↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/33

13話 領主様に遊園地を説明しよう

領主アイラから、遊園地について聞かせてほしいと言われたライガ。

果たして、遊園地を知らない相手にその魅力を伝えることはできるのか――。


 「君が作ろうとしている――『遊園地』というものについて、聞かせてもらいたい」


 アイラ様からそう言われ、俺は小さく息を吸った。


 いよいよだ。


 この街で遊園地について話したことなら、これまでにも何度かある。街の人たちに遊園地を知っているか聞いて回ったこともあれば、商業ギルドで土地探しを頼むときには、どんな場所を作りたいのか簡単に説明もした。


 けれど、今までとは状況が違う。


 目の前にいるのは、このリーベルとその周辺を治めている領主様だ。それに、商業ギルドが見つけてくれた候補地は領主管理地だという。


 ここで何をどう話すかは、遊園地を作るための土地を使えるかどうかにも関わってくるはずだ。


 そう考えた途端、さっきまで少し落ち着いていた緊張が戻ってくる。


「まあ、立ったまま話すこともない。座ってくれ」


「あ、はい。失礼します」


 アイラ様に勧められ、俺は部屋の中央に置かれていた椅子へ腰を下ろした。


 向かい側にはアイラ様が座り、商業ギルドのギルドマスターも少し離れた椅子へ腰を下ろす。二人の護衛は座ることなく、アイラ様の後ろに立ったままだ。


 別に睨まれているわけじゃない。


 それでも、腰に剣を下げた二人が静かに周囲へ目を配っているのを見ると、向かいに座っている人が本当に領主様なんだということを嫌でも意識してしまう。


「では、改めて聞こう」


 アイラ様は俺が座ったのを確認すると、落ち着いた様子で口を開いた。


「遊園地とは、どのような場所なんだ?」


「遊園地は……」


 答えようとして、俺は言葉に詰まった。


 遊園地とは何か。


 知っている人に聞かれたなら、わざわざ説明する必要もない。ジェットコースターや観覧車があって、いろんな乗り物や食べ物を楽しめる場所だと言えば、大体は伝わる。


 でも、アイラ様は遊園地そのものを知らない。


 当然、ジェットコースターも観覧車も知らないのだから、それを使って説明することもできなかった。


「……どこから説明しよう」


 考えているうちに、思わず声に出てしまった。


 アイラ様がわずかに笑う。


「難しい質問だったか?」


「難しいというか……俺にとっては知ってるのが当たり前だったので、何も知らない人に最初から説明するとなると、意外と難しくて」


「なるほど」


 アイラ様は少し考えるように頷いた。


「ならば、難しく考えなくていい。まずは君が、遊園地という場所で何をしたいのか。それを聞かせてくれ」


「何をしたいか……」


 それなら、答えられる。


 どんな乗り物を作りたいとか、どんな店を置きたいとか、そういう話をする前に、もっと大事なことがある。


 俺が遊園地を作ろうと決めたときから、ずっと変わっていないことだ。


「いろんな人に、楽しんでもらいたいです」


 口から出たのは、自分でも驚くくらい単純な言葉だった。


「子供でも大人でも、そこに来たら一日中楽しめるような場所を作りたいんです」


「一日中?」


「はい」


 アイラ様が興味深そうに眉を上げる。


「それほど長い時間、何をして過ごす?」


「いろいろあります。乗って楽しむものもあるし、見て楽しむものもあります。食事をしたり、買い物をしたり、催しを見たりもできます」


「乗って楽しむ?」


「あ、はい。例えば――」


 やっぱり、まずは乗り物について説明した方がよさそうだ。


 俺はどう説明すれば伝わるかを考えながら、手振りも交えて話し始めた。


「何人かが一緒に乗れる乗り物があって、それが決められた道の上をすごい速さで走るんです」


「馬車のようなものか?」


「似てるところもありますけど、馬は使いません」


「では、何が動かす?」


「そこは……」


 聞かれて、俺は少し考えた。


 ジェットコースターがどう動いているのか、大まかになら分かる。けれど、俺はその仕組みを作れるほど詳しいわけじゃない。


 それに、ここで同じ方法を使う必要があるとも限らない。


「いろんな仕組みを使って動かすんです。でも、俺も詳しい作り方までは知りません。実際に作るなら、魔法を使う方法も考えられるんじゃないかと思ってます」


「魔法で乗り物を動かすのか?」


「できるなら、ですけど。まだどうやって作るかまでは決まってません」


「ほう……」


 アイラ様の目に、さっきよりも強い興味が浮かんだ。


「その乗り物は、どのように楽しむ?」


「速く走ったり、高いところから一気に下りたり、急に曲がったりするんです」


「……それは楽しいのか?」


「楽しいです」


 即答すると、アイラ様が黙った。


 その後ろに立っている若い方の護衛も、ほんの少し眉をひそめた気がする。


 ……まあ、そうなるよな。


 知らない人からすれば、わざわざ高速で走って、高いところから下りる乗り物に自分から乗る理由なんて分からないはずだ。


「怖くはないのか?」


「怖いですよ」


「怖いのか」


「でも、それが楽しいんです」


「……怖い思いをすることが?」


「はい」


「自分から?」


「自分からです」


 アイラ様が黙り込んだ。


 二人の護衛も何とも言えない表情をしているし、ギルドマスターまで興味深そうにこちらを見ている。


 ……あれ?


 説明すればするほど、危ない施設を作ろうとしているように聞こえてないか?


「もちろん、安全に作りますよ」


 慌てて付け足す。


「本当に命が危ないものに乗るって意味じゃありません。ちゃんと安全に作った上で、速さとか高さで怖さを感じるのを楽しむんです」


「安全なのに怖い?」


「はい」


「……なかなか難しいことを言うな」


「俺も今、説明してて思いました」


 アイラ様が小さく笑う。


 俺もつられて笑ったことで、張り詰めていた緊張が少しだけ抜けた。


 やっぱり俺は、遊園地について話している方がいいらしい。


「それが遊園地の主なものなのか?」


「そういう乗り物は人気があります。でも、それだけじゃありません。もっとゆっくり楽しめるものもあります」


「例えば?」


「そうですね……」


 次に思い浮かんだのは、観覧車だった。


「ものすごく大きな輪みたいなものを作って、その外側に人が乗れる箱をいくつも付けるんです」


「輪?」


「はい。それをゆっくり回します」


「……待て」


 アイラ様が片手を上げた。


「その輪は、どれほど大きい?」


「かなり大きいです。建物よりずっと高くなるものもあります」


「建物より高いところまで、人を乗せた箱が上がるのか?」


「はい」


 アイラ様の表情が少し真剣になる。


「落ちないのか?」


「落ちません」


「壊れたら?」


「壊れないように作ります」


「絶対に?」


「…………」


 答えようとして、俺は口を閉じた。


 絶対に壊れない。


 そう言い切るのは違う気がする。


 牧場で【建築】を使ったとき、俺はスキルがあれば何でも簡単に作れるわけじゃないと知った。


 観覧車の見た目は知っている。どう動くものなのかも分かる。


 でも、それをどう支えているのか、どれくらいの強度が必要なのか、俺は知らない。


「……絶対に事故が起きないって言い切るのは、たぶん違うと思います」


 俺は正直に答えた。


「でも、できる限り事故が起きないようにはします。壊れないように頑丈に作ったり、定期的に点検したり、もし何か問題が起きても、それだけですぐ人が危険にならないようにしたり。そういうところまで考えて作らないと駄目だと思ってます」


「なるほど」


 アイラ様の表情が少し変わった。


 さっきまでの純粋な興味だけではなく、領主として俺の話を聞いているように見える。


「それは大切だな」


「はい」


 遊園地は、人を楽しませる場所だ。


 命懸けで遊ぶ場所じゃない。


 そこだけは絶対に忘れちゃいけない。


「他にも、小さい子供でも楽しめる乗り物があります。動物とか馬みたいな形をした乗り物が、音楽に合わせてぐるぐる回ったり」


「馬に乗ればいいのでは?」


「……本物の馬は動きますから」


「その乗り物も動くのだろう?」


「そうなんですけど……」


 思わず言葉に詰まってしまった。


 確かに、馬が身近にいるこの街で、わざわざ馬の形をした乗り物に乗るというのは変に思えるのかもしれない。


「えっと、見た目とか雰囲気も含めて楽しむんです。それに、本物の馬には乗れないような小さい子でも乗れますし、別に馬以外の形にしたっていいですから」


「なるほど。乗ることそのものだけでなく、見た目や雰囲気も楽しむわけか」


「そうです。そんな感じです」


 今度は伝わったらしい。


 アイラ様は何度か頷いた。


「速く走るものもあれば、高い場所へ上がるものもあり、小さな子供が楽しめるものもある。そういったものを、いくつも一ヶ所に作るわけか」


「はい。でも、乗り物だけじゃありません」


 遊園地について話しているうちに、だんだん楽しくなってきた。


「食べ物を売る店もあります。普通の料理だけじゃなくて、その場所ならではの食べ物があってもいいと思います」


「その場所ならでは?」


「見た目が面白かったり、歩きながらでも食べやすかったりするものですね」


 どんなものを売るかは、まだこれから考えればいい。


 この辺りで手に入る食材だって、俺はまだ全部知っているわけじゃないのだから、実際に店を作る頃には、この土地ならではの食べ物を考えるのも面白そうだ。


「それに、お土産を売る店も欲しいです」


「土産?」


「遊園地に来た記念になるものです。家族や友達に買って帰ったり、自分用に買ったりするものですね」


「なるほど。つまり、娯楽だけではなく商売も行うわけだ」


「そうですね」


 言われてみれば、その通りだった。


 俺にとって遊園地は遊ぶ場所という印象が一番強いけれど、店がたくさんあって、そこで働いている人も大勢いる。


「さらに、人を集めるための催しも行うと聞いている」


「あ、はい。イベントとかですね」


「具体的には、どのようなことをする?」


「音楽とか踊りとか……あとは、パレードとか」


「ぱれーど?」


 アイラ様が、聞き慣れない言葉を確かめるように繰り返した。


 しまった。また普通に使ってしまったけど、パレードという言葉も通じないらしい。


「えっと、大勢の人が特別な衣装を着て、音楽に合わせながら園内を進むんです。見に来た人たちは、道の周りからそれを楽しみます」


「祭りの行列に近いのか?」


「そうです! それに近いです」


 分かりやすい例を出してもらえて、思わず声が弾んだ。


「ただ、祭りの日だけじゃなくて、定期的にやったりするんです。季節に合わせて内容を変えたりしても面白いと思います」


「なるほど。それなら想像しやすい」


 アイラ様はそう言うと、少し考え込むように視線を落とした。


 俺はその様子を見ながら、ちゃんと伝わっただろうかと待つ。


 やがて、アイラ様が顔を上げた。


「つまり、君の言う遊園地というものは、一つの遊びをするための場所ではないのだな」


「はい」


「いくつもの遊びや催しを用意し、そこに食事や買い物まで加える。訪れた者は、その中から自分の好きなものを選びながら長い時間を過ごす」


「そうです!」


 思わず身を乗り出した。


「まさにそんな感じです」


「なるほど……」


 アイラ様は納得したように頷いた。


「それなら、君が広い土地を求める理由も理解できる」


「本当ですか?」


「ああ。今の話をすべて一ヶ所に作るつもりなら、確かに街中の空き地では足りないだろう」


 よかった。


 少なくとも、何の理由もなく広大な土地を欲しがっているとは思われなかったらしい。


「それに、最初から全部作るつもりはありません」


「ほう?」


「いきなり大きな遊園地を完成させるのは、たぶん無理ですから」


 遊園地を作ろうと決めた頃よりも、今はそのことがよく分かる。


 土地だけじゃない。建物のこと、材料のこと、安全のこと。何か一つ知るたびに、その先にまた知らないことが見つかる。


「まずは作れるものから作って、それから少しずつ増やしていこうと思ってます」


「だから、将来的に広げられる土地を求めたのか」


「はい」


 そこで、これまで静かに話を聞いていたギルドマスターが口を開いた。


「最初に相談を受けた際にも、ライガ君は将来的に周囲へ広げられる場所を希望していました。今回の候補地を選んだ理由の一つでもあります」


「なるほど」


 アイラ様が頷く。


「街道への近さや、水の確保を条件に入れたのもそのためか?」


「それもあります。人が来やすい方がいいですし、遠くから馬車で来る人がいるなら、馬車を停める場所も必要です。馬を休ませたり、水を飲ませたりできる場所もあった方がいいと思ってます」


「そこまで考えているのか」


「最初から全部考えてたわけじゃないですよ。街を歩いたり、依頼で牧場に行ったりしてるうちに気づいたことも多いです」


 こちらにはこちらの暮らし方がある。


 人がどうやって移動して、何を必要としているのかを知らなければ、遊園地だけ作ったところで人に来てもらえない。


「そして、魔物か」


 アイラ様の言葉に、俺は頷いた。


「はい。それはかなり気になってます」


「候補地を探す条件として、安全性をかなり気にしていたそうだな」


「遊びに来た人が魔物に襲われるような場所にはしたくないので」


「当然だな」


 アイラ様の声が少しだけ低くなった。


「ただ、街に近いからといって、安全を保証できるわけではない。巡回を行っている場所であっても、魔物が一匹も近づかないと断言することはできない」


「……やっぱりそうですよね」


「だが、危険を減らす方法はある」


「どんな方法ですか?」


 気になって、すぐに聞き返した。


「それは実際に土地と周辺を調べなければ何とも言えない。どのような魔物が出るのか。どれほどの頻度で現れるのか。どこから来るのか。近くに巣や森があるのか。そして、現在の巡回路からどれほど離れているのか」


 アイラ様は一つずつ確認するように話していく。


「それらが分かれば、必要な警備についても考えられるだろう」


「なるほど……」


 さすが領主だ。


 俺が漠然と「安全な場所がいい」と考えていたところを、もっと具体的に見ている。


「遊園地自体を柵とか壁で囲う方法もありますよね?」


「規模にもよるが、それも一つの方法だろう。ただし、広い範囲を囲うとなれば、それだけ資材も人手も必要になる」


「……あ」


「当然、金もだ」


「……ですよね」


 来た。


 今の俺にとって、一番どうにもなっていない部分だ。


 アイラ様は責めるような口調ではなかったけれど、そのまま現実的な問題を一つずつ挙げていった。


「聞いている限り、君の計画はかなり大きい。土地を手に入れるだけでは終わらないだろう。建物を造り、道を整え、必要なら水を引く。先ほど話していた乗り物も造らなければならないし、食事や土産を売る店も必要になる」


「はい……」


「そして、実際に客を迎えるのであれば、人も必要だ」


「それも考えてます」


「どれほど必要になる?」


「……まだ分かりません」


 正直に答えた。


「費用は?」


「それも、まだ……」


「完成までに必要な時間は?」


「……分かりません」


 答えるたびに、自分でも少し不安になってくる。


 さっきまで楽しく遊園地の話をしていたのに、現実的な部分を聞かれると、途端に答えられないことが増えてしまう。


「……すみません。分からないことばっかりで」


 そう言うと、アイラ様は少し意外そうな顔をした。


「なぜ謝る?」


「いや、遊園地を作りたいって言ってるのに、いくらかかるかも、何人必要なのかも分かってないので……」


「確かにな」


 うっ。


 そこは否定してくれないんだ。


 俺が思わず黙ると、アイラ様は少し笑ってから続けた。


「だが、何も考えていないわけではないだろう」


「え?」


「街道から近い土地を望み、水の確保を気にし、将来広げられる余地まで求めた。魔物についても、土地を決める前に確認しようとしている。先ほど話していた乗り物についても、安全に造らなければならないと考えていたな」


「あ……はい」


「ならば、今の時点で分からないことがあるのは仕方がない。分からないことを、分かったふりをされる方が困る」


 アイラ様はそう言ってから、少しだけ表情を引き締めた。


「ただし、分からないままで進めることはできない」


「はい」


 それには、すぐに頷いた。


「俺も、そのつもりです」


「ほう?」


「遊園地は絶対に作りたいです。でも、分からないことがあるなら調べます。作り方が分からないなら覚えます。必要な金が足りないなら、稼ぐ方法を考えます」


 どれくらい時間がかかるのかは分からない。


 これから先、もっと難しい問題が出てくるかもしれない。


 それでも、諦めるつもりはなかった。


「俺、遊園地が好きなんです」


 口にしてから、少しだけ照れくさくなった。


 でも、これは一番大事なことだ。


「どんな乗り物があるのかとか、どうやって楽しむ場所なのかは知ってます。でも、それを自分で作るとなると話は別でした」


「そうなのか?」


「はい。実際に作ろうとしてみて、初めて気づいたんです。俺、遊園地のことを知ってるつもりで、知らないことがいっぱいあったんだなって」


 ジェットコースターがどう作られているのか。


 観覧車がどうやって、人を安全に乗せたまま回っているのか。


 一つの遊園地を動かすために、どれだけの人が働いているのか。


 俺は遊園地が好きだし、どんな場所なのかも知っている。


 でも、遊園地を楽しむために知っていることと、実際に作るために必要なことは全然違う。


「知らないことは、これから調べます」


 時間がかかってもいい。


 一つずつ知って、一つずつ形にしていけばいい。


「それでも俺は、ここに遊園地を作りたいです。いろんな人が一日中楽しめて、帰るときにはまた来たいって思ってもらえるような場所を」


 部屋の中が静かになった。


 言ってから、少しだけ恥ずかしくなってくる。


 偉そうなことを言ったけれど、今の俺はまだFランクの冒険者で、土地すら持っていない。


 それでも、アイラ様は笑わなかった。


 少しの間、俺の顔を見たあと、ゆっくりと口を開く。


「面白いな」


「え?」


「遊園地もそうだが、君自身もだ」


「俺ですか?」


「ああ」


 アイラ様は少し楽しそうに笑った。


「これほど大きなことを口にするわりに、できることとできないことは、それなりに分けて考えているらしい」


「そうですかね?」


「少なくとも、私はそう感じた」


 褒められているのか、それとも少し変わったやつだと思われているのか、いまいち分からない。


 でも、悪い意味ではなさそうだ。


「それに、もし君の言う遊園地が本当に実現するなら、リーベルにとっても興味深いものになるかもしれない」


「リーベルに?」


「ああ。君の話を聞く限り、遊園地は近所の者だけを相手にする施設ではないのだろう?」


「はい。できれば、遠くからでも来てもらえる場所にしたいです」


「ならば、それを目的にリーベルを訪れる者が増える可能性がある」


 言われて、俺は考える。


 確かに、遊園地が遠くからでも人を呼べる場所になれば、そこへ向かう途中でリーベルを訪れる人だって増える。


「人が増えれば、宿を使う者も増える。食事をし、物を買う者もいるだろう。商人にとっても、新しい商売の機会になるかもしれない」


 その言葉に、ギルドマスターも頷いた。


「もし本当にそれだけの人を呼べる施設になれば、商業ギルドとしても無関係ではいられないでしょう。宿や飲食店だけではありません。食材や資材を納める商人、新しく店を出そうとする者も出てくるかもしれません」


「なるほど……」


 そこまでは考えていなかった。


 俺は遊園地そのものばかりを見ていたけれど、二人は遊園地ができたあとのリーベルまで見ているらしい。


「だから興味を持ったんですか?」


「それも理由の一つだ」


「一つ?」


「ああ」


 アイラ様は少しだけ笑った。


「単純に、聞いたことのないものだからな。知らないものがあるなら、どんなものなのか知りたいと思うだろう?」


「……分かります」


 その言葉には、すぐに頷けた。


 知らないものがあれば気になる。


 気になれば、もっと知りたくなる。


 俺だって、この街へ来てから何度もそうしてきた。


「ただし、興味があるからといって、領地の土地をすぐ君に使わせるわけにはいかない」


「はい」


 そこは分かっている。


「土地そのものの価値もある。周辺への影響も調べなければならない。大勢の人間が集まる施設ならば、道や水、安全についても考える必要がある。それに、先ほど話したように、君自身の計画もまだ決まっていないことが多い」


「……はい」


 分かってはいるけれど、改めて言われるとちょっと痛い。


「だが、話を聞いただけで却下するほど、つまらない計画だとも思わなかった」


「じゃあ……」


「まずは、候補に挙がっている土地を実際に見た方がいいだろう」


「土地を?」


「ああ」


 思わず目を見開いた。


「商業ギルドが候補に挙げた場所を、自分の目で確かめてみるといい。実際に見れば、今ここで話しているだけでは分からないことも出てくるはずだ」


「見に行っていいんですか?」


「候補地を見るだけなら問題ない」


「行きたいです!」


 考えるより先に答えていた。


 アイラ様が少し目を丸くしたあと、楽しそうに笑う。


「返事が早いな」


「だって、実際に土地を見られるんですよね?」


「ああ」


「だったら行きたいです。できれば、今すぐでも」


「今すぐ?」


 アイラ様が今度こそ驚いたように俺を見る。


 その後ろでは、若い方の護衛も明らかにこちらへ視線を向けていた。


「……あ」


 言ってから気づいた。


 この人、今日は別の用事があって商業ギルドに来ていたんだった。


「すみません。ちょっと楽しみになって……」


「いや、構わない」


 アイラ様は声を上げて笑った。


「君が本当に遊園地を作りたいと思っていることは、よく分かった」


「……それならよかったです」


「だが、さすがに今日は私にも予定がある」


「ですよね」


 知ってた。


 いや、言ってから思い出した。


 アイラ様はまだ少し笑いながら、今度はギルドマスターへ顔を向けた。


「候補地への案内は可能か?」


「もちろんです」


 ギルドマスターはすぐに頷いた。


「候補地までの道や、おおよその範囲についてはこちらでも確認しております。ただ、現地で境界や水場まで詳しく確認するのであれば、土地を調べた担当者も同行させた方がよいでしょう」


「そうしてくれ」


「承知いたしました」


 そこでアイラ様は再び俺を見た。


「私も同行しよう」


「アイラ様も来るんですか?」


「ああ」


「領主様が、わざわざ?」


「私が管理する土地を、これまで存在しなかった施設のために使おうという話だ。実際に土地を見ながら話を聞いた方が、私としても判断しやすい」


「ああ……確かに」


 言われてみれば、その通りだった。


 俺にとっては遊園地を作れる土地を見に行く機会だけれど、アイラ様にとっては、自分が管理している土地を本当に俺へ使わせてもいいのか判断するための視察でもある。


「それに」


 アイラ様はそこで少しだけ笑った。


「興味があると言っただろう?」


「……そっちもあるんですね」


「もちろんだ」


 どうやら、この領主様は本当に遊園地というものが気になっているらしい。


「日程はこちらで調整しましょう」


 ギルドマスターがそう言ってから、俺を見る。


「ライガ君にも、決まり次第こちらから知らせる。それで構わないかな?」


「はい。お願いします」


「では、土地の担当者にも予定を空けるよう伝えておこう」


 まだ、土地が手に入ったわけじゃない。


 遊園地を作る許可が出たわけでもない。


 候補地を実際に見てみれば、思っていたのとは違うところが見つかるかもしれないし、費用や安全のことだって、何一つ解決したわけではなかった。


 それでも、遊園地を作れるかもしれない土地を、自分の目で見に行けることになった。


 しかも今回は、その土地を管理する領主様と、商業ギルドのギルドマスター、それに実際に土地を調べた担当者まで一緒に来てくれる。


 俺一人では分からないことも、その場で聞くことができるはずだ。


 少し前までは、どこに作ればいいのかすら分からなかったことを考えれば、確実に前へ進んでいる。


「……楽しみだな」


 思わず呟くと、アイラ様がこちらを見る。


「何か言ったか?」


「いえ」


 俺は少し笑ってから、素直に答えた。


「土地を見るのが楽しみだなって思っただけです」


「そうか」


 アイラ様も、それを聞いて小さく笑った。


 遊園地を作るためには、まだ知らなきゃいけないことが山ほどある。


 それでも、知らないなら知ればいい。


 一つずつ調べて、一つずつ覚えて、一つずつ前へ進んでいけばいい。


 そして、その次の一歩は――遊園地を作るかもしれない土地を、実際にこの目で見ることだ。


 こうして俺は、アイラ様や商業ギルドの人たちと一緒に、候補地を見に行くことになった。

お読みいただきありがとうございます!

ようやく領主様にも、遊園地がどんな場所なのか少し伝わりました。

とはいえ、土地やお金、安全面など、まだまだ問題はたくさんあります。

次はいよいよ、遊園地を作るための候補地を実際に見に行くことになりそうです。

続きも楽しんでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。