18話 最初のアトラクションを作ろう
遊園地を作るための土地を整えたライガ。
今度こそ何かを作ろうと考えますが、遊園地の乗り物を一から作るのは簡単ではありません。
そんな中、ライガは日本から持ってきたスマートフォンの存在を思い出して――。
遊園地を作るための最初の場所はできた。
なら、次はいよいよ、ここに遊ぶためのものを作ってみたい。
「やっぱり、最初はメリーゴーランドかな」
俺は整えたばかりの地面を眺めながら呟いた。
ジェットコースターも観覧車も作りたいけど、いきなり挑戦するには分からないことが多すぎる。それなら、まずはもっと単純そうなものから始めた方がいい。
もちろん、メリーゴーランドだって簡単だと思っているわけじゃない。
床を回す仕組みも必要だし、俺が知っているものなら馬が上下する。屋根や装飾、音楽まで含めれば、かなり複雑なアトラクションだ。
でも、最初から全部を再現する必要はない。
「まずは、回るところまで作れればいいよな」
円形の床が中央の軸を中心に回る。
その上に馬が並んでいる。
今はそれだけでいい。
動力だってあとから考えればいいし、馬を上下させる仕組みも、分からないなら無理に付ける必要はない。
そう考えると、少しだけ作れそうな気がしてきた。
「問題は……細かいところ、どんな形だったっけ」
メリーゴーランドそのものは覚えている。何度も見たし、乗ったことだってある。
でも、いざ自分で作るとなると話が違った。
中央の柱はどんな形だったか。馬はどれくらいの間隔で並んでいたか。床の外側はどうなっていたか。
思い出そうとすれば大体の姿は浮かぶのに、細かいところになると急に曖昧になる。
「……覚えてるようで、覚えてないな」
俺が覚えているのは、遊びに行ったときに見た完成した姿だ。
自分で作ることになるなんて考えていなかったんだから、当然といえば当然だけど。
「何か参考になるものがあれば……」
そこまで言って、俺は気づいた。
「……あるじゃん」
すぐに【無限収納】からスマートフォンを取り出す。
こっちの世界へ来てから、ほとんど使わなくなったものだ。
当然、電波なんてつながらない。電話もできなければ、インターネットを見ることもできない。
でも、中に保存されている写真まで消えたわけじゃない。
画面をつけて写真の一覧を開く。
「…………多いな」
自分で撮ったものなのに、思わずそんな言葉が出た。
遊園地。
遊園地。
また遊園地。
ジェットコースターを下から撮った写真に、少し離れた場所から撮った観覧車。遊園地の入口や園内の広場、夜になってライトアップされたアトラクションまである。
「これ、いつのだっけ」
懐かしい写真も混ざっていて、つい見入ってしまいそうになる。
でも、今探しているのはメリーゴーランドだ。
写真を順番に見ていく。
「ジェットコースター……ジェットコースター……またジェットコースター……」
どれだけ撮ってるんだ、俺。
自分でも好きなのは分かっていたけど、改めて見るとかなり多い。
さらに写真を遡っていくと、ようやく探していたものが見つかった。
「あった!」
画面いっぱいに表示する。
色鮮やかなメリーゴーランド。
屋根の下には何頭もの馬が並び、周囲にはたくさんの装飾が施されている。
次の写真を見ると、今度は少し横から撮ったものが出てきた。
「あ、これ分かりやすいな」
さらに別の写真も確認する。
もちろん、遊園地を作る資料にするつもりで撮った写真じゃない。ただ好きだったから撮っただけだ。
当時の俺は、自分が遊園地を作ることになるなんて想像もしていなかった。
それなのに今、その写真を異世界でアトラクションを作るための参考にしている。
「撮っててよかった……」
心の底からそう思う。
ただ、何枚か見比べているうちに、すぐに限界にも気づいた。
「……やっぱり、中までは分からないな」
外から見える部分は分かる。
でも、内部までは写っていない。
どうやって床を支えているのか。中央の軸が内部でどうなっているのか。馬を上下させる仕組みがどう組まれているのか。
写真をどれだけ拡大しても、そんなものは出てこない。
「写真は設計図じゃないもんな……」
当たり前だ。
だったら、写真から分かる形だけを参考にして、俺自身が理解できるところまで単純にすればいい。
俺は画面に映ったメリーゴーランドを眺めながら、頭の中で少しずつ余計なものを取り除いていった。
まず、屋根はいらない。
豪華な装飾も今は必要ない。
音楽もなし。
馬を上下させる仕組みも分からないから、最初は固定する。
そして、何十人も乗れるような大きさにもできない。
俺は少し離れたところに置いてある、加工前のラグナ樫へ目を向けた。
「これ一本だもんな」
整地の途中で切り倒したラグナ樫は一本だけだ。
灰石もいくつか集めてあるけど、今ある材料だけで大型のメリーゴーランドを作れるとは思えない。
かといって、材料が足りないから木馬そのものを小さくするのも違う。
俺は自分の体を見下ろしてから、もう一度スマホの写真を見る。
「大人も乗れないとな」
俺が作りたいのは、子供だけが楽しめる遊園地じゃない。
子供でも大人でも、来た人が楽しめる場所だ。
だったら最初に作るこれも、小さいから子供しか乗れない、なんてものにはしたくなかった。
「一頭ずつの大きさはそのままで……数を減らせばいいか」
何十頭も必要ない。
中央の軸を囲むように一列だけ並べる。
それなら、全体の大きさをかなり抑えられる。
「六頭くらいかな」
大人でも普通に跨がれる大きさの木馬を六頭。
一度に乗れるのは六人だけ。
遊園地にあったものと比べれば、かなり小さい。
でも、最初に作るものならそれくらいでいい。
「よし。それでいこう」
俺は持ってきていた紙を取り出し、写真を見ながら作りたい形を描いてみることにした。
小さな円を描き、その中央に軸を書く。
軸を囲むように六頭の木馬を配置する。
木馬は全員が同じ向きになるように並べて、床へ固定する。大人が座っても窮屈にならないくらいの間隔も必要だ。
さらに横から見た形も描いてみる。
床があって、中央に軸があり、その周囲を床ごと回る。
「…………」
しばらく紙を眺めてから、思わず笑ってしまった。
「設計図っていうより、落書きだな」
専門的な図面とは絶対に呼べない。
寸法だって大体だ。
それでも、頭の中だけで考えているよりはずっと分かりやすかった。
大事なのは、俺自身がどんな形を作ろうとしているのか理解できることだ。
【建築】は、知らない仕組みまで勝手に考えて完成させてくれる能力じゃない。
だから、回転軸や床の支え方まで、俺が理解できない複雑なものにはしない。
今回はできるだけ単純にする。
中央に軸があって、その周囲を円形の床が回る。その床に六頭の木馬を固定する。
まずはそれだけだ。
「これなら……試せるかな」
形が決まったところで、俺は【無限収納】へ意識を向けた。
さっき切り倒したラグナ樫を取り出す。
地面に現れた木には、まだ枝がついている。樹皮だってそのままだ。
「まずは、これを材料にしないとな」
木が建築に使えることは【鑑定】で分かっている。
でも、このままでは使いにくい。
そこで試してみたいのが、さっき思い出した【錬金術】だ。
「そういえば、ちゃんと調べたことなかったな」
俺がこの世界へ来るときにもらった能力の一つ。
名前から何となくできそうなことは想像できるけど、この世界でも俺の想像通りとは限らない。
俺は自分の持つ【錬金術】へ意識を向けた。
「【鑑定】」
【錬金術】
素材の加工、精製、調合などを行うスキル。魔力を使用することで、素材を目的に応じた形や状態へ加工することができる。
「加工……!」
今やりたいことに、ぴったりじゃないか。
俺はすぐにラグナ樫へ目を向けた。
木を別の何かに変えたいわけじゃない。
欲しいのは、この木を加工した板や角材だ。
「これ、できるんじゃないか?」
駄目だったら、そのとき改めて街で誰かに聞けばいい。
まずは試してみよう。
俺はラグナ樫へ手を触れ、欲しい形を考える。
円形の床に使う板。
中央の軸や、それを支えるための太い木材。
木馬に使う材料。
さっき描いた図を確認しながら、それぞれ必要になりそうな大きさを思い浮かべる。
「……【錬金術】」
魔力を流す。
すると、目の前のラグナ樫に変化が起こった。
「おおっ!?」
枝や樹皮が幹から分かれていく。
残った幹は俺が思い浮かべた形へ変わり、何枚もの板や太さの違う木材になっていった。
やがて変化が止まる。
地面には加工された木材と、そこから分けられた枝や樹皮が残っていた。
「……できた」
俺は板の一本を持ち上げる。
ちゃんと木材になっている。
念のため【鑑定】してみた。
【ラグナ樫材】
ラグナ樫を加工した木材。硬く丈夫で、建築や家具など幅広い用途に利用できる。
「ちゃんと資材になってる!」
思った以上にうまくいった。
普通なら、木を切り倒してから板や角材にするまで、いろいろな作業が必要になるはずだ。
それを【錬金術】なら、魔力を使って加工できる。
「錬金術、めちゃくちゃ便利じゃん……」
今まで使っていなかったのがもったいない。
とはいえ、何もないところから木材が生まれたわけじゃない。
元になったラグナ樫があって、それを加工しただけだ。使わなかった枝や樹皮もちゃんと残っている。
それでも、遊園地を作る俺にとっては十分すぎるくらい便利だ。
「灰石もいけるかな」
今度は【無限収納】から、整地の途中で集めた灰石を取り出した。
ごつごつした石をそのまま使うんじゃなく、土台として置きやすい形にしたい。
平らで安定した石材を思い浮かべながら【錬金術】を使うと、こちらも少しずつ形が変わっていった。
変化が終わったあとには、扱いやすい形になった灰石と、加工したときに出た細かな石片が残っている。
「よし」
ラグナ樫材。
加工した灰石。
さっきまで草原にあった木や石が、今は何かを作るための資材として目の前に並んでいる。
俺はそれを見ているうちに、胸が少しずつ高鳴ってくるのを感じた。
「……いよいよだな」
スマホの写真を見る。
次に、自分で描いた図を見る。
そして、目の前の資材を見る。
作りたい形を、もう一度頭の中で整理した。
小さな円形の床。
その中央に一本の軸。
軸を囲むように並ぶ六頭の木馬。
木馬は大人でも普通に乗れる大きさにする。その代わり、細かな装飾までは作らない。
写真を見ながら、馬だと分かる程度の輪郭と、人が座れる背中、それから乗っている人が体を支えられる形を思い浮かべる。
今の俺が理解できないものは作らない。
まずは、単純でもちゃんと形になるものを作る。
「よし……やってみよう」
俺は大きく息を吸った。
牧場の柵を直したときとは違う。
あのときは、すでにあるものを見て、その形に戻すように修理した。
今回は、俺が考えたものを一から形にする。
「【建築】」
魔力を流す。
すると、地面に置いていた資材が動き始めた。
「おお……!」
加工した灰石が土台として配置され、その上へラグナ樫材が組み上がっていく。
中央には太い軸。
その周囲には、軸を中心に回転できる小さな円形の床。
大型のメリーゴーランドとは比べ物にならないくらい小さい。それでも、六頭の木馬を並べるための広さはきちんと確保してある。
そして、残ったラグナ樫材が床の上で形を変えていく。
「馬……!」
俺はスマホの写真を確認しながら、作りたい形を思い浮かべ続けた。
本物みたいな細かな彫刻はいらない。
馬だと分かる輪郭。
俺でも普通に跨がれる背中。
乗っているときに体を支えられるよう、それぞれの木馬には掴まるための棒も付ける。
六頭すべてを同じように配置していく。
やがて、動いていた資材が止まった。
「…………」
俺は目の前にできたものを見た。
次にスマホを見る。
そして、もう一度目の前を見る。
「おお……」
思わず声が漏れた。
円形の木製の床。
中央には太い柱。
その周りを囲むように、六頭の木馬が同じ方向を向いて並んでいる。
俺が知っているメリーゴーランドより、ずっと小さい。
何十人も乗れるような大きさはないし、木馬も一列だけだ。
それでも、一頭一頭は俺でも問題なく乗れるくらいの大きさがある。
小さいのは木馬じゃない。
一度に乗れる人数を減らしたから、全体が小さくなっているんだ。
「ちゃんとメリーゴーランドっぽいじゃん!」
嬉しくなって近づく。
木馬の表面にはラグナ樫の木目がそのまま残っていて、細かな装飾なんてほとんどない。
それでも、少し離れて見れば何を作ろうとしたのかはすぐ分かる。
「【建築】、すごいな……」
今度はスマホに映っている本物と見比べてみる。
写真のメリーゴーランドには豪華な屋根があり、色鮮やかな装飾が施されている。
それに比べれば、目の前にあるものは驚くほど簡素だ。
「……まあ、最初だしな」
思っていたより寂しい見た目ではあるけど、今はそれでいい。
それより大事なのは、本当に遊具として動くかどうかだ。
「ちゃんと回るかな」
俺は床と中央の軸、それから土台になっている部分を目で確認した。
作ったのは、俺自身が理解できる範囲の単純な構造だ。
それでも、いきなり乗る気にはならない。
「まずは乗らずに試そう」
俺は円形の床の外側へ手をかけ、ゆっくり力を込めた。
「よっ……」
最初は重い。
もう少し力を入れて押してみると、少しずつ床が動き始めた。
「おっ!」
六頭の木馬を乗せた床が、中央の軸を中心にゆっくりと回っていく。
「回った!」
思わず声が大きくなった。
もう少し押してみる。
床はそのまま回り続け、六頭の木馬が俺の目の前を順番に通り過ぎていく。
「すげえ……ちゃんと回ってる」
自分で考えて、自分で作ったものが動いている。
それだけで、思っていた以上に嬉しかった。
しばらく回したあと、俺は手を離した。
床はすぐには止まらず、少しだけそのまま進んでから、ゆっくりと動きを止める。
完全に止まったことを確認してから、中央の軸や床の下を見て回った。
どこかが外れている様子はない。
目に見えて傾いているところもなさそうだ。
だからといって、安全だと決めつけるつもりはない。
今分かったのは、誰も乗っていない状態なら回せたということだけだ。
「次は……座ってみるか」
もう一度、床が完全に止まっていることを確認する。
そのうえで、一頭の木馬を両手で押してみた。
前から押し、横からも揺らして、床に固定されている部分も確認する。
すぐに外れたり、大きくぐらついたりする様子はない。
「とりあえず、止まった状態で座るだけなら……」
まだ人を乗せて回していいと判断できる段階じゃない。
今は高さや座った感じを確かめるだけだ。
俺は木馬へ足をかけ、慎重に跨がった。
「おお……」
ちゃんと乗れる。
小型にしたとはいえ、木馬そのものまで小さくしたわけじゃない。俺が乗っても窮屈には感じなかった。
掴まるために付けた棒にも無理なく手が届く。
これなら少なくとも、大人だから乗れないということはなさそうだ。
もちろん、子供が安全に乗れるかどうかは別に確認しないといけないけど。
「悪くないな」
木馬に跨がったまま、周囲を見る。
目の前には中央の柱。
その向こうには、今朝までただの草原だった景色が広がっている。
たった数時間前まで、ここには草と石と木しかなかった。
それが今、俺は自分で作った木馬の上に座っている。
「…………」
なんだろう。
それだけなのに、すごく嬉しい。
「せっかくだし、回ってるところにも乗ってみたいな」
そう呟いて、外側を見る。
そこで俺は固まった。
「…………あれ?」
誰もいない。
当たり前だ。
ここにいるのは俺一人なんだから。
もう一度、木馬を見る。
それから、さっき俺が床を押していた場所を見る。
「俺が乗ったら……誰が押すんだよ」
動力なんて付いていない。
さっき回っていたのは、俺が外から押していたからだ。
俺が木馬に乗れば、当然、押す人はいなくなる。
「……人力かぁ」
木馬の上で、思わずため息が漏れた。
今のままなら、一人が乗って、別の誰かが外から押さなければならない。
六人乗れるように作ったのに、そのためにもう一人必要になる。
「さすがに、これで完成ってわけにはいかないよな」
俺は木馬から降りた。
もう一度外側から床を押してみると、小さな円形の床がゆっくり回り始める。
六頭の木馬が、同じ景色の中をぐるぐると回っていく。
まだ、俺が知っているメリーゴーランドとは全然違う。
それでも、朝まで何もなかった場所に、初めて遊ぶためのものが形になった。
「……ちゃんと動かせるようにしたいな」
人を乗せて回すなら、動力が必要になる。
それに、本当に人を乗せても大丈夫なのかも、もっと確かめなければならない。
作れたから終わりじゃない。
むしろ、ここから考えなければならないことの方が多そうだ。
それでも俺は、ゆっくりと回転を止めていく六頭の木馬を眺めながら笑った。
何もなかった草原に、今日、初めて遊ぶためのものができた。
まだ完成とは呼べない。
それでもこれは間違いなく、俺の遊園地で最初のアトラクションの原型だった。
お読みいただきありがとうございます!
今回、ついにライガの遊園地に最初のアトラクションができました。
日本にいた頃は、ただ遊園地が好きで撮っていたたくさんの写真。
まさか異世界で遊園地を作るための資料として役立つことになるとは、当時のライガも思っていなかったでしょう。
そして、これまでほとんど使っていなかった【錬金術】も初使用。
【錬金術】で素材を加工し、【建築】で形にすることで、遊園地作りに使える能力がまた一つ増えました。
完成したメリーゴーランドは、屋根も装飾もなく、馬も上下せず、おまけに人力。
まだ本物とはかなり違いますが、何もなかった土地に「遊ぶためのもの」が初めて生まれたことは、ライガにとって大きな一歩です。
もちろん、作っただけで終わりではありません。
誰が回すのかという問題も含めて、まだまだ改良するところはたくさんありそうです。
ライガの遊園地がここからどんなふうに形になっていくのか、続きも楽しんでいただけたら嬉しいです!




