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メインクエスト25「古代の王の墓を暴け⑪」

 「イケメンさん!?」


 シンクゥが倒れた。


 いきなり覆いかぶさられた時は何事かと思ったが、彼は彼女を庇ってくれただけだった。


 まさか聖域内にワープホールを開くことができるなんて、ロゼにとっては、予想外だった。だが無理もないだろう。今まで空間転移をしてくるような敵と戦ったことがないのだ。


 無意識に空間転移を、ワープホールを攻撃だと思い込んでいた。


 追撃は……来ない。ロゼがシンクゥに気を取られている間に、月光弾とワープホールの組み合わせ戦法は終わっていたようだ。混沌の王笏の耐久値が、限界に近かったのだろう。運が、よかった。


 「大丈夫ですか!? 返事をしてください!」


 彼の肩を掴んで必死に呼びかけるが、シンクゥはぐったりしたまま動かない。息はしているが、気を失っているようだ。


 王の骸の方を見れば、奴の持つ混沌の王笏の宝石は、罅が入っており、今までよりも色あせているように見える。全方位型月光弾とワープホールの組み合わせは、宝具にかなりの負荷がかかるようだ。


 あの罅の入る具合から考えて、使えてあと一回と言ったところか。だがその一回を使い切れば、混沌の王笏は、壊れる可能性が高い。


 あの杖は、王の骸にとって自分の身を守る絶対的な武器だ。全方位型月光弾とワープホールを同時使用すれば、ロゼを倒すことはできるかもしれない。


 だが、その瞬間、王の骸は無防備になり、たとえここでロゼが死んでも、いつか誰かに、倒される。ならば、王の骸はその切り札を、簡単には切れない。ロゼはそう判断した。


 シンクゥを助けるためには、王の骸を一刻も早く倒し、治療するしかない。支えていた彼の上半身をそっと地面の上に下ろし、王の骸を睨みつける。


 王の骸の基本戦術は、混沌の杖に頼った遠距離攻撃だ。一方でロゼはハンマーが届く近接戦まで持ち込まなければならない。


 王の骸はロゼに遠距離攻撃の手段がないことを察しているのか、余裕たっぷりに言うのだった。


 「ふん。まずは一人、だ。次はその方だ。小娘。余の誘いを断ったことを後悔しながら死ぬといい」


 再び月光弾の連射が始まる。


 「舐めないでください!!」


 ロゼがハンマーを思い切り地面に叩きつけると、砂色の石材が隆起し、捲り上げられる。畳返しだ。


 それらの石材が月光弾を遮り、盾となる。それだけではない。宙を舞う石材をハンマーで殴り飛ばし、弾丸のごとく撃ち出す。


 遠距離攻撃は来ないと思っていた王の骸の鬼火が驚愕に揺れるが、その石材が王の骸に直撃する前にワープホールが開かれる。その黒い穴に飲み込まれた石材は、ロゼの後頭部目掛けて転移させられるが、しかしワープホールが開いた位置に、既にロゼはいなかった。


 彼女は矢のように駆け出し、王の骸へと突貫する。彼女の持った獣狩りの戦槌が地面に擦れるたびに火花が散り、その様が彼女の勢いを物語っていた。


 それを見た王の骸が、慌てて月光弾を放ってくる。感情の昂ぶりのせいか、アドレナリンでも過剰分泌されているのか、今のロゼには、その弾丸の軌道を、完全に目で捉えることができた。


 一発目を躱し、二発目をハンマーで叩き落とし、三発目を身体を回転させながら回避しようとしたところで、ワープホールに呑まれた月光弾が、ロゼの後ろに開いたワープホールから出てこようとする。


 しかし彼女はワープホールが開く際のブォンという音を長く尖った耳で捉え、頭を低くした。

 頭上を通り過ぎる月光弾が彼女の銀髪を数本持っていくが、ロゼは構わず疾走。


 続けざまに迫る月光弾は足元に直撃のコース。しかしやはりワープホールによって軌道は変えられた。


 ロゼが跳躍しようとした瞬間を狙い、ワープホールが開いたのだ。宙にいれば如何に身体能力に優れた彼女と言えど、回避はできないと王の骸は踏んだのだろう。


 しかし、ロゼは跳ばなかった。ジャンプしようとしたのは演技。ただの見せかけだ。実際には両脚は地面から離れていない。踊るようなステップで軽く月光弾を回避して見せる。


 極限状態に追い込まれてからの集中力の増加、敵の攻撃を予測する冴えわたる思考――ゾーンに突入したとでも言うべきか、ロゼはこれまで経験したことのないほどに自分の感覚が鋭くなっているのを感じていた。


 だがそれでも。現実は非常だ。それを見た瞬間、全能感さえ感じていたロゼの感覚が、冷や水を浴びせられたかのように、現実に引き戻された。


 王の骸が、再び、赤い月光を溜め始めたのだ。まただ。全方位型月光弾。そして次いで繰り出されるのが、無数のワープホール。


 「チッ」


 王の骸も、彼女の戦いぶりに恐怖を感じたのか。彼女の予想を裏切り、なりふり構わず、あっさりと最終手段に手を出した。


 まずい、あれは、躱しきれない――どうする? どうすれば……いや――。


 バラバラになりかける思考を、しかしすぐさま、まとめ上げ、前を向く。


 ――このまま突貫する!


 もとより覚悟していたことだ、と彼女は開き直った。そして、決して絶体絶命ではないと判断した。その証拠に、ばらまかれた月光弾の数も、展開されたワープホールの数も、さっきよりだいぶ少ない。やはり何度も同じ規模であの技は使えないのだ。


 (そうは言っても、きついものはきついかな)


 というのが、ロゼの正直な感想だ。いくら数が少なかろうが、転移してくる全ての月光弾の軌道を読み切るのは、不可能だ。


 可能な限りの被弾を避け、最大速度を出すため、姿勢を低くして、地面を這うように疾走するロゼに、頭上、前、背後、斜め上、あらゆる角度、そして時間差で月光弾が襲いかかる。


 彼女の足は止まらない。頭部と胸部の致命傷になりそうな攻撃のみ迎撃するか回避を選択し、あとはすべて被弾だ。前へ。とにかく前へ。


 だがそこまでしてもなお、王の骸への距離は遠かった。全方位からの凶弾は、さしものロゼでも耐え切れなかった。


 一発の月光弾が背中を撃ち、その衝撃に前に吹っ飛ばされると、即座に前から来た月光弾に撃たれ、跳ね返る様に後ろへ。そして前後だけでなく左右も含めあらゆる角度で撃たれ、彼女はピンボールのように宙を舞った。


 激痛が、神経を焼く。視界が一瞬白く染まり、意識が飛び掛ける。

 だが、その防御力故に、まだ生きていられる。


 彼女の身体はもうボロボロだ。だが、ダメージを負いながらも、彼女の目は活路を見出そうとギラついていた。そして気づく。一発の月光弾が、王の骸のすぐ近く、奴の頭上のワープホールに吸い込まれ、自分の真後ろにあるワープホールから出てきたことに。


 (これしかない!!)


 瞬間、ロゼは最後の力を振り絞り、自分に群がる月光弾を振り切るように反転、真後ろにあったワープホールに突っ込んだ。そして。


 「なに!?」


 ワープホールから出た先は、当然、王の骸の頭上。

 ワープホールを利用されるという失態を繰り返した王の骸。それだけ、奴にも余裕がないということか。


 自分の近くに転移してきたことに驚いた王の骸は、眼窩の鬼火を揺らめかせ、ロゼを見上げる。すぐさま月光弾を放とうとするが、この距離まで来ればロゼの方が――速い。


 この長い長い戦いを終わらせるために、彼女は、獣狩りの戦槌を振り下ろした。



 ◇◇◇



 ロゼッタ・エル・シェヘラザードにとってシンクゥは、ただの一時的なパーティーメンバーに過ぎない。実力は信頼しているが、それだけだ。自分の本性を知っても平然としていたから、もしかしたら気が合うのかもしれないが、だから何だという話だ。命を懸けて助けてやるほどの存在ではない。


 いや、なかった、と言うべきか。彼女は冷酷な人間ではない。彼女は情のある人間だ。今の彼女は一定以上の恩を彼に感じていた。


 バハムートから助けてくれたし、その功績を売ってもくれた。さらには伝説のダンジョンを見つけ出すという歴史に名を刻んでもおかしくない功績までをも売ると言ってきた。


 おそらく自分が抱える事情に、それが必要だということを悟って。


 そんなシンクゥが敵の凶弾に倒れた。自分を庇って。いったい、どれだけ借りを彼に作れば、自分は気が済むのだろうか。功績を与えられ命も救われ、いったい自分はどうすればいいのか。どうすれば彼にその借りを返せるのか。ロゼは皆目見当もつかなかった。


 王の骸は、強い。強敵だ。勝てる気がしなかった。

 逃げることも考えたが、恩人を残していくことはできなかった。ならば、王の骸を討つしかない。それも一人で、だ。


 現実的ではない。命を懸ければ、何とかなるだろうか。いいや、自身の命は、妹に捧げると決めている。残念ながら、彼に捧げることはできない。


 ならば、どうするか。自問自答する。答えは、わかり切っていた。


 せめて、命以外のすべてを彼に捧げよう。そのくらいしないと、この借りは返せそうにない。生きてさえいればいい。どれだけ傷を負おうと、生きていれば。腕の一本や二本、臓器の一つや二つ、くれてやる。


 月光弾を浴びれば、身体に火傷のような傷を負うことになる。彼女とて年頃の娘だ。身体に、顔に痕が残るなんて嫌だろう。それでも。命以外は彼に捧げると決めた。


 ならば美醜も、プライドも、彼に捧げよう。それと引き換えに、こいつを倒す。血反吐の先に、活路を見出す。


 だからこそ、王の骸に攻撃できる距離まで来たとき、ロゼはここが最後の好機だと考えた。もう後はない。


 あらん限りの力をすべて込めて――。


 「おおおおおおおお!!」


 気合一閃。

 獣狩りの戦槌を振り下ろした。


 だが半ば反射的に撃ち出された月光弾に、わずかに戦槌の軌道を逸らされた。

 ハンマーは王の骸の頭上で輝く魔王の冠を完膚なきまでに破壊したが、その下の頭蓋骨の側頭部を僅かに削るに留まる。


 削られた頭蓋骨の中に覗くのは、脳みそだ。アンデッドの唯一の弱点。それがそこに見える。見えているのに、届かなかった。失敗した。殺し損ねた。


 「離れろぉ!!」


 この戦闘において、いや、王の骸が、王となってから初めて負ったダメージに、奴は怒り狂い、ロゼの顔面に向けて月光弾を叩きつけた。


 「―――あああああ!!!」


 顔に火傷を負い、悲痛な叫びを漏らしながら吹っ飛ぶ。


 「今ここで、赤き月光に焼かれて、死ね」


 「……はっ」


 倒れながらも、王の骸を鼻で嗤いながら中指を突き立てたロゼに、もはや王の骸は無言で月光弾をお見舞いした。


 なんとか躱そうとするが、身体は彼女の意思に反して動いてはくれなかった。疲労、ダメージ、痛み。それらが彼女の身体を苛む。


 死ねない。死にたくない。自分にはまだ、やるべきことがある。


 (動け、動け、私の身体)


 念じる。


(動け、動いてよ。こんなところで寝てる場合じゃないんだよ。動けよ! 動け動け動け動け!! 動けって!!!)


 ブチブチと筋繊維が千切れる音が体内でしている。動かない身体を、無理やり動かそうとする代償だ。

……しかしそこまでしても、身体は動いてくれなかった。


 痛みが増す。目の前が暗くなっていく。目の端から、涙がこぼれる。


 もう、ダメだ。


 (ごめんね、ラティーファ)


 ロゼは薄れゆく意識の中で――。


 しかし、大気が震えるのを感じた。



 ◇◇◇



 背中の激しい痛みで目を覚ます。

 思わず悲鳴を上げてしまいそうな痛みだった。


 なんだ、どうなってる。どうしてブサメンは寝ていたんだ。


 (目を覚ましたのかい!? 月光弾に撃たれたんだよ! 覚えてないの!?)


 ……いや、覚えてる。大丈夫だ、少し、記憶が混乱してただけだ。


 現状を確認しようと、身体を起こそうとする。


 「――!!!」


 背中からブチブチという異音と激痛が走った。どうやら月光弾に撃たれて溶けた背中の皮膚と、横たわっていた床がくっついてしまっていたらしい。それを無理やり引きはがしてしまったのだ。


 (だ、大丈夫かい?)


 ~~~~~っ、……ああ、それより今は、どういう状況だ?


 (ロゼちゃんが一人で王の骸を抑えてるよ。でも、さすがに厳しいかもしれない)


 ……確か、あいつだって月光弾に撃たれていたはずだ。ブサメンの場合は意識を失うほどの激痛を感じたのに、ロゼちゃんは、その状態で戦えてるのか。


 助けに入りたいが……無策で突っ込むわけにはいかない。何かこの状況を打開できる魔法……また全方位型月光弾とワープホールを展開されても、それにすら対応できるような魔法……何か、何かないか。


 と、ブサメンは脳内にある無数の魔法を探る。そして。


 ――あるな。一つだけ。


 (……あれをやるのかい?)


 やるしかないだろう。リスクは高い。失敗すれば、最悪死ぬ。いや、どちらにしろ、やらなければ王の骸にロゼちゃんと揃って殺されるだけ、か。それに、今のところ成功率は百パーセントだ。


 (そりゃ、失敗したら死ぬかもしれない術式だからね。止めはしないけど、本当にいいのかい? チャンスは一度きりだ。失敗すれば、二人とも死ぬ)


 ……この状況でブサメンを煽るとは、いい度胸してる。もうちょっとこう、なんかないの? 優しい言葉を掛けるとか、激励するとか。


 (君、追い詰められた方がやる気になるタイプでしょ。夏休みの宿題とかも最終日ギリギリにやってそうだ)


 甘いな、夏休み中は、八月中にはやらずに九月になってから片付けるタイプだ。


 (はは、ごみ☆)


 はは、よっし、いつもの茶番やったら、調子出てきた。

 そんじゃまぁ、残った宿題を片付けるがごとく、この世に未練たらたらの死にかけ野郎をさくっと片付けましょうかね。


 全身に走る痛みを軽口で誤魔化し、懸命に戦うロゼちゃんの後ろ姿で己を叱咤し、ブサメンは、詠唱を始めた。


 「稲妻の巨塔、雷賛殿の主。汝が眷属たる魔人が希う。盟約は果たされた。今こそ汝の名を受け継がん。神鳴る厳霊より生まれし雷帝、天より来たりて大地に降り立つ。雷冠は継承され、空の玉座が今、満ちる。無辜の民は歓喜に打ち震え、その狂騒は祝砲の如く三千世界に響き渡る。かくて轟く万雷の喝采を受け、この身は、玉座に至る――――雷帝降臨(アドラメレク)


 雲を貫き、空を駆け、王墓の天井を粉みじんに粉砕しながら、雷が落ちた。


 その雷はブサメンの身体を焼き、因子の一つ一つを塗り替え、肉体と雷を一体化させていく。雷の化身と化した身体は、白金の電流をまき散らし、髪の毛を逆立たせる。


 雷帝降臨。この魔法は、自分の身体を雷化させることで、動くスピードと思考スピードを落雷の速度と同じにすることができるオリジナルスペルだ。雷帝の状態では、周囲が止まって見えるほどで、敵はこの速度についてくることは、まずできない。


 だが、リスクは大きい。


 脳への負担は大きく、雷帝状態は長くは続かない上に、この魔法が解除された後は、オーバーヒートで他の魔法がしばらく使えなくなる。


 そして、もし詠唱や演算に失敗しようものなら、その対価として、肉体が消滅する。落雷が一瞬光った後、大地に流れて消えるのと同じように。まさに切り札、ジョーカーとも言うべき魔法だ。


 切るなら、ここしかなかった。


 地面を軽く蹴る。それだけで身体は音速を突破し、すぐさま落雷と同じ速度に到達した。

 そして今にも月光弾に撃ち抜かれそうになっていたロゼちゃんを横からかっさらう。


 「――なに?」


 王の骸が、唖然とした様子で、間の抜けた声を上げる。きっと奴には何が起こったのかわからなかっただろう。ブサメンは再び雷速で移動し、ロゼちゃんを王の間の奥に下がらせ、床にそっと横たえた。


 「イケ、メン……さん?」


 うっすらと意識が戻ったらしいロゼちゃんに、ブサメンは力強く頷いた。


 「ああ。よく、やってくれた。後は、そこでのんびりと観戦しているといい。まぁ、勝敗のわかり切っている戦い程、見ていてつまらんものはないだろうがな」


 「……ふふ、そうですね。賭けも成立しませんしね」


 「くく、そうだな。後は俺に、任せておけ」


 雷鳴剣を抜き放つ。


 「抜かせ! どんな魔法を使おうが、余の月光弾から逃れることはできん!」


 王の骸は、雷帝降臨の魔法が脅威だと感じ取ったのか、もはや後のことを考えるのはやめたようだ。


 王笏の先端に生まれるは、巨大な月光弾。それはすぐさま破裂し、紅の死をばらまく。だがそれを彩る黒い穴は、ワープホールは開かれない。混沌の王笏に負荷がかかっているのだ。


 その代わりと言うべきか、もはや躱す隙間もなく、撃ち落とすことも許さない圧倒的な物量の弾幕が、ぶちまけられた。


 だが、今のブサメンには、そのすべてが、止まって見えた。

 迫りくる月光弾の壁を、それを構成する一つ一つの月光弾を、すべて雷速の剣撃で――斬り伏せる。


 「は?」


 その間の抜けた声は、王の骸のものだった。奴からすれば、きっと、さっきまで目の前にあった弾幕が、一瞬でなくなったように見えたのだろう。


 間抜け面を曝す王の骸に構わず、遮るものがなくなった目の前の空間を、一筋の雷と化して駆け抜ける。王の骸の認識速度も、あるいは時間さえも、何もかもを置き去りにするような速度で、稲妻が走る。


 きっと王の骸には、瞬きの間にも満たない時間だっただろう。だから、すべてが終わったことに、奴が気付いたのは、おそらく――斬られた後だった。


 残像のような稲妻の尾を目で追っている王の骸の眼前に移動したブサメンは、雷速の勢いのままに剣を振るう。一太刀目で王の骸の首を刎ね、返す刀で胴を薙ぎ、そして三分割されたその体を、千の斬撃の嵐で細切れにした。


 一瞬、王の間を静寂が支配する。


 そして、遅れてやってくる雷鳴。斬撃を放った数だけの雷鳴が一気に響いた。何千、何百にも重なり合った重低音が王の間を揺らし、天井からは砂が零れ、王の間の隅に積まれていた財宝が音を立てて崩れる。


 やがて雷鳴も騒音も収まり、静寂が王の間に満ちる。

 王の骸は、骨の一欠けらさえも残さずに、消滅した。


 長い……戦いが、終わった。


 ブサメンはロゼちゃんの状態を確認するため、雷帝状態を解除するのも後回しに、彼女の元へ向かう。

今のブサメンはいわば覚醒状態。そしてロゼちゃんを救い、強敵を倒したブサメンは、きっと男としての魅力三割増し。そんなブサメンを見た彼女の反応は……。


 「バチバチうるさいので、さっさと元の状態に戻ってもらっていいですか?」


 はい。


 ブサメンは魔法を解除した。


 「傷を見せろ」


 瘴気で受けた傷は、火傷に似ている。人体にとっては毒のようなものだ。放置するわけにはいかない。対処法と言えば、冷たい水で洗い流し、赤い月光とは対極の、青い月光に晒すことだ。


 ブサメンは、魔法で水を生み出し、ロゼちゃんの患部にかける。だばー。


 「ちょ、少しは加減して――っ、いたたたた!」


 あ、沁みる? でも我慢して。


 「っていうか、私のことはいいので、イケメンさんは自分の傷を先に……」


 「俺がこの程度でどうにかなるとでも? まずは貴様の治療が先だ」


 「……その憎まれ口、もうちょっとなんとかなりません?」


 なりません。

 よし、水はこんなもんだろ。


 「しばらくここで月の光に当たっていろ」


 今日が青い月の満月の日だったらよかったんだが、まぁ、致し方なし。紫の月光でも青い月光の成分は混じっている。今はそれで我慢だ。


 「教会が機能していればよかったんだがな」


 「まぁ、それを言っても仕方ないでしょう」


 そう零してから、ロゼちゃんは、さっきまで王の骸がいたところを見る。


 「倒しましたね」


 「ああ」


 「ちょっと起きるのが遅かったんじゃないですか?」


 と、彼女が冗談めかして言った。


 「………。……、俺は寝起きが悪いのだ」


 「ちょっと、そんな申し訳なさそうな顔しないでくださいよ。冗談じゃないですか」


 「そんな顔はしていない」


 「いや、今にも死にそうなくらい沈んだ顔してましたけどね。気にしないでください。そもそもイケメンさんがいなきゃ私は死んでました。でも、謝りません。信頼し合う冒険者パーティーは、一々助けられた時に謝罪なんてしないそうなので」


 「……ふん。なるほどな」


 「だからお礼だけ言っときます。ありがとうございました」


 「……………俺も、貴様には助けられた。礼を言おう」


 「でも、強いて文句を言うなら、最後のめちゃ強魔法、もっと早く使ってくださいよ」


 「そんな気軽に使えるものではない。無茶を言うな」


 「ええー、役立たず……」


 「おい」


 そんなことを言いながら、ブサメンが手を差し出すと、ロゼちゃんが手を握り返してきたので、グイッと引っ張って起き上がらせてやる。


 それから、パーン、といい音がするハイタッチを交わした。


 古き王の眠りし墓――攻略完了。


 

 Tips 雷帝降臨

 

 自らの身体を雷と化す魔法。本来は戦闘用ではなく魔法の研究を効率化するためにシンクゥが開発したオリジナルスペル。雷速化した思考で魔法の術式を開発し、雷速化した動作で宝具を造り上げるための魔法だった。だからこそ彼は幼くしてあらゆる魔法、宝具を数多く作り上げることができた。ただし魔法の制御に失敗すると死亡するため、いつもいつも使っているわけではない。男爵の地下牢で術式の電子化をする際に使用したのもこの魔法。そんな切り札的な魔法だが、魔法の研究のためにはビビることなく使えるが、戦闘の際は割とビビッて使えないのが、シンクゥという男である。


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