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メインクエスト9

 戦いが終わったからと言って、一件落着というわけにはいかない。


 これだけ大騒ぎになれば兵士や使用人、領地の人間が集まってくる。男爵の死体はすぐに発見されるだろうし、貴族の殺人ともなれば、騒ぎはこの領地のみに収まらず、王城にも届くだろう。


 そうなれば、この事件を調査しに、王都の役人がやってくることになる。そして誰が男爵を殺したのかを調べていくうちに、同時に暴かれることになるだろう。男爵の罪が。その犯罪に誰が加担していたのか、白日の下に曝されることになる。


 (この屋敷を探せば裏帳簿的な物や悪魔召喚の痕跡だって見つかるだろうしね)


 詳しい調査は役人どもに任せてしまえばいい。この領地は、しばらく騒がしくなるだろう。

 そんな中、ブサメンは明日にでも領地を出ることにした。犯罪者だったとは言え、貴族を殺したのだ。


 ブサメンの身分が孤児であることを考えると、役人に捕まった場合、どういう結果になるのかは、あまり考えたくない。


 この世界では、孤児の命より、犯罪者であろうと貴族のプライドと命が優先されるのだ。孤児が貴族を殺した、身分が下の者が、上の者に反逆したなど、他の王侯貴族が赦すとは思えなかった。ここは、そういう世界だ。


 あるいは素直に自分が殺したと言って自首をすると、最悪の場合、孤児院にいる全員が逮捕される可能性さえある。連座制というわけではないが、貴族殺しの孤児を育てた施設として、責任を負わされるのだ。


 そんな理不尽な話があるかと思うかもしれないが、ある。訳の分からない難癖をつけて平民を殺す貴族なんて珍しくない。


 幸い、この国の調査機関はそんなに優秀じゃない。というか情報網があまり発達していないこの世界では、領地を出て行った人間のことなど、追えるはずもない。ネフェルちゃんがブサメンのことを黙っていてくれれば、調査に来た役人は、ブサメンがいたことさえ知ることはできない。


 ブサメンは客室に隠れていたネフェルちゃんを迎えに行き、孤児院に帰った。

 青い顔をしているネフェルちゃんを見たシスターリリーは、当然どういうことか説明を求めてきた。


 ネフェルちゃんと一緒に、あれやこれやと小一時間ばかり事情を説明すると、どうやら納得してくれたらしく、幸いにもブサメンのやったことも黙っていてもらえることになった。


 説明が終わる頃には朝日が昇り始めており、疲労のせいか、気だるさと吐き気を感じる身体を引きずるようにして自分の工房に戻り、どっかりと椅子に座りこんだ。それから深く、深く、ため息を吐いて、天井を見上げる。


 ………………疲れた。すごく。


 こんなにも疲れているのに、目を閉じると昨夜起こったことが嫌でも脳裏に蘇る。

 自分が何をしたのか。誰を殺したのか。思い出してしまうのだ。一度は恩人と慕った人間の頭を吹き飛ばす感触を。


 「―――っ」


 急激に胃から喉にこみあげてくるものを感じて、トイレに駆け込み、それをぶちまける。


 「…………」


 吐き終えたブサメンは、無言でトイレの壁にもたれかかり、ぼんやりとする。


 (……)


 クロロは、何も言わなかった。大丈夫か、とも訊かなかった。

 その日は、あまり眠れなかった。



 ◇◇◇



 人間はたくましい生き物だ。


 たとえ人を殺しても、自分が生きるため仕方のないことだと思えば、割とあっさりとその事実を受け入れることができる。次の日に目を覚ました時には、ブサメンは普段通りのテンションに戻っていた。


 ……ああ、いつも通りだとも。


 この日、ブサメンは孤児院内の自分の工房にあった金目の物を回収し、男爵領を出ることにした。できれば実験器具も持って行きたかったが、さすがにかさばる。ここに置いて行くことにしよう。


 (で、肝心の行き先は?)


 シェヘラザード王国の王都、イシュタリカに行こうと思っている。ブサメンはそこで冒険者になろうと思うんだ。


 そこでお金を稼いで、王都で自分の工房を持つ。


 (前から冒険者になりたがってたもんね)


 うむ。それが自分の夢に近づくための一歩だからな。


 魔法と宝具の開発……特に空飛ぶ箒と空に浮かぶ城を造るため、その素材を集めるために冒険者になるのだ。


 貴族なら金と権力に物を言わせて、宝具作りに必要な素材をある程度は集めることができる。だがそれは市場に出回っているものなら、という条件付きだ。


 そもそも秘境や迷宮の奥にしかない、市場に出ることのない希少な素材は、自分で取りに行くしかない。金で買えないのだから、当然だ。だからこその冒険者になるという選択肢。


 そして旅立ちの時。ブサメンはそれまでに、工房の片づけとかで廊下を行ったり来たりして、あからさまに、自分、もうすぐここを出て行きます、みたいな雰囲気を出してみた。


 そうすれば、皆ちょっとは気にかけてくれるかなーと思って。


 (姑息ここに極まれり)


 今のところ、誰も話しかけてくれないけど……いや、まだだ。きっと門の所で皆待っていて、盛大に送り出してくれるに違いない。


 (あんまり言いたくないけど、期待しない方がいいんじゃない?)


 いや、でも、これでも孤児院の維持にそれなりに貢献していた身。「周りの皆が嫌っているから浮かないように仕方なく嫌いなふりをしていたけど、実は私あなたのことが……っ」、みたいなパターンがあるかもしれない。


 (誰も見送りに来てないに金貨十枚)


 お前とブサメンはお財布共通なんだから賭けなんて成立しないだろ。

 ワクワクしながら孤児院の前まで来たブサメン。するとそこには……。


 ――ふふ、賭けはブサメンの勝ちだな。


 シスターリリーとネフェルちゃんがいた。


 (嘘ぉ)


 愕然とするクロロ。現実を見たまへ、クロロ君。君は負けたんだ。


 「シンクゥ。行くのですね?」


 「ああ。もう、ここにはいられないからな」


 「わかりました。約束通り、あなたがしたことは、黙っておきます」


 「頼む」


 シスターリリーは、男爵のしていたことを伝えると割とあっさりと信じてくれた。ネフェルちゃんの証言があったのも大きいだろが、それでもすんなりと受け入れてくれた。


 「シンクゥ……あの」


 と、ブサメンに話しかけにくそうな雰囲気を出しているのは、ネフェルちゃんだ。


 「その、ありがとう……助けてくれて」


 「………」


 おお……。


 「何よ、その顔は」


 「まさか貴様に礼を言われる日が来るとはな。気色悪い」


 ちなみに今のは割と素の感想だ。ブサメンびっくり。


 「あ、あんたねぇ……どうしてそう……い、いや、今日だけは怒らないであげる」


 そりゃどうも。


 「……それと、ごめんなさい、今までも悪口言ってたこと。それに、今回のことも」


 「謝罪なんぞいらん」


 「でも、そのせいでここを出て行かないといけなくなったんだし……」


 「今回の件があろうがなかろうが、いずれここを出て行くと決めていた。貴様が気にすることではないし、貴様ごときが俺の行動を左右できるなどと思うな」


 「……あんた、その言動直した方がいいわよ。これからは一人で生きていくんでしょ? どこに行くにしろ、その町の人間に馴染めるように努力しなさい」


 それはまぁ、その通りなんだけど、十代前半の女の子が言う言葉とはとても思えないほどに含蓄があるな。もしかして人生二週目ですか?


 「はぁ、まぁいいわ。行ってらっしゃい。今回の件じゃあんたに感謝してるけど、できればもう関わりたくないから、遠いこの町からあんたの無事を祈っていてあげるわ」


 「貴様の祈りなんぞいらんわ」


 「……まったく、その憎まれ口も、これで最後だと思うと少しは寂しく……ならないわね。ちっとも」


 そう言うネフェルちゃんの表情は、どこか楽しそうだった。


 「じゃあね」


 「ああ」


 フラグこそ立たなかったものの、なんかいい感じの別れじゃないか。この調子なら、王都に行けば、もっと仲良くなれる女の子がいるかもしれないな。期待が高まるぜ!


 では、いざ行かん。砂漠の国の中心地。王都イシュタリカ!



 ◇◇◇



 というわけで、ブサメンは王都行きの馬車に揺られていた。


 王都には冒険者たちの組織、冒険者ギルドがある。そこで登録すれば晴れて冒険者というわけだ。馬が客を乗せた荷車を牽きながら砂の中を走る。いや、泳ぐと言った方が正しいか。


 シェヘラザード王国に広がる広大な砂漠、サラディン大砂漠の砂は、さらさらとしていて柔らかく、その場に立ったままだと水に飲まれるように砂の中に沈んでしまうのだ。


 我らがシェヘラザードは、砂の海に囲まれた大陸の島国とも言えるなんとも変わった国なのである。

 そんなサラディン大砂漠を渡る手段は主に二つ。砂上を走る船か、もしくは馬に乗ること。今のブサメンは後者だ。


 この馬、もちろんただの馬じゃない。蹄の代わりに足に水かきがついている特殊な馬だ。もともとはヒッポカンポスという海を泳ぐこの世界特有の馬で、それを魔法によって品種改良し、砂漠の上を走るのに最適な馬、トライホーンを生み出したのだ。


 そんなトライホーンが引っ張る馬車に揺られ始めて、既に二日が過ぎていた。


 ぼんやりと外の風景を見る。どこを見ても砂、砂、砂。時折朽ち果てた神殿や、巨大生物の骨と言った面白そうなものが転がっているおかげで、かろうじて正気を保っていられるが、それがなかったら暇すぎて気が変になっていたかもしれない。


 王都までの乗合馬車には、ブサメン以外にも客が乗っている。しかし他のお客さんはブサメンの顔が怖いのか、ブサメンから距離をとるように座っている。おかげでブサメンの周りだけぽっかりと穴が開いたように人がいない。足が伸ばせていいね。


 (……空しくならない?)


 なる。


 (ああもう。じゃあ、ほら、無害アピールして。今からこの調子じゃ、この先が思いやられるよ? 王都に着いたら可愛い女の子とお近づきなりたいんだろう? 今のうちに練習しとかないと)


そ、そうだな。


意を決して、乗客の若い女性に話しかけようとした、その時。


 ゴゴゴゴゴ!


 突然、地面が大きく揺れた。


 (わ、なんだなんだ、地震か!?)


 地震だと? ……ガイアめ。お前までブサメンの婚活を邪魔するのか?


 (余裕だね、君。他の人は結構パニックになっているのに)


 まぁ、これでも地震大国と言われる日本出身ですからね。

 けれど、どうやらこっちの世界では相当珍しいようで、乗客もトライホーンも慌てふためている。


 「ヒヒーン!」


 トライホーンが嘶き、前足を振り上げる。御者の男が必死に宥めようとするが、地震に驚いているせいか、興奮して制御から離れてしまっているようだ。バランスを崩しそうになっていた女性客を抱きとめる。


 「大丈夫か」


 「え、あ、はい」


 そう言いつつ、少し嫌そうな顔をしてそそくさと離れる女性。


 なぁに、無事ならいいさ。


 ブサメンはハードボイルドな男。ちょっと冷たくされたからって泣いたりしないのだ。

 なんだかちょっと悲しい気持ちになりながら、自分の定位置に戻ろうとするが、しかし地震が収まる様子はない。


 そのせいでトライホーンが、まるでロデオのように暴れ出してしまった。


 「きゃあ!」


 「うわぁ!」


 その勢いで荷台の乗客や荷物が外に放り出されてしまう。落ちたところで、下は体が沈むほどの柔らかい砂だから衝撃自体はどうということはないだろうが、普通に溺れ死ぬ可能性がある。


 というわけで、魔法発動!


 「星の呪縛よ、ひと時の休息を――いずれに天に至る浮遊(ハイグレンダー)


 一瞬物体を浮かせる魔法を使う。浮かせられるのは数十秒が限界だが、十分だろう。これで乗客と荷物を一瞬だけ浮遊させる。


 クロロ。


 (はいはい)


 「砂は石に、石は鉄に――固まれ(クロークス)」


 その隙にクロロに別魔法を詠唱してもらい、流砂の地面を硬質化させて、その上に着地させてやる。


 ほっとしている乗客たちがお礼を言ってくれる中、遠くから流砂を掻き分けて何かがこちらに近づいてくる。すわ魔獣の襲撃か、とも思ったが、どうやらそういうわけではないようだ。


 トライホーンに乗った兵士が数人駆けつけてきたのだ。いつの間にか王都の近くまで来ていたらしく、地震のせいで王都周辺に何か異常がないかと見回りに来たらしい。


 兵士たちは散乱した荷物や地面に座り込んでいる乗客たちを見て――ブサメンと目があった途端、表情を険しくさせた。


 「!? な、なんだこいつは……っ、二足歩行の家畜が人間を襲っている!?」


 どこぞのB級ホラー映画の怪物かな? っていうか、その家畜ってブサメンのこと? そんなに家畜顔してる?


 「新種の魔獣か!?」


 「この惨状はお前が原因か! 兵士たちよ、剣を抜け! 戦闘準備だ!」


 (はは、君、顔のせいで新種の魔獣と間違われてるよ)


 何が面白いんだテメェ。笑ってんじゃねぇぞ寄生虫がよぉ。


 (寄生虫呼ばわりはやめて!)


 魔獣顔と寄生虫でキモキモコンビだ。


 (い、嫌すぎる)


 とかなんとかやってる間にも、ブサメンは兵士たちに取り囲まれてしまった。

 いくらブサメンの顔がブサメンでもこれは酷いんじゃないか?


(タイミングが最悪だったんじゃないかな。荷物がバラバラなのは君が漁ったせいで、乗客が外にいるのは君が引きずり出したからだと思われてるんだよ)


 ほげぇ。


 ブサメンは両手を縛られ、兵士たちに拘束されてしまった。まさかこの場で反抗するわけにもいかず、大人しく従うしかなかったが……酷い冤罪だ。


 「ち、違います! その人は私たちを助けてくれたんです!」


 急展開についていけず、ポカンとしていた乗客の一人が慌ててそう言ってくれたことで、ようやく兵士たちが動きを止めた。


 「な、なに? そうか……いや、しかし」


 いやしかし、じゃねぇよ。さっさと放せ。


 乗客のおかげで、ブサメンは解放されたが、兵士はかなり気まずそうな顔をしていた。


 「……う、うむ。まぁ、なんだ、これからも辛いことはあるだろうが、頑張るんだぞ」


 やめろ、気安く肩を叩くな。励ますな。


 「ではこれにて失礼!」


 剣を納めて回れ右をした兵士たちは、そう言ってすたこらと逃げていくのだった。



 ◇◇◇



 そんな幸先の悪いスタートを切ったブサメンだが、この程度でくじけるわけにはいかない。まずは、宿の確保だ。


 (王都に来て初めての宿かぁ。どんなところに泊まりたい? ファンタジー大好きな君のことだから、RPGの主人公が最初の町で泊まるような安宿がいいとか? それはそれでロマンだよね)


 いや、アバンギャルドなブサメンにふさわしい高級宿がいいです。


 (あ、そこはロマン思考じゃないんだ)


 というわけで、高級宿を探して、王都を散策してみることにした。


 (お高い宿なら、だいたい大通りに面したところにあるんじゃないかな)


 そんなクロロの助言に従って、人通りの多いところを歩いてみることにした。

 ぶらぶらと散策していると、広場のようなところに出た。住民たちの憩いの場になっているのだろうか。


 砂漠の国では貴重な水をじゃぶじゃぶと使う噴水がデン、と置かれていて、その周りにたくさんの人が集まっている。はしゃぎまわる子供たちに、井戸端会議中のおばさまたち。


 そして――あれは、新聞売りの子供か? そんな人が集まる場所なら、商売をするにはうってつけだと思ったのか、大量の新聞を抱えた少年が、道行く人々に新聞を売っていた。


 「サラディン大砂漠で古代人の石板を発見! 国営博物館にて近日公開予定! イフリート男爵領で事件発生! 犯人は邪神教団だった!? 今日もビッグニュースばかり! イシュタリカタイムズだよー!」


 新聞の見出しを叫びながら新聞の売り子をする少年。

 気になるワードを聞いたブサメンは、試しに一部買ってみることにした。


 目当てはもちろん、イフリート男爵領の事件、というやつだ。

 金を払い、新聞を受け取ると、噴水の淵に腰を下ろして、ペラペラとめくってみる。


 (どうやら、男爵を殺した犯人は邪神教団ってことになってるみたいだね。君のことは……うん、大丈夫。何も言及してないよ)


 だな。


 (……さ、宿探しを再開しようか。早くしないと、夜になっちゃうよ?)


 ああ。


 よっこいしょと立ち上がり、ブサメンは再び歩き出した。


 お、よさげな宿発見。


 この国じゃ珍しいレンガ造りの建物で、宿というより貴族の別荘、と言った感じの宿だ。

 出入りするお客も、身なりのいい人たちばかり。


 よし、ここにしよう。


(えぇ、本気? 場違い感半端ないんだけど)


 それでも行くのがブサメンの流儀。


 (マジか。オリハルコンメンタルだね……あ、でも待って、そもそもお金大丈夫?)


 む。確かに男爵領にいた頃の稼ぎで小金持ちくらいには、ブサメンはお金がある。しかし支援者である男爵を殺したせいで孤児院が貧乏になっちゃ困ると思って、ある程度のお金をシスターリリーに渡してきたのだ。工房を建てる資金も必要だし……。


 (無駄遣いは控えた方がいいんじゃない?)


 ぬぅん。いや、待て。金がなければ稼げばいいんだ。


 (稼ぐって……仕事をするってことかい? 冒険者ギルドで登録して、仕事をして、お金を受け取って……だいぶ時間かかっちゃうよ? 少なくともお金が手に入るのは明日以降になるだろうし)


 誰も仕事をやるとは言ってない。ブサメンは辺りをきょろきょろと見渡すと、薄暗い路地裏が視界に入った。


 (……ちょっと、何を考えているんだい?)


 都会だろうがなんだろうが、治安が悪いところはとことん悪い。ああいう薄暗い路地裏に行けば、ガラの悪い輩の一人や二人くらいすぐ見つかるだろう。


 (いやいや、だから何だって言うんだい!?)


 そういう輩は、ブサメンみたいなのが歩いてるとすぐに絡んでくる。で、そいつらを叩きのめして金を巻き上げるんだ。


 なぜかブサメンは昔っから絡まれやすいんだよな。路地に入って三歩歩けば絡まれる。

 男爵領にいた頃から研究資金が足りなくなったらよくやってただろ。慣れてるから大丈夫だって。


 (君やっぱり捕まった方がいいんじゃないの?)


 というわけで突入だ! ひゃっはー、金よこせぇ!


 (ちょ、待……っ!?)


 「おいそこのガキ、金目のもん――ぎゃああああ!? 足がああああ!?」


 「おいおい、子供がこんな路地裏一人で歩いてちゃ危ないぜ。金払うんなら俺が連れ出して腕がああああああああああ!?」


 「ガキィ、ここがドン・ノストラードファミリーの縄張りだって知って目がああああああああああああ!?」


 よし、結構稼いだぞ。最後のなんちゃらファミリーとか言う奴、あいつが結構な額持ってたな。


(鬼畜の所業だね)


 別にブサメンから手ぇ出したわけじゃないからいいんだよ。正当防衛だ。さて、このままあの宿に行こうか。ブサメンにふさわしい、ぐれいとな宿に。



 ◇◇◇



 「申し訳ございませんが、本日は満室となっておりまして」


 駄目でした。


 (即落ち二コマ乙。そもそもああいうところって、お金だけじゃなくて、ある程度身分がある人じゃない泊まれないじゃないの? 山賊もどきはお呼びじゃないってさ)


 誰が山賊か。


 (まぁまぁ、潔く、別の宿を探そうよ)


 仕方がないと再び歩き出すこと数分。おお、早速見つけました宿屋。豪華さは無い。ちょっと廃れてる感じ。一度でいいから女の子を連れ込んでみたい。お洒落なところよりこういうところの方がなんか興奮する。


 (君の性的思考に興味はないけど、せっかく見つけたんだし、今日はここに泊まるかい?)


 そうしますか。部屋は空いてるかしらん?


 宿屋に入る。するとすぐに宿屋の主人っぽい男性が出てきて……そしてブサメンの顔を見て悲鳴を上げた。


 「!?!?!? 二足歩行の……家畜、だと? 新種の魔獣か!? どうして王都の中に!! 早く騎士団を呼んでくれ!」


 その流れ、もうやった。


 「魔獣ではない。只の、無害な、人間だ」


 (君、自身の行動を振り返ったことはあるかい? 無害かどうかは一考の余地があると思うんだ)


 うるさいなぁ、こいつ。


 「しゃ、しゃべった!? 人間? いや、しかし……確かによく見れば人間、かも?」


 「……ぶち殺すぞ。宿代安くしろ(へやをかりたい。いくらだ)」


 「い、いや、実はもう部屋がいっぱいでして、申し訳ありませんが、別の宿をあたっていただけると」


 目が泳いでいる。ブサメンがいると他の客が寄り付かなくなると思ったのか。もしかしたら本当に部屋がなかっただけかもしれないが。ブサメン、悲しい。


(いくらなんでも酷いよね……とも思ったけど、でも君、犯罪まがいの手段でお金稼いでるし、その内面の醜さが顔に出てるのだとすれば、僕はホテルの人を悪く言うことはできないよ)


こいつ本当にブサメンが造った人工精霊か? 創造主のこと馬鹿にしすぎじゃない?

 ……まぁいいや、いつまでも駄々をこねていても仕方がないので、別の宿を探そう。


 けれども、どこへ行こうと同じような反応をされる。


 「ひぃ」


 「あ、いや、満室で」


 「別の宿に行っていただけると」


 どこもかしこも宿泊拒否だ。

 さて困ったぞ。


 途方に暮れて、結局、中央広場まで戻ってきてしまった。

 噴水のへりに座り込む。


 このままじゃ本当に野宿だ。

 途方に暮れていると、一人の少女と目が遭った。


 年齢は……中学生くらいだろうか。JCだよJC。

 そのJCはなぜかブサメンの方に近づいてくる。JCはつぶらな瞳でブサメンの顔を覗き込んだかと思うと、おもむろに口を開いた。


 「そこの人、あんまり見ない顔だね。旅の人?」


 「……そんなところだ」


 「ふぅん。宿は? もう決めた? まだ? ならウチに来なよ!」


 「……なに?」


 JCの家にお呼ばれした、だと? まさかこやつ、この年ですでにビッチだというのか? すごいな異世界は。進んでる。だがこのブサメン、童貞を卒業するなら、お相手は処女がいいんだ。純愛ラブラブチュッチュがいいんだ。せっかくこんなブサメンを誘ってくれたのに、ごめんよ。


 (君、頭湧いてるのかい?)


 お前という寄生虫なら湧いてるけど。


 (やっぱり君の頭は正常だ。よって僕は寄生虫じゃない)


 はいはい寄生虫じゃない寄生虫じゃない。わかったから、クロロ、JCとの会話に口を挟まないでくれ。


 「ウチ、宿屋なんだけど、部屋、まだ余ってるよ」


 「!」


 そうか。困っているブサメンを見かねて声をかけてくれたのか。ビッチじゃなかったのか。安心したよ。


 「どうする?」


 「……いいだろう。泊ってやる。案内しろ」


 「うわ、なんか偉そう! まぁいいや、こっちだよ!」


 ごめんね。でもクールだろう?


 (お嬢さん、こんな奴泊まらせる必要ないよ。野宿でも何でもして、魔獣に食べられた方が世のため人のためだよ。聞こえてないだろうけど)


 そうとも、聞こえてない。だから少し静かにしてるといいよ。

 ブサメンはJCとのランデブーを楽しむんだ。


 ギュッと、小さなお手々がブサメンのごつごつとした手を掴み取った。


 ほわ!? び、びっくりしたぁ。


 お、おお……宿まで案内してくれるようだ。至福の時間だ。女の子の手って柔らかい。ブサメンの手つなぎ童貞は君のものだ。


 (そんなクソみたいなもの、犬の糞より価値がないと思うよ)


 悲報、ブサメンの手は犬の糞以下だった。


 JCに連れて来られたのは、中央通りからは外れた立地にある宿屋だった。木造建築二階建て。年季が入ってるけど、オンボロという感じはしない。


 建物の中も外観と同じく歴史を感じる内装だった。いい感じに年をとった建物、みたいな雰囲気が出ている。

 

 木造特有のささくれはなく、長年、人が使い込んだことで、むしろ滑らかな手触りになった柱とか、いい感じ。ボロボロの家具とアンティークの家具の違い、みたいな。うまく言えないけど、そんな感じ。


 看板にはこう書かれている。


 『英雄たちの宴亭』


 ええやん。なかなかいかした名前じゃん。


 橙色の落ち着いた色合いの光のランプが、受付カウンターでブサメンを迎える。自分の他に客は……ぱっと見、ロビーには見当たらない。奥の方には、テーブルと椅子が幾つも並べられていて、どうやらレストランとして食事もできるようだ。


 人の気配がしない。ブサメン以外にお客がいないのだろうか。


 「い、いらっしゃいませ。お泊りですか?」


 と、そこへ宿屋の主人らしき男性が、ふくよかな腹を揺らしながらやってきた。口ひげを蓄えた、気の弱そうな男性だった。


 「お父さん! お客さん、連れてきたよ!」


 と、JC。


 「リオン。ま、まさか無理やり連れてきたのかい? お、お客様、娘が失礼なことをしませんでしたか?」


 「……いや、そんなことはない」


 むしろ困っていたところを助けてくれたよ。


 「部屋を借りたい」


 「! ええ、ええ、それはもちろん! 何泊されますか?」


 「そうだな……とりあえず、一週間だ。もしかしたら、延長するかしれん」


 「はい、お部屋は空いておりますので」


 やっふい。宿確保。野宿回避。まぁ、別に野宿もできるけどね、ブサメン。魔法学校で習ったから。


 「他に客はいないのか?」


 「それがその、中央の大きな通りから離れていますので……」


 どうも客は少ないみたいだ。まぁ、客いない方が静かでいいよ。


 「いくらだ?」


 「はい、一週間で、七万ゼニーになります。お食事はどうしましょうか」


 「……そうだな、今日の分だけ頼む。後はいい」


 「かしこまりました」


 懐から銀貨を取り出し、カウンターの上に置く。


 「ひぃふぅみ……確かに頂戴致しました。では、改めまして。ようこそ、英雄たちの宴亭へ」


 「ふん、仰々しい名前の宿だ。分不相応という言葉を知っているか?」


 (こ、こら! なんてことを言うんだ!)


 「いやはや、お恥ずかしい。たいそうな名前を付けた割に、ご覧の通りお客様の数は少なく……しかし、その分、誠心誠意おもてなしさせていただきます」


 「ならいい」


 「リオン、お客様をお部屋までご案内して」


 「はーい、こっちでーす!」


 JCはブサメンを二階の角部屋まで連れて行ってくれた。


 「この部屋を使ってね」


 鍵を開け、部屋の中へ。木張りの床には、申し訳程度に絨毯が敷かれていて、白いシーツに包まれたベッドがぽんと置かれている。腰かけてみる。


 ……うむうむ、悪くない弾力だ。部屋の隅には小さなテーブルとデスクライト。


 いい部屋じゃないか。基本的に安宿って、ベッドのシーツが若干黄ばんでいたり、妙に硬かったりと風の噂に聞いたことあるけど、ここは値段の割にそういうところがしっかりしている。


 「ふん、中々いい部屋だな。気に入った。このシンクゥ御用達の看板を掲げることを許可する」


 「わー、なんか面相臭い人を拾っちゃったなー。でもまぁいいか。お金は持ってるみたいだし」


 「……そういうのは本人がいないところで言え」


 でも、こういう小生意気なところも、なんかJCっぽくていい。心がウキウキしてくる。


 「あはは、ごめんなさーい。久しぶりにお客さん取れたから、ちょっと、はしゃいじゃった」


 「いつも客が少ないのか?」


 「うん。ぼろっちぃ宿だからかな? あんまり人が入ってくれなくて。頑張って宣伝とかしてるんだけど」


 あれま。


 「お父さん、この宿を盛り上げるためにお料理とかがんばってるのにー。お父さんの作るオムレツは最高なんだよー。よかったら食べてみてね!」


 まぁ、この世界、SNSとかないから、なかなか宣伝とか難しいそうだよな。


 「それじゃ、ごゆっくりどうぞー」


 そう言うとJCはがバッと頭を下げ、部屋から出て行った。


 ……よし、行ったな? 行ったよな?


 「クンクン」


 JCの残り香を嗅ぐ。


 (キモォ)


 あんまり残ってないな。残念。


 (キモォ)


 ごめんて。


 (キモォ)


 わかったよ、もうしないよ。


 (そんなキモすぎることしてないで、そろそろご飯にしない?)


 ですな。もういい時間だ。下に降りて亭主に食事を頼もう。


 (それ食べて早く寝て、明日は朝から冒険者ギルドに行こうか)


 うむ。明日は忙しくなりそうだ。

 


Tips 英雄たちの宴亭


シンクゥが泊まることになった王都の片隅にある古びた宿屋。名前は大仰だが、宿はこぢんまりとしていて、客の入りはあまりよくない。宿屋の娘リオンは、少しでも宿の経営を改善させるため、人通りの多い場所で客引きをしていた。だから彼女は歓迎する。たとえその客が二足歩行の家畜でも。


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