6話 遊園地を作るには、まずお金が必要です
異世界に遊園地を作ると決意した雷牙。
夢は大きく膨らみますが、いざ必要なものを考えてみると――。
まずは現実的な問題から解決していきます。
――遊園地を作る。
そう決めて銀の小鹿亭へ戻ってからも、しばらく俺の興奮は収まらなかった。
ジェットコースターは絶対に欲しいし、観覧車も外せない。メリーゴーラウンドだって作りたい。小さな子供でも安心して楽しめるアトラクションも必要だろう。
それに、せっかく魔法が存在する世界なのだ。
元の世界にあった遊園地を、そのまま再現するだけではもったいない。
重力魔法を上手く使えれば、元の世界では絶対に作れないような動きをするジェットコースターだって作れるかもしれない。空間魔法を利用すれば、外から見た大きさよりも遥かに広いお化け屋敷なんかも面白そうだ。
俺自身、この世界の魔法についてまだほとんど知らない。だから今考えていることの大半は、できるかどうかも分からないただの想像だ。
それでも、もし幻を見せるような魔法が存在するなら、それを使ったアトラクションも作ってみたい。
「……やばいな。考えてるだけで楽しくなってきた」
気づけば、自然と頬が緩んでいた。
遊園地が存在しない世界だからこそ、俺が作れば何もかもが初めてのものになる。
ジェットコースターに初めて乗った人は、どんな声を上げるのだろう。
観覧車から初めて街を見下ろした人は、どんな顔をするのだろう。
メリーゴーラウンドを見た子供たちは、目を輝かせてくれるだろうか。
そんな光景を想像しているだけで、胸の奥がどんどん熱くなってくる。
そのまま銀の小鹿亭へ戻り、自分の部屋へ入った俺は、まだ頭の中で遊園地の姿を思い描きながらベッドへ腰を下ろした。
そして、そこでようやく少しだけ冷静になった。
「…………で、何から始めればいいんだ?」
遊園地を作る。
目標は決まった。
けれど、遊園地が好きなのと、実際に遊園地を作れるのとはまったく別の話だ。
俺は遊園地へ行ったことなら何度もあるし、どんなアトラクションがあるのかもそれなりに知っている。
でも、ジェットコースターの詳しい構造なんて知らない。
レールがあって、その上を車両が走ることくらいは分かるけれど、どんな構造なら安全なのか、どんな角度で坂を作ればいいのか、どうやって車両を動かしているのかまで説明しろと言われたら無理だ。
観覧車だって同じだ。
巨大な車輪が回っていることは分かる。でも、その巨大な構造物をどうやって支えているのかなんて考えたこともなかった。
メリーゴーラウンドだって、乗ったことはあっても中の仕組みまでは知らない。
「遊園地の作り方なんて勉強したことないしなぁ……」
当たり前といえば、当たり前だ。
普通の高校生が、将来自分で遊園地を一から建設することを想定して勉強するはずがない。
ついこの間までの俺は、遊園地へ行く側の人間だったのだ。
「まあ、その辺はスキルも使えると思うけど……」
俺には女神様からもらった大量のスキルがある。
【建築】に【錬金術】、【付与魔法】、【無限収納】。それ以外にも、遊園地作りに使えそうな能力はいくつもある。
名前だけを見るなら、どれもかなり役立ちそうだ。
ただし、問題もある。
「何がどこまでできるのか、まだ全然分かってないんだよな」
俺は苦笑した。
スキルを持っていることと、それを使いこなせることは別だ。
【建築】という名前だからといって、頭の中で「城を作りたい」と考えただけで巨大な城が勝手に完成するとは限らない。
【錬金術】だって、どんな材料を何に変えられるのか分からない。
遊園地を作るうえで大きな助けになる可能性は高いと思うけれど、今の段階で勝手に決めつけるのは危険だろう。
「スキルについても、そのうちちゃんと確認しないとな」
とはいえ、今ここで何となく試して終わりにするより、まずは何が必要なのかを整理した方がいい。
目標だけ大きく掲げて、何も考えずに動き始めても仕方がないのだから。
「紙にでも書き出すか……」
そう呟いたところで、もっと便利なものを持っていることを思い出した。
「あ、そうだ。スマホがあるじゃん」
俺は【無限収納】を使い、収納していたスマートフォンを取り出した。
異世界へ来る前まで、当たり前のように毎日使っていた俺のスマホだ。
画面をつけると、見慣れた待ち受け画面が表示される。
そこだけを見ていると、今にも友達からメッセージが届きそうな気さえしてくる。
けれど、画面上部の電波表示には何もない。
「まあ、そりゃ圏外だよな」
この世界に携帯電話の基地局なんてあるはずがない。
当然、電話は使えないし、インターネットにも繋がらない。連絡手段としては完全に役に立たなくなってしまった。
それでも、スマホそのものが使えなくなったわけではない。
電卓もある。
時計もある。
カメラも使える。
通信を必要としないものなら、まだ普通に動いてくれる。
それに、遊園地のことを考えるなら、メモ帳だけでも十分ありがたい。
「これが残ってるだけでも、かなり助かるな」
そう思いながらメモ帳を開こうとして、俺はふと画面の右上へ目を向けた。
そこに表示されているのは、バッテリーの残量だ。
「……あ」
思わず声が漏れた。
今すぐなくなるような残量ではない。
でも、使っていればいつかは必ずなくなる。
「これ……充電どうしよう」
充電器自体は持っている。
問題は、それを差し込む場所がないことだ。
この世界の街並みを見る限り、壁にコンセントが付いているとは到底思えない。
「雷魔法とかで充電できたりしないかな……」
一瞬そんな考えが浮かんだ。
そして、すぐに首を横へ振る。
「いや、絶対やめとこう」
適当に電気を流して壊れました、では洒落にならない。
元の世界なら最悪でも買い替えれば済んだ。
でも、この世界にスマートフォンを売っている店なんて存在するはずがない。
しかも今の俺にとって、このスマホは便利な道具というだけではなかった。
中には日本にいた頃に撮った写真も残っている。
俺が元の世界で暮らしていた証拠とも言える、大切なものだ。
「充電については、ちゃんと方法を考えてからだな」
それまでは必要もないのに使わないようにした方がいい。
俺は画面の明るさを少し落としてからメモ帳を開き、新しいメモを作った。
そして、タイトルを入力する。
『遊園地を作るために必要なもの』
「よし。まずは……土地だな」
最初に思いついたのは、やはり土地だった。
どれだけアトラクションを作る方法があったとしても、それを置く場所がなければ遊園地にはならない。
しかも、家を一軒建てられる程度の広さでは話にならないだろう。
最初から巨大な遊園地を作れるとは思っていない。
小さく始めるとしても、いくつかのアトラクションと、それらを繋ぐ道くらいは必要になる。
できれば、あとから広げられる場所がいい。
最初は小さな遊園地でも、少しずつ新しいアトラクションを増やして、いつかは一日では回りきれないくらい大きな場所にしたい。
「……っていうか、この世界で土地ってどうやって手に入れるんだ?」
考え始めて早々、分からないことにぶつかった。
元の世界なら不動産屋へ行けば、土地や建物を探すことができた。
でも、この世界にも同じような仕事があるのだろうか。
誰かから買うのか。
それとも借りるのか。
そもそも、土地を欲しいと思ったときにどこへ相談すればいいのかすら分からない。
そして当然、値段も分からなかった。
「これは調べないとダメだな」
俺はメモへ言葉を付け加える。
『土地――入手方法と値段を調べる』
土地の次は、材料だ。
建物を作るなら木や石が必要になるだろう。
ジェットコースターのような大きな乗り物を作るなら、金属だって大量に使うはずだ。
もっとも、この世界では元の世界と同じ材料を使うとは限らない。
魔法があるのだから、俺の知らない特殊な素材が存在する可能性もある。
「この辺は、スキルの確認も必要だな」
【建築】や【錬金術】という名前を見る限り、材料を加工したり、建物を作ったりするのには使えそうだ。
ただ、具体的に何ができるのかはまだ分からない。
必要な材料そのものを減らせるのか、それとも加工を助けてくれるだけなのか。
何もないところから物を作り出せるのか、それとも必ず元になるものが必要なのか。
今の俺では判断できないことばかりだ。
「これも実際に試してみないとな」
俺はそう呟きながら、新しく入力する。
『材料――必要なものを調べる。スキルでできることも確認』
続いて考えたのは、人だった。
仮に建物やアトラクションを俺一人で作れたとしても、遊園地そのものを一人で運営するのは無理だろう。
入口で客を迎える人も必要になる。
アトラクションの乗り降りを案内する人もいる。
食べ物や飲み物を売る人だって必要だし、園内を掃除する人も欠かせない。
もし何か問題が起きたら、それに対応する人だって必要になる。
今まで客として遊園地へ行っていたときには深く考えたことがなかった。
でも思い返してみれば、園内には本当にたくさんの人が働いていた。
「これは……まあ、まだ先か」
今の段階では、遊園地どころか土地すらない。
建物もないのに従業員だけ集めても仕方がないだろう。
ただ、いずれ必要になることだけは覚えておく。
俺は『人手――遊園地を作ったあとに必要』と入力した。
そして、次は何が必要だろうと考えて――。
「…………あ」
指が止まった。
かなり重要なものを忘れていた。
というより、これがなければほとんど何も始められない。
「金だ」
俺はメモ帳に『お金』と入力した。
それからスマホを片手に持ったまま、腰につけていた革袋を外す。
中身をベッドの上へ出してみると、十三枚の銀貨と七枚の銅貨が小さな音を立てながら転がった。
現在の俺の全財産だ。
「…………」
スマホへ視線を戻す。
土地を手に入れる。
材料を揃える。
いずれは人も雇う。
そして、それらを実現するためには当然、金がかかる。
もう一度、ベッドの上を見る。
銀貨十三枚と銅貨七枚。
「……全然足りないよな、これ」
宿代は一週間分すでに払っている。
今すぐ食べるものにも困るような状態ではないし、普通に生活するだけなら、少しくらいは余裕がある。
けれど、遊園地を作るための資金として見れば話はまったく別だった。
広い土地を手に入れ、必要な材料を揃え、建物を建て、いくつものアトラクションを作る。
実際にどれくらいの金が必要なのかは、今の俺には想像もつかない。
それでも、この銀貨十三枚と銅貨七枚でどうにかなるとは思えなかった。
遊園地を作ろうと決めたときにも、金が必要だということくらいは分かっていた。
でも、こうして必要なものを一つずつ書き出し、自分の持っている金と見比べてみると、その差が急に現実味を帯びてくる。
「なんか……一気に現実的になったな」
俺は苦笑しながらベッドへ背中を預けた。
夢だけなら、どこまでも大きくできる。
世界一大きな遊園地にしたいとか、空を飛ぶジェットコースターを作りたいとか、いくらでも言える。
でも、それを本当に作ろうと思った瞬間から、土地も材料も金も必要になる。
「遊園地を作るって、大変なんだな……」
客として遊びに行くだけだった頃には、そんなことを考えたこともなかった。
入場料を払って園内へ入り、好きなアトラクションに乗り、腹が減れば食べ物を買う。
その裏でどれだけの金や人が動いているのかなんて、ほとんど気にしたことがなかったのだ。
少しだけ、自分がとんでもない目標を立てたのではないかという気がしてくる。
けれど、不思議と「やっぱりやめよう」とは思わなかった。
俺はしばらく天井を眺めたあと、身体を起こした。
「まあ、一個ずつやればいいか」
別に、明日までに遊園地を完成させなければならないわけではない。
この世界での俺の人生は、まだ始まったばかりなのだ。
土地の手に入れ方を知らないなら、調べればいい。
必要な材料が分からないなら、それも調べればいい。
人が必要になったら、そのとき探せばいい。
そして、金が足りないなら――。
「稼げばいい」
口に出してみると、単純な話だった。
今持っている金だけで遊園地を作る必要なんてない。
これから少しずつ増やしていけばいいのだ。
俺はスマホの画面へ視線を戻し、メモの一番上に新しい一文を入力した。
『最優先――お金を稼ぐ』
「よし」
これで、まず何をするべきかは決まった。
問題は、その金をどうやって稼ぐかだ。
当然ながら、俺にはこの世界での仕事がない。
ついこの間まで普通の高校生だったのだから、こちらの世界で役に立つような職歴があるわけでもない。
何か仕事を探さなければならない。
そこまで考えたところで、俺はリーベルへ来るまでに聞いた話を思い出した。
「そうだ。冒険者ギルドがあるじゃん」
ガルドさんからも聞いたし、銀の小鹿亭の女将さんからも勧められている。
冒険者ギルドなら、仕事を探すことができるらしい。
冒険者という言葉を聞くと、どうしても剣を持って魔物と戦ったり、危険な場所へ向かったりする姿を想像してしまう。
でも、女将さんの話では危険な仕事ばかりではないという。
ガルドさんも、仕事を探すなら冒険者ギルドを覗いてみるといいと言っていた。
「冒険者か……」
俺は自分の手を見つめた。
正直に言えば、怖さはある。
元の世界でゲームなら魔物を何百匹、何千匹と倒してきた。
でも現実では、生き物を相手に剣を振るった経験なんて当然ない。
どれだけ強そうなスキルをもらっていたとしても、だからといっていきなり命懸けの仕事へ飛び込む気にはなれなかった。
「別に、最初から魔物を倒す仕事を選ぶ必要はないんだよな」
まずは自分でもできそうな仕事を探せばいい。
それに冒険者ギルドへ行けば、仕事だけではなく、この世界のことを知るきっかけにもなるかもしれない。
俺はまだ、この街についてすらほとんど知らないのだ。
「うん。まずはギルドに行ってみよう」
ようやく方針が決まった。
俺はメモを保存すると、すぐにスマホの画面を消した。
電池は大切にしないといけない。
再び【無限収納】を使い、スマホを収納しておく。
この世界ではどう考えても珍しい品物だ。
必要もないのに持ち歩くより、収納しておいた方が安全だろう。盗まれる心配もないし、どこかへ落として壊すこともない。
「さて……」
窓の外へ目を向けると、空は少しずつ夕方の色に変わり始めていた。
今日は本当に色々なことがあった。
異世界へ来て、ガルドさんの馬車に乗せてもらい、リーベルへたどり着いた。
この世界で着る服を買い、宿を確保して、街を見て回った。
そして何より、この世界には遊園地がないと知った。
その結果、俺には一つの大きな目標ができた。
「ギルドは明日でいいか」
今から急いで向かう必要はないだろう。
今日はただでさえ、今までの人生でも経験したことがないくらい色々なことが起きている。
少しくらい身体を休めても罰は当たらないはずだ。
そう考えて部屋を出た俺は、一階の食堂へ向かった。
街の料理を色々食べてみたかったから宿は素泊まりにしたけれど、別に銀の小鹿亭の料理を食べないと決めたわけではない。
むしろ、女将さんが「味には自信がある」と言っていたのを思い出すと、一度は食べてみたかった。
「夕飯、お願いできますか?」
「あいよ。銅貨六枚ね」
女将さんへ銅貨六枚を渡し、空いていた席に腰を下ろす。
少し待つと、俺の前へ料理が運ばれてきた。
大きめのパンと、野菜や肉がたっぷり入った温かいスープだ。
豪華な料理というわけではない。
けれど、湯気と一緒に漂ってくる香りを嗅いだ途端、思っていた以上に腹が減っていたことに気づいた。
「いただきます」
まずはスープを一口飲んでみる。
「……うまい」
野菜の甘みと肉の旨味がしっかり出ていて、身体の中へ温かさが広がっていく。
パンをスープへ少し浸して食べてみると、それもよく合った。
昼に食べた串焼きも美味しかったけれど、一日中歩き回ったあとに食べる温かい料理はまた違う。
これなら女将さんが味に自信を持っていたのも納得だ。
「明日の朝飯もここで食べようかな……」
素泊まりにした意味がなくなりそうなので、毎日はやめておこう。
せっかくこの世界へ来たのだから、他の店や屋台の料理だって食べてみたい。
食事を終えたあとは、風呂にも入ることにした。
風呂代は銅貨三枚だ。
手元の銅貨だけでは足りなくなったので銀貨一枚を崩し、料金を払って浴室へ向かった。
服を脱ぎ、温かい湯へ身体を沈める。
「はぁぁ……生き返る……」
思わず声が漏れた。
一日分の疲れが、湯の中へ溶けていくようだった。
しばらく目を閉じて温かさを堪能していたところで、ふと思う。
「……いや、一回死んでるけどな、俺」
自分で言って、自分で笑ってしまった。
死んで。
女神様に会って。
異世界へやって来て。
冷静に考えれば、とんでもないことの連続だ。
もっと混乱していてもおかしくないはずなのに、今の俺は風呂に入りながら遊園地のことを考えている。
「俺、意外と図太いのかもな……」
悪いことではないと思う。
いつまでも元の世界へ帰れないことを嘆いていても、何も変わらない。
もちろん、日本のことを忘れたわけではない。
家族や学校のことを思えば、寂しくないと言えば嘘になる。
それでも、今の俺が生きているのはこの世界なのだ。
だったら、ここでやりたいことを見つけられたのは、きっと悪いことではない。
風呂から上がって部屋へ戻ると、俺はベッドへ身体を預けた。
相変わらず柔らかいとは言えないベッドだったけれど、一日中歩き回った疲れのせいか、横になってしまえばそれほど気にならなかった。
「遊園地か……」
天井を見上げながら、もう一度その言葉を口にする。
今はまだ、何もない。
土地をどうやって手に入れるのかすら知らない。
どんな材料が必要なのかも分からない。
アトラクションの作り方だって分からないし、一緒に働いてくれる人もいない。
資金だって、遊園地を作るには到底足りない。
それでも、いつか。
この世界の人たちが初めてジェットコースターに乗って、大声で叫んでいるところを見てみたい。
メリーゴーラウンドを見た子供たちが、目を輝かせながら乗りたがるところも見たい。
観覧車から景色を眺めながら、家族や恋人たちが楽しそうに笑っている姿も見てみたい。
誰も遊園地という言葉すら知らない世界だからこそ、その光景を俺自身の手で作ってみたい。
「絶対、作ろう」
小さくそう呟いて、俺は目を閉じた。
◇◇◇
翌朝。
窓から差し込んでくる光で目を覚ました俺は、しばらくぼんやりと天井を眺めていた。
「…………ああ、そっか」
見慣れない天井を見て、ようやく思い出す。
ここは、俺が暮らしていた日本の自分の部屋ではない。
異世界の街、リーベルにある銀の小鹿亭だ。
まだ来たばかりなのだから当然だけれど、目を覚ました直後だけは自分の部屋にいるような感覚になってしまったらしい。
身体を起こし、軽く伸びをする。
「よし」
今日やることは、昨日のうちに決めてある。
冒険者ギルドへ行く。
そこで仕事を探して、まずは金を稼ぐ。
遊園地を作るための、最初の一歩だ。
顔を洗って服を整え、部屋を出る。
一階へ降りると、カウンターにいた女将さんが俺に気づいた。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「おはようございます。まあまあです。ベッドはやっぱり硬かったですけど」
「あはは! 安宿なんだから贅沢言わない!」
「ですよね」
豪快に笑う女将さんにつられて、俺も笑った。
「それで、今日はどうするんだい?」
「冒険者ギルドに行ってみようと思ってます。そろそろ仕事を探したいので」
「ああ、それがいいだろうね。この宿は一週間分もらってるから追い出しゃしないけど、飯までタダにはできないからね」
「分かってます」
冗談っぽく言われたものの、俺もいつまでも収入なしで過ごすつもりはない。
昨日調べたわけでもないのに遊園地の資金を心配していたが、その前にまず、この世界で自分の生活費くらいは稼げるようにならなければならない。
「冒険者ギルドなら、大通りを北へ進めば分かるよ。剣と盾の大きな看板が出てるからね」
「ありがとうございます」
「ただし、最初から無茶な依頼を受けるんじゃないよ」
それまで笑っていた女将さんの表情が、少しだけ真面目になる。
「新人が欲張って危ない仕事を受けて、怪我して帰ってくるなんて珍しくないんだから」
「はい。俺もいきなり危ない仕事をするつもりはありません」
「それならいいさ。行ってきな」
「行ってきます」
俺は女将さんに見送られながら、銀の小鹿亭を出た。
朝のリーベルは、昨日見た街とは少し雰囲気が違っていた。
店先へ商品を並べている商人たち。
馬車へ荷物を積み込んでいる人たち。
朝食らしきものを片手に歩いている冒険者。
開店の準備をしながら、隣の店の人と楽しそうに話している女性もいる。
昨日は見るものすべてが珍しくて、街全体が観光地のように感じられた。
けれど、こうして朝の街を歩いていると、ここにもちゃんと人々の生活があるのだと分かる。
俺にとっては何もかもが珍しい異世界でも、ここで暮らしている人たちにとっては、これがいつもの朝なのだ。
「……こういうのもいいな」
俺は周囲を眺めながら、大通りを北へ進んだ。
しばらく歩いていくと、周囲の建物よりも一回り大きな建物が見えてくる。
入口の上には、大きな剣と盾を組み合わせた看板が掲げられていた。
女将さんが言っていた看板だ。
さらに、そこへ出入りしている人たちを見れば、何の建物なのかは聞くまでもない。
腰に剣を下げた男。
大きな槍を背負った女性。
ローブを身につけ、杖を持った人。
革鎧を着た若者たち。
「……分かりやすいな」
どう見ても、ここだ。
冒険者ギルド。
元の世界ではゲームや小説の中で何度も見たことのある場所。
でも今、目の前に建っているものはゲームの背景でも、小説の中にしか存在しない建物でもない。
この世界で本当に人が集まり、仕事を受け、金を稼いでいる場所なのだ。
そう考えると、急に少し緊張してきた。
俺は入口の前で立ち止まり、昨日スマホに書き込んだ内容を思い出す。
遊園地を作るには、土地が必要だ。
材料も必要になる。
いずれは大勢の人にも手伝ってもらわなければならない。
そして、そのためには金がいる。
今の俺には、何もかもが足りない。
でも――。
「最初から全部揃ってる必要なんてないよな」
足りないなら、一つずつ手に入れていけばいい。
ついこの間まで普通の高校生だった俺が、異世界へ来た途端に巨大な遊園地の経営者になれるはずがない。
だったら、焦らず一歩ずつ進めばいいのだ。
まずは、この世界で自分の力で金を稼ぐところから始める。
「よし」
俺は小さく息を吐き、冒険者ギルドの扉へ手をかけた。
この先で何が待っているのかは分からない。
それでも、いつかこの世界に、誰も見たことのない遊園地を作るために。
その最初の一歩として。
俺は少しだけ緊張しながら、冒険者ギルドの扉を開いた。
お読みいただきありがとうございます!
土地も材料も人手も、そして何よりお金もない雷牙。
異世界初の遊園地への第一歩として、まずは冒険者ギルドへ向かいます。
次回、雷牙の冒険者生活(?)が始まります!




