閑話 初めて遊園地で遊んだ人
遊園地の試運転を手伝うため、北門の外へ向かった商業ギルドの受付職員。
見たこともない乗り物を前に、「これの何が楽しいんだろう?」と思っていたのですが……。
今回は、雷牙の遊園地を初めて体験した人のお話です。
商業ギルドの受付で働いていると、毎日のように様々な相談を受ける。
商品を売りたい。
新しく店を開きたい。
倉庫を借りたい。
商売を始めたいが、どこへ話を持っていけばいいのか分からない。
相談の内容は人によって違うものの、長く受付に座っていれば、似たような話を聞くことも多くなってくる。
だからこそ、今でも覚えている。
ライガ・イチノセという少年が、初めて商業ギルドへやってきた日のことを。
彼が探していたのは、店でも倉庫でもなかった。
街の外にある、かなり広い土地だった。
十七歳の少年が、いったい何のためにそんな土地を必要としているのか。
不思議に思って話を聞いてみれば、返ってきた答えはもっと分からないものだった。
遊園地。
人が遊ぶための場所らしい。
広い土地に様々な乗り物や設備を作って、そこへ人を集めるのだという。
説明を聞いても、正直なところ、ほとんど想像できなかった。
祭りのときに広場へ集まる見世物のようなものなのかとも思ったが、それとも違うらしい。
しかも、少年が希望する土地は、受付で簡単に話を進められるような規模ではなかった。
当然、話は上へ回された。
それから候補地が調べられ、ギルドマスターを通じて伯爵様にも話が伝わり、現地の確認や条件の話し合いを経て、ライガは北門の外にある土地を借りることになった。
そこまでは知っている。
自分たち商業ギルドも関わった話なのだから、契約後も北門の外で何かを作り始めたという話は、ときどき耳に入ってきていた。
最初は土地を整えているという話だった。
そのうち、円形の何かができたらしいという話を聞いた。
さらに、木で作られた馬が何頭も並んでいるらしいという、よく分からない噂まで入ってきた。
そのあとには、坂のような木組みまで現れたという。
何を作っているのか、さっぱり分からない。
ただ、あの少年が本気で遊園地というものを作っているらしいことだけは分かった。
そんなある日のことだった。
「すみません。ちょっと相談したいことがあるんですけど」
受付にやってきたライガが、少し困ったような顔でそう言った。
「はい。今日はどうされました?」
「人を一人、借りることってできますか?」
「……人、ですか?」
思わず聞き返した。
土地の次は人らしい。
「何をお願いしたいのでしょうか?」
「乗り物の操作を手伝ってほしいんです」
乗り物。
その言葉を聞いて、すぐに遊園地の話を思い出した。
「もしかして、遊園地で使うものですか?」
「はい。一つ、人が乗れるところまでできたんです」
「もうですか?」
思わず声が出た。
北門の外で何かを作っているとは聞いていた。
だが、土地を借りてから、それほど長い時間が経ったわけではない。
それなのに、もう人が乗れるものまで作ったらしい。
「それで、何を手伝えばいいのでしょう?」
「俺が実際に乗って確認したいんですけど、乗ると外から操作する人がいなくなるんです」
「ああ……」
言われてみれば、もっともな話だった。
「重りを乗せた試験は何度もやったんです。でも、最後はやっぱり俺自身が乗って確かめたいので」
ライガの相談は、そのまま上へ通された。
商業ギルドの職員を仕事中に外へ出すのだから、受付だけで決められることではない。
事情が確認され、ギルドマスターにも話が上がったあと、一人を手伝いに出しても構わないということになった。
そこで――。
「それなら、私が行きます」
自分からそう申し出た。
別に遊園地で遊んでみたかったわけではない。
自分は以前からライガと話したことがあるし、土地を探していたころのことも知っている。
事情をまったく知らない職員が行くより、自分が行った方が話が早い。
ただ、それだけだった。
少なくとも、そのときは本当にそう思っていた。
◇
北門を出て、ライガとともに街道を歩いていく。
しばらく進んだところで、目的の場所が見えてきた。
「……あれですか?」
「はい」
思わず足を止めた。
広い草地の一角に、明らかに周囲とは違うものが二つ建っている。
一つは、円形の床の上に木で作られた馬が並んでいるもの。
もう一つは、木を組み上げて作られた道のようなものだった。
そちらは地面から持ち上がり、途中で坂になっている。
その上には、小さな車のようなものまで置かれていた。
まだ周囲の大部分は草地のままだ。
建物が並んでいるわけでもない。
入口らしいものすら見当たらない。
それでも、以前まで何もなかった場所に、見たこともないものが二つも存在している。
「……ずいぶん変わりましたね」
「まだ二つしかないですけどね」
「二つ……」
ライガにとっては、これでもまだ始まったばかりらしい。
まず気になったのは、近くにある円形の方だった。
六頭の木馬が、すべて同じ方向を向いて並んでいる。
「この馬は?」
「そこに座るんです」
「馬に?」
「はい。それで、床ごとぐるぐる回ります」
「……それだけですか?」
「それだけです」
「何のために?」
「楽しむためです」
「…………」
やはり分からない。
木で作られた馬に跨がって、その場をぐるぐる回る。
それの何が楽しいのだろう。
しかし、今日操作を手伝うのはこちらではないらしい。
ライガが向かったのは、坂のある木組みの方だった。
「こっちがコースターです」
「コースター……」
また聞いたことのない名前だ。
近くで見ると、木組みの上には二本の道のようなものが伸びている。
その上にあるのが、一人だけ座れそうな小さな車両だった。
木組みの一番高いところは、見上げるほどではない。
それでも、人を乗せた小さな車が走ると考えると、少し不思議な高さに見えた。
「あの上まで行くんですか?」
「行きます」
「それから?」
「下ります」
「……わざわざ?」
「わざわざです」
ライガは迷わず答えた。
ますます意味が分からない。
普通、乗り物というものはどこかへ移動するために使う。
馬車なら人や荷物を別の場所まで運ぶ。
だが、これは坂を上って、下って、最後には元の場所へ戻ってくるらしい。
移動手段として考えれば、何の意味もない。
「それで、これを私が操作すればいいんですね?」
「はい。でも、その前にもう一回確認します」
ライガはそう言うと、すぐには車両へ乗らなかった。
まず車両を調べる。
車輪を確認し、座席の前にある棒のようなものにも触れる。
それから木で作られた道に沿って歩いていき、何度も立ち止まりながら、レールや支えの部分を確認していく。
戻ってきてからも、もう一度車両を揺らしたり、車輪の周囲を覗き込んだりしていた。
「ずいぶん確認するんですね」
「人が乗るものですから」
返ってきた答えは簡単だった。
それを聞いて、少しだけ安心した。
何しろ、見たこともない乗り物だ。
しかも、これから作った本人が初めて乗る。
もし何の確認もせずに乗り込もうとしていたなら、本当に大丈夫なのかと不安になっていただろう。
やがて確認を終えたライガが、車両へ乗り込んだ。
座席の前にある棒を身体の前まで下ろし、固定する。
それからこちらを見た。
「じゃあ、お願いします」
「分かりました」
事前に教えられた通り、操作する。
小さな車両が動き始めた。
「おお……」
思わず声が漏れた。
人を乗せた車両が、自分で坂を上っていく。
ゆっくりと。
少しずつ。
やがて、一番高いところまで到達した。
そこで車両の動きが変わる。
坂の向こうへ進み――。
「うわっ!?」
一気に下った。
落ちたのかと思った。
もちろん、本当に落下したわけではない。
車両はちゃんと木で作られた道の上を走っている。
それでも、上から勢いよく下っていく光景に、見ているこちらまで身体に力が入った。
そのまま小さな坂を越える。
曲がる。
また小さく上下する。
そして、乗っているライガの声がここまで聞こえてきた。
「これこれ!」
……楽しそうだった。
心配して見ているこちらが馬鹿らしくなるくらいに。
やがて車両は戻ってきて、ゆっくりと速度を落としていった。
完全に止まったことを確認してから、教えられた通り、もう一つの操作をする。
ライガの身体を押さえていた棒が外れた。
「どうでした?」
「楽しかったです!」
即答だった。
しかも、満面の笑みである。
ライガは車両から降りると、すぐにまた確認を始めた。
車輪。
車両。
木組み。
固定されている部分。
一通り見て回り、走らせたことで何か問題が起きていないかを確かめている。
その間、自分はコースターを眺めていた。
坂を上る。
下る。
小さな坂を越える。
曲がる。
そして元の場所へ戻ってくる。
実際に動くところを見ても、何の役に立つのかは分からない。
それなのに。
「……私も乗れるんですか?」
気づけば、そんなことを聞いていた。
「え?」
ライガが振り返る。
「その……せっかくここまで来ましたし。私でも乗れるのであれば、一度くらいは」
少し言い訳がましくなってしまった。
しかし、ライガはそんなことを気にした様子もなく、ぱっと表情を明るくした。
「もちろんです!」
◇
外から見ているときは、それほど大きな乗り物には見えなかった。
だが、実際に車両へ座ってみると、印象が少し変わる。
周囲を囲うものがほとんどない。
目の前にあるのは、自分の身体を押さえるための棒と、その先に続く木の道だけだ。
ライガが棒を下ろし、しっかり固定されていることを確認する。
「走っている間は、座ったままでいてください」
「分かりました」
「それと、身体を前や横に乗り出さないようにしてください」
「はい」
念を押されると、急に少し緊張してきた。
ライガが操作する。
車両が動き始めた。
最初はゆっくりだった。
坂を少しずつ上っていく。
これなら大したことはない。
そう思っていた。
しかし、高くなるにつれて地面が少しずつ遠ざかっていく。
「…………」
下から見ていたときより、高く感じる。
それでも、恐ろしいというほどではない。
このくらいなら――。
「え?」
頂上を越えた瞬間、目の前の道が下を向いた。
「うわあっ!?」
身体がふわりと浮いたような感覚がした。
反射的に目の前の棒を強く握る。
風が顔に当たった。
景色が一気に流れていく。
下ったと思ったら、すぐにまた小さな坂を上る。
そしてまた下る。
身体が上下する。
今度は曲がった。
「お、おお……!」
怖い。
少しだけ怖い。
なのに。
「ははっ……!」
気づけば、声が出ていた。
さっきまで、何が楽しいのか分からないと思っていた。
坂を上って、下るだけ。
わざわざそんなことをして、何になるのかと思っていた。
だが、見るのと乗るのとではまるで違った。
風を受ける感覚。
身体が浮くような感覚。
次に何が来るのか分かっているはずなのに、思わず力が入ってしまう瞬間。
そして、それが終わる前に次の曲がり道が来る。
最後の曲がり道を抜けると、車両は少しずつ速度を落としていった。
やがて完全に止まる。
「…………」
そこでようやく、自分がまだ目の前の棒を強く握っていることに気づいた。
「大丈夫ですか?」
ライガがこちらを見ている。
「ええ。大丈夫です」
身体を押さえていた棒が外れる。
車両から降り、地面へ足をつけた。
そして、今乗ってきたコースターを振り返る。
「どうでした?」
「……面白かったです」
素直に答えた。
本当に面白かった。
だが、今ならもっとちゃんと見られる気がする。
一回目は驚いているうちに終わってしまった。
どこで曲がったのか。
どんな景色が見えたのか。
もう一度乗れば、今度はもう少し余裕を持って楽しめるかもしれない。
「…………」
「どうしました?」
「……もう一回、乗ってもいいですか?」
「え?」
今度はライガが聞き返した。
「二回目なら、最初より周りを見る余裕もありそうなので」
自分でも、言い訳のような理由だと思う。
だが、もう一度乗りたいと思ったのは本当だった。
ライガは一瞬ぽかんとしていたが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「もちろんです!」
結局。
自分はもう一度、同じ車両へ乗ることになった。
◇
二回目を終えたころには、一回目ほど身体に力は入らなくなっていた。
頂上から下る瞬間も、今度は目を開けたまま周囲を見ることができた。
風を受けながら景色を見る余裕もあった。
怖さがなくなったわけではない。
むしろ、これから下ると分かっているからこその緊張もある。
それでも、それを含めて面白い。
「面白かったです。二回目は、最初より周りを見る余裕もありました」
「ですよね!」
なぜかライガの方が嬉しそうだった。
これで頼まれた仕事は終わった。
そろそろギルドへ戻らなければならない。
そう思って歩き出したところで、最初に見た円形の乗り物が目に入った。
六頭の木馬が並んでいる。
先ほど聞いた説明を思い出した。
木馬に跨がって、床ごと回る。
ただそれだけ。
「……これは、本当に回るだけなんですよね?」
「そうですよ」
ライガが答える。
少し前までなら、絶対に乗ろうとは思わなかっただろう。
同じところを回るだけのものに、何の意味があるのか。
そう思って終わっていた。
だが。
コースターだって、見るだけでは何が面白いのか分からなかった。
「……こちらも、乗ってみてもいいですか?」
「もちろんです!」
また返事が早かった。
「好きな馬に乗ってください」
「好きな……と言われても、全部同じに見えるんですが」
「……今はそうですね」
ライガが少し気まずそうな顔をした。
思わず笑ってしまう。
適当に一頭を選び、木馬へ跨がった。
床は動かないように固定されているらしい。
自分がしっかり座ったことを確認してから、ライガが離れていく。
操作する場所まで行くと、まず何かを動かした。
床の固定を外したらしい。
続いて別の操作をすると、円形の床がゆっくりと動き始めた。
「おお……」
本当に回った。
ゆっくりと。
ただ同じところを、ぐるぐると。
「本当に回るだけなんですね」
「だから言ったじゃないですか!」
少し離れたところからライガの声が返ってくる。
確かに言っていた。
コースターのような速さはない。
急に下ることもない。
怖くもない。
ただ、景色がゆっくりと横へ流れていく。
広い草地が見える。
木々が見える。
さっき乗ったコースターが見える。
操作しているライガの姿も見える。
そして一周すれば、また同じ景色が戻ってくる。
「…………」
何だろう。
ものすごく興奮するわけではない。
それでも、悪くない。
ゆっくり回る景色を眺めながら木馬に跨がっていると、なんとなく楽しい。
やがてライガが操作し、床の回転が止まった。
すぐには降りない。
完全に動かなくなるまで待ち、それからもう一度ライガが操作する。
床が固定されたあとで、ようやく降りるよう声を掛けられた。
「どうでした?」
「……先ほどの乗り物とは、全然違いますね」
「はい」
「でも、不思議です」
もう一度、並んでいる木馬を見る。
「ただ同じところを回っているだけなのに、思っていたより楽しかったです」
自分でも妙な感想だと思う。
だが、それ以外に言いようがなかった。
「子供なんかは、こちらの方を喜ぶかもしれませんね」
そう言うと、ライガは少し驚いたような顔をした。
それから、嬉しそうに木馬を見る。
「これから、もっと増えるんですか?」
「もちろんです」
即答だった。
今ここにあるのは二つだけ。
メリーゴーランドとコースター。
周囲を見渡せば、まだ何もない草地の方が圧倒的に広い。
それなのに、なぜだろう。
最初に遊園地という言葉を聞いたときより、少しだけライガが作ろうとしているものが分かったような気がした。
◇
「これ以上遅くなると、遊んでいたと思われそうです」
リーベルへ戻る途中でそう言うと、隣を歩いていたライガがこちらを見る。
「……コースター、二回乗ってましたけどね」
「それは言わないでください」
「メリーゴーランドにも乗りましたよね?」
「それも言わないでください」
ライガが笑った。
自分もつられて笑ってしまう。
仕事で来たのだ。
実際、仕事もした。
最初の試験ではライガの乗るコースターを操作した。
そこまでは間違いなく仕事だった。
そのあとについては――。
あまり深く考えないことにした。
◇
商業ギルドへ戻ると、受付の方からすぐに声を掛けられた。
「お、戻ったか」
「どうだった?」
ライガが遊園地の乗り物を試すために人手を求めていたことは、当然ギルド内でも知られている。
何を作っていたのか気になっていた者もいたらしい。
自分が戻ってきたと分かると、近くにいた同僚がこちらを見た。
「ああ、それがですね――」
答えようとした瞬間。
さっきの光景が頭の中に蘇った。
ゆっくりと上っていく車両。
頂上を越えた瞬間に見えた下り坂。
身体が浮くような感覚。
顔に当たる風。
景色が一気に流れていく感覚。
「すごかったですよ!」
「……え?」
思っていたより大きな声が出た。
「コースターっていう乗り物なんですけど、木で作った小さな車に乗るんです。それが坂を上っていって、一番上まで行ったら一気に下るんですよ!」
近くで書類を整理していた別の職員まで顔を上げた。
「ちょっと待て。下るのか?」
「下ります!」
「何のために?」
「楽しむためです!」
「……意味が分からん」
「私も行くまではそう思ってたんですよ!」
気づけば、身振りまで交えて説明していた。
「外から見てると、本当に坂を上って下りてるだけに見えるんです。でも、乗ったら全然違うんです! 上っていくと少しずつ地面が遠くなって、それで一番上まで行くじゃないですか」
「いや、知らんけど」
「行くんですよ! それで頂上を越えた瞬間、目の前が急に下になるんです!」
「怖くないのか?」
「怖いですよ!」
「駄目じゃないか」
「違うんです! その怖さも面白いんですよ!」
「……どういうことだ?」
「だから乗れば分かりますって!」
声が大きくなったせいか、さらに何人かが集まってきた。
「何の話だ?」
「北門の外の、あれだよ」
「ああ、遊園地とかいう?」
「そうです! それで、下ったあとも終わりじゃないんですよ。小さい坂を越えて、曲がって、また走って、最後はちゃんと最初の場所まで戻ってくるんです!」
「それで、お前も乗ったのか?」
「乗りました!」
「手伝いに行ったんじゃなかったのか?」
「最初はライガさんが乗るのを操作しましたよ。そのあと、私も乗せてもらったんです」
「へえ。それで、そんなに面白かったのか」
「はい!」
迷わず答えた。
そして、少しだけ間を置く。
「……二回乗りました」
「二回?」
「はい」
「試験で?」
「いえ。一回目が終わったあと、私からもう一回乗りたいってお願いして……」
一瞬の沈黙。
それから、周囲で笑い声が上がった。
「お前、仕事しに行ったんじゃなかったのか?」
「仕事もしましたよ!」
「二回目も仕事だったのか?」
「二回目は……違いますけど!」
「遊んでるじゃないか!」
「でも本当に面白かったんですって!」
笑われても、まったく腹は立たなかった。
むしろ、この面白さが伝わらないことの方がもどかしい。
「しかも、もう一つあるんですよ!」
「まだあるのか?」
「メリーゴーランドっていう乗り物です!」
「それはどんなものだ?」
「木で作った馬が六頭並んでるんです。そこに乗ると、床ごとぐるぐる回るんですよ!」
「…………」
今度は、集まっていた全員が微妙な顔をした。
「それだけ?」
「それだけです!」
「……何が面白いんだ?」
「私もそう思いました!」
思わず笑いながら答えた。
「最初に説明されたとき、本当に意味が分からなかったんですよ。ただ木馬に乗って同じところを回るだけですから」
「今聞いても意味が分からないぞ」
「でも乗ってみたら、これが意外と楽しいんです!」
「何が?」
「それが、うまく説明できないんですよ!」
「さっきからそればっかりじゃないか!」
「仕方ないじゃないですか!」
自分でもおかしくなって、声を上げて笑った。
そうなのだ。
説明するのが難しい。
コースターも、メリーゴーランドも。
何のために乗るのかと聞かれれば、楽しむためとしか言えない。
どこかへ行けるわけではない。
荷物を運べるわけでもない。
乗ったところで、最後には同じ場所へ戻ってくる。
役に立つのかと聞かれれば、少なくとも馬車のような役には立たない。
それでも。
「本当に楽しかったんですよ」
今度は少しだけ落ち着いて言った。
「コースターは、次に何が来るか分かっててもドキドキするんです。下るときなんて思わず声が出ますし、風もすごくて。それでメリーゴーランドは全然違って、ゆっくり同じところを回ってるだけなのに、景色を見てるとなんか楽しいんですよ」
「そんなにか?」
「そんなにです」
「二回乗るくらい?」
「二回乗るくらいです」
即答すると、また笑われた。
「それに、ライガさん、これからもっと増やすって言ってましたよ」
「まだ作るのか?」
「もちろんって言ってました」
「今はいくつあるんだ?」
「二つです。コースターとメリーゴーランド」
「二つだけか」
「今は、ですよ」
そう答えた瞬間、自分でも少し驚いた。
まるで、この先増えていくことを自分まで楽しみにしているような言い方だった。
だが、考えてみればその通りなのかもしれない。
次は何を作るのだろう。
コースターとも違う。
メリーゴーランドとも違う。
今日の朝までは存在すら知らなかった乗り物が、まだいくつもあるのだろうか。
「次ができたら、また見に行きたいですね」
思わずそう口にすると、同僚が呆れたように笑った。
「完全に遊びに行く気じゃないか」
「だって、面白かったんですから」
「さっきから何回言ってるんだよ、それ」
「何回でも言いますよ。本当に面白かったんですって!」
また笑い声が上がる。
それでも、自分は話すのをやめなかった。
坂を上っているときは思ったより高く感じたこと。
最初に下ったとき、思わず大声を出してしまったこと。
二回目は少し余裕ができて、周りを見ることができたこと。
メリーゴーランドはコースターとはまったく違うのに、それでも楽しかったこと。
ライガが乗る前にも、乗ったあとにも、何度も乗り物を確認していたこと。
気づけば、最初は数人だった聞き手が、いつの間にかもう少し増えていた。
「だから、本当に一回乗ってみれば分かりますよ!」
「まだ言うのか!?」
「だって、説明だけじゃ分からないんですから!」
「それでよく商売になるな!」
「私に言わないでくださいよ!」
また笑いが起きる。
自分も笑った。
仕事を手伝うために行っただけだった。
遊園地というものが何なのか、よく分からないまま北門の外へ向かった。
それが、戻ってきた今ではこうして皆に話している。
しかも、まだ見たこともない次の乗り物まで気になっている。
ふと、最初にライガから聞いた言葉を思い出した。
遊園地。
人が遊ぶための場所。
そのためだけに、いくつもの乗り物を作る。
最初に聞いたときは、どうしてそんなものに広い土地が必要なのか分からなかった。
今だって、全部分かったとは言えない。
あそこにあるのは、まだ二つだけだ。
何もない草地の方がずっと広い。
それでも、自分はコースターに二回乗った。
メリーゴーランドにも乗った。
もう少し時間があったなら、もう一度くらい乗っていたかもしれない。
もし、あの場所にこれから乗り物が増えていったら。
一つ乗って、次のものに乗って。
気に入ったものには、もう一度乗って。
そうやって一日を過ごせるほどの場所になったら――。
「……なるほど」
思わず呟いた。
「今度は何だ?」
「いえ」
首を振りながらも、笑みがこぼれる。
「遊園地って、こういう場所なのかもしれないなって思っただけです」
「二つしかないんだろ?」
「だから、今は二つだけですって」
また笑われる。
けれど、今度は気にならなかった。
帰る前、ライガには頼んである。
また新しいものができたら、見せてもらえないかと。
そのとき、自分がまた仕事として手伝いに行くことになるのか。
それとも、今度は本当に遊びに行くことになるのか。
まだ分からない。
ただ一つだけ、はっきりしている。
「だから、本当に乗ってみれば分かりますって!」
「分かったから仕事に戻れ!」
商業ギルドに、また大きな笑い声が響いた。
その日。
北門の外にある二つの奇妙な乗り物について、誰よりも楽しそうに話していたのは――。
少し前まで、遊園地が何なのかすら分かっていなかった、一人の受付職員だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
仕事を手伝いに行ったはずが、コースターには二回乗り、メリーゴーランドまでしっかり楽しんで帰ってきた受付職員でした!
そしてギルドに戻ってからは、すっかり遊園地の宣伝役に。
雷牙の知らないところで、遊園地の最初のファンが少しずつ周りを巻き込み始めています。




