27話 遊園地が気になり始めた?
初めてのコースターは無事に成功!
「もう一回」までいただいて、雷牙も大満足。
……でも、どうやらまだ帰れないようです。
二回目のコースターを終えた職員さんが、ゆっくりと車両から降りる。
一回目よりも慣れたのか、その顔にはかなり余裕があった。
「どうでした?」
「面白かったです。二回目は、最初より周りを見る余裕もありました」
「それならよかったです」
思わず笑みが浮かぶ。
一回目だけでも嬉しかったのに、自分からもう一度乗りたいと言ってくれた。
しかも二回目もしっかり楽しんでもらえたらしい。
昨日まで何度も重りを載せて走らせた甲斐があった。
「それじゃあ、そろそろ戻りましょうか。仕事中なのに付き合わせちゃってすみません」
「いえ。私も乗せてもらいましたから」
職員さんがそう言って、乗り場から離れていく。
俺もコースターを最後に確認してから街へ戻ろうとしたのだが、数歩進んだところで、前を歩いていた職員さんが足を止めた。
「……あの、ライガさん」
「はい?」
振り返った職員さんが、少し離れたところを指差している。
「あちらも、乗るためのものなんですよね?」
「あちら?」
視線を追う。
そこにあるのは、コースターより先に作ったメリーゴーランドだった。
円形の床に六頭の木馬が並んでいる。
屋根もなければ、きらびやかな飾りもない。俺が知っているメリーゴーランドと比べれば、まだかなり簡素なものだ。
「ああ、メリーゴーランドですか?」
「めりーごーらんど……でしたか。先ほど、床ごと回ると言っていたものですよね」
「そうです」
職員さんはメリーゴーランドをじっと見つめる。
ここへ来たときには、木馬に乗って同じ場所を回ることに何の意味があるのか、まったく分からないという顔をしていた。
まあ、それも当然だと思う。
遊園地を知らない人に、木馬にまたがって円形の床の上をぐるぐる回る乗り物だと説明したところで、何が楽しいのかなんて想像しにくいだろう。
「……あれも、乗ってみていいですか?」
「え?」
思わず聞き返した。
「乗りたいんですか?」
「はい。先ほどの乗り物も、見ているだけでは何が面白いのか分かりませんでしたから」
「あー……」
なるほど。
一度コースターを体験したことで、見るだけでは分からない乗り物もあると思ったらしい。
「もちろんいいですよ」
「ありがとうございます」
俺たちはそのままメリーゴーランドへ向かった。
六頭の木馬が、同じ方向を向いて円形の床に並んでいる。
「好きな馬に乗ってください」
「好きな……と言われても、全部同じに見えるんですが」
「……今はそうですね」
言われてみれば、その通りだった。
形もほとんど同じだし、色を塗っているわけでもない。
木目に違いがあるくらいだ。
「そのうち、一頭ずつ見た目を変えてもいいかもな……」
「何か言いました?」
「いえ、こっちの話です」
職員さんは少し迷ったあと、乗り降りしやすい位置にある木馬を選んでまたがった。
「ここに座っていればいいんですよね?」
「はい。動いている間は、ちゃんと掴まっていてください」
「分かりました」
俺は木馬と手すりを確認してから、操作盤へ向かった。
メリーゴーランドの操作盤には、二本のレバーがある。
一つは回転させるためのもの。
もう一つは、床が動かないよう固定するためのものだ。
今は乗り降りするために床を固定してある。
「じゃあ、動かしますね」
「お願いします」
まず、床の固定を解除する。
それから回転用のレバーを動かした。
魔石から供給された魔力が地面の下を通る経路を伝わり、メリーゴーランドへ送られていく。
円形の床が、ゆっくりと動き始めた。
「おお……」
職員さんを乗せた木馬が、俺の前を通り過ぎていく。
当然、コースターのような速さはない。
坂を下ることもなければ、身体が浮くような感覚もない。
木馬に乗ったまま、ゆっくりと円を描いて進んでいく。
一周して、再び職員さんが俺の前へ戻ってきた。
「どうです?」
「本当に回るだけなんですね」
「だから言ったじゃないですか!」
思わず笑ってしまった。
職員さんも小さく笑いながら、また俺の前を通り過ぎていく。
もう一周。
さらにもう一周。
コースターとは違って大きな声が出るような乗り物ではない。
それでも、職員さんの表情を見る限り、退屈しているわけでもなさそうだった。
しばらく回したところで、俺は回転用のレバーを戻した。
魔力の供給が止まる。
それでも床はすぐには止まらず、それまでの勢いを残してゆっくりと回り続けた。
少しずつ速度が落ちていく。
俺は操作盤の前で待つ。
完全に止まったことを確認してから、もう一方のレバーを動かして床を固定した。
「はい。もう降りて大丈夫です」
職員さんが木馬から降りる。
「どうでした?」
「そうですね……」
少し考えてから、職員さんは振り返って木馬を見た。
「先ほどの乗り物とは、全然違いますね」
「こっちはのんびり楽しむものですから」
「でも、不思議です。ただ同じところを回っているだけなのに、思っていたより楽しかったです」
「でしょ?」
また顔が緩みそうになる。
自分で作ったものを誰かに楽しんでもらえる。
それが思っていた以上に嬉しい。
「子供なんかは、こちらの方を喜ぶかもしれませんね」
「ああ、それは俺も思います」
コースターみたいな乗り物が好きな人もいれば、メリーゴーランドみたいなゆっくりした乗り物が好きな人もいる。
遊園地の楽しみ方は一つじゃない。
分かっていたことではあるけれど、実際に誰かに乗ってもらって感想を聞くと、改めて実感する。
小さな子供でも楽しめるもの。
家族で一緒に乗れるもの。
のんびり景色を楽しむもの。
思い切り声を上げたくなるもの。
いつかは、いろんな人がそれぞれ好きな楽しみ方を見つけられる場所にしたい。
「……よし」
「どうしました?」
「いえ。もっと作りたいなと思って」
そう答えると、職員さんが周囲を見回した。
今あるのはメリーゴーランドと、小さなコースターだけ。
その向こうには、まだ何もない草地が広がっている。
「これから、もっと増えるんですか?」
「もちろんです」
「この二つで終わりではなく?」
「全然ですよ」
即答すると、職員さんが目を丸くした。
「まだまだ作ります。乗り物も増やしたいし、そのうち店とか、休める場所とかも欲しいですし」
「そんなに?」
「遊園地ですから」
今の状態では、とても完成なんて言えない。
俺が作りたい遊園地は、こんなものじゃない。
とはいえ、一気に全部作れるわけでもない。
一つずつ増やしていけばいい。
「さて、今度こそ戻りましょうか」
「そうですね。これ以上遅くなると、遊んでいたと思われそうです」
「……コースター、二回乗ってましたけどね」
「それは言わないでください」
真面目な顔で返されて、俺は吹き出してしまった。
◇
職員さんと一緒に、リーベルへ向かって歩く。
来たときと同じ道を戻り、北門がだいぶ近づいてきたころだった。
前から、荷物を背負った二人の男が歩いてくる。
「そういや、また増えてたぞ」
「何がだ?」
「北門の外で作ってるやつだよ。木を組んだ変なやつ」
「ああ。あれか」
すれ違いざまに聞こえてきた会話に、俺は何となく耳を傾けた。
「この前までは丸いやつだけだっただろ? 今度は木の道みたいなのができててな」
「道?」
「地面じゃなくて、上に伸びてるんだよ。小さい車みたいなのが走ってるのも見たぞ」
「何に使うんだ、そんなもの」
「知らん」
二人はそのまま俺たちとすれ違っていった。
俺は数歩進んだところで足を止め、思わず振り返った。
「…………」
「ライガさん?」
「今のって……」
丸いやつ。
木を組んだ変なやつ。
小さい車みたいなもの。
どう考えても、俺が作ったメリーゴーランドとコースターだ。
「……もしかして、結構見られてます?」
「見えると思いますよ」
職員さんがあっさり答えた。
「街からそれほど離れていませんし、周りを隠しているわけでもありませんから」
「…………」
言われてみれば、その通りだった。
俺が借りた土地には、まだ壁も柵もない。
北門から歩いて行ける草地で、何日も木を切ったり、地面を整えたり、見慣れないものを組み立てたりしている。
今では三メートルほどの高さまで上るコースターまである。
試運転だって何度もした。
見られない方がおかしい。
「全然考えてなかった……」
「何がです?」
「いや、作ることばっかり考えてたなって」
遊園地を作る以上、いつかは人に知ってもらわなければならない。
だから、見られること自体は悪くない。
興味を持ってもらえるなら、むしろ嬉しいくらいだ。
でも、今はまだ誰かを迎え入れられる状態じゃない。
入口らしい入口もない。
敷地を囲うものもない。
工事途中の場所に勝手に入られて、乗り物に触られたりしたら危ない。
「……その辺も考えないとな」
アトラクションを作ることばかり考えていたけれど、遊園地は乗り物だけでは成り立たない。
入口もいる。
人が歩く場所もいる。
勝手に入れないようにするなら、境界を分かるようにもしたい。
実際に人を入れるようになれば、ほかにも必要なものはいくらでも出てくるだろう。
ただ、今から全部を同時にやろうとしたら、何も進まなくなりそうだ。
まずは、もう少し遊園地らしい形にする。
そのうえで、人を迎えるために必要なものも考えていけばいい。
そんなことを考えながら北門をくぐり、俺たちは街の中へ戻った。
◇
商業ギルドの前まで来たところで、職員さんが足を止めた。
「それでは、私は仕事に戻ります」
「あ、はい。今日は本当にありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、いろいろ乗せてもらいましたから」
「でも、手伝ってもらわなかったら、俺はコースターに乗れませんでしたし」
安全バーを固定すれば、自分では解除できない。
それ以前に、車両に乗った状態では操作盤にも手が届かない。
職員さんに来てもらえなければ、せっかく完成したコースターを前に、今日も乗れずに終わっていた。
「本当に助かりました」
「それならよかったです」
職員さんはそう言って笑うと、ギルドの入口へ向かう。
ところが、扉に手を掛ける前に、何かを思い出したように振り返った。
「あの、ライガさん」
「はい?」
「また新しいものができたら……見せてもらってもいいですか?」
一瞬、答えるのが遅れた。
仕事だからじゃない。
俺が頼んだからでもない。
この人自身が、次に何ができるのか気になっている。
それが分かって、嬉しくないはずがなかった。
「もちろんですよ」
「ありがとうございます」
職員さんは少し嬉しそうに頭を下げると、今度こそ商業ギルドの中へ入っていった。
閉じた扉を見ながら、俺は小さく笑う。
「……気に入ってくれたんだな」
コースターには二回乗ってくれた。
メリーゴーランドも楽しんでくれた。
そして、まだ何を作るとも言っていないのに、次も見たいと言ってくれた。
俺一人が作りたいと思って始めた遊園地を、楽しみにしてくれる人が一人できた。
まだ一人。
でも、最初はそれで十分だ。
◇
銀の小鹿亭へ戻ったあと、俺は部屋のベッドに腰掛けてスマホを取り出した。
通信はできなくても、保存してある写真は残っている。
「三つ目か……」
画面を操作しながら、次に作るものを考える。
メリーゴーランドとコースター。
二つでも、何もなかったころに比べればかなり変わった。
街の人にまで何かを作っていると気づかれるくらいには、外から見ても目立つようになってきたらしい。
でも、まだ足りない。
せっかくなら、もう一つくらい違う乗り物が欲しい。
「何がいいかな……」
保存してある写真を順番に見ていく。
最初に目に留まったのは、観覧車だった。
「観覧車……欲しいんだけどな」
大きな観覧車があれば、それだけで一気に遊園地らしくなる。
遠くからでも見えるし、いつかは絶対に作りたい。
ただ、今の俺にはまだ早い。
コースターよりずっと高い場所まで人を運ぶことになる。
ゴンドラを取り付けて、回転しても乗る部分がひっくり返らないようにしなければならない。
基本的な仕組みを調べたことはある。
でも、それと実際に安全なものを一から作れるかどうかは別だ。
「これは、もうちょっと後だな」
次の写真へ。
絶叫系の乗り物。
これも今は難しい。
さらに画面を送る。
「あ、コーヒーカップ」
丸い床の上に、いくつものカップが並んでいる。
これならメリーゴーランドで作った回転の仕組みを使えそうだ。
床そのものを回して、その上でカップも回す。
前よりは作り方を想像しやすい。
「これなら……」
作れそうだ。
そう思って写真を眺めていたのだが、指は止まらなかった。
別に、今ここで決める必要はない。
せっかく写真が残っているんだから、他のものも見てから考えればいい。
何枚か先へ進める。
そこで、俺の指が止まった。
「……あ」
写真の中に、小さな車があった。
大きな道路を走るようなものじゃない。
遊園地の中に作られた決まったコースを、ゆっくり走るタイプの乗り物だ。
小さな車体。
二人くらいが並んで座れる座席。
前にはハンドルが付いている。
「これ……いいな」
俺は画面を拡大した。
コースターはレールに沿って走るだけで、乗っている人が操作することはない。
メリーゴーランドも、木馬に乗って回るだけだ。
でも、これは違う。
自分でハンドルを握れる。
自分で動かしているような感覚がある。
もちろん、本当に好き勝手な場所を走れるようにするのは危ない。
俺は車を作ったことなんてないし、この世界へ来てから見た移動手段だって馬車ばかりだ。
いきなり自由に走る車なんて作れるとは思えない。
「でも……決まった道を走るだけなら?」
写真を見ながら考える。
進む場所そのものは最初から決まっている。
道の中央か、車体の下に何か案内する仕組みを作って、そこから大きく外れないようにする。
そのうえで、乗っている人にはハンドルを握ってもらう。
完全に自由に走れるわけじゃない。
それでも、自分で運転している気分にはなれるかもしれない。
「二人乗りにしたら、一緒にも乗れるよな」
子供と大人。
友達同士。
家族でもいい。
メリーゴーランドとも、コースターとも違う楽しみ方ができる。
考えているうちに、さっきまで見ていたコーヒーカップより、こっちの方が作ってみたくなってきた。
「……よし」
俺はスマホの画面に映っている小さな車を見つめた。
まだ、どうやって走らせるかも決めていない。
ハンドルをどう車輪に繋げるのかも分からない。
決まった道から外れない仕組みだって、これから考える必要がある。
それでも。
「次は、これ作ってみるか」
メリーゴーランド。
コースター。
そして、その次は自分で運転している気分を楽しめる乗り物。
同じようなものばかり増やすより、その方が面白そうだ。
俺はスマホをしまうと、ベッドへ仰向けに倒れた。
頭の中では、もう小さな車が遊園地の中を走り始めている。
まだ二つしかない。
入口すらない。
それでも、少しずつ。
本当に少しずつだけど。
俺の作りたかった場所が、形になり始めていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
少しずつ形になってきた雷牙の遊園地。
作っている本人が思っていた以上に、周りからも見られていたようです。
果たして、これからどうなっていくのでしょうか。
次も読んでいただけると嬉しいです




