メインクエスト4
地下へと続くその階段は、最低限、人が通れるように形を整えてあるだけで、足場も壁もゴツゴツとした岩盤が剥き出しになっていた。篝火も松明もない。魔法を使わなければ足元もおぼつかなかっただろう。
ブサメンは魔法の光を頼りに少しずつ階段を下りていく。この先に何があるかわからない。物音を立てない様にゆっくりと。緊張のせいだろうか、地下の空気の悪さも相まって少し、息苦しい。
顔をしかめしながら進んでいると、そう時間の掛からない内に、階段の終わりが見えてきた。
(兵士と遭遇しなくてよかったね)
ああ、こんな狭い階段じゃ、どうやったって、ぶつかる。そうなれば、透明化の魔法が解除されてしまうからな。
脳内でクロロと話しながら、階段を降りきった。
ここからは細長い洞窟のような通路がT字路型に広がっているようだ。階段部分とは違って、壁に松明が掛けられており、僅かに光源がある。ブサメンは魔法を解除し、周りを観察することにした。
万が一にも誰かに見つからないように、壁を背に、極力身体が見えないようにしながら視線を走らせる。薄暗いのと、通路が長いせいで奥まで見通すことはできないが、どうやら……あまり楽しくない場所みたいだな。
通路の両側には、金属製の格子がはめられており、その格子の中は小部屋のようになっている。その小部屋が何個か等間隔で配置されているようだ。
岩肌がむき出しのそこは、とてもじゃないが快適そうには見えない。というか、これじゃまるで……。
(地下牢、だね)
ですよねー。ブサメンもそうとしか見えない。
(誰かいるよ)
手前の小部屋……いや牢屋の前に鎧を着た男が一人。この屋敷の兵士……さっき上の階を巡回していた奴だ。
(誰かと話してるみたいだけど……)
その話し相手は、どうやら牢屋の中にいるらしい。ここからじゃ中は見えない。なんとか牢屋の中を見ようと前のめりになった時、ジャリ、と靴と地面が擦れ合い、微かな音を立ててしまった。
やっべ、お約束をやっちまった。
慌てて動きを止めて息をひそめる。だが、無駄だった。
「誰だ!!」
「そこに誰かいるのっ? 助けて!」
誰何する兵士の声は予想通り。だがそれとは別に、怯えた少女の声が耳に届いた。
……おい、今の声……マジか。
(ああ、間違いないね。これは――)
隠れるのは不可能と判断したブサメンは、仕方なく兵士の前に姿をさらす。
透明化の魔法「幽体天幕」は、もはや意味を為さないだろう。音でブサメンがここにいること自体はバレている。そこにいる、と認識さていれば、この魔法は解除される。
「お前は……! チッ、余計な客人だ……ここで何をしている」
「ふん、シンクゥだ。人の名前も碌に覚えられんとはな」
まさかこの状況で、こうも高圧的に返されるとは思っていなかったらしく、一瞬兵士が鼻白む。その隙にブサメンは訊きたいことを尋ねさせてもらう。
「そういう貴様はこんなところで何をしている? いや、そもそもここは何だ?」
精一杯声で威圧しながら尋ねる。けれど悲しいかな、ブサメンのヘロヘロボイスじゃ大した威圧感はなかったようだ。
「答えろ」
微塵も怯んだ様子のない兵士に詰め寄る……ふりをして、ブサメンに助けを求めた人が捕まっている牢屋の前に行き、格子の隙間から中を見た。そこにいたのは、予想通りの人物だった。
「ネフェル……」
今にも泣きだしそうな顔をしているネフェルちゃんが、そこにいた。
「これはどういうことだ?」
兵士を睨む上げる。
「……見られてしまったのなら、仕方がない」
兵士はこちらの質問には答えず、代わりに腰の剣に手を掛けた。
「同行してもらおう」
感情が抜け落ちたような冷徹な声が、ブサメンの心臓を跳び上がらせた。
マジかこいつ! 反抗したら殺す気満々じゃん。
(ちょっと、これは……シンクゥ、本格的にまずい状況になってきたね)
まずいどころの話じゃない。貴族の屋敷の地下に、里親に引き取られたはずの子供がいて、その里親を紹介したはずの男爵がこの屋敷の主で……。
男爵め……やってやがるな?
そしてブサメンはその男爵の秘密を知ってしまった邪魔者というわけだ。
とはいえ、だ。
一般兵士が一人二人いたところで、真正面からの戦闘でブサメンが負けることは、ない。たとえ魔法使いが苦手としている近接戦を強いられるこの距離でも、こちらに勝機が……。
「大人しくついて来い。我々もあまり手荒な真似はしたくない」
……我々、だと?
その時、ブサメンの後ろから金属音がした。鎧の擦れる音だ。
「チッ」
そういえば、巡回していた兵士は二人組だったな。後ろを見れば、そこには、前方の兵士と同じく剣に手を掛けた兵士の姿があった。
これは……あれだな。怪しい取引を見るのに夢中になっていたら、背後を取られちゃったやつだ。小さくなっちゃうやつだ。
(君、この状況でよくそんなジョークが言えるね)
ジョークの一つでも言わないと緊張で頭おかしくなりそうなんだよ。
しかし……挟まれたか。面倒だな。いや、それでもこの程度なら……勝てる。
「もう一度言おう。大人しくついて来い。お前は男爵様のお気に入りらしいからな。男爵様に判断を仰ぐ。ただ、抵抗するようなら、こちらも容赦はしない」
だが、仮に今ここで、この二人相手に戦ったとして、その後どういう展開が考えられる?
(君の予想通り、勝つこと自体はたいして難しくないだろうね。でも、ネフェルちゃんが人質にされる可能性もあるし、仮にこの場を切り抜けたところで、この町に逃げ場なんてないよ。なんせ相手はここら一帯の領主なんだから、ね)
……だな。ため息を吐きつつクロロに同意する。
だったらここはひとまず兵士に従い、男爵がどういうつもりでこんなことをしているのかを問い正すしか、ない……か。
「いいだろう。俺も男爵に会って話をしなければと思っていたところだ」
「よし。では前を歩け、くれぐれも妙な真似はするなよ」
ブサメンは回れ右をして、来た道を引き返す。後方にはブサメンを見つけた兵士、前方には背後から近づいてきていた兵士。背中側の兵士は剣を抜き、その切っ先をブサメンの背中に押し当てながら、進めと促してきた。
男爵が今どこにいるかは知らないが、寝室にしろ執務室にしろ、屋敷内の廊下を通らないといけないわけで……もしこんな状態のまま歩いているところを他の兵士や使用人に見られれば、いったい何事かと騒ぎになるだろう。それを気にせずこの状態で屋敷中を歩こうとしている。
と、いうことは、だ。他の誰かに見られたところで、別に問題はない、ということだ。もっと正確に言うなら、他の誰かが見ても事情を理解してくれる、ということ。
つまり屋敷に詰めている兵士や使用人のすべてが地下牢のことを知っている……つまりつまり――全員が、グル?
あるいは、この時間に配置されている警備の兵士や使用人がグルっていうだけで、それ以外のやつは……何も知らずにこの屋敷に勤めているという可能性もあるが。
ブサメンとしては後者を推したいね。
自分の推測にうんざりしながらも、ちらりと牢屋の中にいるネフェルちゃんに視線を向けた。彼女は今まで泣きはらしていたであろう赤い目でブサメンを見上げた。
「ふん。情けない面だ。俺に罵詈雑言をぶつけていた時のふてぶてしさはどうした」
「っ、う、うるさいわね! あんた、なんでこんな時までそんな態度とれるのよ! わ、私たち殺されちゃうのかもしれないのよ!」
「くだらん心配だ。もう少しそこでのんびりしていろ。すぐに出してやる」
「!?」
あまりにも普段通りのブサメンに、ネフェルちゃんは目を白黒させ、次の瞬間にはとんでもない目つきでブサメンを睨みつけてきた。
おかしいな、ここは普段通りのブサメンに元気づけられて安心する、みたいな展開になるのがお約束じゃないか? けれどどうしたことだろう、ネフェルちゃんは射殺さんばかりの目でブサメンを睨んできている。前後の兵士がビビり散らかすほどの迫力だ。
(たぶん、余計なこと言って兵士さんたちの勘に障るような真似すんじゃねぇぞ下手したらこっちは殺されるんだぞボケが、みたいな意味合いかな)
……なるほど。
(君、ほんとこの世界の人間と相性悪いよね)
ねぇ?
(でも、これで本当にネフェルちゃんを救い出すことができれば彼女の評価もきっと変わるだろうさ。そのためにも、話をつけに行こうか――男爵のところへ)
…………………はぃ。
(声ちっさ)
だってできれば行きたくないもの。怖いし。
◇◇◇
兵士二人に連れられ、向かったのは男爵の執務室だ。
「失礼します。男爵様、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうしたんだい?」
「例の件がシンクゥに露見したので、ご同行を願いました」
「……そうかい。入りなさい」
部屋の主から許可をもらい、兵士がドアを開ける。すると、立派な机で書類仕事をしていた男爵が顔を上げた。
こんな時間までご苦労様です。そんな怖い顔でこっち見ないでください。
怖い顔でブサメンを見てくるのは、男爵だけではなかった。男爵と机を挟んで向かい合うように立っている鎧を纏った男。男爵領の軍事力をまとめ上げ、剣の腕においても領内最高峰と言われている――イフリート男爵領騎士団、騎士団長ラズール。
こいつがここにいるにも関わらず入室を許可したってことは、こいつも共犯か。まったく、どいつもこいつも。
「それで、例の件がバレたっていうのは、本当かい?」
男爵がジロリ、と兵士に目を向ける。
「は、いつの間にか地下牢におりまして」
「それは困ったね」
まったく困ってなさそうな声だ。不気味だ。
男爵は兵士から視線を外すと、ブサメンに鋭い目を向けてきた。
「さてシンクゥ。これは誤解なんだ、と言って信じてくれるかい?」
「それで貴様を信じるようなら、俺の脳みそはお花畑だな」
「……だね。じゃあもう、正直にいくけど、屋敷の秘密を暴くなんて、とんでもないことをしてくれたね」
「とんでもない? とんでもないだと? それはこちらのセリフだ。貴様、ネフェルを地下牢に放り込むなど、いったいどういうつもりだ?」
すると男爵はやれやれと首を振り、人を小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「金だよ。それ以外に何があるって言うんだい?」
「……奴隷商人にでも、売り払う気か?」
この国にはいろいろな人間が集まる。中には奴隷の売買を扱う奴隷商人なんてのもいる。この国で奴隷を所持することは違法だが、他所の国では許可しているところもあるらしい。特にお隣の帝国なんかがそうだ。
だから奴隷商人は、各地から集めた奴隷を西の帝国に連れて行き、売りさばこうとする。しかしルートによっては、このシェヘラザード王国を経由する必要がある。だから奴隷商人は奴隷を密入国させ、そのまま西の帝国へ連れて行く……なんてことをしようとする奴が出てくるわけだ。
本来ならば、貴族は自国の法にのっとり、それを阻止しなければならない立場にあるわけだが、あろうことか秘密裏に奴隷商人を受け入れ、密入国や出国を見て見ないふりをする代わりに、多額の謝礼を受け取っていた、なんて事例があったらしい。
だが、中にはさらに踏み込んでしまっている貴族もいる。
奴隷商人を見て見ぬ振りするどころか、その商人に自分の領地の平民や孤児を売りつけ、金を稼ぐのだ。特に孤児なら、里親が見つかったとでも言っておけば、後のことは誰も気にしない。
「うんうん、よくわかっているじゃないか」
「貴様……、その様子だと、随分手慣れているよだな? ええ?」
ブサメンにバレたというのに、気にも留めないこの態度。今までにも同じことを何度も繰り返してきたのだろう。これまでに里親が見つかったと言われて、夢と希望をもって孤児院を出て行った子供たちの何人かは、あるいは全員が、同じ目に遭っていたのかもしれない。
……そう思うと、気分が悪い。
「そうとも。だと言うのに、君が不要なことをしてくれたせいで、世間にバレる可能性が出てきてしまった。君の行動には怒りを通り越して呆れかえるよ」
「それはこちらのセリフだ。こんなことをしているなら俺を泊めなければよかったのだ。間抜けめ」
「そう言われるとこちらも痛いな。でも、それは君のせいでもあるんだ。君がもう少しマメに研究成果の報告に来てくれれば、今日、君を呼びつけることもなかった。君の造る宝具は他の貴族たちにも人気でね。次の納品はいつだとせっつかれていたんだ。だから私も少々焦って君を呼んでしまった。それに、こんな遅い時間に君を帰して、夜道で何かあったらと思うと……君は、貴重な財源なんだ。まぁ、それが裏目に出てしまったわけだけど」
「……クソが。それで、どうするつもりだ?」
「そこだよ。問題は。いくら貴族と言えど、こんなことをしていると知られたらただじゃ済まない。けれど、世間にバレなければ問題ない。君さえ、黙っていてくれれば、問題ないんだ」
「口封じでもする気か?」
「いやいや、そんなことはしないさ。もっと穏やかな方法がある。君が、私たちの味方になってくれればいい」
「この俺に……貴様らと同じ下種に堕ちろと? 舐めるなよクソ戯け」
「はぁ、やれやれ、こんな状況だと言うのに、よくもそんなことが言えたものだね」
「何度でも言ってやるクソ戯け。今すぐネフェルを解放しろ」
「するわけがないだろう。こんなに稼ぎのいい商売はない」
「馬鹿が。こんなこといつまでも続くと思うか? いつかバレる。今回のように些細なことでな。俺をどうこうしたところで、いずれその時は来るだろう」
言い募るブサメンに、しかし男爵は呆れたように肩をすくめた。
「だから今のうちに自首でもしとけって? こんなこと国にバレたら処刑されちゃうよ」
「……ならばネフェルだけでも今すぐ解放して、どこへなりとも消えろ。この町から出て行け。そうすれば、貴様のやったことは黙っていてやる。逃亡生活をするくらいの金ならあるだろう」
「はは、君が交渉できる立場だとでも? それにネフェル君には、もっと他に役に立ってもらおうかとも思っていたんだ。今、逃がすわけにはいかないんだ」
「なんだと?」
「今度、知り合いの伯爵様がここに来るんだけどね?」
伯爵。男爵よりも格上の貴族だ。
「それが結構な俗物でね。自分の娘くらいの年頃の、見た目のいい女の子と無理やりそういうことをするのが趣味らしいんだ。だからネフェル君には伯爵様のお相手でもしてもらおうかと思って。そうすれば私は伯爵様からの覚えもよくなる」
「……屑が」
女の子は優しく扱え。
「金のためにここまでするからかい? けれどシンクゥ、君への研究資金もこんなやり方で稼いだ金で出ているんだよ。僕たちは、共犯だ」
「ほざいてろ」
男爵の戯言に付き合うつもりはない。ばっさりと切り捨てる。
(……僕、この人嫌いだ。そんなことのために子供を……人の命を何だと思っているんだろうね)
クロロがブチギレそうだ。ブサメンもブチギレそうだ。
正直、ブサメンは金に執着することを悪いとは思わない。どこの世界でも金がなければ生きていけない。金と命は直結している。特に貴族は金がなければ軍事力も保てず、魔獣がいるこの世界においてそれは致命的だ。
それに、ブサメンにはよくわからないが、貴族社会で生き抜くためにも金は必要だろう。あればあるだけいいというのは、よくわかる。
だがそれは、こんなことをしなくても得られるものだ。特にここ最近の男爵領の収入は多かったはずだ。ブサメンの宝具が男爵家の名の下で売り出され、かなりの利益を出していたはずなのだから。
「俺の知らないところであれば、好きにするといい。だが知ってしまったからには、見過ごすわけにはいかない」
そりゃブサメンだってさ、正義の味方じゃないから、ネフェルちゃんと同じような目に遭っている子をみんな救いたいなんて考えない。けれども、同じ屋根の下で暮らしていた子をそんなことに使うと言われて、はいそうですかと頷けるわけはないのだ。
……けれど、それはそれとして、この状況、かなり危ない状況だ。
「はは、見過ごすわけにはいかないって? だったらどうするって言うんだい?」
男爵がそう言うと、ずい、と騎士団長のラズールが前に出てきた。後ろには二人の兵士。下には人質代わりのネフェルちゃん。これは……どうしようもないな。
「安心するといい。さっきも言ったけど、まだ、殺す気はない。君は、金のなる木、だからね」
「……」
(こいつ……)
「君の造る宝具はいい金になる。確か君が以前言っていた……なんだったかな、空飛ぶ箒……? あれも早く造っておくれよ。特に金になりそうだ……まぁ、そんなものが造れるなら、だけどね」
……同じ孤児にも、シスターリリーにも、他のすべての人間に嗤われた。空を飛ぶ箒を作りたいと言って、まだ見ぬ魔法を開発したいと言って。そんなことできるわけないと、嗤われた。だけど、この人だけは違った。やってみるといい、挑戦してみるといい、バックアップはしてあげるよと、そう言ってくれた。
だからブサメンは男爵もまた、自分と同じように、魔法の可能性をもっと広げたいと思っているのだと思った。ブサメンが夢見た光景を、ブサメンの理想郷を、この人も見てみたいと思ってくれているのだと。
「君の妄想に金を出すのは嫌だからね。さっさと現実を見て、手堅く売れそうな宝具だけ造っててくれれば、それでもいいよ」
(!! ぶっ飛ばしてやる!!)
……落ち着けよ。お前手ぇないじゃん、クロロ。でも、……ありがとな。
「怒らないのかい?」
と、男爵が不思議そうに訊いてくる。
「ふん。俺の理想はもとより誰にも理解できないものだ。俺の理想は、俺だけがわかっていればいい。そしていつか、それが実現したとき、笑うのは、俺だ」
きっとわかっていたのだ。自分自身でも。ブサメンの理想は……ファンタジーや魔法への憧れは、魔法がない世界である地球で生まれ育った記憶を持つブサメンだからこそ持っているものだ。
本来手が届かないはずの夢のような力が、手を延ばせば届くのだとわかったからこその抑えようのない欲望。ないものねだりだったはずが、そうじゃなくなった。
魔法をあって当たり前のものとしているこの世界の人間とでは、きっと共有できない理想だ。だからこの理想はブサメンだけがわかっていればいい。
だからそのことで怒りはしない。ただ……。
「魔法を金のなる木にしか見ていないことは、癪に障る」
魔法そのものをバカにされるのは、許しがたいな。
「せいぜい囀っているといい。ラズール、彼を地下牢に連れて行け」
「俺もネフェルと同じように拘束する気か?」
「ああ、地下牢に宝具開発用の機材と素材を運んであげるから、そこで宝具を造っているといい。そうだな、君が今、夢中のあれ、雷鳴剣でも造ってなよ。武器ならいい値段で売れる」
地下牢で金儲けの道具を造れってか……雷鳴剣を造るふりをして逃走用の宝具でも造るか? いや、当然監視はつけられるだろうし、素材も制限される。逃走用の宝具なんて造らせてもらえないだろうな。
「君が素直に私のために働いてくれるなら、その間、ネフェル君はきれいなままでいられるように取り図ろう。せいぜい私のために頑張って金を稼いでおくれ」
男爵が言い終えると、ラズールがブサメンの腕をつかんだ。
「来い、シンクゥ」
ミシリ、とラズールは、丸太のような腕でブサメンの腕を締め上げると、そのままズルズルと地下牢まで引きずって行った。
「!?」
そして目を白黒させているネフェルちゃんの隣の牢の中に放り込んだ。
地面に転がされたブサメンを、ラズールが見下ろす。
「ようやくその醜い顔を見ずに済むようになると思うと、清々する」
奴はそう吐き捨て、地下牢の扉を固く閉ざしたのだった。
Tips クロロ
シンクゥが開発した人工精霊。科学で言うところのAI。発想力は人間に劣る部分はあるが、計算能力は人間とは比較にもならないほど高い。魔法の演算も最適かつ最速で行ってくれる。また、術式の最適化を行い、詠唱する呪文を短くできる。本来シンクゥが使っている魔法の詠唱はもっと長いが、クロロのおかげで短くなっている。どうしようもない性格をしているシンクゥと違って生真面目な性格をしており、一応声は男性のものだが、そもそもシンクゥの脳内に宿る人工精霊であるため、性別はない。シンクゥにツッコミを入れる日々を送っている。




