいく感覚が手にとってわかる。
「すごい」
後ろでそんな言葉をこぼしたやつを殺せないのが、今心底悔しくてたまらない。
殺したいほど憎いのに。
この力で人間は殺せない。
ふっと、手から力が抜けたと同時に、自身を取り巻く風がやむ。
目の前を見れば、魔物はきれいに消え去っていた。
呆然としたレティと目が合う。
終わりだ。
全部が終わった。
レティと僕の間に割り込むように転生者が立つ。
「一度、レティちゃんと二人で話をしたことがあってね。言ってたんだよ、最近魔女を見たって。君が魔女を恐れているからその魔女を殺してくれってね。」
「……」
「きっと、夜に結界を張りなおす姿が君とは別人に見えたんだろうね」
「……別人ね」
「さっき、私の目にも君は別人に見えた。私はね、ずっと思っていたことがある。」
転生者は僕に問う。
「フォル、君のその右腕は誰のもの?」
僕は転生者を睨みつけながら答える。
「____お前らが嫌いな魔女の腕だよ」




