14話 遊園地を作る土地を見に行こう
領主アイラに遊園地について説明し、ついに候補地を見に行くことになったライガ。
頭の中で思い描いてきた遊園地を、本当に作れるかもしれない場所へ向かいます。
こうして俺は、商業ギルドが見つけてくれた候補地を見に行くことになった。
――とはいっても、さすがに今すぐというわけにはいかないらしい。
俺としては、このまま案内してもらえるならすぐにでも行きたいくらいだったけど、アイラ様はもともとギルドマスターとの話し合いのために商業ギルドへ来ていた。
俺との話は、その途中で時間を作ってもらったものだ。
それに、実際に候補地を確認するとなれば、土地について詳しい担当者にも同行してもらった方がいいという。
「日程についてはこちらで調整しよう。決まり次第、ライガ君にも連絡する」
ギルドマスターからそう言われ、俺は頷いた。
「お願いします」
「そのために、今の滞在先を聞いておいてもいいかな?」
「滞在先ですか?」
「ああ。日程が決まったら、そちらへ使いを向かわせる」
「ああ、なるほど」
そういえば、俺がどこに泊まっているのかは商業ギルドに伝えていなかった。
土地探しを頼んだときには、結果が出たかどうか自分から聞きに来たから問題にならなかったけど、これから向こうから連絡してもらうなら必要になる。
「銀の小鹿亭です。今はそこに泊まってます」
「銀の小鹿亭だな。分かった」
ギルドマスターが近くにいた職員へ伝えると、職員は手元の書類に何かを書き加えた。
これで今後は、わざわざ俺から商業ギルドへ確認に来なくても連絡をもらえるようになる。
そこでアイラ様が、ギルドマスターへ視線を向けた。
「では、話を戻すとしようか」
「はい」
ギルドマスターが頷く。
どうやら、俺が来る前から話していたことにはまだ続きがあるらしい。
「あ、じゃあ俺はこれで。今日はありがとうございました」
「礼を言われるようなことはしていない。私も遊園地というものに興味があったから話を聞いただけだ」
そう言ってアイラ様がこちらへ顔を向ける。
俺も椅子から腰を上げた。
話しているうちに最初の緊張はだいぶ薄れていたけど、こうして改めて向き合うと、やっぱりこの人は領主様なんだよな。
しかも、その後ろには最初から二人の護衛が立っている。
最後の挨拶って、どうすればいいんだろう。
普通に頭を下げればいいのか。それとも、貴族相手には何か決まった作法があるのか。
考えてみても、知らないものは分からない。
さっき作法については気にしなくていいと言ってもらったばかりだし、変に見よう見まねでやって失敗するよりはいいだろう。
俺は素直に頭を下げた。
「それじゃあ、失礼します」
「ああ。また候補地で会おう」
「はい」
アイラ様は都合がつけば同行すると言っていたけど、今の言い方だと本当に来るつもりらしい。
ギルドマスターにも挨拶をしてから、俺は部屋を出た。
階段を下り、そのまま商業ギルドの外へ出たところで、ようやく肩の力が抜ける。
「はぁ……緊張した」
土地探しがどうなったのか聞きに来ただけだったのに、まさかその土地を治めている領主様と直接話すことになるなんて思ってもいなかった。
しかも、話した内容のほとんどが遊園地についてだ。
ジェットコースターに観覧車、メリーゴーラウンド。それだけじゃなく、食べ物やお土産、パレードのことまで話した。
改めて考えると、よくあれだけ話せたと思う。
でも――。
「次は土地か……」
口に出した途端、さっきまでの緊張よりも楽しみの方が大きくなってきた。
遊園地を作れるかもしれない土地。
どれくらい広いんだろう。
街から近いとは聞いたけど、実際にはどのくらいの距離なんだろう。
地面は平らなのか。周りには何があるのか。入口を作るなら、どの辺がいいのか。
まだ見てもいないのに、考え始めれば次から次へと気になることが出てくる。
「……早く見たいな」
日程が決まるまでは待つしかない。
それが分かっていても、気持ちだけなら今すぐにでも向かいたかった。
◇ ◇ ◇
それから二日後。
冒険者ギルドで簡単な依頼を終えて銀の小鹿亭へ戻ると、カウンターにいた女将さんから呼び止められた。
「ライガ、あんたに商業ギルドから伝言が来てるよ」
「商業ギルドから?」
その言葉を聞いた瞬間、何の用件なのかすぐに分かった。
「もしかして、土地のことですか?」
「そこまでは聞いてないね。明日の朝、商業ギルドに来てほしいってさ」
「明日の朝……」
ということは、たぶん候補地を見に行く日が決まったんだろう。
「分かりました。ありがとうございます」
「はいよ」
部屋へ戻ってからも、明日のことが気になって仕方がなかった。
【無限収納】からスマホを取り出し、保存してある遊園地の写真を眺める。
今までは、この写真を見ながら「いつか作れたら」と考えていた。
でも明日は、その「いつか」を作る場所になるかもしれない土地を見に行く。
そう思うと、何度も見てきた写真まで少し違って見えた。
ちなみに、最初に七日分の宿泊代を払って泊まり始めた銀の小鹿亭には、その後も宿泊を延長している。
リーベルでの生活にも少しずつ慣れてきたし、部屋にも不満はない。冒険者ギルドにも商業ギルドにも行きやすいから、今のところ別の宿へ移る理由もなかった。
そして翌朝。
朝食を済ませた俺は、指定された時間に間に合うよう銀の小鹿亭を出た。
商業ギルドへ到着して受付で名前を告げると、三十代くらいの男性が俺を迎えてくれた。
「お待ちしておりました、ライガ様。本日、候補地についてご説明させていただきます」
「よろしくお願いします」
「私は土地の管理を担当しております。現地について何か気になることがございましたら、分かる範囲でお答えいたしますので」
どうやら、この人が先日の話に出ていた土地担当者らしい。
「来たか、ライガ君」
別の声がして、そちらを見る。
「あ、おはようございます」
ギルドマスターも来ていた。
今回は商業ギルドが候補として選んだ土地を、領主であるアイラ様と一緒に確認することになる。
土地について細かく説明するのは担当者でも、商業ギルドの代表としてギルドマスターが同行するということらしい。
そして、そのさらに奥にいる人物を見つけて、俺は思わず目を瞬いた。
「……本当に来た」
「何か問題でも?」
小さく呟いたつもりだったのに、アイラ様には聞こえてしまったらしい。
「あ、いや。領主様って忙しいと思ってたので」
「忙しいぞ」
「ですよね」
「だから予定を調整した」
「……ありがとうございます」
「君が礼を言う必要はない。興味があるから来たと言っただろう?」
アイラ様がわずかに笑う。
その後ろには、前に会ったときと同じ二人の護衛が立っていた。
「全員揃ったようだな。それでは向かうとしよう」
アイラ様の言葉で、俺たちは商業ギルドを出た。
そして、建物の前に停まっていたものを見て、俺は足を止めた。
「……馬車?」
一台の馬車が停まっていた。
ガルドさんの荷馬車とは明らかに違う。荷物を運ぶためではなく人を乗せるための馬車で、派手な飾りがついているわけではないものの、車体はしっかりとした造りに見える。
しかも、いるのは馬車だけじゃない。
アイラ様のそばについていた二人とは別に、馬に乗った護衛が数名待機していた。
そこでようやく、俺は自分が少し勘違いしていたことに気づく。
土地を見に行く。
俺にとってはそれだけだけど、アイラ様にとっては領主が城壁の外へ出るということになる。
そりゃあ、護衛二人だけ連れて歩いていくわけじゃないよな。
「ライガ」
「はい?」
「何をしている。乗らないのか?」
「……俺もですか?」
アイラ様は、何を当たり前のことを聞いているんだという顔をした。
「候補地まで走ってついて来たいのなら止めはしないが」
「乗ります」
即答した。
北門からどれくらいあるのか知らないけど、領主様の馬車と競走する趣味はない。
それにしても、領主様の馬車に乗ることになるとは思わなかった。
大丈夫なのか、これ。
そんなことを考えている間にもアイラ様は先に乗り込んでしまった。
続いてギルドマスターと土地担当者が乗り込み、俺も覚悟を決めて後に続く。
中は想像していたより広かった。
向かい合わせに座席があり、俺たち四人が乗っても窮屈には感じない。外から見たときと同じで、金色の飾りだらけというような派手さはないけど、座席一つを見ても使われている物がいいのは俺でも分かった。
しばらくすると馬車がゆっくりと動き始めた。
「……領主様の馬車なんて初めて乗りました」
「普通はそう何度も乗るものではないだろう」
「ですよね」
そもそも領主様と会うこと自体、普通に考えればそう何度もあることじゃない。
なのに俺は先日初めて会って、今日はその馬車に乗っている。
異世界に来てから、自分でも予想していなかったことばかり起きている気がする。
馬車は街の中を進み、やがてリーベルの北門へ到着した。
これまで依頼で何度か使った東門とは違う方向だ。
門では俺たちだけで出るときとは違い、先に護衛の一人が門を守る兵士と何かを話していた。
領主本人が乗っている馬車だからだろう。確認そのものはすぐに終わり、馬車はそのまま北門を抜けていく。
城壁の外へ出ると、窓から見える景色が一気に開けた。
北へ延びる街道は馬車が行き交えるくらいの幅があり、今も少し先を荷物を積んだ馬車が進んでいる。
「候補地までは、この道を行くんですか?」
「途中までは北街道を進みます」
土地担当者が答える。
「しばらく進んだところで西へ延びる脇道へ入り、その先が候補地です」
「ここからどれくらいですか?」
「歩くのであれば、北門から二十分ほどでしょうか。馬車ならそれほどかかりません」
「二十分……」
俺は窓から後ろを見た。
北門はまだすぐ近くに見えている。
歩いて二十分なら、遊園地へ歩いて来ることも十分できそうだ。
でも、一日遊んだ帰りはどうだろう。
行きなら、これから遊園地へ行くんだから多少歩いても楽しいかもしれない。
だけど、一日中遊んで疲れたあと、小さな子供を連れてここを二十分歩くとなると話は違う。
「馬車で来る人のことも考えた方がいいな……」
「何か気になることでも?」
「あ、はい。北門から二十分なら歩いて来られると思うんですけど、一日遊んだあとだと帰りが大変かなって」
土地担当者が少し意外そうに俺を見る。
「まだ遊園地もできていないのに、帰りのことまで考えるのですね」
「せっかく一日楽しく遊んでもらっても、最後に帰るのが大変だったって思われたら嫌じゃないですか」
遊園地で一日遊べば疲れる。
それ自体は仕方がないし、むしろ思いっきり遊んだ証拠みたいなものだ。
でも、疲れ切った子供を抱えて長い道を歩かなきゃいけないとなれば、親の方は大変だろう。
そう考えたところで、馬車の車輪が地面を転がる音が耳に入った。
「馬車で来た場合って、目的地に着いたあとはどうするんですか?」
「どうする、とは?」
「何時間も遊園地にいるなら、その間ずっと入口の前に馬車を置いておくわけにもいかないですよね?」
自分で言いながら、また一つ必要なものに気づいた。
「……馬車を停めておく場所がいるのか」
日本の遊園地なら駐車場がある。
この世界で車は見ていないけど、その代わりに馬車がある。
だったら、馬車を停める場所が必要になるのは同じだ。
それだけじゃない。
「馬も休ませないと駄目ですよね。水とか、餌とか……」
「多くの馬車が長時間滞在するのであれば、そういった場所も必要になるでしょう」
今度はギルドマスターが答えた。
「街には馬や馬車を預かる場所もあるが、遊園地に直接多くの馬車が来るようになれば、同じような設備を用意する必要が出てくるだろうな」
「そっか……」
ただ馬車を停めるだけじゃ駄目なのか。
遊園地そのものだけじゃなく、そこへ来るための仕組みまで考えなきゃいけない。
「だったら、リーベルから遊園地まで人を乗せる馬車があってもいいのかな」
「遊園地まで?」
アイラ様が反応した。
「はい。遠くから来た人も、とりあえずリーベルまで来れば、そこから遊園地まで乗せていってもらえるようにしたら便利かなって」
「なるほど。専用の馬車を走らせるわけか」
「まだ思いついただけですけどね」
「悪くない考えだ」
そう言ったのはギルドマスターだった。
「もっとも、実際に必要になるほど客が集まってからの話だがな」
「……ですよね」
そもそも遊園地すらない。
今からそこまで考えるのは早い気もする。
でも、実際にこの道を通ってみなかったら、こういうことには気づかなかったかもしれない。
やっぱり現地を見るって大事なんだな。
そんなことを考えているうちに、馬車が少し速度を落とした。
「ここから脇道へ入ります」
土地担当者の言葉とほぼ同時に、馬車が西へ曲がる。
北街道と比べると道幅が狭くなり、地面の状態もあまりよくないのか、揺れが少し大きくなった。
「うわっ」
思わず座席に手をつく。
「……この道は、整備した方がよさそうですね」
「現状でも馬車一台であれば問題なく通れます」
土地担当者が答える。
「ただし、遊園地へ多くの馬車が行き来することを考えるのであれば、そのままというわけにはいかないでしょう」
「ですよね」
「道を広げるとなれば、遊園地として利用する土地だけでなく、街道との接続についても話を詰める必要があるな」
ギルドマスターが窓の外を見ながら付け加える。
「勝手に広げていいわけじゃないんですか?」
「もちろんだ。遊園地の敷地として土地を借りたとしても、その外にある道まで自由に変えていいことにはならない」
「ああ……そうですよね」
言われてみれば当たり前だ。
遊園地を作るなら、土地だけあればいいわけじゃない。
そこへ来るための道も必要になる。
そして、その道にはその道で別の話がある。
また一つ、考えなきゃいけないことが増えた。
脇道へ入ってからしばらくすると、馬車の揺れが収まり、やがて完全に止まった。
外から護衛の声が聞こえ、扉が開かれる。
「到着いたしました」
馬車を降りた俺は、顔を上げた。
「…………」
すぐには言葉が出なかった。
目の前には、広い草地が広がっていた。
建物は一つもない。
畑でも牧場でもなく、ただ背の低い草が風に揺れ、その向こうには大きな空が広がっている。
完全な平地というわけではないみたいだけど、大きな坂や崖があるわけでもない。場所によって緩やかに高くなったり低くなったりしている程度だ。
遠くには木々の集まった場所も見えるけど、候補地と森が直接隣り合っているわけではなく、その間には十分な距離がある。
馬車から降りたアイラ様の周囲には、騎乗していた護衛たちも集まっていた。
街の中とは違い、周囲を確認するようにそれぞれが視線を向けている。
その様子を見て、ここがもう城壁の外なんだということを改めて実感する。
「こちらです」
土地担当者が草地へ手を向けた。
「今回、候補として挙げさせていただいた土地になります」
「……ここが」
「はい。遊園地の候補地です」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。
今は何もない。
目の前にあるのは、風に揺れる草と、その向こうに広がる空だけだ。
それなのに、眺めているうちに少しずつ別の景色が頭の中へ浮かんでくる。
さっき馬車で通ってきた脇道をもっと広く整えて、その先に遊園地の入口を作る。
門を抜けたところには広場があって、そこから園内へ向かって大きな道が延びている。
道沿いには食べ物を売る店や、お土産を買える店を並べたい。
小さな子供でも楽しめる乗り物も欲しい。
もっと奥には、大きなジェットコースターを作る。
そして、いつか。
この広い土地のどこからでも見えるくらい、大きな観覧車を作れたら。
そこから見下ろす遊園地は、どんな景色になるんだろう。
リーベルの城壁も見えるだろうか。
北街道を行き交う馬車も、その向こうに広がる土地も、全部小さく見えるのかもしれない。
「……すごいな」
自分でも気づかないうちに、声が漏れていた。
今まで遊園地を作りたいと何度も考えてきた。
スマホに残っている写真を見ながら、どんなものを作りたいのか想像したこともある。
でも、それは全部俺の頭の中にしかなかった。
今は違う。
目の前に、実際の土地がある。
ここに入口を作れるかもしれない。
ここに道を作れるかもしれない。
ここで、本当に乗り物を動かせる日が来るかもしれない。
「街道があっちだから……入口は、やっぱりこっち側かな」
気づけば、俺は草地へ足を踏み入れていた。
馬車で来る人のことを考えるなら、入口の近くにはさっき考えた馬車置き場も必要になる。
でも、馬を休ませる場所まで入口のすぐ隣でいいんだろうか。水や餌のこともあるし、少し離した方がいいのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ライガ」
「はい?」
振り返ると、アイラ様がこちらを見ていた。
「随分と楽しそうだな」
「だって、実際に見ると全然違いますよ!」
思わず声が弾んだ。
「今までは、どんな土地がいいのか頭の中で考えてただけですけど、ここに立ってみると、入口をどこにするとか、何をどこに作るとか、いろいろ考えられるんです」
「まだ君の土地ではないぞ?」
「それは分かってます」
ちゃんと分かっている。
分かってはいるけど、想像するくらいならいいだろう。
「それで、実際にはどこからどこまでが候補地なんですか?」
俺が尋ねると、土地担当者が前へ出た。
「今回ご案内している範囲について、ご説明いたします」
そこから俺たちは、実際に土地の中を歩きながら説明を受けることになった。
アイラ様もギルドマスターも馬車へ残ることはなく、俺たちと一緒に草地を歩いている。
護衛たちは全員が固まってついてくるわけではなく、何人かは馬車や馬の近くに残り、残った者が周囲を警戒しながら俺たちについてきていた。
遠くから見たときにはほとんど平らに思えた土地も、実際に歩いてみると緩やかに高くなっている場所があれば、少し地面が低くなっている場所もある。
大きな建物を作るなら、そのまま使える場所ばかりではなさそうだ。
「この辺は整えないと駄目かな……」
「建てるものにもよるでしょう」
土地担当者が答える。
「ですが、全体として見れば、この周辺では比較的平坦な土地です」
「なるほど」
「また、今ご案内している範囲の外にも領主管理地が続いております。将来的にさらに土地が必要になった場合、状況によっては利用範囲を広げられる可能性もございます」
「広げられるかもしれないんですか?」
「確約はできません。ただ、周囲がすべて他者の所有地となっている場所よりは、拡張の余地があるということです」
「それでも十分です」
最初から全部を使う必要はない。
むしろ、今の俺にはこんな広い土地を一気に遊園地へ変えるなんて無理だ。
最初は小さく始めて、少しずつ広げていけばいい。
そう考えると、将来さらに広げられる可能性があるというのは大きな魅力だった。
「そういえば、水が近くにあるって聞いたんですけど」
「ございます。こちらへ」
土地担当者に案内され、候補地の北西側へ向かう。
しばらく歩いて、候補地として示された範囲を少し外れると、水の流れる音が聞こえてきた。
「おお……」
その先には、小さな川が流れていた。
ものすごく幅が広いわけではないけど、水は絶えず流れている。
「この川は候補地の中なんですか?」
「いいえ。土地の範囲からは外れております」
「じゃあ、この水を勝手に使うことはできない?」
「はい。利用そのものが不可能というわけではありませんが、どれほど必要になるかによって条件は変わります。この水は他でも利用されていますので」
「なるほど……」
「実際に使用するとなれば、その量や用途を確認したうえで手続きが必要になる」
ギルドマスターが付け加えた。
「近くにあるからといって、遊園地だけで自由に使えるものではないということだな」
「分かりました」
川が近くにあるからといって、好きなだけ使っていいわけじゃない。
考えてみれば当然だ。
飲み水に料理、掃除。
遊園地を作れば、それだけでもかなりの水を使うはずだ。
将来的に水を使ったアトラクションまで作ろうと思えば、もっと必要になるかもしれない。
「遊園地でどれくらい水を使うのかも調べないとな……」
また一つ、知らなきゃいけないことが増えた。
でも、前みたいに何も分からない状態とは違う。
分からないことが一つ見つかるたびに、次に何を調べればいいのかも見えてくる。
俺たちは川から候補地へ戻り、さらに周囲を確認していった。
道や土地の起伏、水の確保。
どれも大事だけど、俺にはもう一つ絶対に確認しておきたいことがあった。
「この辺って、魔物はどれくらい出るんですか?」
俺が尋ねると、アイラ様の表情が少し真剣なものに変わった。
「現状、この近辺に危険度の高い魔物が住み着いているという報告はない」
「じゃあ、安全なんですか?」
「そこまで簡単な話ではない」
アイラ様は候補地の外へ目を向けた。
「リーベルから近く、巡回の範囲にも入っている。北街道を利用する者もいるため、魔物が確認されれば情報も入りやすい。だが、街の外である以上、魔物が一切現れないと保証することはできない」
「やっぱりそうですよね」
「遠方から小型の魔物が迷い込むこともある。現状、この近辺で生活や仕事をするうえでは大きな問題になっていないが、遊園地となれば話は別だろう」
「子供も来ますからね」
「ああ」
俺は周囲を見回した。
遠くには木々が見えるけど、東の森みたいに候補地のすぐ近くまで森が迫っているわけじゃない。
それでも、魔物が絶対に来ないわけではない。
冒険者なら、魔物に遭遇したときに戦ったり逃げたりすることができる。
この辺りで働いている人たちだって、危険があれば街へ知らせる方法を知っている。
でも、遊園地へ遊びに来る人に同じことを求めるわけにはいかない。
ましてや、子供ならなおさらだ。
「柵とか壁は必要になりそうですね」
「検討するべきだろう。どの程度のものが必要かは、周辺の状況をもう少し詳しく調べたうえで判断することになる」
「警備する人も必要ですよね」
「大勢を集めるのであればな」
「……やること多いなぁ」
思わず本音が漏れると、アイラ様が小さく笑った。
「今さら気づいたのか?」
「いや、分かってはいたんですけど。一個分かるたびに、やることが二個くらい増えてる気がするんですよ」
「大きなことを始めるなら、そのようなものだ」
「そんなもんですか?」
「少なくとも、領地を治めているとそう感じることは多いな」
「……それは大変そうですね」
「君も似たようなことを始めようとしているのではないか?」
「規模が全然違いますよ」
さすがに領地経営と遊園地を一緒にするのは無理がある。
でも、やりたいことが大きくなれば、それだけ考えなきゃいけないことも増えるという意味では同じなのかもしれない。
俺は改めて、ゆっくりと周囲を見回した。
完璧な土地ではない。
北街道から入る道は整備した方がいい。
土地にも多少の起伏がある。
水を使うなら、きちんと調べて許可を得なければならない。
魔物への対策だって必要だ。
それでも、ここへ来たときから頭の中に浮かぶ景色は消えなかった。
入口を作りたい。
その先に大きな道を伸ばして、乗り物を作って、店を並べたい。
子供も大人も一日中遊べて、帰るときには「また来たい」と思ってもらえるような場所にしたい。
そしていつか、遠くからでも見えるくらい大きな観覧車を作りたい。
問題があることは分かった。
だったら、その問題をどうすれば解決できるのかを考えればいい。
「……俺、この土地がいいです」
気づけば、そう口にしていた。
アイラ様とギルドマスターが俺を見る。
「まだ確認しなければならないことはあるぞ」
アイラ様が言った。
「はい」
「道も、水も、安全面も、今のままで遊園地に使えると決まったわけではない」
「それも分かってます」
「それでも、この土地がいいのか?」
「はい」
今度は、はっきりと答えた。
「問題があるなら、どうすれば解決できるのか考えます。せっかく作りたいと思える場所を見つけたのに、今の時点で問題があるからって諦めたくないです」
最初から何もかも揃った土地なんて、きっとそう簡単には見つからない。
それに、ここには問題だけじゃなく、いいところもたくさんある。
リーベルから近い。
北門から歩いて二十分ほどなら、歩いて来ることもできる。
北街道が近いから馬車でも来られるし、広さも十分にある。将来的には、さらに土地を広げられる可能性だってある。
水も近くにある。
何より俺自身が、ここに遊園地ができた景色を見てみたいと思った。
アイラ様はしばらく俺を見ていたが、やがて小さく頷いた。
「分かった」
「じゃあ――」
「ただし、まだ君の土地ではない」
「……はい」
そうだった。
少しだけ期待してしまった。
「候補地を気に入ったのなら、次はこの土地を実際に使うための話をしなければならないな」
「使うための話?」
「購入するのか、それとも借りるのか。それによって条件も変わる。当然、費用についても話す必要がある」
「…………費用」
「まさか忘れていたわけではないだろうな?」
「忘れてはいません」
そこは本当だ。
忘れてはいない。
遊園地を作るには土地が必要で、その土地を手に入れるにはお金が必要だ。
そんなことは最初に考えたときから分かっている。
ただ――。
「そのあたりについては、商業ギルドへ戻ってから話した方がいいだろう」
ギルドマスターが俺たちの話を引き継いだ。
「土地の広さや、実際にどこまで利用するのかによっても金額は変わる。購入と賃貸でも条件は違う。今回のような領主管理地なら、契約として決めておかなければならないことも多いからな」
「……やっぱり、いろいろあるんですね」
「ああ。だが、そのために我々がいる」
ギルドマスターは当たり前のようにそう言った。
「君一人で土地の契約について何もかも知っている必要はない。必要なことはこちらから説明する。そのうえで、君がどうしたいのかを決めればいい」
「……はい」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
俺はもう一度、目の前に広がる草地を見渡した。
これだけ広くて、リーベルからも近い土地が、俺の財布に入っている程度のお金でどうにかなるとは思えない。
いったい、いくらするんだろう。
考えると少し怖い。
それでも、遊園地を作りたいという気持ちは変わらなかった。
少し前までは、どこに作ればいいのかさえ分からなかった。
今は違う。
まだ俺のものではないけれど、ここに遊園地を作りたいと思える場所を見つけた。
だったら次は、この土地を使えるようにする方法を知ればいい。
一つ分からないことが減れば、また次の問題が出てくる。それでも、そのたびに調べて、考えて、少しずつ進んでいけばいい。
何もない草原を眺めながら、俺はそこにいつかできる遊園地をもう一度思い描いた。
そして、その景色を本物にするために次に知らなきゃいけないのは――どうやら、この土地の値段らしい。
お読みいただきありがとうございます!
今回は、ついに遊園地の候補地を見に行く回でした。
何もない草原ですが、ライガにとっては初めて「ここに遊園地を作りたい」と思える場所になりました。
もちろん、土地を見つけただけでは遊園地は作れません。
道や水、安全対策、そして何より土地を手に入れるためのお金……まだまだ考えなければならないことはたくさんあります。
次回は、この土地をどうやって手に入れるのかが問題になりそうです。
続きも楽しんでいただけたら嬉しいです!




