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8話 初めての依頼は薬草採取

冒険者になった雷牙が、ついに初めての依頼へ向かいます。

記念すべき初仕事は、東の森でのヒール草採取。

新人向けの簡単な依頼ということですが……果たして無事に終わるのでしょうか。

 冒険者ギルドを出た俺は、リーベルの街を東へ向かって歩いていた。


 今日の目的地は、街の東側にある森。


 そこでヒール草を十本採取して、冒険者ギルドへ持ち帰る。


 それが、冒険者になった俺にとって初めての仕事だった。


「ヒール草を十本か……」


 歩きながら、依頼の内容を改めて頭の中で確認する。


 ついこの間まで普通の高校生だった俺が、今は異世界で薬草を採るために森へ向かっている。


 改めて考えてみると、とんでもない状況だ。


 とはいえ、依頼そのものは新人向けらしい。


 森の浅い場所に生えているヒール草を採取するだけで、危険な場所まで入る必要はない。


 受付の女性からも、森の奥へ行かなければ危険は少ないと教えてもらっている。


「問題は、俺にヒール草が見分けられるかなんだよな」


 特徴についても説明は受けていた。


 細長い葉をしていて、その葉脈に沿うように薄い青色の線が入っているらしい。


 傷薬や回復薬の材料として使われる、この辺りでは一般的な薬草なのだそうだ。


 説明だけを聞けば簡単そうに思える。


 でも、俺はこの世界へ来たばかりだ。


 ヒール草どころか、どんな植物が普通に生えているのかすら知らない。


「まあ……なんとかなるか」


 そう思えるのは、俺に【鑑定】があるからだ。


 見た目だけで分からなくても、それらしい植物を見つけたら【鑑定】すればいい。


 女神様からもらった能力には、まだ使い方すらよく分かっていないものも多いけれど、こういうときに役立つものもある。


「ほんと、色々もらったよな……」


 改めて考えてみても多い。


 女神様は俺を転生させるとき、かなり気前よく能力をくれたものだ。


 もらった以上は、ありがたく使わせてもらおう。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて東門が見えてきた。


 門の周辺では、多くの人が行き交っている。


 荷車を引いて街へ入ってくる商人らしき人に、農具を担いで外へ向かう人。剣や槍を持った冒険者らしき人たちの姿もあった。


 俺もそんな人の流れに混じって東門へ向かう。


 門を通るときに門番から行き先を軽く確認されたものの、東の森へヒール草の採取に行くと答えると、特に止められることはなかった。


「森へ行くなら、あまり奥まで入るなよ」


「はい。気をつけます」


 最後にそんな忠告を受けて、俺は東門を抜けた。


「おお……」


 街の外へ出たところで、思わず声が漏れた。


 目の前には広い草原が広がっている。


 その中を一本の街道が伸び、遠くには山々も見えた。街道を馬車が走り、少し離れた場所には畑らしきものも広がっている。


 そして東の方角には、目的地である森が見えていた。


「こうして見ると、やっぱり異世界なんだよな」


 リーベルへやって来たときにも、こういう景色は見ている。


 それでも、自分の足で街を出て、これから一人で森へ向かうのだと思うと少し違って見えた。


 当然ながら、車なんて走っていない。


 電柱もなければ信号もない。


 高いビルなんてどこにも見当たらない。


 代わりに馬車が街道を走り、武器を持った人たちが当たり前のように歩いている。


「……写真撮っておきたいな」


 ふと、そんなことを思う。


 スマホなら【無限収納】の中に入れてある。


 取り出そうと思えば、すぐに取り出せる。


 でも、周囲にはまだ人がいる。


 この世界では明らかに珍しい物だろうし、わざわざ人前で見せる必要もない。


「また今度でいいか」


 今は観光に来たわけじゃない。


 俺は森へ向かって街道を歩き始めた。


 もっとも、そんなことを考えた直後には、結局また別のことが頭に浮かんでいた。


「遊園地を作ったら、この辺にも人がいっぱい来るようになるのかな」


 自分でも呆れるくらい、頭の中は遊園地のことばかりだ。


 もし遠くの街から大勢の客が馬車でやって来るなら、馬車を停めておく場所も必要になるのだろうか。


「駐車場……じゃなくて、馬車置き場か?」


 馬もずっと馬車につないだままというわけにはいかないだろう。


 休ませたり、水を飲ませたりする場所も必要になるかもしれない。


「……って、今考えることじゃないな」


 まだ土地すら持っていないのだ。


 遊園地の馬車置き場を心配するより、まずは目の前の仕事を終わらせる方が先だ。


「まずはヒール草十本」


 一歩ずつだ。


 俺は苦笑しながら、再び森へ向かって歩き始めた。


     ◇ ◇ ◇


「ここか……」


 しばらく街道を歩き、俺は目的の森へ到着した。


 森と聞いて、もっと薄暗い場所を想像していた。


 でも、入口付近は思っていたより明るい。


 木々の間から日の光が差し込み、鳥の鳴き声も聞こえてくる。


 少なくとも、見るからに危険そうな場所ではなかった。


「森の奥には行くなって言われたし、この辺で探せばいいんだよな」


 俺は受付で聞いた話を思い出しながら、森へ足を踏み入れた。


 最初のうちは、何かが飛び出してくるんじゃないかと少し警戒していた。


 しかし、特に何も起こらない。


 聞こえてくるのは鳥の声と、風に揺れる葉の音くらいだ。


「さて……ヒール草、ヒール草」


 地面へ視線を向けながら歩いていく。


 草ならいくらでも生えている。


 問題は、その中から目的のヒール草を見つけることだ。


「細長い葉で、青い線が……」


 教えてもらった特徴を思い出しながら探していると、それらしい植物が目に入った。


「あれか?」


 近づいてしゃがみ込む。


 確かに葉は細長い。


 よく見ると、葉の中央には薄い青色の線のようなものも見える。


「たぶんこれだと思うけど……」


 見た目だけで判断するのは怖い。


 毒草だったら困る。


 そこで、俺は植物へ意識を集中させた。


「【鑑定】」


 すると、頭の中へ植物の情報が流れ込んできた。


 ――ヒール草。


 傷薬や回復薬の材料として利用される薬草。


 葉や茎に薬効成分を含んでおり、根を残して採取することで再び成長する。


「おお、本当にヒール草だ」


 これなら間違える心配はなさそうだ。


 しかも、根を残した方がいいことまで分かる。


 受付でも、なるべく傷つけないように採取するよう言われていた。


 全部引き抜いてしまえば、次に採取する人が困るということなのだろう。


「じゃあ、根は残して……っと」


 茎や葉を傷つけないよう注意しながら、必要な部分だけを丁寧に採取する。


 手の中に残ったヒール草を見て、少しだけ嬉しくなった。


「一本目」


 俺は採取したヒール草を【無限収納】の収納へ入れた。


 一瞬で手元から消える。


「やっぱり便利だな、これ」


 袋を持ち歩く必要もないし、手が塞がることもない。


 採取した薬草を押し潰す心配も減りそうだ。


 その後も周辺を探していく。


「あ、これもそうじゃないか?」


 似た植物を見つけ、俺は再び【鑑定】を使った。


 ――ニガ草。


 強い苦味を持つ野草。


 食用には適さない。


「違うのかよ」


 見た目はかなり似ていた。


 【鑑定】がなかったら、そのまま採っていたかもしれない。


「新人向けって言ってたけど、知識がなかったら普通に難しいぞ……」


 この世界で育った人なら、子供の頃から見慣れている植物なのかもしれない。


 でも、俺にはその常識がない。


 その分を【鑑定】が補ってくれている。


「女神様、ありがとうございます」


 小さく呟いてから、再び探索を始める。


 それからは、同じヒール草でも葉が虫に食われているものや、茎が折れかけているものは避けるようにした。


 せっかく【鑑定】で見分けられるのだから、できるだけ状態のいいものを選んだ方がいい。


 採り方も、最初の一本より慎重になっていた。


 二本目、三本目と順調に見つかり、四本目を採る頃には少しずつ特徴も分かってきた。


 似た植物を見つけたら、まず見た目で判断して、それから【鑑定】する。


 ヒール草だと分かったら状態を確認し、できるだけ傷つけないように採取して【無限収納】へ収納する。


 最初は時間がかかっていたものの、慣れてくると少しずつ作業も早くなった。


「これで六本か」


 六本目を収納して、次を探す。


 七本目を見つけ、さらに少し進んだところで八本目。その近くには九本目も生えていた。


「あと一本か」


 思っていたより順調だ。


 森へ入ってから、それほど時間も経っていない。


 このまま最後の一本を見つけて街へ戻れば、初仕事は無事に終了だ。


「なんだ。意外と簡単だったな」


 もちろん、【鑑定】があるからこそなのだろうけど。


 周囲を探しながら少し歩く。


 すると、大きな木の根元に見覚えのある葉を見つけた。


「あった」


 近づいてしゃがみ込む。


 細長い葉に、薄い青色の線。


 見た目は間違いなくヒール草だ。


 念のため【鑑定】を使う。


 ――ヒール草。


「よし」


 最後まで葉を傷つけないよう慎重に採取する。


「これで十本!」


 十本目を【無限収納】へ収納し、俺は思わず小さく拳を握った。


 ヒール草を十本採っただけ。


 それでも、俺にとっては異世界へ来て初めて自分でこなした仕事だった。


「あとはギルドに持って帰れば報酬がもらえるんだよな」


 遊園地を作るための資金として考えれば、本当に小さな金額だ。


 それでも、自分で仕事をして稼ぐ最初の一歩には違いない。


「よし。帰るか」


 そう思って立ち上がろうとした、そのときだった。


「――っ」


 身体が止まった。


「……なんだ?」


 何かを見たわけじゃない。


 音がしたわけでもない。


 なのに、急に嫌な感覚が背中を走った。


 理由は分からないのに、ここにいたくないと思う。


 俺はゆっくり周囲を見回す。


 そこで気づいた。


「鳥の声……」


 聞こえない。


 さっきまであれだけ鳴いていた鳥たちが、いつの間にか静かになっていた。


 風が木々を揺らす音だけが、森の中に響いている。


 何かがおかしい。


 そう思った瞬間、頭の中に一つのスキルが浮かんだ。


「……【危険察知】?」


 女神様からもらった能力の一つ。


 まだ実際に使った覚えはない。


 というより、どうやって使うものなのかすら分かっていなかった。


 でも、もし今の感覚が【危険察知】によるものなのだとしたら――。


「何かいるのか?」


 俺は立ち上がり、周囲を警戒する。


 森の奥や木の陰、茂みへ視線を向けるものの、それらしいものは何も見えない。


 それでも嫌な感覚は消えなかった。


 むしろ、少しずつ強くなっている。


 ――ガサッ。


「!」


 少し離れた場所にある茂みが揺れた。


 風じゃない。


 明らかに何かが動いた。


 俺は目を逸らさないまま、ゆっくり後ろへ下がった。


 ヒール草はもう集まっている。


 わざわざ危険なものへ近づく理由なんてない。


 俺の目的は魔物退治じゃない。


 遊園地を作ることだ。


 こんなところで無茶をする必要なんて――。


「グルルルル……」


「……うそだろ」


 低い唸り声が聞こえた。


 茂みの奥から、二つの目がこちらを見ている。


 そして、それはゆっくりと姿を現した。


「……狼?」


 最初に思い浮かんだのはそれだった。


 灰色の毛並みに、四本の脚。


 口元から覗く鋭い牙。


 姿だけなら狼に近い。


 でも、俺が知っている狼より一回り大きい。


 そして何より、額から一本の角が伸びていた。


「魔物……だよな」


 初めて見る、本物の魔物。


 この世界に魔物がいること自体は知っていたし、冒険者ギルドでも話は聞いた。


 でも、知識として知っているのと、実際に目の前にいるのとではまったく違う。


「グルルル……」


 魔物が牙を見せる。


 喉の奥から響く低い唸り声を聞くだけで、身体が強張った。


 どうする。


 逃げるか?


 でも、背中を向けた瞬間に飛びかかられたら。


 戦う?


 俺は剣なんて使ったことがない。


 そもそも武器すら持っていない。


 そう考えている間にも、魔物の身体が低く沈んだ。


「……まずい」


 次の瞬間。


「ガウッ!」


「うわっ!」


 魔物が飛びかかってきた。


 俺は咄嗟に横へ身体を投げ出した。


 直後、さっきまで俺が立っていた場所を鋭い爪が通り過ぎる。


「っ……!」


 地面を転がり、慌てて起き上がる。


 心臓が激しく鳴っていた。


「危なかった……!」


 少し反応が遅れていたら、まともに食らっていた。


 さっき感じた危険の感覚がなければ、もっと反応が遅れていたかもしれない。


 これが【危険察知】なのだとしたら、本当に俺の命を助けてくれたことになる。


 でも、今はそれを考えている場合じゃない。


 魔物が再びこちらを向く。


「剣はない……」


 戦った経験もない。


 格闘技を習っていたわけでもない。


 でも、何もできないわけじゃない。


「魔法なら……」


 使える。


 以前、自分の能力を確認したとき、水魔法を使うことはできた。


 俺には【全属性魔法適性】がある。


 それなら、他の属性も使えるはずだ。


「火も……使えるよな?」


 俺は右手を前へ向けた。


 思い浮かべるのは炎。


 ただし、目の前の魔物を焼き殺したいわけじゃない。


 炎を見せて驚かせ、その隙に逃げられればいい。


 あまり強くしすぎないように。


 威嚇できる程度でいい。


 そう意識しながら、掌へ魔力を集める。


「……おっ」


 手のひらの少し先に、小さな炎が生まれた。


 炎は徐々に集まり、やがて一つの球になる。


「できた……」


 本当に火魔法も使えた。


 女神様から説明は受けていたけれど、本当に火属性も使えるらしい。


「グルルッ!」


「あ、今は感動してる場合じゃない!」


 魔物が再び身体を低くする。


 俺は咄嗟に火球を放った。


「行けっ!」


 狙ったのは魔物そのものではない。


 その少し手前の地面だ。


 炎に驚いて逃げてくれれば、それでいい。


 そのつもりだった。


 しかし、俺が火球を放ったのとほとんど同時に、魔物も地面を蹴った。


「えっ――」


 俺へ飛びかかろうとした魔物の身体が、火球の軌道へ入る。


「待っ――!」


 もう遅かった。


 火球が魔物の身体へ直撃した。


 ボンッ!


「うわっ!」


 予想していたよりも大きな音とともに炎が弾け、魔物の身体が横へ吹き飛んだ。


 そのまま地面を何度か転がり、少し離れた場所で止まる。


「…………え?」


 俺は右手を突き出したまま固まった。


「いや……ちょっと待って」


 追い払うつもりだった。


 少し驚かせて、その隙に逃げるつもりだったのだ。


 それなのに、魔物は動かない。


「お、おい……」


 返事なんてあるはずがない。


 それでも思わず声をかけてしまった。


 慎重に近づきながら様子を見る。


「…………死んでる?」


 魔物は動かなかった。


 さっきまで俺へ牙を剥いていた身体から、完全に力が抜けている。


 俺が殺した。


 その事実を理解するまで、少し時間がかかった。


 ゲームなら何度だって魔物を倒したことがある。


 でも、これはゲームじゃない。


 さっきまで動いていた。


 俺を見ていた。


 唸り声を上げて、飛びかかってきた。


 それを俺が殺した。


 初めて魔物を倒したからといって、嬉しいとは思えなかった。


 達成感なんてものもない。


 俺は、生き物を自分の手で殺すことに慣れていなかった。


「……でも」


 もし魔法を使わなかったら、襲われていたのは俺だ。


 実際、一度目の攻撃はギリギリで避けた。


 逃げようとして背中を向けていたら、どうなっていたか分からない。


「これが……この世界なんだよな」


 魔物がいる。


 冒険者がいる。


 そして、ときには自分の身を守るために戦わなければならない。


 頭では分かっていた。


 でも、実際に経験すると全然違う。


「……慣れたくはないな」


 この先、冒険者を続けるなら魔物と戦うことはあるのかもしれない。


 そのたびに立ち尽くしているわけにもいかないだろう。


 それでも、生き物を殺すことを何とも思わなくなるのも嫌だった。


 俺は一度ゆっくり息を吐いてから、倒れた魔物を見る。


「そういえば……こいつ、何なんだ?」


 見た目は狼に似ている。


 でも、額から角が生えている時点で俺の知っている狼とは違う。


 さっきは襲われてそれどころじゃなかったが、今なら調べられる。


「【鑑定】」


 倒れた魔物へ意識を向ける。


 すると、ヒール草を鑑定したときと同じように情報が浮かんできた。


 ――ホーンウルフ。


 森や草原に生息する狼型の魔物。


 額に一本の角を持ち、鋭い牙と素早い動きで獲物を襲う。


 毛皮、牙、角は素材として利用される。


 危険度――E。


「ホーンウルフ……」


 やっぱり魔物だったらしい。


 そして、気になったのは最後に表示された情報だった。


「危険度、E?」


 たしか冒険者にも、Fから始まるランクがあった。


 俺は今日登録したばかりだからFランクだ。


 それに対して、このホーンウルフは危険度E。


「……俺より一個上じゃん」


 思わずそう呟いてから、すぐに首を傾げる。


 そもそも、冒険者のランクと魔物の危険度をそのまま比べていいのかどうかすら知らない。


 同じアルファベットだから、つい同じようなものだと思ってしまっただけだ。


「これもギルドで聞いてみるか」


 この世界について、俺はまだ知らないことだらけだ。


 分からないなら、知っている人に聞けばいい。


 それよりも、もう一つ気になることがあった。


「素材として利用される、か……」


 俺はもう一度ホーンウルフを見る。


 毛皮に牙、それから額の角。


 どれも何かに使えるらしい。


「ってことは、売れるのかな?」


 冒険者ギルドなら、魔物の素材を買い取っていてもおかしくない。


 少しでも金になるならありがたい。


 ただ、一つ問題がある。


「解体なんてできないぞ、俺」


 当然だ。


 狼みたいな魔物を解体した経験なんてあるはずがない。


 やり方も知らないし、そもそも解体用の道具すら持っていない。


 しばらく考えてから、俺は【無限収納】のことを思い出した。


「まあ、丸ごと持って帰ればいいか」


 無理にここで解体する必要はない。


 ギルドへ持って帰って、受付の人に聞いてみればいい。


 俺はホーンウルフへ意識を向け、【無限収納】を発動する。


 次の瞬間、その身体が目の前から消えた。


「入った……」


 これで今日の成果は、ヒール草十本とホーンウルフ一匹。


「初仕事にしては……どうなんだろうな、これ」


 比較するものがないから分からない。


 まあ、それもギルドへ戻れば分かるだろう。


「それにしても……」


 俺はさっき火球を放った場所へ目を向けた。


 地面には焦げた跡が残り、周囲の草も少し焼けている。


「……っていうか、森で火魔法ってまずかったんじゃないか?」


 今更になって気づいた。


 幸い、火はすでに消えている。


 でも、もし乾燥している時期だったり、もっと強い火を出していたりしたら、森に燃え広がっていたかもしれない。


「危な……」


 追い払うことしか考えていなかった。


 自分が使う魔法の威力だけじゃなく、周りへの影響まで考えないといけないらしい。


「それに、あの威力……」


 俺は右手を見る。


 追い払うために、できるだけ弱くしたつもりだった。


 それでも、火球はホーンウルフを倒してしまった。


「俺が少しだと思ってる魔力量が、この世界では少しじゃないのか?」


 十分ありえる。


 そもそも俺は、この世界の普通の魔法使いがどれくらいの魔力で魔法を使うのか知らない。


 比較する相手がいない以上、今の俺には判断できなかった。


「これ、ちゃんと練習しないとダメだな……」


 もし街中で同じような失敗をしたら、笑い話では済まない。


 それに、将来は魔法を遊園地に利用することだってあるかもしれない。


 そのときに魔力の調整を間違えて、何かを壊したり誰かを怪我させたりしたら最悪だ。


 遊園地は、人を楽しませる場所だ。


 命懸けで遊ぶ場所じゃない。


「安全第一……だな」


 魔法の使い方。


 魔力量の調整。


 周囲への影響。


 便利な力だからこそ、ちゃんと使いこなせるようにならないといけない。


「……よし」


 俺は気持ちを切り替えた。


 依頼のヒール草は十本集まった。


 初めて魔物にも遭遇した。


 その魔物を倒すことにもなった。


 そして、自分の能力についてもいくつか分かった。


 初仕事としては、十分すぎるくらいだろう。


「帰ろう」


 俺は来た道を引き返し、リーベルへ向かって歩き始めた。


 【無限収納】の中には、依頼のヒール草が十本。


 それから、危険度Eと表示されたホーンウルフが一匹。


 ホーンウルフがどれくらいの価値になるのかは分からない。


 そもそも、本当に買い取ってもらえるのかも知らない。


「まあ、聞けば分かるか」


 分からないことなら、ギルドで聞けばいい。


 そう考えながら、俺はリーベルへ続く街道を歩いていった。


 初めての依頼は、ヒール草を十本採取するだけのはずだった。


 けれど結果として、俺が持ち帰ることになったのは、それだけではなかった。

お読みいただきありがとうございます!


雷牙、冒険者として初めての依頼でした。

ヒール草を採って帰るだけのはずが、初めての魔物との遭遇、そして初討伐まで経験することに。

女神様からもらったスキルが少しずつ活躍し始めましたが、本人はまだ自分の力をうまく扱えていないようです。

そして、空間魔法の中にはヒール草十本とホーンウルフ一匹。

これを持ってギルドへ帰ったらどうなるのか……。

次回もよろしくお願いします!

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