11話 【建築】を試してみよう
遊園地を作るための土地について、商業ギルドへ相談したライガ。
返事を待つ間にも、やれることはある。
少しでも資金を貯めるため、ライガはそのまま冒険者ギルドへ向かうことに。
商業ギルドを出ると、朝に宿を出たときよりも、大通りを行き交う人の数が増えていた。
店先からは客を呼び込む声が聞こえ、その間を荷物を積んだ馬車がゆっくりと進んでいく。空を見上げれば太陽はすでにかなり高いところまで昇っていて、どうやら思っていた以上に商業ギルドで時間を使っていたらしい。
「土地の方は……とりあえず待つしかないか」
条件に合う土地がないか、商業ギルドで調べてもらえることにはなった。
ただ、俺が求めているのは家や店を一軒建てられる程度の土地ではない。遊園地を作り、さらに将来はそこから拡張していけるくらいの広さが欲しい。
街の中では見つからなかった以上、探す場所は街の外になる。
けれど、商業ギルドで聞いた話では、街の外にある未開拓地の多くは領主という人の管理下にあるらしい。規模や場所によっては商業ギルドだけで話を進めることはできず、領主側の許可も必要になるという。
さすがに、今日相談したばかりですぐに候補地が見つかるとは思えない。
「さて……これからどうしよう」
宿へ戻るにはまだ早い。
かといって、土地については商業ギルドから返事が来るまで、今の俺にできることはなさそうだ。
そこで頭に浮かんだのは、やっぱり金のことだった。
「土地が見つかっても、買えなかったら意味ないもんな」
昨日の依頼では、初めてにしてはかなり稼ぐことができた。
それでも遊園地を作るための資金として考えれば、まだまだ足りないはずだ。土地の値段すら分かっていない以上、どれだけ必要になるのかも分からない。
だったら、調査を待っている間に少しでも稼いでおいた方がいい。
「よし。冒険者ギルドに行ってみるか」
そう決めた俺は、人の増えた大通りを冒険者ギルドへ向かって歩き始めた。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドへ入ると、昨日とは少し雰囲気が違っていた。
昼頃だからだろうか。依頼が貼られている掲示板の前にいる冒険者は朝より少なく、受付にもそれほど長い列はできていない。その代わり、奥の方では何人かの冒険者が食事を取りながら話をしていた。
「時間によって結構違うんだな」
そんなことを考えながら、俺は掲示板の前へ向かった。
昨日はここでヒール草の採取依頼を見つけた。
依頼そのものは無事に達成できたものの、途中でホーンウルフと遭遇するという予想外の出来事もあった。
今日はできれば、もう少し落ち着いてできる仕事がいい。
「今からでも終わりそうなのは……」
掲示板に並んでいる依頼を順番に確認していく。
荷物運びや店の手伝い、街中の清掃など、Fランクでも受けられる依頼は思っていたより多い。
昨日と同じような採取依頼もあったが、今から森へ向かうのは少し遅いだろう。
そんな中、一枚の依頼書に目が留まった。
「牧場の柵の修繕……?」
内容を読んでみる。
リーベルの近くにある牧場で、外周を囲っている木製の柵が一部壊れてしまったらしい。その修繕を手伝ってほしいという依頼だった。
必要な道具と資材は依頼主が用意するため、冒険者側で準備する必要はない。
報酬は銅貨八枚。
場所は東門を出て、東の森へ向かう街道の途中。街からそれほど離れていない場所らしい。
「これなら今からでも終わりそうだな」
森の中へ入るわけでもなければ、魔物を討伐する仕事でもない。
昨日が初依頼にしては色々ありすぎたのだ。今日は普通に仕事をして、普通に報酬をもらって帰りたい。
そう思いながらもう一度依頼書を見たところで、そこに書かれている「修繕」という言葉が気になった。
「……そういえば」
俺、【建築】なんてスキルも持ってたよな。
遊園地を作るうえでは、間違いなく重要になりそうなスキルだ。
ただ、持っていることは分かっていても、実際に使ったことはまだ一度もない。
どんなものを作れるのか。
どうやって使うのか。
材料が必要なのか、それとも魔力だけで建物を作れるのか。
名前から想像できることはあっても、実際のところは何も分かっていなかった。
「もしかして、この依頼なら試せるか?」
もちろん、依頼そっちのけでスキルの実験をするつもりはない。
でも【建築】という名前なら、建物を作るだけではなく、修理にも使える可能性はある。
もし使えなかったとしても、そのときは依頼主にやり方を教えてもらって、普通に柵を直せばいい。
「よし。これにしよう」
俺は依頼書を手に取り、受付へ向かった。
◇ ◇ ◇
「こちらの依頼ですね」
「はい」
受付の女性に依頼書と冒険者証を渡す。
内容を確認した彼女は、そのまま手続きを進めてくれた。
「牧場の柵の修繕依頼ですね。必要な資材と道具は依頼主が用意していますので、現地で指示を受けてください」
「分かりました」
「場所は東門を出て街道を進んだ先になります。昨日向かわれた東の森よりも手前ですので、街道を外れなければ迷うことはないと思います」
「それなら大丈夫そうですね」
昨日一度通った道だ。
少なくとも途中までは知っている。
「こちらが依頼完了証明書になります。作業が終わりましたら依頼主に確認していただき、署名をもらってください」
受付の女性から一枚の紙を渡される。
「これを持って帰ってくればいいんですね」
「はい。確認後、報酬の銅貨八枚をお渡しします」
「分かりました」
証明書を受け取った俺は、冒険者証と一緒に革袋へしまった。
二度目の依頼は、牧場の柵の修繕。
昨日みたいに森へ入るわけでもなければ、魔物を相手にする仕事でもない。
「今日は落ち着いて仕事できそうだな」
今度こそ、普通に依頼を終わらせよう。
◇ ◇ ◇
東門を出た俺は、昨日も通った街道を歩いていく。
天気もよく、街道を行き交う人の姿もちらほらと見える。
昨日はこの先にある東の森まで歩いたが、今日の目的地はそこよりもずっと近い。
街の周囲には畑が広がり、農作業をしている人の姿も見える。さらに進んでいくと、街道から少し離れたところに長い木製の柵が見えてきた。
柵の向こうには広い草地があり、見慣れない家畜らしき動物たちが、のんびりと草を食べている。
「あそこかな」
目的地を見つけて近づきながら、俺はふと東の森がある方角へ目を向けた。
昨日は、あの森でホーンウルフに襲われた。
ここは森よりずっと街に近いとはいえ、同じ街の外だ。
「……牧場って、大丈夫なのか?」
柵はあるけれど、見る限りでは普通の木製だ。
家畜が外へ出るのを防ぐことはできても、昨日のホーンウルフみたいな魔物を本気で防げるとは思えない。
少し気になりながら入口へ向かうと、近くにいた男性がこちらに気づいた。
「お前さん、冒険者ギルドから来たのか?」
「はい。柵の修繕依頼を受けてきました」
「おお、助かったよ。こんな時間だから、今日はもう誰も来ないかと思ってたところだ」
「今からでも大丈夫ですか?」
「ああ。壊れたのは一部分だけだからな」
「よかった」
男性に案内してもらおうとしたところで、さっきから気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「この辺って、魔物は大丈夫なんですか?」
「魔物?」
「昨日、東の森でホーンウルフに襲われたんです。ここも街の外だから、牧場まで来たりしないのかなって」
「ホーンウルフに? そりゃ災難だったな」
「まあ、なんとか無事でしたけど」
「ならよかった。魔物については、まったく来ないとは言えんな」
「やっぱり来ることはあるんですね」
「ああ。だが、ここは街にも近いし、街道沿いは衛兵や冒険者も見回ってる。森の近くに比べりゃ、ずっと安全だよ」
「なるほど」
男性は牧場の向こうに広がる畑の方を指した。
「この辺りにはうちだけじゃなく、畑や牧場がいくつもあるからな。魔物が出たって話があれば、すぐに周りにも伝わる。危なそうなら家畜を外には出さんし、必要ならギルドにも討伐を頼む」
「そういう仕組みになってるんですね」
「こっちだって、何も考えずに街の外で家畜を飼ってるわけじゃないさ」
「そりゃそうですよね」
昨日ホーンウルフに襲われたせいで、街の外はどこも危険なんじゃないかと思いかけていた。
でも、考えてみれば昨日だって、街を出てすぐに魔物がいたわけじゃない。
街の近くには畑があったし、街道には商人や旅人の姿もあった。
魔物がいるからこそ、人が生活している場所では安全を保つための仕組みも作られているらしい。
それを知って、俺は今朝の商業ギルドでの話を思い出した。
もし遊園地を街の外に作るなら、こういうことも考えなければならない。
ただ魔物が少ない場所を探すだけじゃなく、何かあったときに対応できる場所かどうかも大切になりそうだ。
街から遠すぎず、街道から行きやすい場所という条件は、思っていた以上に重要なのかもしれない。
「どうした?」
「あ、すみません。ちょっと考え事してました」
「そうか。壊れた場所はこっちだ」
男性の後について、牧場の外周を歩いていく。
やがて、明らかに他とは違う場所が見えてきた。
「ああ……結構壊れてますね」
数本の柱が大きく傾き、その間に渡されていた板が地面へ落ちている。一部は完全に倒れていて、柵としての役割を果たしていなかった。
「昨日の夜に壊れたみたいでな。今朝になって気づいたんだ」
「家畜は逃げなかったんですか?」
「今のところはな。だが、このまま放っておくわけにもいかんだろ?」
「確かに」
これだけ大きく開いていれば、いつ家畜が外へ出てしまってもおかしくない。
「使えそうな木材はそこに置いてある。足りない分も用意してあるから、壊れたところを直してくれればいい」
「分かりました」
男性が指した先には、何本もの木材と修繕に使うらしい道具がまとめられていた。
すぐに作業を始める前に、俺は壊れていない部分の柵を観察する。
地面に一定の間隔で柱を立て、その柱同士を横向きの板でつないでいる。少なくとも見た限りでは、それほど複雑な構造ではない。
「これなら……」
そこで俺は、試してみようと思っていたスキルのことを思い出した。
まずは何ができるのか確認した方がいい。
俺は自分の持っている【建築】へ意識を向け、【鑑定】を使った。
すると、頭の中に情報が浮かんでくる。
【建築】
建造物の建築や修繕を補助するスキル。必要となる資材と魔力を使用し、使用者が思い描いた形へ組み上げることができる。
「……やっぱり修繕にも使えるんだ」
これはありがたい。
ただ、説明を見る限り、何もないところから好きなものを生み出せるわけではないらしい。
必要になるのは資材と魔力。
それに、使用者が思い描いた形へ組み上げる、とある。
つまり、俺自身が完成した状態をちゃんと想像する必要があるということだろう。
「とりあえず、やってみるか」
俺は壊れていない部分の柵を改めて観察した。
柱がどれくらいの間隔で立っているのか。横板がどの高さに取り付けられているのか。壊れた場所と、その左右に残っている柵を見比べながら、元の形を頭の中で組み立てていく。
初めて使うスキルなのだから、適当に想像して失敗するのは避けたい。
隣の柵と同じ高さで柱が並び、その間を横板がつないでいる。
できるだけ具体的に修繕後の姿を思い描いてから、俺は用意されていた木材へ意識を向けた。
「【建築】」
スキルを発動した瞬間、身体の中から何かが抜けていく感覚がした。
「おっ……」
魔法を使ったときと似ている。
おそらく、これが【建築】に使われている魔力なんだろう。
次の瞬間、地面に置かれていた木材が動き始めた。
「え?」
一本の柱がゆっくりと持ち上がり、壊れた柵があった場所へ移動していく。
そのまま地面へ真っ直ぐに据えられると、今度は別の木材が動き、残っている柵と同じ高さへ横板が組み込まれていった。
俺は思わず、その光景に見入ってしまう。
用意されていた木材が次々と動き、俺が思い描いた形へ組み上がっていく。
やがて最後の横板が収まり、すべての動きが止まった。
さっきまで大きく開いていた場所には、周囲とほとんど変わらない木製の柵が出来上がっている。
「……すげぇ」
「なんだ今のは!?」
「うわっ!」
後ろから飛んできた大声に、俺は思わず肩を跳ねさせた。
振り返ると、牧場の男性が目を見開き、出来上がった柵を凝視している。
「木が勝手に動いたぞ!? あっという間に柵が直ったじゃないか!」
「あー……」
そりゃ驚くよな。
俺だって、自分で発動したスキルじゃなかったら驚いている。
「俺のスキルです。【建築】っていう」
「建築?」
「はい。建物を作ったり、こういうものを修理したりできるみたいです」
「できるみたいって……自分のスキルなんだろ?」
「使ったのは今が初めてなので」
「初めて!?」
男性は俺と柵を交互に見た。
「初めて使って、これだけ綺麗に直したのか?」
「たぶん、元の柵が残ってたからだと思います。隣と同じ形を想像したので」
「想像しただけで、ああなるのか……?」
「資材と魔力も必要みたいですけどね」
答えながら、俺も完成した柵へ近づいてみる。
柱を押してみると、少し力を込めてもぐらつかない。横板もしっかり固定されていて、隣に残っている柵と比べても変なところは見当たらなかった。
男性も隣へやってきて、柱を揺らしたり、横板を押したりして状態を確かめていく。
「……しっかりしてるな」
「大丈夫そうですか?」
「大丈夫どころか、前より綺麗になってるじゃないか」
「それならよかったです」
依頼なのだから、早く直せても出来が悪ければ意味がない。
依頼主本人に問題ないと言ってもらえて、ようやく安心できた。
それにしても――。
俺は改めて、修繕した柵を眺める。
これが【建築】か。
想像していた以上に便利なスキルだった。
ただ、何でも簡単に作れると考えるのは早そうだ。
今回うまくいったのは、すぐ隣に完成した柵が残っていたからじゃないだろうか。
柱をどこに立てるのか。横板をどの高さに取り付けるのか。実物を見ながら完成した状態を思い描くことができた。
それなら、何も見本がない状態ではどうなる?
家を作るとしても、俺は家の外見なら知っている。でも、どんな柱で屋根を支えているのか、壁の中がどうなっているのかなんて詳しく知らない。
ましてや、遊園地に作りたいアトラクションとなれば、もっと複雑になる。
「ジェットコースターとか……さすがに簡単にはいかないよな」
「じぇっと……何だ?」
「あっ」
しまった。また声に出していた。
「いや、なんでもないです」
「そうか?」
「はい」
俺は誤魔化しながら、もう一度柵を見る。
ジェットコースターには何度も乗ったことがある。
レールの形も知っているし、その上を車両が走ることも知っている。
仕組みが気になって調べたことはある。
でも、それと実際に自分で作れるかどうかはまったく別の話だ
人を乗せる以上、見た目だけ同じものを作れればいいわけでもない。
安全に動かなければ意味がないのだ。
【建築】は便利だけど、俺が知らないものまで勝手に正しく作ってくれる力ではなさそうだ。
逆に言えば、俺自身が作りたいものをきちんと理解できれば、このスキルは遊園地を作るときに大きな力になってくれるかもしれない。
「それにしても、本当に便利なスキルだな……」
「俺も今、そう思ってたところです」
男性の言葉に、俺は笑って答えた。
「なあ、兄ちゃん。もし時間があるなら、他のところも見てもらえないか?」
「他のところ?」
「ああ。壊れちゃいないんだが、古くなってる柵が何ヶ所かあってな。板が外れかけてたり、柱が傾き始めてたりするんだ」
「なるほど」
「もちろん、追加で頼むんだから、その分はちゃんと払う」
「あ、そういうことなら大丈夫ですよ」
「助かる」
こうして俺は、男性と一緒に牧場の外周を見て回ることになった。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして、俺は少し傾いていた柱を前に【建築】を発動した。
最初のときほど驚くこともなく、用意された木材が動いて傷んだ部分と入れ替わり、外れかけていた横板もしっかりと固定されていく。
「これで最後かな」
「ああ。十分だ」
最初に壊れていた場所だけでなく、男性に頼まれた何ヶ所かの柵も修繕した。
もちろん、勝手に全部作り替えたわけではない。
一緒に状態を確認しながら、今のうちに直した方がいい場所だけを選んで作業していった。
何度か【建築】を使ったことで、最初より発動するときの感覚も掴めてきた気がする。
小さな修繕なら、それほど大きく疲れることはない。
ただ、一度に使う材料や直す範囲が増えるほど、身体から抜けていく魔力も増えているように感じた。
少なくとも、無制限に何でも作れるわけではなさそうだ。
「よし。これなら文句なしだ」
男性が満足そうに頷いた。
「本当に助かったよ。壊れたところだけ直してもらうつもりだったんだが、気になってたところまで綺麗になった」
「俺も【建築】を何度か使えたので、ちょうどよかったです」
「……依頼で自分のスキルを初めて試す奴も珍しいと思うぞ」
「あはは……」
それは自分でもそう思う。
「それにしても、本当に便利なスキルだな。普通ならもっと時間がかかる仕事だぞ」
「やっぱりそうですよね」
「そりゃそうだ。木材を運んで、古いのを外して、新しい柱を立てて、それから板を取り付けて……全部一つずつやるんだからな」
言われてみれば当然だ。
俺は【建築】を使ったから簡単に終わったけれど、本来なら全部人の手でやらなければならない。
スキルがなかったら、俺一人では追加分まで終わらせられなかったかもしれない。
「そうだ。ギルドから何か預かってるだろ?」
「あ、はい」
俺は革袋から依頼完了証明書を取り出して、男性へ渡した。
男性は紙を受け取ると、内容を確認してから何かを書き込み始める。
「……何を書いてるんですか?」
「追加で直してもらった分だよ」
「追加分?」
「ああ。最初の依頼は壊れた場所の修繕だけだっただろ? 他の場所まで頼んだのは俺だからな。追加で作業してもらった分については、こっちからギルドに払うよう書いておく」
「別にいいですよ。ついででしたし」
俺としては【建築】を何度か試すことができたし、それだけでも十分だった。
けれど、男性は首を横に振る。
「そういうわけにいくか。追加で仕事を頼んだのは俺だ。やってもらった分はちゃんと払わないとな」
「……分かりました。ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだよ」
男性はそう言って笑うと、証明書に署名をして俺へ返してくれた。
「これでいいはずだ」
「ありがとうございます」
「また柵が壊れたときは頼みたいくらいだよ」
「そのときは、依頼が残ってたら受けますよ」
「ははっ、頼もしいな」
俺は証明書を革袋へ戻し、男性に頭を下げて牧場をあとにした。
◇ ◇ ◇
リーベルへ戻る頃には、午後もだいぶ過ぎていた。
東門で簡単な確認を受けて街へ戻り、そのまま冒険者ギルドへ向かう。
受付で依頼完了証明書を提出すると、職員は内容を確認している途中で少しだけ目を止めた。
「追加の修繕もされたのですね」
「はい。依頼主から頼まれて、壊れかけていたところも何ヶ所か直しました」
「確認いたしました。追加作業についても記載されていますので、そちらの分も報酬に加算されます」
基本報酬は銅貨八枚。
そこに追加修繕分として銅貨四枚が加わり、今回受け取る報酬は合計で銀貨一枚と銅貨二枚になった。
「ありがとうございます」
受け取った硬貨を革袋へしまい、冒険者証を返してもらってからギルドを出る。
朝から商業ギルドへ行き、そのまま昼からは冒険者として依頼を受けた。
今日はずいぶん動き回った気がする。
それでも、得られたものは金だけじゃなかった。
「【建築】か……」
宿へ向かいながら、俺は自分の手を眺めた。
今日、この力で直したのは牧場の柵だけだ。
単純な作りで、しかも隣には見本になる柵が残っていたから、初めてでも上手くいった。
でも、いつかは違う。
遊園地の入口を作って、店を作って、その先にはアトラクションだって作りたい。
今日使った【建築】が、そこまでできるのかはまだ分からない。
それに、たとえスキルにそれだけの力があったとしても、俺自身に知識がなければ意味がない。
「ジェットコースターって、どうやって作るんだろ……」
乗ったことなら何度もある。
どんな動きをするのかも知っている。
でも、作り方なんて考えたこともなかった。
観覧車だって同じだ。
あんなに大きなものをどうやって支えているのか。どうやって回しているのか。人を乗せても安全な強度にするには何が必要なのか。
日本にいた頃の俺は、そんなことを知らなくても遊園地を楽しめた。
チケットを買って、乗りたいものに乗って、楽しかったと言って帰ればよかったからだ。
でも今度は、俺が作る側になる。
「まずは、ちゃんと知るところからだな」
知らないなら調べればいいし、分からないなら試してみればいい。
今日だって、実際に使ってみたからこそ【建築】がどんな力なのかを少し知ることができた。
それに、もう一つ分かったことがある。
街の外だからといって、どこも同じように危険なわけではない。
人が暮らし、畑を作り、家畜を育てている場所では、衛兵や冒険者が見回り、危険な魔物が現れれば対処する仕組みがある。
遊園地を街の外に作るなら、そういう場所とのつながりも大切になるだろう。
商業ギルドに伝えた条件の意味が、朝より少しだけ具体的になった気がする。
土地については商業ギルドが調べてくれている。
その返事を待っている間にも、できることはまだたくさんありそうだ。
俺はもう一度、自分の手を見る。
今日この手で直したのは、牧場の柵だった。
いつかは、この力を使って遊園地を作る。
「……楽しみになってきた」
思わず口元が緩む。
乗って楽しむだけだった俺が、今度は作る側になる。
そんなこと、日本にいた頃には考えたこともなかった。
俺はいつか自分の手で作る遊園地の姿を思い浮かべながら、午後のリーベルを銀の小鹿亭へ向かって歩いていった。
お読みいただきありがとうございます!
今回は、ライガが初めて【建築】を実際に使ってみました。
材料と魔力が必要で、作りたい形をきちんと思い描く必要もある。何でも一瞬で作れてしまうわけではありませんが、遊園地作りではかなり頼りになりそうなスキルです。
土地探しも進み始め、資金も少しずつ増え、さらに作るための力も確認できました。
まだ何も建ってはいませんが、遊園地完成に向けて一歩ずつ進んでいきます。
次回もよろしくお願いします!




