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22話 メリーゴーランドを完成させよう

メリーゴーランドは、魔石の力で動くようになった。

次は、人を乗せることを考えて試してみます。

 翌朝。


 朝食を済ませた俺は、北門を出て遊園地予定地へ向かっていた。


 昨日は、買ってきた魔石を使ってメリーゴーランドを動かすことに成功した。


 俺が直接魔力を流し続けなくても、操作盤のレバーを倒せば、魔石からメリーゴーランドへ魔力が流れる。


 レバーを戻せば供給が途切れ、回転は少しずつ弱まって止まる。


 これでようやく、俺がずっと横に立って魔力を流し続ける必要はなくなった。


「今日は、その続きだな」


 昨日の時点では、動かせるようになっただけだ。


 人を乗せて楽しんでもらうために作っている以上、本当に人が乗ることを考えて試してみなければならない。


 しばらく歩くと、見慣れ始めた草原が見えてきた。


 その一角だけ、周囲とは明らかに様子が違う。


 草を刈り、地面を整えた場所。


 そこに、六頭の木馬が並ぶ小さなメリーゴーランドが建っている。


「よし。今日もやるか」


 予定地へ入ると、まずは昨日作ったものを確認する。


 中央の軸。


 円形の床。


 六頭の木馬。


 それぞれの木馬が床へ固定されている部分と、乗っている人が掴まるための棒も手で揺らしてみる。


 昨日作った操作盤も確認した。


 木箱に目立った傷はない。


 レバーを何度か動かしてみても、引っ掛かるような感じはなかった。


 地面の下に埋めた魔力を通す部材までは見えないけど、その上の地面にも特に変化はない。


 最後に操作盤の後ろ側を開け、中に収めてある魔石を見る。


「こっちも大丈夫そうだな」


 傷が入ったり、割れたりしている様子はない。


 少なくとも、目で見て分かる範囲では問題なさそうだ。


 蓋を閉じて、俺はメリーゴーランドを見た。


「……まずは乗ってみたいところだけど」


 自分で作ったものだ。


 ちゃんと動くようにもなった。


 だったら、実際に木馬へ乗ってみたい。


 けれど。


 俺は操作盤を見る。


 次に木馬を見る。


 もう一度、操作盤を見る。


「……俺が乗ったら、誰がレバーを動かすんだ?」


 昨日も最後に気づいた問題だ。


 操作盤はメリーゴーランドの外にある。


 俺が木馬へ乗れば、当然レバーには手が届かない。


 先にレバーを倒してから走って乗る。


「いや、それはないな」


 即座に却下する。


 動いている乗り物へ飛び乗るなんて危ない。


 遊園地は人を楽しませる場所だ。


 作っている本人が危ない方法で試してどうする。


 それに、今確かめたいのは俺一人が乗れるかどうかだけじゃない。


 最終的には六人まで乗ることを想定している。


「だったら、人と同じくらいの重さを載せればいいか」


 俺は【無限収納】の中身を思い出した。


 土地を整えたときに集めた灰石が、まだいくつか残っている。


 あれなら重りに使えそうだ。


「やってみよう」


 灰石をいくつか取り出す。


 そのまま木馬へ載せるには形が悪い。


 丸かったり、角張っていたりするし、途中で落ちたら危ない。


 そこで【錬金術】を使い、扱いやすい塊へ加工していく。


「人一人って、どれくらいなんだろ」


 自分の身体を見下ろす。


 正確な体重なんて分からない。


 こっちへ来てから体重計なんて見たこともないし、この世界でどう測っているのかも知らない。


「まあ、俺より少し重いくらいを想定しておけばいいか」


 今回やるのは、正確な負荷試験じゃない。


 重さを測る道具もない以上、俺の感覚でしかない。


 それでも、何も載せずに回すだけよりはずっといい。


 まず一人分くらいの重さになるよう、灰石をまとめる。


 木馬へ載せ、途中で落ちないようしっかり固定した。


「まずは一頭だけ」


 操作盤へ移動する。


 レバーへ手を掛けた。


「よし」


 倒す。


 カチッ。


 少しして、床がゆっくりと動き始めた。


「おお……」


 反時計回り。


 昨日と同じ方向だ。


 重りを載せた木馬も、ほかの五頭と一緒に俺の前を通り過ぎていく。


 しばらく様子を見る。


 異音はしない。


 床が大きく傾くこともない。


 回転が途中で止まることもなかった。


「一人分くらいなら大丈夫そうだな」


 レバーを戻す。


 魔力の供給が途切れ、床は少しずつ速度を落としていく。


 完全に止まったのを確認してから、重りを増やした。


 二頭。


 三頭。


 四頭。


 そのたびに動かして、止める。


 そして最終的に、六頭すべてへ大人一人分より少し重いくらいを想定した重りを固定した。


「……結構すごい見た目になったな」


 六頭全部に灰石が載っている。


 当然、人が乗っているようには見えない。


 でも、六人が乗ったときに近い負荷にはなっているはずだ。


「いくぞ」


 レバーを倒す。


 床が動き始めた。


 最初はゆっくり。


 そこから、いつもの速さまで上がっていく。


「回るな」


 六頭すべてに重りを載せても、今のところ止まる様子はない。


 床が大きく傾くこともなかった。


 何周かさせてから止める。


 中央の軸。


 床との接続部分。


 木馬の固定箇所。


 掴まるための棒。


 順番に確認していく。


「今のところは大丈夫そう」


 でも、人が六人乗るときに、いつも綺麗に均等になるとは限らない。


 全員が近い位置へ集まることだってある。


「偏った状態も試すか」


 一度重りを外し、今度は六頭すべてには載せない。


 隣り合う木馬へ重さを偏らせる。


 見た目からして、さっきよりバランスが悪い。


「……ちょっと怖いな」


 自分でやっておいてなんだけど。


 でも、問題が出るなら、人を乗せる前に出てほしい。


 俺は少し離れた操作盤へ移動し、レバーを倒した。


 床が回り始める。


「…………」


 さっきより注意深く見る。


 重りが集中した側が通り過ぎる。


 反対側。


 また重い側。


 今のところ、目に見えて大きく傾く様子はない。


 中央の軸が激しく揺れることもなかった。


「これも、今のところは大丈夫か」


 レバーを戻す。


 完全に止まってから近づき、もう一度全体を確認する。


 目で見る。


 手で揺らす。


 触って確かめる。


 それくらいしかできないけど、少なくとも今すぐ分かる異常はない。


「次は長めに回してみるか」


 重りをもう一度六頭へ分散させる。


 今度はすぐには止めない。


 しばらく回し続ける。


 一周。


 二周。


 三周。


 さらに何周も。


 俺は少し離れたところから見るだけではなく、周囲を歩きながら角度を変えて確認した。


 重りは落ちない。


 床は回り続けている。


 中央の軸から変な音もしない。


「……よし」


 ある程度回したところで、レバーを戻した。


 回転が少しずつ弱くなり、完全に止まる。


 操作盤の後ろを開いて、中も確認した。


 接触部分に目立った変化はない。


 魔石にも、見たところ異常はなかった。


「どれくらい魔力が減ったかまでは分からないな」


 魔力を使っている以上、減っているはずだ。


 でも、見た目だけで残りを判断できるほど俺は魔石に詳しくない。


 これについては、もっと使っていく中で考えるしかないだろう。


「じゃあ、何回か動かしたり止めたりも――」


 そう言いながら、木馬に載せていた重りを外そうと近づいた。


 固定を外す。


 持ち上げる。


「よっ……」


 灰石の塊は重い。


 身体を支えるため、無意識に木馬へ手をついた。


 その瞬間。


 ゴッ……。


「ん?」


 足元の床が、ほんの少し動いた。


「……今、動いた?」


 俺は持ち上げかけていた重りをいったん戻した。


 操作盤を見る。


 レバーは戻してある。


 魔力は流れていない。


 もう一度木馬へ両手をかけ、少し強めに押してみる。


 グッ。


 すぐに大きく回るわけじゃない。


 でも、さらに力を入れると、床がわずかに動く。


「……そりゃそうか」


 考えてみれば当然だ。


 この床は、中央の軸を中心に回転できるように作ってある。


 レバーを戻したからといって、床自体が固定されたわけじゃない。


 回転させるための魔力がなくなっただけだ。


「でも、これじゃ乗り降りするときに危ないな」


 人が乗るときには、木馬へ手を掛ける。


 足を床へ乗せる。


 体重だってかかる。


 子供なら、大人が支えながら乗せることもあるかもしれない。


 降りるときだって同じだ。


 そのたびに床が動いたら危ない。


「止まってるときは、ちゃんと固定したいな」


 俺は床と中央の軸を見た。


 最初に思いついたのは、何かを引っ掛けて物理的に動かないようにすることだった。


「ストッパー……みたいなものか」


 運転していないときだけ、床の回転する部分を固定する。


 運転するときには外す。


 仕組みそのものは単純そうだ。


 問題は――。


「操作増えるな……」


 今は一本のレバーだけ。


 それを倒せば動き、戻せば魔力が止まる。


 そこへさらに固定まで同じレバーでやろうとすると、少し複雑になる。


 俺が仕組みをちゃんと理解できないまま作るのは嫌だ。


「だったら、分ければいいか」


 最初から全部を一つにまとめる必要はない。


 動かすためのレバー。


 床を固定するためのレバー。


 二つにすれば、仕組みは単純なままにできる。


「ちょっと不格好だけど……今はそれでいい」


 俺は操作盤の近くにしゃがみ込んだ。


 まず、どうやって床を固定するかを考える。


 円形の床の下、回転する部分に、固定用の場所を一つ作る。


 そこへ太い部材を差し込めば、床が回ろうとしても引っ掛かって止まる。


「これなら分かる」


 難しい仕組みじゃない。


 単純に、物理的に回らないようにするだけだ。


 俺は余っているラグナ樫材を取り出し、【錬金術】で太めの固定具へ加工する。


 強度と耐久性を上げる【付与魔法】も使っておく。


 それから、回転部分の邪魔にならない位置に固定具を差し込める場所を作った。


「まずは手で試してみるか」


 床が完全に止まっていることを確認してから、固定具を差し込む。


 カチッ、と奥まで入った。


 木馬へ手を掛ける。


 押す。


「お」


 動かない。


 少し強めに押しても、床はその場で止まっている。


「これならいいな」


 固定具を抜く。


 今度は手で床を押す。


 わずかに動いた。


「よし」


 固定する仕組み自体はこれでいける。


 ただ、毎回床の下までしゃがんで差し込むのは面倒だ。


「これも操作盤からできるようにしよう」


 昨日レバーを作ったときと同じ考え方だ。


 操作盤から床の固定具まで、動きを伝える。


 ただし今回は魔力を通す必要はない。


 物理的に押したり引いたりできればいい。


 細長いラグナ樫材を加工し、何本か繋げていく。


 地面の上に出したままでは邪魔になるので、昨日と同じように浅い溝を作って地中へ通した。


 こっちの部材にも強度と耐久性を高める付与をしておく。


 操作盤には、昨日の回転用レバーの隣へ、もう一本レバーを追加した。


「こっちが固定用」


 レバーを倒す。


 地中を通した部材が押され、その動きがメリーゴーランドの下まで伝わる。


 固定具が回転部分へ差し込まれた。


 戻す。


 固定具が抜ける。


「よし」


 何度か動かす。


 差し込む。


 抜く。


 問題なく動いた。


 これなら、床の下へ手を入れなくても操作できる。


「……レバー二本になったな」


 右側が回転用。


 左側が固定用。


 見た目はさらに簡素な操作盤になった。


「まあ、間違えなきゃいいか」


 分かりやすいように、回転用と固定用でレバーの形を少し変えておく。


 それから実際に試してみる。


 まず固定用レバーを操作して、床の固定を外す。


「固定解除」


 木馬へ手を掛け、軽く押してみる。


 動く。


「よし」


 次に回転用レバーを倒す。


 メリーゴーランドが反時計回りに動き始めた。


 しばらく回してから、回転用レバーを戻す。


 魔力の供給が止まる。


 床は慣性でゆっくりと速度を落としていった。


「ここで固定しちゃ駄目だよな」


 まだ動いている。


 この状態で固定具を差し込めば、どこかへ大きな力がかかるかもしれない。


 俺は完全に止まるまで待った。


 床が静止したことを目で確認する。


「今」


 固定用レバーを倒す。


 カチッ。


 固定具が入る。


 床へ近づき、木馬を押してみた。


「動かない」


 今度は乗り降りするときに力をかけても、床が不用意に動くことはなさそうだ。


「これならいい」


 少し面倒にはなった。


 でも、


 固定を外す。


 回転させる。


 魔力を切る。


 完全に止まる。


 固定する。


 やることはそれだけだ。


「最初なんだから、分かりやすい方がいいよな」


 そのあとも何度か繰り返した。


 固定を解除。


 回転。


 停止。


 完全停止を確認。


 固定。


 何度やっても問題なく動く。


 そこで再び重りを使った試験へ戻った。


 一人分。


 二人分。


 六人分。


 均等に載せる。


 偏らせる。


 長めに回す。


 何度も動かして止める。


 停止したあとは必ず床を固定する。


 そのたびに軸や床、六頭の木馬、その固定部分、掴まる棒を確認した。


 操作盤の中も何度か開けて確認する。


 地面にも異常がないか見て回った。


「……今のところ、大きな問題はなさそうだな」


 もちろん、これで安全が証明されたわけじゃない。


 重りだって俺の感覚で作ったもので、正確な重さを測ったわけではない。


 人が実際に乗ったときの動き方までは分からない。


 長い間使い続けたら、また別の問題が出るかもしれない。


 それでも、人を乗せる前に俺一人でできる確認としては、かなり試したと思う。


 俺は六頭の木馬に載せていた重りをすべて外し、【無限収納】へ戻した。


「…………」


 改めてメリーゴーランドを見る。


 円形の床。


 中央の軸。


 六頭の木馬。


 その少し離れた場所には、魔石を収めた木製の操作盤。


 レバーは二本になった。


 最初は、木と石を使って形を作っただけだった。


 押さなければ回らなかった。


 風魔法で外から回した。


 【付与魔法】で回転する効果を付けて、自分の魔力でも動かした。


 俺がずっと魔力を流し続けなくてもいいように、魔石を買った。


 魔力を通す道を作った。


 操作盤も作った。


 今日は人が乗ることを想定して重りを載せ、六人分まで動かした。


 偏った状態も試した。


 長く回した。


 何度も動かして止めた。


 そして、停止中に床が動いてしまう問題にも気づいて、固定する仕組みまで追加した。


「…………」


 まだ誰も乗っていない。


 絶対に安全だと言えるわけでもない。


 屋根もない。


 音楽もない。


 木馬は上下しない。


 装飾もほとんどない。


 それでも。


「……第一段階、完成ってことでいいかな」


 口にすると、自然と笑みが浮かんだ。


 この世界へ来てから、初めて一から作ったアトラクション。


 まだ改良したいところはいくらでもある。


 でも、今の俺にできる範囲で、まず形にした。


「そうだ」


 最後に確認してみよう。


 俺はメリーゴーランドへ意識を向ける。


「【鑑定】」


【簡易メリーゴーランド】


 ラグナ樫材と灰石を主な材料として作られた回転遊具。中央の軸を中心に床部分が反時計回りに回転する。魔石から供給される魔力を利用して動作する。強度と耐久性を高める効果が付与されている。


「…………」


 俺は一番上を見る。


【簡易メリーゴーランド】


「まだ簡易なんだ……」


 思わず苦笑する。


「まあ、そうだよな」


 屋根もない。


 音楽もない。


 馬も上下しない。


 装飾もほとんどない。


「いつか取ってやるからな、その『簡易』」


 誰に言うでもなく宣言する。


 そのうち、もっと立派にすればいい。


 でも、それは今じゃない。


 まずは一つ。


 遊べるものを作る。


 そこまでは来た。


「よし!」


 満足しながら、俺は少し離れた。


 完成したメリーゴーランド全体を見る。


「…………」


 もう少し下がる。


 周りも見る。


 さらに遠くを見る。


 広い草原。


 俺が整えたのは、そのほんの一角だけ。


 そこにあるのは、小さな木製のメリーゴーランドが一つ。


 入口はない。


 園内を歩くための道もない。


 店もない。


 休憩する場所もない。


 ほかのアトラクションだって、もちろんない。


「…………」


 達成感はある。


 ものすごくある。


 でも。


「……遊園地っていうより、草原にメリーゴーランドが置いてあるだけだな」


 完成したばかりのメリーゴーランドが、急にぽつんと寂しそうに見えた。


「次は……もう少し遊園地らしくしていかないとな」


 一つ作って終わりじゃない。


 むしろ、ここからだ。


 俺は広い草原を見渡しながら、次に何を作るか考え始めた。

最初のアトラクション、ひとまず完成です!

まだまだ簡易版ですが、ようやく「自分で動かせる乗り物」まで辿り着きました。

ただ、メリーゴーランドが一つあるだけでは、まだ遊園地とは呼べません。

続きも読んでいただけると嬉しいです!

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