19話 メリーゴーランドを動かそう
最初のアトラクションとして、簡易的なメリーゴーランドを完成させたライガ。
しかし、完成しただけでは遊園地の乗り物としてはまだ不十分です。
自分が乗っても動かせるようにするため、ライガは魔法を使ってメリーゴーランドを動かそうと考えて――。
翌日。
俺はまた、遊園地を作るために借りた土地へ来ていた。
昨日、ようやく形になったばかりのメリーゴーランドが、整えた地面の上にそのまま残っている。
円形の床。
中央の太い軸。
その周囲に並ぶ、六頭の木馬。
どれも同じ方向を向くように配置してある。
俺が知っているような大きなメリーゴーランドと比べれば、かなり小さい。
屋根もないし、装飾もない。
音楽も流れない。
木馬も上下しない。
それでも、何もなかった草原に初めて作ったアトラクションだと思うと、やっぱり嬉しかった。
「……いいな」
昨日も散々眺めたはずなのに、今日になって改めて見ると、また少し違って見える。
いつか屋根も付けたい。
木馬にも色を塗りたいし、周りももっと遊園地らしく飾りたい。
音楽だってあった方がいい。
直したいところを考え始めれば、いくらでも出てくる。
でも、その前にやるべきことがある。
昨日の段階では、まだ外から押さないと回らなかった。
まずは、ちゃんと動かせるようにしないといけない。
そこで、ふと一つ思いついた。
「そういえば……これって【鑑定】したらどうなるんだ?」
今まで【鑑定】は、植物や素材を調べたり、自分のスキルを確認したりするときに使ってきた。
だったら、自分で作ったものにも使えるんじゃないだろうか。
「やってみるか。【鑑定】」
メリーゴーランドへ意識を向ける。
すると、すぐに情報が浮かんできた。
【簡易メリーゴーランド】
ラグナ樫材と灰石を使用して作られた回転遊具。中央の軸を中心に床部分が反時計回りに回転する。
現在、動力源は接続されていない。
「おお……」
ちゃんと出た。
「メリーゴーランドなんだ」
自分でそういうものとして作ったんだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
それでも【鑑定】にまでメリーゴーランドと表示されると、少し認められたような気がして嬉しい。
ただし。
「……簡易」
そこはしっかり付くらしい。
俺は改めて目の前のメリーゴーランドを見る。
屋根はない。
装飾もない。
音楽もない。
木馬も上下しない。
「まあ……簡易だよな」
むしろ、これで立派なメリーゴーランドと言い張る方が無理がある。
「そのうち絶対、簡易を取ってやるからな」
誰に向かって言っているのか自分でも分からないことを呟いてから、もう一度鑑定結果を思い返す。
気になるのは最後の部分だった。
「動力源……」
昨日は俺が外から押した。
だから回った。
逆に言えば、何かが回すための力を与えれば、人の手で押さなくても動くはずだ。
そして、今の俺には日本にいた頃にはなかったものがある。
「魔法で回せないかな」
日本にいた頃なら、ここで完全にお手上げだった。
メリーゴーランドが電気やモーターで動いていることくらいは分かる。
でも、実際にどういう構造で床を回しているのかなんて知らないし、自分でモーターを作ることだってできない。
けれど、ここには魔法がある。
「まずは、風で押してみるか」
俺はメリーゴーランドから少し離れ、円形の床の外側へ意識を向けた。
土地を整えたときには、風魔法を薄く鋭くして草を刈った。
今回は切る必要はない。
欲しいのは、床を横から押す力だ。
六頭の木馬が向いている方向へ進むように、反時計回りに押してやればいい。
「この辺から……こうかな」
手を向け、風を起こす。
柔らかな風が草を揺らし、そのまま床の外側へ当たった。
けれど、木馬が少し揺れただけで、床はほとんど動かない。
「弱いか」
昨日、自分で押したときにもそれなりに重かった。
六頭の木馬を乗せた床全体を回すんだから、そよ風程度では足りないらしい。
「じゃあ、もう少し強く」
今度はさっきより強い風を当てる。
すると、床がほんの少し動いた。
「おっ」
そのまま同じ方向へ風を送り続ける。
少しずつ勢いがつき、円形の床が中央の軸を中心に反時計回りに動き始めた。
六頭の木馬も一緒に円を描いて進んでいく。
「回った!」
昨日は自分の手で押していた。
でも今は、俺が触れていないのにちゃんと回っている。
もう少し強くしたら、どのくらい変わるんだろう。
そう思って、風を少し強めてみる。
回転速度が上がった。
「おお……」
だったら、もう少し。
さらに魔力を込める。
すると、さっきまでゆっくりだった木馬が、明らかに速くなった。
「おお……って、ちょっと待て!」
慌てて魔法を止める。
風が消えても、勢いのついた床はすぐには止まらない。
六頭の木馬が次々と目の前を通り過ぎていく。
「速すぎるだろ……」
あれに乗ったら、楽しいというより怖い。
少なくとも、俺が知っているメリーゴーランドの速さじゃない。
「人を乗せる前に試してよかった……」
動けばいいというわけじゃない。
人が乗るものなんだから、速さもちゃんと考えないと危ない。
俺は完全に止まるまで待ってから、床や軸を確認した。
今のところ外れたり、大きく傾いたりしたところは見当たらない。
それから何度か、風の強さを変えながら無人で回してみた。
弱すぎれば動かない。
強すぎれば速くなりすぎる。
風を当てる位置や強さを少しずつ変えているうちに、だんだん感覚が掴めてきた。
「このくらいかな」
今度は、かなりゆっくりとした速さで六頭の木馬が回っている。
速くはない。
でも、メリーゴーランドならこれくらいでいい気がする。
何周か回したあとで風を止める。
床はすぐには止まらず、少しずつ速度を落としていき、やがて完全に止まった。
「よし」
俺はメリーゴーランドへ近づいた。
昨日も停止した状態では木馬に跨がっている。
でも、実際に回っている状態ではまだ乗っていない。
だからといって、いきなり乗るつもりもなかった。
まず床を歩いてみる。
次に中央の軸や、木馬が固定されている部分を目で確認する。
一頭ずつ手で押し、横から揺らして、大きながたつきがないかも確かめた。
床の外側にも目立った変化はない。
「……これなら、低い速さから試してみるか」
今確認できたのは、見た範囲で大きな異常がないことだけだ。
人を乗せて安全だと証明できたわけじゃない。
だから最初の試乗は、自分でやる。
俺は六頭のうち一頭を選び、その背中に慎重に跨がった。
木馬は大人でも乗れる大きさにしてあるから、俺が座っても窮屈ではない。
前に付けた棒にも無理なく手が届く。
「じゃあ……ゆっくりで」
木馬に跨がったまま、さっきより弱めの風を起こす。
いきなり勢いをつけず、少しずつ床を押す。
「お……」
足元の床がゆっくりと動き始めた。
俺を乗せた木馬が、中央の軸の周りを円を描いて進んでいく。
外から見ていたときとは、やっぱり感覚が違う。
草原の景色がゆっくりと横へ流れていく。
整えたばかりの地面。
その向こうには、まだ手を付けていない草地が広がっている。
少し離れた場所には残しておいた木があり、その先には街へ続く道が見える。
どこを見ても、まだ遊園地と呼べる景色じゃない。
それでも、その真ん中で俺は自分で作った木馬に跨がって、ゆっくりと円を描いている。
「……はは」
思わず笑ってしまった。
「メリーゴーランドだ」
本物とは全然違う。
それでも、ちゃんと回っている。
日本では、遊園地へ行けばアトラクションがあるのが当たり前だった。
乗りたいものを選んで、列に並んで、順番が来たら乗る。
どうやって作られているのかなんて、気になって調べることはあっても、自分が作る側になるなんて考えたこともなかった。
今は違う。
土地を整えて。
材料を集めて。
それを加工して。
形を作って。
動かす方法まで自分で考えている。
「……すげえな」
自分で作っておいて言うのも変だけど、少し感動してしまった。
そのまま何周かしたところで、風を止める。
床はゆっくりと速度を落とし、やがて完全に止まった。
俺は止まったことを確認してから木馬を降りる。
「楽しかった……けど」
そこで、目の前のメリーゴーランドを見ながら気づいた。
「これ、俺しか動かせなくない?」
今は俺が風魔法を使っているから動く。
俺が乗るだけなら、木馬の上から魔法を使えばいい。
でも、遊園地は俺一人で遊ぶために作っているわけじゃない。
ここへ来た人に乗ってもらうためのものだ。
そのたびに俺が近くにいて、ずっと風魔法で回すのか。
「……無理だな」
メリーゴーランド一つだけなら、それでも何とかなるかもしれない。
でも、俺が作りたいアトラクションはこれ一つじゃない。
ジェットコースターも作りたい。
観覧車も作りたい。
ほかにも、いろんな乗り物を置きたい。
それを全部、俺一人が魔法で動かし続けるなんて無理だ。
「俺がいなくても動くようにしないと」
そう呟いたところで、自分の持っている能力を思い出した。
昨日は【錬金術】を初めてちゃんと使った。
ラグナ樫を木材へ加工し、灰石も使いやすい形にできた。
だったら、まだほとんど使っていない能力の中にも、遊園地作りに役立つものがあるかもしれない。
「確か……【付与魔法】ってあったよな」
名前からして、何かに魔法の効果を付けるものだとは思う。
でも、具体的に何ができるのかはまだ確認していなかった。
「【鑑定】」
今度は自分のスキルへ意識を向ける。
【付与魔法】
物品や素材に魔法的な効果を付与するスキル。使用者が扱える魔法や理解している効果を対象へ付与することができる。また、対象の強度や耐久性などを高めることも可能。
「……かなり便利そうだな」
最初に気になったのは、回転ではなく強度の方だった。
人を乗せるものなんだから、丈夫にできるなら試してみたい。
「もちろん、強くしたから安全ってわけじゃないけど」
作り方そのものに問題があれば危ない。
使っているうちに傷むことだってあるだろう。
それでも、元の構造をそのままにして少しでも強くできるなら、やる意味はある。
「試してみよう」
俺はメリーゴーランドへ手を触れた。
丈夫にする。
壊れにくくする。
あまり曖昧に考えず、今あるラグナ樫材や灰石の強さを底上げするようなイメージを持つ。
「【付与魔法】」
魔力が身体から流れ出し、触れているメリーゴーランドへ広がっていく。
【建築】を使ったときとは違って、形そのものは変わらない。
見た目にも変化はない。
しばらくして魔力の流れが落ち着く。
「……これでいいのか?」
床を軽く踏んでみても、違いはよく分からない。
見た目だけで強度が上がったかどうかなんて判断できるはずもない。
「こういうときこそ【鑑定】か」
もう一度、メリーゴーランドへ【鑑定】を使った。
【簡易メリーゴーランド】
ラグナ樫材と灰石を使用して作られた回転遊具。中央の軸を中心に床部分が反時計回りに回転する。
付与魔法により、強度と耐久性が向上している。
現在、動力源は接続されていない。
「おお、増えてる」
少なくとも、付与そのものは成功しているらしい。
もちろん、これで何キロまで耐えられるとか、どこが壊れやすいとか、そこまで分かるわけじゃない。
それでも、効果が付いたかどうか確認できるだけでも助かる。
「【錬金術】で材料を加工して、【建築】で形にして、【付与魔法】で補強する……か」
遊園地を作るために使えそうな能力が、少しずつ分かってきた。
「待てよ」
そこで、もう一つ思いついた。
付与できるのは、強度や耐久性だけじゃない。
俺が扱える魔法や、理解している効果も対象に付けられる。
だったら。
「回転そのものを付けられないかな」
さっき、自分で風を当てて実際に回した。
どちらへ回すのか。
どれくらいの力なら、ゆっくりと動かせるのか。
少なくとも、試す前よりは分かっている。
俺はもう一度メリーゴーランドに触れた。
さっき風魔法で回したときの感覚を思い出す。
中央の軸を中心に、反時計回りへ。
風で外から押すのではなく、床そのものを同じ方向へ動かす。
さっき試乗したときと同じくらいの、強すぎない力で。
「……【付与魔法】」
魔力を流し込む。
強度を付与したときより、少し多く魔力を使う感覚があった。
しばらくして、その感覚が落ち着く。
俺は手を離した。
「……どうだ?」
待ってみる。
けれど、メリーゴーランドは動かない。
「失敗したか?」
首を傾げて、もう一度触れてみる。
すると、さっき付けた効果へ魔力を流せそうな感覚があった。
「もしかして……」
ほんの少しだけ魔力を送り込んでみる。
すると。
「おおっ!」
止まっていた床が、ゆっくりと反時計回りに動き始めた。
風は吹いていない。
外から押しているわけでもない。
それでも、中央の軸を中心に六頭の木馬が回っている。
「できた……!」
しばらく魔力を流してみる。
回転は続く。
そこで魔力の供給を止めた。
すると、新たに回す力がなくなり、床は少しずつ速度を落としていった。
やがて完全に止まる。
「なるほど」
付与しただけで、勝手に永遠に動き続けるわけじゃない。
回転の効果を使うには、そのための魔力が必要になるらしい。
「まあ、そりゃそうか」
何の力も使わずにずっと動き続けるなら、さすがに何でもありすぎる。
でも、これで一つ分かった。
魔力さえ供給できれば、風を当て続けなくてもメリーゴーランドを回せる。
「問題は、その魔力だよな」
俺がずっと触れて魔力を流すなら、風魔法で動かしていたのと大して変わらない。
必要なのは、俺の代わりに魔力を供給してくれる何かだ。
「そういうもの……あるのかな」
この世界に来てから、魔法はいろいろ使った。
火を出したり、水を出したり、風で草を刈ったり、土を動かしたり。
でも、それは全部、自分の魔力を使ったものだ。
俺自身が魔法を使わなくても、代わりに魔力を供給してくれる道具があるのかなんて知らない。
「……いや」
そこで、前に街で見たものを思い出した。
魔法道具の店。
そこで見た明かりや火、水を出す道具。
詳しい仕組みまでは知らないけど、少なくとも俺がずっと魔法を使い続けなくても使える道具は、この世界に存在している。
「だったら、何かあるかもしれないな」
あの店で聞いてみればいい。
ただ、その前にもう一つ気になることがある。
俺は止まったメリーゴーランドを見る。
「動かす方法だけじゃ駄目だよな」
客を乗せるときには止まっている必要がある。
全員が乗ったのを確認してから動かし、終わったら魔力の供給を切る。
何か問題が起きたときにも、少なくとも動力を切れるようにはしておきたい。
さっき確認した通り、魔力の供給を止めても床はすぐには止まらない。
勢いが残っていれば、少しずつ速度を落としながら回り続ける。
「動かすだけじゃ完成じゃないんだな……」
必要なときに動かして、必要なときに魔力を切れるようにする。
それを俺だけじゃなく、ほかの人でも扱える形にしないといけない。
昨日は、まず形にすることだけで精一杯だった。
今日は実際に動かして、自分で乗ることもできた。
その結果、今度は動力と操作の問題が出てきた。
「遊園地の乗り物って、考えること多いな……」
日本にいた頃は、そんなことを考えずに乗っていた。
列に並んで、順番が来たら乗る。
スタッフの人が確認して、乗り物が動き出す。
終われば止まって、降りる。
それが当たり前だった。
でも、作る側になれば、その当たり前を一つずつ用意しないといけない。
「まあ、分からないなら聞けばいいか」
俺はまだ、この世界の魔法道具についてほとんど知らない。
なら、ここで一人で考え続けるより、知っている人に聞いた方が早い。
俺はもう一度、小さなメリーゴーランドを見た。
昨日は人の手で押さなければ回らなかった。
今日は魔法で動かし、自分で乗るところまでできた。
まだ完成じゃない。
それでも、少しずつ前には進んでいる。
「よし」
まずは街へ戻ろう。
そして、あの魔法道具の店へ行ってみる。
俺の代わりに、魔力を供給してくれるものがないか聞いてみよう。
お読みいただきありがとうございます!
今回は、前回完成したメリーゴーランドを実際に動かしてみる回でした。
自分で作ったアトラクションを【鑑定】してみると、まさかの【簡易メリーゴーランド】判定。
まだ屋根も装飾も音楽もなく、木馬も上下しませんが、それでもライガはついに自分で作ったアトラクションに乗ることができました。
そして今回は【付与魔法】も本格的に使用。
【錬金術】で素材を加工し、【建築】で形を作り、【付与魔法】で強化や効果を加える。
ライガの持つ能力が、少しずつ遊園地作りへ繋がってきました。
ただ、アトラクションは動けばそれで完成というわけではありません。
ライガがその場にいなくても動かすためにはどうするのか。
そして、人を乗せるためにはどうやって動かし、どうやって止めるのか。
次は「魔石」が、そのための大きな手がかりになりそうです。
ライガのメリーゴーランドがいつ「簡易」を卒業できるのか、続きも楽しんでいただけたら嬉しいです!




