9話 初依頼の成果は予想以上?
初めての依頼を終え、リーベルへ戻ってきた雷牙。
あとは採取したヒール草を納品するだけ。
……なのですが、どうやら雷牙にとっての「普通」は、この世界では少し違うようです。
今回は、初依頼の報告です!
東の森を出て、来たときと同じ街道を歩いていく。
しばらくすると、遠くにリーベルを囲む大きな壁が見えてきた。
「……帰ってきた」
その姿を見ただけで、自然と肩の力が抜ける。
朝に街を出て、森でヒール草を採って戻ってきただけだ。時間だけを考えれば、ちょっとした外出と大して変わらない。
それなのに、今朝ここを歩いていたときとは気分がまるで違った。
理由は分かっている。
初めて魔物と戦ったからだ。
歩きながら、俺は【無限収納】の中へ意識を向けた。
そこには依頼で採取した十本のヒール草と、一匹のホーンウルフが入っている。
あのとき放った火球が直撃して、ホーンウルフが地面へ転がった光景は、まだ頭の中に残っていた。
俺が魔法を使わなければ、襲われていたのは自分だ。
最初に飛びかかられたときだって、【危険察知】がなければ避けるのが遅れていたかもしれない。
だから、倒したことを後悔しているわけじゃない。
それでも、さっきまで生きていたものを自分の手で殺したという感覚を、すぐに忘れることもできなかった。
「……慣れたくはないな」
魔物がいる世界で、しかも冒険者になった以上、これからも同じようなことはあるかもしれない。
だからといって、それを当たり前だと思えるようにはなりたくなかった。
俺は小さく息を吐いて、前を見る。
「とりあえず、依頼の報告だな」
考えるのは、それからでもいい。
まずは初めて受けた仕事を、ちゃんと終わらせよう。
◇ ◇ ◇
東門を通ってリーベルへ戻ると、見慣れ始めた街並みが俺を迎えた。
行き交う人たちの声。通りを走る馬車。店先から漂ってくる食べ物の匂い。
この街に来てから、まだそれほど日が経っているわけじゃない。
それでも宿を取り、買い物をして、冒険者ギルドにも登録した。
「なんか……ちょっと安心するな」
ほんの少しずつだけど、リーベルが俺にとって帰ってくる場所になり始めているのかもしれない。
そんなことを考えながら、冒険者ギルドへ向かう。
扉を開けると、朝とは少し違った雰囲気が広がっていた。
依頼掲示板の前に集まっている人は少なくなり、代わりにテーブルで食事をしている冒険者や、仲間同士で話している人たちが目立つ。
外から戻ってきたらしい冒険者の姿もあり、大きな袋を床へ下ろしている人もいた。
「俺も今はそっち側か」
少しだけ不思議な気分になる。
今朝までは依頼の受け方すら知らない新人だったのに、今はちゃんと依頼の品を持って帰ってきている。
……予定になかった魔物まで持って帰ってきてるけど。
俺は受付へ向かった。
「あの、依頼の報告をしたいんですけど」
「はい。冒険者証をお願いします」
冒険者証を差し出すと、受付の女性はそれを確認してから俺の顔を見た。
「ああ、ライガさんですね。東の森でのヒール草採取でしたよね?」
「はい。十本採ってきました」
「では、こちらへお願いします」
「分かりました」
俺は【無限収納】へ意識を向ける。
採取したヒール草を一本ずつ取り出し、受付台の上へ並べていった。
十本すべてを出し終わって顔を上げる。
すると、受付の女性がヒール草ではなく俺の方を見ていた。
「……どうしました?」
「今のヒール草は、どこから取り出したんですか?」
「【無限収納】ですけど」
「……無限収納?」
聞き返されてしまった。
「はい。【無限収納】っていうスキルです」
「スキル……ですか」
受付の女性は俺とヒール草を交互に見る。
「どのようなスキルなのでしょうか?」
「物を別の空間に収納しておけます。必要になったら、こうやって取り出せる感じですね」
「なるほど。収納を目的とした空間魔法に近い能力でしょうか」
「ああ、確かに似てるかもしれません」
俺は【空間魔法】という別の能力も持っている。
女神様から説明されたときは、結界を作ったり、離れた場所へ移動したり、習熟すれば空間そのものを広げたりできる能力だと聞いた。
それに対して【無限収納】は、物を収納するための専用の異空間を使うスキルだ。
俺の中では別物だけど、この世界の人から見れば似た能力に見えるのだろう。
受付の女性も納得したように頷きかけて――途中で止まった。
「……少し待ってください」
「はい?」
「今、無限収納とおっしゃいましたよね?」
「言いましたけど」
「その『無限』というのは……もしかして、収納できる量に上限がないという意味でしょうか?」
「ああ、はい。そうみたいです」
「…………」
受付の女性が黙った。
何か変なことを言っただろうか。
「あの?」
「本当に、上限がないのですか?」
「女神さ――」
危ない。
慌てて口を閉じる。
「……そういうスキルだと聞いてます」
「誰から聞いたのかはともかく……」
受付の女性は何とも言えない表情を浮かべていた。
「少なくとも私は、収納量に上限がないスキルというものは聞いたことがありません」
「そんなに珍しいんですか?」
「珍しいというより……本当に無制限なのであれば、私には比較できるものがありませんね」
「へえ……」
「へえ、ではないと思うのですが……」
呆れたように言われてしまった。
でも、俺にとっては女神様からもらった能力の一つだ。
石を入れてみたり、制服をしまったり、スマホを入れておいたり、今回みたいに採取したものを保管したり。
便利だとは思っていたけど、そこまで驚かれるものだとは考えていなかった。
「空間魔法を使って物を保管する方はいます。ただ、当然ながら扱える空間の広さには限界がありますし、維持や使用に必要な魔力もあります」
「そうなんですね」
「もしライガさんのスキルが、本当に収納量に上限がないのであれば……少なくとも一般的な空間魔法とは別のものとして考えた方がよさそうです」
「なるほど」
どうやら【無限収納】と【空間魔法】は、この世界の基準で考えても同じものではないらしい。
女神様から別々の能力としてもらっているんだから、当然といえば当然なのかもしれない。
「冒険者にとっては非常に便利なスキルですね。採取した素材を大量に運べますし、旅の荷物も減らせます」
「確かに。今回もかなり助かりました」
特にホーンウルフを丸ごと持って帰ってこられたのは、【無限収納】があったからだ。
あんな大きな魔物を背負って歩くなんて、俺には無理だと思う。
「それでは、ヒール草を確認しますね」
「お願いします」
受付の女性は並べられたヒール草を一本ずつ確認し始めた。
葉の状態を見て、茎を確かめ、採取した部分にも目を向けている。
【鑑定】で確認しながら採ったから、別の草が混ざっていることはないはずだ。
それでも、正式に依頼達成と言われるまでは少し落ち着かない。
やがて十本すべてを確認した受付の女性が、一本を手にしたまま顔を上げた。
「ライガさん。本当に採取依頼は今回が初めてなんですよね?」
「初めてですけど……何かまずかったですか?」
「いえ、逆です。十本すべて間違いなくヒール草ですし、どれも非常に状態がいいんです」
「状態がいい?」
「葉や茎にほとんど傷がありません。採取の仕方も丁寧ですし、保存状態もいいですね」
「そんなに違うものなんですか?」
「初めて採取依頼を受ける方ですと、似た野草を間違えて持ってくることもあります。ヒール草にはよく似た植物もありますから」
「ああ……ニガ草とか?」
「ニガ草も見つけたんですか?」
「はい。最初はヒール草かなと思ったんですけど、【鑑定】したら違ったので」
「なるほど。【鑑定】も使えるんですね」
受付の女性が納得したように頷いた。
「それなら種類を間違えなかったことには納得できます。ただ、それだけでこれほど綺麗に採取できるわけではありませんよ」
「そうなんですか?」
「葉を傷つけたり、必要な部分まで潰してしまったりする人もいますから。それに、運んでいる間に傷むこともあります」
「ああ、それは採ったらすぐ【無限収納】に入れてたからかもしれません」
「なるほど。その収納スキルで保管していたのなら、袋の中で押し潰される心配もありませんね」
「たぶん、それもあると思います」
そういえば、女神様からは【無限収納】の中では時間がほとんど経過しないとも聞いている。
森で採ったときとほとんど変わらない状態なのは、そのおかげもあるのかもしれない。
こっちについては聞かれていないし、わざわざ説明する必要もないだろう。
「とにかく、依頼の達成条件には問題ありません。それどころか、今回納品されたヒール草は十本すべてかなり高品質です」
「高品質……」
俺としては、普通に採ったつもりだった。
【鑑定】で種類を確認して、なるべく状態のいいものを選び、傷つけないように採っただけだ。
それが品質の差につながったらしい。
「採取依頼では、納品された素材の品質によって追加報酬が支払われる場合があります」
「追加報酬?」
「はい。今回の依頼は本来、銀貨一枚と銅貨五枚ですが、十本すべて品質が良好ですので、品質加算を含めて銀貨二枚になります」
「銀貨二枚?」
思わず聞き返してしまう。
本来の報酬よりかなり増えている。
「そんなに増えるんですか?」
「今回は十本すべて状態がいいですからね。もちろん、毎回必ず品質加算が付くわけではありませんよ」
「じゃあ、ありがたく」
初めて自分で依頼をこなして得た金だ。
遊園地を作るための資金として考えれば小さな金額だけど、自分で働いて稼いだと思うと素直に嬉しい。
「これで依頼達成となります。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
これで初めての依頼は無事に終了。
……と言いたいところだけど、今日はもう一つ報告しておかなければならないことがある。
「あの、もう一ついいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「森で魔物に襲われたんですけど」
受付の女性の表情が変わった。
「魔物に? お怪我はありませんか?」
「大丈夫です」
「どのような魔物でした?」
「【鑑定】したら、ホーンウルフって出ました。危険度はEでした」
「ホーンウルフ……」
受付の女性の表情が一気に真剣になる。
「ライガさん、そのホーンウルフからは逃げられたんですか?」
「いえ」
「では、他の冒険者に助けてもらったのでしょうか?」
「いや、一人でしたけど」
「……一人?」
「はい」
「では、そのホーンウルフは?」
「倒しました」
「…………はい?」
受付の女性が固まった。
さっきも似たような反応を見た気がする。
「倒しましたけど」
「確認しますが、ライガさんは今日、冒険者登録をされたばかりですよね?」
「はい」
「現在の冒険者ランクはFです」
「そうですね」
「東の森へ一人で行き、そこでホーンウルフと遭遇して、一人で討伐した……ということですか?」
「そうなりますね」
そこまで確認されると、俺の方が不安になってくる。
「何かおかしいですか?」
「おかしいというより……ホーンウルフは危険度Eの魔物です。それも、Eの中では比較的強い部類に入ります」
「……そうなんですか?」
「特に素早さが厄介です。戦闘経験の浅い冒険者にとっては危険な相手ですし、Fランク冒険者が単独で討伐することは推奨されていません」
「…………」
今さらになって背中が冷たくなる。
確かに速かった。
最初に飛びかかられたときだって、【危険察知】がなかったらどうなっていたか分からない。
「俺、そんなのと戦ってたのか……」
「知らなかったんですか?」
「危険度Eってことは【鑑定】で分かったんですけど、それがどれくらい危険なのかまでは……」
「ああ……」
受付の女性が額に手を当てた。
「冒険者ランクと魔物の危険度は、同じ文字だからといって単純に対応しているわけではありません。危険度EだからEランク冒険者なら必ず勝てる、というものでもありませんし、その逆も同じです」
「なるほど……」
森では、自分より一つ上のランクみたいなものだと思っていた。
どうやら、そんな単純な話ではなかったらしい。
知らないって怖い。
危険度についても、ちゃんと勉強しておいた方がよさそうだ。
「それで……どうやって倒したんですか?」
「火魔法です」
「火魔法?」
「追い払おうと思って、地面に当てるつもりで火球を飛ばしたんです。でも向こうが飛びかかってきて、そのまま直撃してしまって」
「それで倒した、と」
「……そうなります」
「…………」
受付の女性はまた黙ってしまった。
今日はよく人を黙らせる日だな。
「それで、そのホーンウルフなんですけど」
「はい?」
「買い取ってもらえたりします?」
「もちろん可能です。ホーンウルフは常時討伐対象に指定されていますので、依頼を受注していなくても討伐報酬が支払われます」
「そうなんですか?」
「森の浅い場所や街道周辺に現れ、旅人や採取中の冒険者を襲うこともありますからね」
今回みたいに偶然遭遇して倒した場合でも、報酬は出るらしい。
「討伐を証明できるものはありますか? ホーンウルフでしたら額の角が証明になります」
「ああ、角ならあります」
「では、それを確認させて――」
「というか、丸ごとあります」
「……丸ごと?」
「はい」
「ホーンウルフが?」
「はい」
受付の女性が俺を見る。
俺も受付の女性を見る。
「ここに出せばいいですか?」
「待ってください!」
「え?」
「ここでは出さないでください!」
「あ……」
言われて気づいた。
受付台の前に狼みたいな魔物の死体を丸ごと出したら、さすがに迷惑だ。
「すみません」
「いえ……出す前に止められてよかったです」
受付の女性はほっとしたように息を吐いた。
「ギルドの裏手に解体場があります。担当の者を呼びますので、そちらで確認してもらいましょう」
「分かりました」
少し待っていると、奥から作業着姿の男がやってきた。
四十代くらいだろうか。がっしりとした体格で、腰には何種類ものナイフを下げている。
「ホーンウルフを丸ごと持ってきたってのは、お前さんか?」
「はい」
「なら裏へ来な。物を見ないことには始まらねえ」
俺は男のあとについて、ギルドの裏手へ向かった。
◇ ◇ ◇
案内された解体場は、思っていたより広かった。
石造りの床に大きな作業台がいくつも並び、壁際にはナイフや鉈のような道具が置かれている。
独特の臭いが残っているのは、ここで日常的に魔物を解体しているからだろう。
「この辺に出してくれ」
「分かりました」
指定された場所で【無限収納】へ意識を向ける。
中に入れていたホーンウルフを取り出すと、次の瞬間、その身体が石床の上へ現れた。
ドサッ、と重い音が響く。
「これです」
「ほう……」
男はすぐにホーンウルフへ近づき、額の角や牙、身体の大きさを確認していく。
「間違いなくホーンウルフだな。それも成体だ。こいつはなかなか大きいぞ」
「やっぱり大きかったんですか?」
「ああ。この辺で見かけるやつの中じゃ、かなり立派な方だ」
受付でも、危険度Eの中では比較的強いと聞いたばかりだ。
改めて倒れているホーンウルフを見ると、本当によく無事だったと思う。
「これなら討伐証明にも問題ねえ。ホーンウルフの討伐報酬は銀貨五枚だ」
「銀貨五枚!?」
思わず声が大きくなった。
「一匹でですか?」
「一匹でだ」
ヒール草十本の通常報酬が銀貨一枚と銅貨五枚。
今回は品質がよくて銀貨二枚になったけど、それでもホーンウルフ一匹の討伐報酬の方がずっと高い。
「魔物って、結構稼げるんですね……」
「だからって金だけ見て狩りに行くなよ」
「え?」
「報酬が高いってことは、それだけ危険だってことだ。特にお前さん、今日登録したばかりのFランクなんだろ?」
「はい」
「だったらなおさらだ。今回は倒せたからよかったが、次も同じようにいくとは限らねえ」
「それは……そうですね」
金は欲しい。
遊園地を作るなら、それこそ大量に必要になる。
でも、そのためにわざわざ命を懸けて魔物を探し回るつもりはなかった。
「俺、魔物を狩るために冒険者になったわけじゃないですから」
「ならいい。命あっての稼ぎだからな」
男はそう言ってから、再びホーンウルフへ視線を戻した。
「それと、銀貨五枚はあくまで討伐に対する報酬だ。こいつの素材は別で買い取れる」
「やっぱり別なんですね」
「ああ。角に牙、爪、それから毛皮も使える。状態次第じゃいい値になるぞ」
【鑑定】でも、角や牙、毛皮が素材として利用できると表示されていた。
丸ごと持って帰ってきたのは正解だったらしい。
「じゃあ、買い取りもお願いします」
「任せろ。まず状態を見て――」
男が毛皮へ手を伸ばし、そこで動きを止めた。
「……お前さん」
「はい?」
「こいつ、どうやって倒した?」
「火魔法です」
「なるほどなぁ」
妙に納得した声だった。
男が指した場所を見ると、ホーンウルフの毛皮が広い範囲で焦げている。
「あー……やっぱりそこですか」
「そこだな」
「追い払うくらいのつもりだったんですけど、威力の調整を間違えまして」
「追い払うつもりでこの焦げ方か?」
「……はい」
男が焦げた毛皮を見る。
それから俺を見る。
「ちょっと失敗しました」
「ちょっと、ねえ……」
「…………かなり失敗しました」
「だろうな」
男は苦笑しながらも、手際よく角や牙、爪の状態を確認していく。
「角と牙、爪は問題なし。毛皮は使える部分も残ってるが、これだけ焼けてると値は下がるな」
「やっぱりですか」
「毛皮も主要な素材だからな。無事ならもう少しいい値になったんだが、今回は全部まとめて銀貨二枚と銅貨五枚ってところだ」
「銀貨二枚と銅貨五枚……」
十分高い。
十分高いんだけど、もう少し高くなったと聞くと、ちょっとだけ悔しい。
「もったいない……」
「素材狙いで魔物を狩る冒険者は、できるだけ価値の高い部位を傷つけないように戦うもんだ」
「倒せばいいってわけじゃないんですね」
「そういうことだ。ただし、素材を気にして自分が怪我したら意味がねえ。命を守るのが最優先だぞ」
「はい」
金のために攻撃を躊躇して、自分が怪我をしたら本末転倒だ。
それでも、余裕があるなら素材を傷つけずに倒せた方がいい。
「やっぱり、魔力の調整を練習しないとな……」
「魔法使いなら覚えて損はねえだろうな」
俺は森で放った火球を思い出す。
自分では弱くしたつもりだった。
それなのに、ホーンウルフを一撃で倒してしまった。
自分の感覚と実際の威力がずれている。
このまま放っておくのは危険だ。
それに、いつか遊園地で魔法を使うことになったとき、こんな調子では怖くて人なんて乗せられない。
人を楽しませるための場所で、魔法の制御を間違えて怪我人を出すなんて絶対に嫌だ。
「安全第一だもんな……」
「ん?」
「あ、なんでもないです」
魔力の調整は、近いうちにちゃんと練習しよう。
今回みたいに魔物と遭遇したときのためだけじゃない。
遊園地を作るためにも、きっと必要になる。
◇ ◇ ◇
ホーンウルフの買い取りに必要な手続きを済ませ、俺は再び受付へ戻った。
受付の女性は書類を確認すると、今日受け取る報酬を用意してくれた。
「では、改めて確認しますね。ヒール草十本の採取依頼が、品質加算を含めて銀貨二枚です」
「はい」
「ホーンウルフ一体の討伐報酬が銀貨五枚。そして素材の買い取りが銀貨二枚と銅貨五枚になります」
硬貨がまとめて俺の前へ置かれる。
「合計で、銀貨九枚と銅貨五枚です」
「銀貨九枚と銅貨五枚……」
改めて聞くと、かなり多く感じる。
宿を確保するためにハンカチを売って得た金とは違う。
今回は自分で依頼を受けて森へ行き、ヒール草を採って得た報酬だ。
ホーンウルフについては完全に予定外だったけど、それも含めて俺自身が行動した結果として手に入れた金だった。
「……なんか、嬉しいな」
「初めての依頼報酬ですからね」
「はい」
俺は硬貨を受け取り、革袋へしまった。
今回の稼ぎは銀貨九枚と銅貨五枚。
遊園地を作るための資金として考えれば、まだ小さな一歩にすぎない。
土地をどうやって手に入れるのかも分からない。
どれだけの材料が必要なのかも、アトラクションを作るのにいくらかかるのかも知らない。
それでも、最初の一歩としては悪くない。
「遊園地には、全然足りないけどなぁ……」
「遊園地?」
「あ、いえ。こっちの話です」
受付の女性が不思議そうな顔をする。
そういえば、この世界には遊園地そのものがないんだった。
ここで説明を始めたら長くなりそうだ。
「ありがとうございました」
「はい。お疲れ様でした。今日はもう無理をせず休んでくださいね」
「そうします」
「それと……」
受付の女性が少しだけ真剣な顔になる。
「銀貨五枚がもらえるからといって、ホーンウルフを探して森へ行ったりしないでくださいね?」
「行きませんって」
思わず苦笑する。
「俺だって、今日ので十分怖かったですから」
「それならいいのですが」
受付の女性もようやく少し笑った。
冒険者証を受け取り、俺はギルドをあとにする。
外へ出ると、リーベルの街にはまだ多くの人が行き交っていた。
商人が荷物を運び、店先から客を呼び込む声が聞こえる。その横を、武器を持った冒険者たちが歩いていく。
今朝までは、その姿をどこか自分とは違う世界の人たちみたいに見ていた。
でも、今の俺も冒険者証を持っている。
初めて依頼を受けて、初めて自分の力で報酬を稼いだ。
予定外の魔物に襲われたり、自分の能力が思っていた以上に珍しいらしいと知ったり、一日で色々なことがありすぎた気もする。
それでも、朝よりは確実にこの世界のことを知ることができた。
魔物の危険度についてもそうだ。
魔法の威力についてもそうだ。
【無限収納】についてだって、俺にとって便利なだけの能力でも、この世界の人から見ればかなり変わったものらしい。
知らないことは、まだいくらでもある。
「まだまだ勉強することだらけだな」
でも、それでいい。
この世界へ来たばかりの頃は、どうやって生活すればいいのかすら分からなかった。
それが今は宿を確保して、冒険者になって、自分で仕事をして金を稼ぐところまで来た。
遊園地を作るという目標から見れば、まだスタート地点に立ったばかりだ。
土地もない。
必要な金額も分からない。
何をどうやって作ればいいのかも、これから調べなければならない。
それでも、一つずつ知って、一つずつできることを増やしていけばいい。
「先は長そうだけど……」
俺は苦笑しながら、銀の小鹿亭へ向かって歩いていく。
不思議と、その長さが嫌だとは思わなかった。
むしろ少し楽しみだった。
今日の銀貨九枚と銅貨五枚だって、遊園地を作るための小さな一歩だ。
だったら明日は、今日よりもう一歩だけ前へ進めばいい。
いつか本当に、この世界に遊園地を作るために。
お読みいただきありがとうございます!
雷牙、無事に初依頼達成です!
ヒール草は予想以上の高評価となり、さらにホーンウルフの討伐報酬と素材の買い取りも合わせて、銀貨九枚と銅貨五枚を獲得しました。
ただし、火魔法で毛皮を焦がしてしまったため、本来より素材の買い取り額は低めに。
雷牙もようやく、自分の魔法を使えるだけではなく「制御する」必要があると実感したようです。
遊園地を作るには、まだまだ遠い。
それでも、最初の一歩は踏み出せました。
次回もよろしくお願いします!




