29話 車が走る道を作ろう
二人乗りの小さな車は、無事に走るようになりました!
でも、遊園地の乗り物にするなら、ただ走れるだけではまだ足りません。
今度はこの車が安全に走れる場所を作っていきます。
翌日。
朝食を済ませて遊園地の予定地へやってきた俺は、昨日作った二人乗りの車を前にして、これから作るものを改めて考えていた。
車そのものは、一応走るようになった。
ペダルを踏んでいる間だけ魔石から魔力が供給され、後輪が回る。ペダルから足を離せば魔力の供給が途切れ、あとは惰性で少し進んで自然に止まる。
ハンドルも【付与魔法】によって前輪と連動するようにしてある。
昨日は実際に乗って、右にも左にも曲がれることを確認した。
でも、これだけではまだ遊園地の乗り物にはならない。
「まずは、決められた道を走れるようにしないとな」
俺は車の前にしゃがみ込み、昨日考えた仕組みを頭の中で思い返す。
乗っている人はハンドルを操作できる。
自分で運転している感覚も楽しめる。
でも、操作を間違えたからといって、好き勝手な方向へ走っていくわけではない。
そもそも、この世界では馬車が普通だ。
丸いハンドルを回して車輪の向きを変えるなんて、初めて乗る人には馴染みがないはずだ。
説明すれば分かってもらえるとは思う。
右へ回せば右。
左へ回せば左。
ペダルを踏めば進んで、離せば止まる。
操作自体は難しくない。
それでも、遊ぶための乗り物なのに、少し操作を間違えただけで危険になるようなものにはしたくなかった。
「自分で運転できる。でも、間違えてもちゃんと走れる。それが一番だよな」
そのために考えたのが、道の中央にガイドを作る方法だった。
車体の下側にも、そのガイドに沿って動く部分を取り付ける。
そうすれば、ハンドルをうまく操作できなくても、車は決められたルートから大きく外れないはずだ。
「まずは短いやつで試してみるか」
いきなり一周分のコースを作る必要はない。
短い直線と、緩やかなカーブ。
そこでちゃんと動くことを確認してから、本番用の道を作ればいい。
俺は試験に使う場所を決めると、地面に大まかな線を引いていった。
真っ直ぐ進んでから、緩やかに右へ曲がる。
その先で少し左へ戻る。
試すだけなら、これくらいで十分だろう。
「材料は……」
【無限収納】の中を確認する。
加工済みのラグナ樫材は、メリーゴーランドやコースター、それに昨日の試作車にも使ったことでかなり減っていた。
ただ、敷地内にはまだラグナ樫そのものが残っている。
必要になれば、契約で認められた範囲で使える。
俺は周囲を見回し、少し離れた場所に生えている木へ目を向けた。
そのまま歩き出しかけて、途中で足を止める。
「……いや、こっちは残しておこうかな」
何本かの木が、少し間隔を空けながらまとまって生えている。
今はただ草地に生えているだけだけど、遊園地ができたあとまで残しておけば景色の一部にできる。
日陰にもなる。
今回作る乗り物だって、何もない草地を走るより、木々の間を抜けて走った方が楽しそうだ。
使えるからといって、片っ端から切る必要はない。
「必要な分だけにしよう」
少し離れた場所から使う木を選ぶ。
周囲に人がいないことと、倒れる方向に何もないことを確認してから風魔法で切り倒し、枝を落として【無限収納】へ入れる。
それを作業場所まで運び、【錬金術】で細長い部材へ加工した。
この部材を使って、試験用のガイドを組み上げる。
車体の下側にも、それを受けるための部品を取り付けた。
元の世界にあった乗り物と、まったく同じ構造ではないと思う。
写真や動画で見ただけで、内部の構造まで分かるわけじゃない。
それでも、俺が欲しい動きは分かっている。
車が中央のガイドから大きく外れないこと。
そのための形なら思い描ける。
「……こんな感じかな」
できあがったガイドを確認し、昨日の試作車を持ってくる。
動力用の魔石は、昨日の試験が終わったあとにコースターへ戻してある。
今日も試験の間だけ借りることにした。
「……またちょっと借りるぞ」
誰も乗っていないコースターへ一応声を掛け、車両から動力用の魔石を取り外す。
それを試作車へ固定して、ガイドに合わせて車体を置いた。
「よし」
俺は運転席へ座った。
ハンドルを握り、ペダルへ足を置く。
まずは普通に操作して走ってみる。
ゆっくりとペダルを踏み込んだ。
魔石から魔力が流れ、後輪が回り始める。
ゴロゴロと音を立てながら、車体が前へ進み――。
「おっ……と」
ガタン、と身体が揺れた。
「…………」
そのまま少し進む。
ゴロゴロ。
ガタッ。
ゴロ……ガタン。
「……走りにくいな」
昨日は車が自分で動いたことが嬉しくて、そこまで気にしていなかった。
速度もかなり遅かったし、走らせた距離も短かった。
でも、ちゃんとした乗り物として走らせようとすると、はっきり分かる。
地面が平らじゃない。
いや、一度は整地してある。
最初にこの場所を使い始めたとき、草を刈って、大きな石を取り除き、目立つ凹凸もならした。
でも、それだけだ。
元々はただの草地だった場所を、人が歩きやすい程度に整えただけ。
地面そのものを舗装したわけじゃない。
土には細かな凹凸が残っているし、場所によっては小さな車輪が少し沈む。
俺はペダルから足を離した。
魔力の供給が切れ、車は少しだけ惰性で進んでから自然に止まる。
車から降りて足元を見る。
「ガイドより先に、道がいるじゃん」
当たり前のことに、作ってから気づいた。
中央にガイドだけ作っても、その周りが土のままではまともな走行路にならない。
「アスファルトなんて作れないしな……」
見たことは何度もある。
道路を歩いたことだって数え切れない。
でも、どういう材料をどう混ぜて、どう施工すればいいのかなんて知らない。
見た目を知っていることと、一から作れることは別だ。
それなら、この世界で手に入る材料を使えばいい。
「灰石ならいけるかな」
敷地を整地したときにも見つけた、この辺りでは珍しくない石だ。
加工しやすく、建材としても使えることは【鑑定】で分かっている。
メリーゴーランドやコースターにも使ってきた。
これを平らな板状に加工して並べれば、少なくとも土の上を直接走るよりはずっといいはずだ。
「全部を石にする必要もないよな」
車が走るところだけでいい。
二人乗りの車が通れるだけの幅を取って、その部分だけを平らにする。
俺は試験用のガイドを一度外した。
それから【無限収納】に入れてあった灰石を取り出し、【錬金術】で厚みを揃えた平らな石材へ加工していく。
作った石材を、さっき地面へ引いた線に沿って並べる。
「【建築】」
魔力を流す。
石材が組み上がり、できるだけ段差ができないように繋がっていく。
その中央へ、さっき作ったラグナ樫材のガイドを改めて設置した。
「おお……」
少し離れて見る。
さっきまで土の上に細いガイドが置いてあるだけだったものが、今度はちゃんと一本の道に見える。
「これならどうだ?」
もう一度、車を乗せる。
運転席へ座り、ペダルを踏んだ。
後輪が回る。
ゴロゴロと車体が前へ進んだ。
「おお!」
さっきまでの揺れがかなり減っている。
元の世界の道路みたいに滑らかというわけじゃない。
石材の継ぎ目は多少感じる。
でも、土の上を直接走っていたときとは全然違った。
車輪も沈まない。
これなら、乗り物として使えそうだ。
「じゃあ、今度こそガイドだな」
最初の右カーブが近づいてくる。
俺はハンドルを右へ回した。
前輪も右へ向き、車体が曲がり始める。
同時に、車体の下へ取り付けた部品も中央のガイドに沿って進んでいく。
そのまま問題なくカーブを抜けた。
「普通に操作すれば大丈夫そうだな」
試験用の道を最後まで走り、ペダルから足を離す。
自然に止まるのを待ってから、車を最初の位置まで戻した。
「次だな」
もう一度乗り込む。
今度はハンドルを動かさない。
ペダルを踏み、車を進ませる。
右カーブが近づいてくる。
「…………」
何かあればすぐに足を離せるようにしながら、そのまま進む。
俺はハンドルを真っ直ぐにしたままだ。
それでも、車体の下側に取り付けた部品がガイドに沿って動き始める。
車体の向きも、それにつられるように少しずつ変わっていった。
「おお……!」
何も操作していない。
それでも車は道から外れず、右へ曲がった。
続く左カーブも同じだ。
「いける!」
思わず笑ってしまう。
これなら、初めて乗った人がハンドルをうまく操作できなくても、いきなり道から飛び出すことはない。
次は、わざと逆へ回してみる。
もう一度最初へ戻り、同じカーブへ入る。
本来なら右へ曲がる場所で、ハンドルを少し左へ。
「おっ……」
前輪は俺の操作に合わせて左へ向こうとする。
でも、車体の下側は中央のガイドから外れない。
そのせいで、少し引っ掛かるような感覚があった。
「これはちょっと嫌だな」
道から外れないのはいい。
でも、乗るたびに無理な力がかかるようでは困る。
俺は車を止め、ハンドルと前輪に施した付与を調整した。
ハンドルを回せる範囲を少し狭くする。
前輪も、それに合わせて必要以上に大きく向きを変えないようにした。
完全に自由な方向へ進める必要はない。
あくまで、自分で運転している感覚を楽しめればいい。
調整を終え、もう一度走る。
今度は逆方向へハンドルを回しても、さっきほど強い引っ掛かりは感じなかった。
「うん。これくらいかな」
正しく操作すれば、その動きがちゃんと車へ伝わる。
操作しなくても、ガイドに沿って進む。
間違った方向へ回しても、道から外れない。
「自分で運転できる。でも、間違えてもちゃんと走れる」
昨日考えた通りの形に、かなり近づいてきた。
◇
そのあとも何度か試験用の道を往復した。
走らせるたびに、ガイドと車体の下側を確認する。
接触する部分には、すでに少し擦れた跡があった。
「やっぱり、ここは削れるよな」
形を少し調整して、できるだけ無理な力がかからないようにする。
さらに接触する部材へ【付与魔法】を使い、強度と耐久性を高めておいた。
もちろん、これで絶対に摩耗しないわけじゃない。
実際に使い始めたら、定期的に確認する必要があるだろう。
「でも、仕組みとしてはこれでいけそうだな」
試験用の短い道で必要なことは確認できた。
だったら、次は実際に使うコースだ。
本番用といっても、最初から長大なものを作るつもりはない。
緩やかなカーブをいくつか通って、一周して乗り場へ戻ってくる。
坂も作らない。
できるだけ平らな場所を選んだ方が、今の車には合っている。
俺は試験用の道から離れ、敷地の中を歩き始めた。
「ここから出て……」
乗り場にする予定の場所を決め、そこから少し真っ直ぐ進む。
その先には、さっき切らずに残した木が何本か生えていた。
「この間を通ったら楽しそうだな」
木々の間へ入る。
今は何の飾りもない。
それでも、ただ草地を一周するよりは景色に変化が出る。
あとから花を植えてもいい。
何か飾りを置いてもいい。
今すぐ全部やる必要はない。
まずは走れる道を作る。
木々の間を抜け、その先で大きく左へ。
そこから緩やかに戻り、最後は乗り場へ。
「こんな感じかな」
一周分を歩きながら、地面へ目印を付けていく。
急なカーブは作らない。
長すぎもしない。
最初に作るコースなら、これくらいで十分だ。
形が決まったところで、必要な灰石を用意する。
「……結構使うな」
試験用の短い道とは必要になる量が全然違う。
それでも、車が走る幅だけに絞れば、敷地内にある灰石で今のところは足りそうだった。
【錬金術】で平らな石材へ加工し、【建築】で繋げていく。
全部を一気に作るのではなく、段差や傾きを確認しながら少しずつ進めた。
その中央には、試験でうまくいったラグナ樫材のガイドを通していく。
途中で残した木々の間を抜け、その先で緩やかに曲がる。
最後は、乗り場へ戻るように繋げた。
何度か位置を直し、急になっていたカーブを広げる。
作業を続けて――。
「……できた」
俺は道から少し離れた。
目の前には、灰色の細い道が草地の中を伸びている。
中央には一本のガイド。
緩やかに曲がりながら木々の間を抜け、大きく一周して、またこちらへ戻ってくる。
派手な装飾はない。
元の世界で見たものと比べれば、ずっと簡単だ。
それでも、昨日までただの草地だった場所に一本の道ができただけで、景色はかなり変わった。
「ちゃんとコースっぽいな」
少し嬉しくなる。
ここを、あの二人乗りの車が走る。
自分でハンドルを握って。
ペダルを踏んで。
木々の間を抜けて、一周して戻ってくる。
「……あとは乗り場か」
人を乗せるなら、そこも考えなければならない。
俺は一周する道の端に、乗り降りするための場所を作ることにした。
車が一台入れる程度の長さを取り、人が横から乗り降りできるようにする。
ここも土のままではなく、灰石で平らに整えた。
車を手で押して動かすことも考えるなら、その方がいい。
問題は――。
「乗り場でペダル踏まれたら危ないよな」
今の車は、ペダルを踏めば動く。
単純で分かりやすい。
でも、人が乗り降りしている最中に間違って踏まれたら困る。
係員が横にいるところで、いきなり車が動き出すのも危ない。
乗り場にいる間だけは、乗っている人がペダルを踏んでも駆動しないようにしたい。
「……どうするかな」
魔法で何か複雑な条件を付けることも考えたけど、すぐに首を振った。
そこまでしなくてもいい。
コースターでも、必要なところは物理的な仕組みにした。
今回も同じでいいはずだ。
俺は車の足元にある、ペダルから駆動部分へ魔力を送る接点を見る。
「ここを、乗り場にいる間だけ離せばいいのか」
普段は、ペダルを踏めば接点が繋がって魔力が流れる。
だったら乗り場では、外からその接点を強制的に離してしまえばいい。
俺は車体の下側に、小さな可動部品を追加した。
それが押し上げられている間は、ペダル側の接点が繋がらない。
次に、乗り場の中央付近へ低い部材を設置する。
車が乗り場へ入ると、その部材が車体下側の可動部品へ触れる。
すると接点が押し離される。
乗り場から出れば接触がなくなり、接点も元の位置へ戻る。
「これならどうだ?」
まず、車を手で乗り場へ押し込む。
車体の下で、部品同士が触れた。
その状態で座席へ座り、ペダルを踏んでみる。
「…………」
動かない。
魔石から駆動部分へ魔力が流れていない。
「よし」
今度は車から降り、後ろから押してみる。
ゴロゴロと普通に動く。
車輪そのものを固定しているわけではない。
止めているのは、あくまでペダルによる駆動だけだ。
そのまま乗り場の出口へ向かって押していく。
車体下側の部品が、乗り場側の部材から外れた。
そこで車へ乗り込み、ペダルを踏む。
ゴロ……。
車が動いた。
「おお。これならいけるな」
乗り場では自走できない。
係員が手で押せる。
乗り場を出れば、ペダルが使えるようになる。
戻ってきたときも同じだ。
乗り場へ入ったところで駆動できなくなり、そのまま残った勢いで進む。
速度自体を低くしておけば、あとは自然に速度を落としていく。
必要なら最後の位置までは係員が押せばいい。
「操作も増えないし、こっちの方が分かりやすいな」
乗っている人が覚えるのは、ハンドルとペダルだけ。
余計なことを考えなくていい。
俺は何度か車を乗り場へ入れたり出したりして、接点がきちんと離れるかを確認した。
少し位置がずれると部品同士が擦れたので形を調整し、無理なく押し上げられるようにする。
何度か試すうちに、安定して駆動を切れるようになった。
「……よし」
これで、かなり形になった。
道がある。
中央のガイドもある。
乗り場も作った。
乗り場では車が勝手に自走しないようにもできた。
でも、まだ完成じゃない。
本番用に作った一周分のコースは、まだ実際に走っていない。
ガイドの継ぎ目や石の段差も確認する必要がある。
二人乗りなのだから、俺一人で走れたからといって終わりでもない。
隣に人が乗ったときと同じくらいの重さを載せて、走り方が変わらないかも試したい。
そして何より。
俺は試作車の後ろに取り付けた魔石を見る。
「これ、コースターのだもんな」
試験中だけ借りるならいい。
でも、このまま完成させたら、コースターと新しい乗り物を同時に動かせない。
それでは意味がない。
「専用の魔石、買わないとな」
前に買った店へ行けば手に入る。
必要な大きさも、今ならだいたい分かる。
問題があるとすれば――。
「……また金が減るな」
土地の賃料。
魔石。
コースターの安全バーに使った部品。
遊園地を作り始めてから、少しずつだけど確実に金を使っている。
冒険者として仕事をして稼いだ分も、いつまでも残っているわけじゃない。
「そろそろ、また依頼も受けないとな……」
遊園地を作るのは楽しい。
でも、作るためには金も必要だ。
そこはどうしたって避けられない。
俺は車から借り物の魔石を取り外し、コースターへ戻した。
きちんと固定し直したことを確認してから、改めて周囲を見渡す。
メリーゴーランド。
小さなコースター。
そして、新しくできた灰石の道。
その上には、まだ動力のない二人乗りの小さな車が置かれている。
最初は何もなかった草地だ。
そこに少しずつ、遊ぶためのものが増えている。
「……あと少しだな」
三つ目の乗り物が完成するまで。
必要なものも、次にやるべきことも分かっている。
俺は草地の中を伸びる灰色の道をもう一度眺めた。
「明日、魔石買ってくるか」
また財布は軽くなる。
それでも、目の前にできた新しい道を見ていると、不思議と嫌な気はしなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
車だけではなく、走るための道や乗り場も必要。
一つの乗り物を作るだけでも、考えることはどんどん増えていきますね。
それでも、何もなかった草地は少しずつ遊園地らしくなってきました!




