30話 遊園地らしくなってきた?
灰石の道と二人乗りの車も、だいぶ形になってきました。
あとは残っている仕組みを完成させて、しっかり試験するだけ。
雷牙の遊園地、ついに三つ目の乗り物が完成しそうです!
翌朝。
銀の小鹿亭で朝食を済ませた俺は、そのまま遊園地へ向かうのではなく、リーベルの街を歩いていた。
目的地は、もう何度か訪れている魔道具屋だ。
「……また金が減るな」
歩きながら、思わずそんな言葉が漏れる。
遊園地を作り始めてから、当然だけど金を使うことが増えた。
土地を借りるのにも毎月銀貨三枚が必要だし、魔石だってタダじゃない。宿代や食費もかかるし、コースターの安全バーに使った部品だって買った。
まだ今すぐ困るというほどじゃない。
でも、最近は遊園地作りに夢中で、冒険者ギルドの依頼をほとんど受けていなかった。
「使ってばっかりなのは、まずいよな」
遊園地を開けば、そこから収入を得ることもできるかもしれない。
ただ、まだ開園すらしていない。
今の俺にとっては、完全に出ていく一方だ。
「近いうちに依頼も受けないとな……」
そんなことを考えているうちに、目的の魔道具屋へ着いた。
扉を開けて中へ入る。
「こんにちは」
「おう」
店の奥にいた店主が顔を上げた。
俺の顔を見るなり、なぜか納得したように一度頷く。
「今度は何を作った?」
「まだ何も言ってませんけど」
「お前がここへ来るときは、大体あの遊園地とかいうものに使う物を探してるだろう」
「……まあ、そうなんですけど」
完全に覚えられている。
最初にこの店へ来たときは、魔道具を見ること自体が珍しかった。
あのころは、自分が何度もここへ来て魔石を買うことになるなんて思ってもいなかった。
「それで、今日は何だ?」
「魔石が欲しいんです」
「またか」
店主は呆れたというより、予想が当たったというような顔をした。
「今度は何個だ?」
「一個です。新しく作ってる乗り物の動力に使います」
「大きさは?」
「前に買った動力用と同じくらいで大丈夫だと思います」
今までは試験をするたびに、コースターの魔石を外して借りていた。
でも、三つ目の乗り物として完成させるなら、いつまでもそんなことを続けるわけにはいかない。
店主がいくつかの魔石を出してくれる。
俺も【鑑定】を使いながら、状態を確認した。
前にも聞いたけど、魔石は魔力を補充すれば永遠に新品のまま使えるものではない。
使い続ければ少しずつ劣化するし、無理に魔力を詰め込めば傷んだり、場合によっては割れたりする。
遊園地を開いて毎日のように使うようになれば、いずれ交換だって必要になるだろう。
「……乗り物が増えるほど、魔石も必要になるんだよな」
「そりゃ、魔石を使って動かすならそうなるだろう」
「ですよね」
当たり前の返事が返ってきた。
今作っている車を一台増やせば、その分だけ動力用の魔石も必要になる。
二台なら二個。
三台なら三個。
それ以外の乗り物にだって必要になるかもしれない。
「思ったより使うなあ……」
「何をどれだけ作るつもりなんだ、お前は」
「いっぱいです」
「そうか」
店主は一瞬だけ俺を見たあと、それ以上は聞かなかった。
俺はその中から状態の良さそうな魔石を一つ選び、代金を支払う。
【無限収納】へしまったところで、減った金のことがまた少し気になった。
やっぱり、近いうちに冒険者の仕事もした方がよさそうだ。
でも、今日はまず三つ目の乗り物を完成させたい。
「ありがとうございました」
「今度は壊した魔石を持ってくるなよ」
「壊しませんよ!」
そんなことを言われながら、俺は店を出た。
◇
北門を抜け、遊園地の予定地へ到着する。
昨日作った灰石の道は、そのまま残っていた。
緩やかに曲がりながら草地を進み、途中で何本か残した木の間を抜けて、再び乗り場へ戻ってくる。
道の中央には、車が大きく外れないようにするためのガイド。
乗り場には、車が入ると車体の下側へ触れ、ペダルから駆動部へ続く接点を物理的に離すための部材も作ってある。
その近くには、二人乗りの小さな車が置かれていた。
「よし。完成させるか」
まずは車両だ。
昨日までは、試験をするたびにコースターから魔石を借りていた。
でも、今日からは違う。
【無限収納】から買ってきた魔石を取り出し、車体の後ろに作ってある取り付け部分へ収める。
動いている途中で外れたりしないように固定してから、魔力を送るための経路へ接続した。
「これでようやく、お前も自分の魔石だな」
言ってから、また物に話しかけていることに気づく。
「……まあ、誰もいないし」
気にしないことにした。
車体を少し持ち上げた状態でペダルを踏み、後輪が回ることを確認する。
足を離せば魔力の供給が切れ、後輪は少しだけ惰性で回ってから止まった。
「こっちは問題なさそうだな」
次は乗り場だ。
昨日の段階で何度か試しているけど、本番用の魔石に替えた以上、一通り確認しておきたい。
俺は車を手で押し、乗り場へ入れる。
車体の下側に取り付けた可動部品が、乗り場側の部材へ触れた。
そのまま少し押す。
部品が押し上げられ、車両内部の接点が離れる。
「ここだな」
俺は運転席へ座り、ペダルに足を乗せた。
踏み込む。
何も起こらない。
もう一度踏んでみる。
やっぱり車は動かなかった。
「よし」
魔石が空になっているわけじゃない。
乗り場側の部材によって、ペダルから駆動部分へ続く魔力の経路そのものが切られている。
これなら、乗り降りしている最中に誰かが間違ってペダルを踏んでも、いきなり車が走り出すことはない。
今度は車から降り、後ろへ回る。
両手を当てて押してみると、ゴロゴロと車輪が回った。
「こっちも大丈夫」
止めているのは車輪そのものじゃない。
あくまで、魔石を使った駆動だけだ。
だから乗り場では、係員が人力で動かせる。
俺はそのまま車を出口側へ押していった。
やがて、車体下側の部品が乗り場側の部材から外れる。
そこで止め、もう一度運転席へ座った。
「今度は……」
ペダルを踏む。
ゴロゴロと後輪が回り、車がゆっくりと前へ進んだ。
「よし!」
思った通りだ。
乗り場では自走できない。
乗り場から出れば、普通にペダルを使える。
これなら、乗る人が覚える操作も増えない。
ハンドルを握って、進みたいときにペダルを踏む。
止まりたければ離す。
それだけだ。
「じゃあ、一周してみるか」
いよいよ、昨日作ったコースを最初から最後まで走ってみる。
俺は速度を抑えたまま、灰石の道を進んだ。
最初の緩やかなカーブが近づく。
ハンドルを少し回すと、前輪がそれに合わせて向きを変える。
同時に、車体の下側は中央のガイドに沿って進んでいく。
昨日の短い試験用の道ではうまくいった。
でも、一周分の長さを走るのは初めてだ。
石の継ぎ目。
ガイドの接続部分。
カーブでの動き。
意識しながら、一つずつ確認していく。
「……今のところは大丈夫そうだな」
そのまま、残しておいた木々の間へ入る。
「おお……」
思わず周囲を見た。
まだ花もなければ、飾りもない。
ただ何本かの木が残っているだけだ。
それでも、何もない草地の上を走るのとは全然違う。
木の幹が横を通り過ぎる。
葉の間から光が落ちる。
カーブの先が少し見えにくくなって、進むにつれて景色が変わっていく。
「こういうのも大事なんだな」
乗り物そのものだけじゃない。
その周りに何が見えるかでも、楽しさは変わる。
遊園地へ行っていたころだって、乗り物だけを見ていたわけじゃなかった。
並んでいる途中に見える景色や、周りの飾り。
流れている音楽。
木や花。
そういうものが全部合わさって、その場所らしい雰囲気になっていた。
「いつか、この辺もちゃんと作りたいな」
今すぐは無理でもいい。
少しずつ増やしていけばいい。
そんなことを考えながら木々の間を抜け、大きなカーブを回る。
やがて前方に乗り場が見えてきた。
「……さて」
ここからが大事だ。
俺はペダルを踏んだまま、乗り場へ向かう。
普通なら、そのまま駆動し続ける。
でも、乗り場へ入れば――。
カタン。
車体の下から、小さな音がした。
「おっ」
後輪を動かしていた力が消える。
ペダルは踏んだままだ。
それでも車はもう自力では進んでいない。
残った勢いだけで灰石の上を進み、少しずつ速度が落ちていく。
ゴロゴロ……。
ゴロ……。
やがて止まった。
「……止まったな」
俺はペダルから足を離し、周囲を見る。
乗降させるつもりの位置までは、まだ少し距離がある。
車から降りて後ろへ回り、人力で押す。
平らにした灰石の床のおかげで、車は問題なく動いた。
そのまま乗降位置まで運ぶ。
「うん。流れとしては悪くない」
乗り場へ入る。
駆動が切れる。
惰性で進みながら速度が落ちる。
止まったら、係員が乗降位置まで押す。
ただし、一回うまくいっただけで終わりにはできない。
「入ってくる速さが違ったら、止まる位置も変わるよな」
俺はもう一度車を押して乗り場から出し、一周する。
今度はさっきより少しだけ速い状態で最後の区間へ入った。
乗り場の部材が車体下側へ触れ、駆動が切れる。
それでも、さっきより勢いが残っている分だけ長く進んだ。
「やっぱりそうなるか」
ブレーキが付いているわけじゃない。
駆動を切ったあと、自然に速度が落ちるのを待っているだけだ。
だったら、乗り場へ入る直前まで速く走れるような形にはしない方がいい。
俺は最後の区間を歩きながら考える。
「最後のカーブをもう少し緩くして……いや、それだけじゃなくて、もう少し手前から駆動を切った方がいいな」
乗り場側の接触部材を、少し手前まで延ばすことにした。
車が乗降位置へ近づいてから駆動を切るのではなく、乗り場へ入った早い段階で接点を離す。
そこから十分な距離を取って、惰性で速度を落とす。
さらに最後の区間では速度を出しにくいよう、カーブの形も少し調整した。
「これならどうだ?」
もう一度走る。
木々の間を抜け、大きく回り込む。
最後のカーブへ入ったところで、自然と速度を落とす。
そのまま乗り場へ。
さっきより早い位置で、カタン、と接点が切れた。
車は惰性で進む。
ゴロゴロ……。
ゴロ……。
そして、乗降位置より少し手前で止まった。
「……こっちの方がいいな」
最後は係員が押せばいい。
その方が、乗り降りする場所へ勢いのついた車が直接入ってくるより安心できる。
もちろん、これでどんな速度からでも必ず同じ位置に止まるわけじゃない。
そもそも、この乗り物は速く走らせるためのものではない。
ゆっくり景色を見ながら、自分で運転する感覚を楽しむものだ。
「速度を上げすぎないのも、ちゃんと説明しないとな」
実際に人を乗せるなら、乗る前に操作方法を説明する必要もある。
俺は何度か同じ試験を繰り返した。
接触部材の位置。
車体下側の可動部。
魔力経路がきちんと切れるか。
乗り場を出れば元へ戻るか。
ガイドや灰石の継ぎ目も確認する。
気になるところを少しずつ直しながら走らせていくと、ようやく安定して一周できるようになった。
◇
次に用意したのは、灰石で作った重りだった。
「二人乗りだからな」
今まで俺一人でしか乗っていない。
二人で乗れるように作ったのに、一人で走っただけで完成にするわけにはいかない。
コースターを作ったときにも、重さを変えながら何度も試験した。
その経験があるから、今回は最初からやるべきことが分かっている。
成人一人分を想定した重さになるように灰石をまとめ、助手席へ動かないよう固定する。
正確に何キロあるのかまでは分からない。
それでも、俺と同じくらいの人が隣へ座った場合を試すには十分だろう。
「これで二人分くらいか」
俺も運転席へ座る。
乗り場の中なので、ペダルを踏んでも車は動かない。
いったん降りて、車を出口側へ押す。
接触部材から外れたところでもう一度乗り込み、ペダルを踏んだ。
ゴロ……。
ゴロゴロ……。
「やっぱり、少し重いな」
一人で乗ったときより、動き出しはゆっくりしている。
でも、問題なく進んだ。
緩やかなカーブへ入る。
中央のガイドも外れない。
ハンドルを動かせば前輪も反応する。
そのまま木々の間を抜け、大きなカーブを回る。
最後の区間へ。
乗り場へ入ると、車体下側の部品が接触部材へ触れた。
カタン。
駆動が切れる。
重くなった分、止まり方も一人のときとは少し違う。
俺はその位置を覚えておき、完全に止まってから車を降りた。
「もう少し試した方がいいな」
重りの量を少し変える。
置く位置も変えてみる。
それから同じように何度も一周した。
走り終えるたびに車体を確認する。
車輪。
座席。
ハンドル。
ペダル。
魔石の固定部分。
車体下側のガイドと接触する部分。
乗り場で押される可動部品。
道の中央にあるガイドにも、無理な擦れ方をした跡がないか確認する。
灰石の道に大きなずれがないかも見る。
途中で気になるところがあれば、その都度直した。
「……前より早いな」
何度目かの試験を終えたところで、ふとそんなことを思った。
手を抜いているわけじゃない。
確認するところは、むしろ最初のころより増えている。
でも、何を確認すればいいのかが少しずつ分かってきた。
コースターを作ったときに、重さを変えて何度も走らせた。
一度動いたからといって、それだけで人を乗せていいわけじゃないことも分かっている。
メリーゴーランドを作ったときには、動かすだけで精一杯だった。
今は、作ったあとに何を試すべきかまで考えられる。
「少しは慣れてきたのかな」
もちろん、俺が急に乗り物作りの専門家になったわけじゃない。
知らないことはまだいくらでもある。
だからこそ、分からないものを分かったつもりで作らないようにしたい。
今できる範囲で作って、何度も確かめる。
今の俺にできるのは、それくらいだ。
最後にもう一度、重りを載せた状態で一周する。
灰石の道を進み、木々の間を抜ける。
大きなカーブを回り、乗り場へ戻る。
接触部材が車体下側へ触れる。
駆動が切れる。
惰性で進みながら、ゆっくりと速度が落ちていく。
完全に止まったところで車から降り、人力で乗降位置まで押した。
「……よし」
俺は大きく息を吐いた。
専用の魔石でも問題なく動いた。
一周分の道も走れた。
ガイドも機能している。
二人分を想定した重さでも、大きな問題は出なかった。
乗り場ではペダルによる駆動も切れる。
もちろん、これで絶対に壊れないなんて思っていない。
使う前には点検する。
使い始めてからだって、定期的に確認しなければならない。
それでも。
「これなら、三つ目も完成ってことでいいかな」
誰もいない草地でそう呟いて、完成した二人乗りの車を見る。
そこで、ふと思った。
「……そういえば」
メリーゴーランドを作ったときも。
コースターを作ったときも。
形になったあとに【鑑定】している。
この車はどうなるんだろう。
「ゴーカート……ではないよな」
俺はそういうものを参考にして作ったけど、元の世界にあった普通のゴーカートとはかなり違う。
好きな場所を自由に走れるわけじゃない。
中央のガイドに沿って、決められた道を進む。
エンジンだってない。
「まあ、見れば分かるか」
俺は車へ意識を向ける。
「【鑑定】」
情報が頭の中へ浮かんだ。
【簡易遊覧車】
ラグナ樫材と灰石を中心に作られた、二人乗りの走行遊具。魔石を動力として走行し、設置された案内路に沿って進む。乗員による進行操作が可能で、乗り場では設置された機構によって駆動が制限される。
「…………」
しばらく黙って表示を見る。
「ゴーカートじゃない」
まあ、それはいい。
実際、自由に走る乗り物じゃないんだから、遊覧車の方が近いのかもしれない。
問題はそこじゃない。
「また簡易かよ!」
メリーゴーランド。
コースター。
そして遊覧車。
全部、簡易。
「そんなに簡単なものばっかり作ってるつもりないんだけどな……」
俺としては毎回かなり真剣だ。
安全についても考えているし、何度も試験している。
でも、俺が知っている遊園地の乗り物と比べれば、確かにどれも小さくて単純なのは否定できない。
「いつか絶対、簡易じゃないやつ作ってやる」
誰に対抗しているのか分からない決意をしてから、俺はもう一度表示を見る。
「……でも、遊覧車か」
悪くない。
むしろ、この世界の人に説明するならゴーカートより分かりやすいかもしれない。
そもそも、こっちの人にはゴーカートという言葉自体が通じない。
「じゃあ、これは遊覧車でいいか」
こうして、俺の遊園地に三つ目の乗り物――【簡易遊覧車】が加わった。
◇
作業を片付けたあと、俺は少し離れた場所まで歩いた。
そこから振り返る。
「…………」
最初に目に入るのは、メリーゴーランド。
屋根も派手な飾りもない。
木馬だって、まだ全部ほとんど同じ見た目だ。
その隣には、小さなコースター。
一人乗りの車両が、三メートルほどの高さまで上って、そこから坂を下る。
さらに少し離れたところには、今日完成した遊覧車。
灰石で作った細い道が草地の中を伸び、残した木々の間を通っている。
そこを二人乗りの小さな車が走る。
「……三つか」
乗り物が、三種類になった。
この土地を借りたときには、何もなかった。
ただ草が生えて、木があって、石が転がっているだけだった。
最初は草を刈るところから始めた。
木を切って。
石を集めて。
【錬金術】で材料を加工して。
初めて作ったメリーゴーランドが回ったときは、それだけで嬉しかった。
そこからコースターを作った。
小さいけど、ちゃんと坂を上って、下って、走ってくれた。
商業ギルドの職員さんが乗って、もう一回乗りたいと言ってくれた。
そして今は、三つ目の乗り物まである。
「……遊園地っぽくなってきたな」
まだ、俺が知っている遊園地とは比べものにならない。
それでも、何もなかったころとは明らかに違う。
ここへ誰かが来たら。
メリーゴーランドに乗って。
コースターに乗って。
遊覧車にも乗って。
少なくとも、少しは遊んでもらえるんじゃないだろうか。
「…………」
そこまで考えて、俺は周囲を見回した。
そして、気づいた。
「……あれ?」
乗り物はある。
三つもある。
でも。
「これ、客をどこから入れるんだ?」
入口がない。
そもそも、どこからどこまでが遊園地なのか分かるような柵すらない。
俺は契約した土地の範囲を知っている。
でも、初めて来た人には分からない。
知らない人が見れば、広い草地に変な乗り物が三つ置かれているようにしか見えないかもしれない。
「……受付もないよな」
人を入れるなら、どこかで迎えないといけない。
料金を取るなら、それを受け取る場所も必要になる。
そもそも、いくらにするのかも決めていない。
それだけじゃない。
俺は三つの乗り物を順番に見た。
メリーゴーランドには操作する人が必要だ。
コースターにも、発車させて、安全バーを解除する人がいる。
遊覧車だって、乗り場では係員が車を押したり、乗り降りを確認したりしなければならない。
「…………」
俺一人じゃ無理だ。
この前コースターへ乗るときに、操作してくれる人がいなくて困ったばかりなのに。
そのときは商業ギルドの職員さんに頼んで何とかなった。
でも、遊園地を開くなら毎回誰かにお願いするわけにはいかない。
客が何人も来たら、なおさらだ。
「人も必要じゃん……」
今まで、とにかく乗り物を完成させることばかり考えていた。
次は何を作ろう。
どうやって動かそう。
どうすれば安全に遊べるようになるだろう。
頭の中にあったのは、そんなことばかりだ。
でも、遊園地は乗り物だけでは成り立たない。
人を呼ぶなら、その人たちを迎える場所がいる。
勝手に工事中の場所へ入られないようにするなら、敷地の境界も分かるようにした方がいい。
安全に遊んでもらうためには、乗り物を動かす人も必要だ。
疲れた人が休める場所だって欲しい。
長い時間遊んでもらうようになれば、水や食べ物だって必要になるかもしれない。
考え始めると、次から次へと出てくる。
「……乗り物三つ作っただけじゃ、開けないじゃん」
思わず苦笑する。
当たり前だ。
俺はずっと、遊園地へ遊びに行く側だった。
入口から入って。
チケットを見せて。
乗り物に乗って。
腹が減ったら何か食べて。
疲れたらベンチで休む。
それが当たり前だった。
でも今は、それを用意する側だ。
乗り物を作れば、勝手に遊園地が完成するわけじゃない。
「遊園地を作るのと、開くのって……全然違うな」
やることが、また増えた。
それなのに、不思議と嫌にはならなかった。
むしろ、少しだけ実感が湧いてくる。
今までは、遊園地を作ると言いながら、目の前の乗り物を一つずつ形にすることで精一杯だった。
でも、三つ並んだ今なら、その先を考えられる。
ここへ人が来る。
入口を通る。
どれに乗ろうかと迷う。
笑ったり、驚いたり、もう一回乗りたいと言ったりする。
そんな光景を、前より少しだけ具体的に想像できる。
「……そろそろ、開園することも考えないとな」
もちろん、明日にでも開けるわけじゃない。
入口もいる。
受付もいる。
人手もいる。
ほかにも、実際に準備を始めれば足りないものはいくらでも出てくるだろう。
それでも。
何もなかった草地に、乗り物が三つできた。
遊園地を作りたい。
そう思ってこの土地を借りたときよりも、開園する日は確実に近づいている。
俺はしばらくその場に立ったまま、三つの乗り物を眺めていた。
そして、これから必要になるものを、一つずつ頭の中で考え始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに三つ目の乗り物、【簡易遊覧車】が完成!
何もなかった草地にも、三種類の乗り物が並ぶようになりました。
でも、乗り物があるだけでは遊園地は開けないようで……雷牙もようやく「作る」だけではない部分に気づき始めました。




