25話 ジェットコースターの安全を確かめよう
ジェットコースターは走るようになった。
でも、人を乗せるなら安全の確認はまだまだ必要。
雷牙は自分で乗る前に、まずは重りを使った試験を始めます。
翌朝。
俺はいつものようにリーベルの北門を抜け、遊園地予定地へ向かって歩いていた。
頭の中にあるのは、昨日ようやく一周することに成功したジェットコースターのことだ。
乗り場から発車した車両は、自分の車輪を回して最初の坂を上る。頂上の少し手前まで来ると、車両に取り付けた部材がレール脇の棒に触れ、魔石と車輪を繋いでいた部分が外れる。
そこから先は、もう魔石の力では走らない。
坂を下ったときの勢いだけでレールの上を走り、コースを一周する。
最後は乗り場の手前でブレーキが働き、少しずつ速度を落として停車する。
昨日は、そこまで確認することができた。
空の車両なら、ちゃんと一周して戻ってくる。
でも、それだけで人を乗せていいとは思っていない。
「今日はちゃんと試さないとな」
やがて、見慣れてきた草原が見えてきた。
最初は何もなかった土地に、今では二つの乗り物が並んでいる。
一つは、六頭の木馬が並んだ小さなメリーゴーランド。
そして、その少し離れた場所には、ラグナ樫で作った木製のジェットコースターがある。
まだ入口もなければ、園内を歩くための道もない。店もないし、もちろん働いている人だっていない。
それでも、何もなかった頃と比べれば随分変わった。
「……ちょっとずつだけど、遊園地っぽくなってきたな」
そんなことを考えながら、俺はジェットコースターの乗り場へ向かった。
まずは昨日と変わったところがないか確認する。
レールに沿って歩きながら、支柱や接合部分を見る。何度も車両を走らせたけれど、大きくずれたり壊れたりしている場所はなさそうだ。
車両も同じように確認する。
レールを挟むように取り付けた車輪にも、見て分かるほどの異常はない。
「よし」
でも、今日確かめたいのはここからだ。
昨日走らせた車両には、何も載せていない。
人が乗れば、その分だけ重くなる。
坂を下るときの速度も、カーブでの揺れ方も変わるかもしれない。最後にブレーキが働いてから、どこで止まるかだって同じとは限らない。
だから、いきなり俺自身が乗るつもりはなかった。
「まずは重りだな」
メリーゴーランドの試験でも使った灰石が、まだ【無限収納】に入っている。
俺はその中からいくつか取り出し、車両の座席へ載せていった。
一つ、二つと増やしていく。
正確な重さは分からないけれど、持った感覚ではかなり重い。
「これ、俺より重いかもな……」
まあ、軽すぎるよりはいい。
走っている途中で石が飛び出さないようにラグナ樫材で囲いを作り、しっかり固定する。
何度か揺らしてみても動かない。
「これで試してみるか」
俺は操作盤の前へ移動した。
発車用のレバーへ手を掛ける。
「まずは一回」
レバーを倒した。
カチッ、と音がして、乗り場に止まっていた車両の魔力経路が繋がる。
少し遅れて車輪が回り始めた。
ゴロゴロと音を立てながら、灰石を載せた車両がゆっくり乗り場を離れていく。
「やっぱり、空のときより重そうだな」
それでも止まりはしない。
車両はそのまま最初の坂へ入り、速度を落としながら上っていく。
コースの一番高いところでも、地面から三メートルほどしかない。
元の世界で見慣れていたジェットコースターと比べれば、本当に小さい。
それでも、自分で一から作ったものだと思うと妙に高く見えた。
やがて車両が頂上へ近づく。
レール脇に取り付けた棒と、車両側の部材が接触した。
カチッ。
車輪を動かしていた魔力が切れる。
それでも、それまで上ってきた勢いで車両は頂上を越え――。
ゴロゴロゴロゴロ――!
「速っ」
思わず声が出た。
空の車両を走らせたときより、明らかに迫力がある。
灰石を載せた車両は坂を勢いよく下り、そのまま一つ目の小さな起伏へ入った。
勢いを残したまま上り、頂点を越えてまた下る。
続く二つ目の起伏も越え、地面に近い高さまで下りてから緩やかなカーブへ入っていった。
そこで、車体が横へ揺れた。
「……!」
俺は思わず身体に力を入れた。
灰石を固定している囲いも、わずかに軋んでいる。
それでも、車輪はレールを挟んだままだ。
外れることなくカーブを抜け、そのまま後半へ進んでいく。
やがて車両が乗り場へ近づいた。
乗り場手前に作った部材へ車両が触れ、ブレーキが少しずつ車輪へ押し当てられていく。
ゴロゴロゴロ……。
音が小さくなる。
「止まれ……」
ゴロゴロ……。
ゴロ……。
そして車両は、昨日空の状態で止まった場所よりも少し先で停止した。
「やっぱり変わるか」
俺は完全に止まったことを確認してから車両へ近づいた。
ちゃんと止まりはした。
でも、空のときと同じ場所ではない。
重さが変われば走り方も変わる。
昨日、空の車両が一周しただけで完成にしなくて正解だった。
「もう少し手前からブレーキがかかった方がいいな」
俺は乗り場手前の仕組みを調整した。
車両側の部材が少し早く触れるようにして、ブレーキが働き始める位置を手前へずらす。
それから、もう一度。
今度はさっきより早く速度が落ち始め、狙っていた場所の近くで止まった。
「うん。こっちの方がいい」
ただ、一回うまくいっただけでは足りない。
俺はそのまま何度も車両を走らせた。
途中で灰石の量も変える。
最初より少し軽くしてみたり、逆に増やしてみたりする。
そのたびに発車から停車までを確認した。
同じコースなのに、重さが違えば動きも少しずつ変わる。
特に気になったのは、後半にあるカーブだった。
重りを増やした状態では、思っていたより車体の横揺れが大きい。
「ここ、もう少し緩くした方がいいな」
問題の場所へ移動し、カーブ全体を見る。
もっと急に曲がれば面白くなるのかもしれない。
でも、今は面白さより先に、ちゃんと走れることだ。
俺は修正後の形を頭の中で思い描いた。
「【建築】」
魔力を流す。
ラグナ樫で作られた支柱とレールの一部が組み直され、カーブが少し広がっていく。
急になっていた部分を緩やかにしてから、もう一度車両を走らせた。
同じように灰石を載せて坂を上り、頂上から下る。
問題のカーブへ入った。
「…………」
さっきより横揺れが小さい。
そのまま問題なく抜けていく。
「よし。こっちだな」
車両が乗り場へ戻って停止するのを見届け、俺は小さく息を吐いた。
それから、もう一度レールに沿って歩いていく。
何度も車両を走らせた。
だったら、走らせたあとの状態も見ておきたい。
レール。
支柱。
接合部分。
車輪。
一つずつ触りながら確認する。
今のところ、壊れたり大きくずれたりしている場所はない。
でも、人を乗せて使い続けるなら、今だけ大丈夫では足りない。
「そういえば、メリーゴーランドにもやったな」
俺はレールへ手を置いた。
メリーゴーランドには、【付与魔法】で強度と耐久性を高める効果を付けている。
だったら、こっちにもやっておこう。
「【付与魔法】」
手のひらから魔力を流す。
意識するのは、ラグナ樫材そのものを丈夫にして、少しでも傷みにくくすること。
淡い光がレールへ広がり、やがて消えていく。
もちろん、レールだけではない。
支柱や重要な接合部分にも同じ付与を施し、最後に車両そのものにも強度と耐久性を高める効果を付けていった。
「これで絶対壊れない……わけじゃないんだよな」
そこは勘違いしないようにする。
【付与魔法】で丈夫にできるからといって、元の作りが悪くても安全になるわけじゃない。
ちゃんと走れるように作る。
問題があれば直す。
そのうえで、壊れにくくする。
付与はそのための補助だ。
「よし。もう一回」
付与を終えたあとも、俺は灰石を載せた車両を何度か走らせた。
坂を上る。
頂上で駆動が切れる。
坂を下り、二つの小さな起伏を越える。
緩やかなカーブを抜け、最後はブレーキで速度を落として乗り場へ戻る。
そのたびに、さっき付与した場所も含めて確認する。
今のところ、おかしなところはない。
「……よし」
俺は車両から灰石を降ろし、【無限収納】へ戻した。
これで、走るための部分については今の俺にできる範囲でかなり確認できたと思う。
でも、人を乗せるなら、まだ足りない。
「安全バーだな」
空になった座席を見る。
今の車両には、人が座れる場所があるだけだ。
このまま坂を下るなんて、さすがに怖い。
俺は元の世界で何度もジェットコースターに乗った。
安全バーがどうやって固定されているのか気になって、基本的な仕組みを調べたこともある。
ただ、それだけで本物と同じものを一から作れるわけじゃない。
「形は分かるんだけどな……」
座った人の前へ下ろし、身体が大きく動かないように支えるバー。
そこまでは作れる。
問題は固定する仕組みだ。
走っている途中では勝手に開かない。
乗っている本人が間違えて外すこともできない。
でも、乗り場へ戻ったあとは係員が解除できる。
「適当に引っかけるだけじゃ怖いよな」
かといって、よく知らない複雑な機構を【建築】任せで作る気にもならない。
しばらく考えた末、俺はリーベルの方角へ目を向けた。
「……あの店で聞いてみるか」
この世界には、俺の知らない道具がいくらでもある。
全部を自分で作る必要はない。
使えるものがあるなら、それを使えばいい。
◇
魔道具店へ入ると、もう何度か顔を合わせている店主がこちらを見た。
「いらっしゃい」
「こんにちは。またちょっと探してるものがあるんですけど」
「今度は何だ?」
やっぱり、また来たのかと思われている気がする。
前に魔石を買ったとき、遊園地というものを作っていることは軽く話している。
今さらそこまで隠す必要もない。
「何かを固定して、揺れたりしても簡単には外れないようにする道具ってありますか?」
「固定?」
「はい。普段はしっかり固定できて、必要なときだけ外せるものです」
店主は少し考えたあと、店の奥へ入っていった。
しばらくして戻ってきた手には、小さな金属製の部品がある。
「こういうのでいいならあるぞ」
「これは?」
「荷台なんかに使う固定具だ。押さえを決めた位置まで動かすと、中の留めが噛み合って簡単には戻らなくなる」
「固定するだけなら、魔力はいらないんですか?」
「ああ。留めるだけならな」
それは都合がいい。
走っている最中に魔力が途切れたからといって、固定まで外れてしまうようなものは使いたくない。
「外すときは?」
「こっちだ」
店主が固定具の側面を指した。
「ここへ魔力を流すと、中の留めが外れる」
「離れたところからでもできますか?」
「魔力を通す道を繋げるならな。別に直接触れる必要はない」
「……なるほど」
それなら使えそうだ。
安全バーを下ろせば、物理的に固定される。
解除するときだけ魔力を使う。
しかも、車両が乗り場にいるときだけ外から魔力を流せるようにすれば、走っている最中には解除できない。
「これ、ください」
俺は必要な固定具を買い、【無限収納】へしまった。
支払いを終えると、財布の中身がまた少し寂しくなる。
「……本当に、そろそろ仕事もしないとな」
土地代は毎月かかる。
魔石も買った。
今度は固定具だ。
遊園地を作るには金がかかると分かっていたつもりだけど、実際に作り始めると想像以上に細かい出費が増えていく。
なくなったら冒険者の仕事をすればいいとは思っているけれど、遊園地作りだけしていればいいわけでもなさそうだ。
◇
予定地へ戻った俺は、さっそく安全バー作りを始めた。
まずはラグナ樫材を使い、座席の前へバーを取り付ける。
乗るときには上げておき、座ったあとで身体の前まで下ろす形だ。
俺自身が座席へ腰を下ろし、何度か位置を確かめる。
「もう少し……こっちかな」
上げる。
位置を直す。
また座って下ろす。
身体を支えられて、それでいて苦しくない場所を探して何度か調整した。
ようやく形が決まったところで、買ってきた固定具を取り付ける。
バーを決めた位置まで下ろすと――。
カチッ。
金属の留めが噛み合った。
「お」
両手でバーを持ち上げようとしてみる。
動かない。
少し強く引いても外れなかった。
「固定は大丈夫そうだな」
次は解除だ。
固定具の解除部分から、魔力を通すための細い経路を車両の下まで伸ばす。
乗り場側にも同じような部材を作り、車両が決めた停車位置にあるときだけ、二つが接触するようにした。
その先は操作盤へ繋げる。
発車用のレバーとは別に、安全バーを解除するための小さなレバーを追加した。
「これを動かしたときだけ……」
解除側のレバーを動かす。
乗り場から車両へ魔力が流れた。
カチッ。
固定具から小さな音がする。
戻ってバーを持ち上げると、今度は問題なく開いた。
「できた」
もう一度下ろす。
固定される。
解除する。
開く。
何度か繰り返してから、今度は車両を停車位置から少しだけ前へ動かした。
乗り場側と車両側の接点が離れる。
その状態で解除用のレバーを動かしてみる。
何も起こらない。
安全バーも開かない。
「よし」
車両を元の位置へ戻す。
接点が繋がったことを確認してから、もう一度解除用のレバーを動かす。
今度は固定が外れた。
「これなら、走ってる途中では解除できないな」
安全バーを固定するのに魔力はいらない。
解除するときだけ魔力を使う。
しかも、その魔力を外から送れるのは乗り場にいるときだけだ。
少なくとも、今の俺が思いつく範囲では、この方が安心できる。
仕組みができたところで、もう一度灰石を座席へ載せた。
しっかり固定してから、安全バーを下ろす。
カチッ。
固定具が噛み合った。
「行ってこい」
操作盤へ移動し、発車用のレバーを倒す。
車両がゆっくりと乗り場を離れていく。
坂を上り、頂上の手前で駆動が切れる。
そのまま下り坂へ入って加速し、二つの小さな起伏を越える。
調整したカーブも問題なく抜けた。
そして乗り場へ戻ってくる。
ブレーキが働き、少しずつ速度を落として――。
ゴロ……。
車両が止まった。
俺は完全に停止したことを確認してから近づいた。
「外れてないな」
安全バーは固定されたままだ。
固定具にも、見たところ異常はない。
操作盤へ戻り、解除用のレバーを動かす。
カチッ。
もう一度車両へ近づき、安全バーを持ち上げる。
今度は開いた。
「よし」
当然、一回で終わりにはしない。
もう一度固定する。
発車させる。
一周して戻ってくる。
完全に止まったことを確認してから解除する。
それを何度も繰り返した。
走らせるたびに、レールや車輪、支柱、車両を確認する。安全バーや固定具も触って、緩みがないか確かめた。
今のところ、大きな問題は起きていない。
安全バーも途中で外れることはなく、乗り場へ戻ったあとなら操作盤から解除できる。
「……ここまでかな」
何度目かの試験を終え、俺は乗り場に止まった車両の前で息を吐いた。
重さを変えながら何度も走らせた。
気になったカーブも直した。
ブレーキの効き方も調整した。
レールや支柱、車両には強度と耐久性を高める付与も施した。
安全バーを付けた状態でも繰り返し走らせた。
もちろん、これで絶対に安全だなんて言うつもりはない。
俺は専門家じゃない。
長い間使い続ければ、今は見えていない問題が出てくるかもしれない。
だから、これからも確認は必要だ。
それでも、少なくとも何も試さずに「多分大丈夫」で人を乗せるよりはずっといい。
「そういえば……」
そこで、ふと思い出した。
メリーゴーランドでは最後にやったのに、こっちではまだだった。
俺は目の前の乗り物へ意識を向ける。
「【鑑定】」
すぐに情報が浮かび上がった。
【簡易コースター】
ラグナ樫材と灰石を中心に作られた、一人乗りの走行遊具。トロッコ状の車両が魔石の力で坂を上り、その後は重力と勢いを利用してレール上を走行する。安全バーと減速機構が取り付けられており、主要部分には強度と耐久性を高める付与が施されている。
「…………」
俺は最初の名前をもう一度見た。
【簡易コースター】
「ジェットはどこに行ったんだよ……」
思わず口から出た。
でも、改めて目の前にあるものを見ると、あまり強く反論もできない。
一人乗りの小さな木製車両。
一番高いところでも三メートルほど。
そこから下って、小さな起伏を二つ越え、地面に近いところを緩やかに曲がりながら戻ってくる。
元の世界の大きなジェットコースターと比べれば、確かに「ジェット」と呼ぶほどの迫力はない。
「……まあ、簡易だよな」
少しだけ笑ってしまう。
メリーゴーランドに続いて、こっちにも「簡易」が付いた。
「いつか取れるのか、これ」
そう呟いてから、俺は車両に載せていた灰石を【無限収納】へ戻した。
座席が空になる。
「…………」
ここまで来た。
次はいよいよ、人が乗る番だ。
そして最初に乗る人間は、最初から決めている。
「乗るか」
誰かに試してもらう前に、まず俺が乗る。
自分で作ったものなんだから、それくらいは当然だ。
それに、昨日からずっと乗りたかった。
俺は車両へ乗り込み、座席へ腰を下ろした。
目の前の安全バーへ手を掛ける。
これを下ろせば固定される。
あとは発車して、一周して、戻ってきたら――。
「…………」
そこで、手が止まった。
俺は安全バーを見る。
次に、乗り場の横にある操作盤を見る。
もう一度、安全バーを見る。
「……待てよ」
今、安全バーを下ろす。
固定される。
それはいい。
そのために固定具を買ってきたんだから。
問題は、そのあとだ。
操作盤には発車用のレバーがある。
その隣には、安全バーを解除するためのレバーもある。
当然、座席からはどちらにも手が届かない。
「…………」
俺は安全バーから、そっと手を離した。
「誰が発車させるんだ?」
風が草原を抜けていった。
答えてくれる人はいない。
「……危なかった」
もし何も考えず安全バーを下ろしていたら、自分で作ったコースターに自分で閉じ込められるところだった。
発車できない。
安全バーも自分では解除できない。
「誰か来るまでここで待つのかよ……」
想像すると、かなり嫌だ。
俺は安全バーを上げたまま車両から降りた。
そして操作盤の前に立つ。
発車用のレバー。
安全バーを解除するためのレバー。
その二つを見ているうちに、ようやく別のことにも気づいた。
「……これ、一人じゃ運営できないんだな」
考えてみれば当たり前だった。
元の世界の遊園地でも、ジェットコースターには係員がいた。
乗客が座る。
安全バーを確認する。
それから発車させる。
戻ってきたら、完全に停止したことを確認してから安全バーを解除する。
俺は今まで、乗り物を作ることばかり考えていた。
でも、人に遊んでもらうなら、乗り物だけあればいいわけじゃない。
「スタッフも必要になるのか……」
メリーゴーランドだってそうだ。
俺一人なら、操作盤を動かしている間は自分で乗れない。
アトラクションが増えれば、なおさら全部を一人で動かすなんて無理だ。
いつか遊園地を開くなら、これはちゃんと考えなければならない。
「まあ……今はそこまでじゃないか」
まだ開園するわけじゃない。
今必要なのは、俺が試しに一周する間だけ操作盤を動かしてくれる人だ。
それなら、一人いればいい。
「誰かに頼むしかないな」
誰に頼むか考える。
この世界へ来て最初に会ったガルドさんも頭に浮かんだけれど、商人のガルドさんが今もリーベルにいるとは限らない。
それなら――。
「商業ギルドで聞いてみるか」
俺がこの土地を借りて、遊園地を作ろうとしていることを知っている人たちがいる。
土地のことで何度も世話にもなっている。
事情を話して、少しだけ手を貸してもらえないか聞いてみよう。
もちろん、手伝ってくれる人をいきなり乗せるつもりはない。
最初に乗るのは俺だ。
俺自身が一周して、重りでは分からなかったところまで確かめる。
その間だけ、操作盤を動かしてもらえばいい。
「……仕方ない。今日はここまでだな」
目の前には、もう走れるコースターがある。
安全バーも付いた。
重りを載せて何度も試した。
強度や耐久性を高める付与もした。
【鑑定】でも、ちゃんと【簡易コースター】と表示された。
それなのに、あと一歩のところで今日は乗れない。
悔しくないと言えば嘘になる。
でも、だからといって無理に一人で動かす気にはならなかった。
ここまで安全を考えて作ってきたのに、最後だけ無茶をしたら意味がない。
俺はもう一度、小さな木製のコースターを眺めた。
「明日こそ乗るぞ」
今度こそ、操作してくれる人を連れてきて、自分自身で一周する。
誰もいない草原でそう宣言して、俺はその日の作業を終えた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ジェットコースターも、いよいよ完成まであと少し!
……なのですが、最後の最後で雷牙は大事なことを忘れていました。
一人で作っていると、こういうところで困りますね(笑)
次回も読んでくれると嬉しいです!




