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メインクエスト23「古代の王の墓を暴け⑨」

 「もう一度言う。余の軍門に下れ。特別に生きたままでも構わん。生者の国にスパイとして送り込むには、生きている方が好ましい。さすればそこの醜男の命だけは助けてや――」


 デュラハンの攻撃を凌ぐブサメンの耳に、ロゼちゃんと王の骸の会話が聞こえてくる。

 どうやら王の骸は、ブサメンの命を盾にロゼちゃんを勧誘しているらしい。それに対するロゼちゃんの反応は――。


 「お断ります」


 NOだった。もう少し悩んでくれてもいいんじゃないかと思う。ブサメンの命を慮って?


 どうやら、ロゼちゃんは王の骸に対して相当なフラストレーションを抱えているらしい。まぁ無理もない。手記を読んでいた頃から暴虐の限りを尽くした王の骸にはイライラしていたしな。その結果が、これだ。


 「そのとち狂ったことしか考えられない頭蓋、叩き割ってあげます」


 「……どこまでも癇に障る女だ」


 対する王の骸も、小娘の生意気な口の利き方に我慢の限界だったらしい。奴が王となってから、ここまで舐めた口を利かれたことはなかったのだろう。王の骸が気炎を上げると同時に、眼窩の鬼火が一際強く燃え上がる。


 「余に従わぬのなら、殺してからアンデッドにして従えるまでのことよ。その方、極刑に処す!」


 王の骸の誘いを一蹴したロゼちゃんに、死刑宣告が下される。

 それと同時に、王の骸が持つ混沌の王笏から、視界を赤く埋め尽くすような大量の月光弾が連射された。


 ガガガガガガッ、とまるでアサルトライフルのごとき連射に、しかしロゼちゃんは臆するどころか前に出た。


 ハンマーという巨大な武器を持っているとは思えない軽やかな動作で、月光弾の隙間を縫うように走り、そのすべてを回避する。王の骸が彼女の軌道を追うように月光弾を飛ばすが、美しい銀髪を翻しながら変則的な動きをする彼女を捉えることはできない。


 やがて王の骸は、ロゼちゃんの動きを先読みし、逃げ場を封じるような偏差射撃で壁際まで追い込むが――彼女は走り回る勢いをそのままに、なんと壁を駆け上がり始めた。そのまま身体を反転させて天井さえも足場にして王の骸の真上まで一気に迫る。


 これが物理法則に縛られない、高ステータスの冒険者の動きだ。装備に頼った王の骸など恐るるに足らず――そう宣言するように、ダンッ、と天井を蹴って、王の骸目掛けて勢いよく落下し襲い掛かる。


 いくら身のこなしに優れたロゼちゃんであっても足場がなければ、攻撃の躱しようがない。落下中の彼女を狙った王の骸が月光弾を放とうとする。


 被弾覚悟!? 無茶をする! クロロ! 魔弾を王の骸に向けろ!


 (は!? でもそれじゃデュラハンに対する弾幕薄くなるよ!?)


 大丈夫だ! ロゼちゃんを援護しろ!


 (ああもう、わかったよ!)


 「雷光、装填。集い来たりて敵を撃て――雷の魔弾(ボルテックス)!」


 ブサメンの前に展開した魔法陣から、電気を帯びた魔弾が連射される。それらはデュラハンに襲い掛かる、と見せかけて軌道を変え、王の骸の側面を襲った。


 「!?」


 王の骸の鬼火が揺らめく。明らかな動揺。


 そう、王の骸は迷った。真上からハンマーを叩きつけようとしてくるロゼちゃんと、真横から自分を撃ち抜こうとする魔弾――どちらを先に対処すべきか。いや、どちらも同時に処理すればよかったのだ。それだけの力が、奴にはある。


 だが、月光弾の雨の中を巨大なハンマーを担いで特攻してくる頭のおかしな女の迫力と、意識の外から襲ってきた魔弾で、おそらく頭の中がパニックになったのだろう。


 奴は、どちらの対応も疎かになった。

 そしてそれは、致命的な隙だった。


 「はああああああああああ!!」


 大地よ割れよ、と言わんばかりにロゼちゃんがハンマーを振り下ろし、王の骸の頭蓋に――叩き込む。


 ズガァン!!


 けたたましい衝撃音が王の間に響き渡る。ロゼちゃんの渾身の一撃の威力を物語るような破壊音だ。だが王の骸にダメージは入らない。


 なぜならば奴には三つの守護の指輪があるからだ。王の骸の身代わりとなった守護の指輪が一つ、砕け散った。


 残り二つだ。あと二回攻撃を当てれば、あとはあの骸骨面を叩き割るだけだ、そう言うようにロゼちゃんは可愛らしい顔に笑みを浮かべた。


 だがこちらの攻撃はまだ終わりではない。ロゼちゃんの攻撃とほぼ同時、ブサメンが彼女を援護するために撃った魔弾が、王の骸に襲い掛かる。


 雷光を帯びた弾丸が奴に直撃する――そう思った瞬間、魔弾と王の骸の間に割り込む影があった。


 デュラハンだ。首のない騎士は、魔弾が王の骸に向かったと見るや否や、ブサメンに対する攻撃を放棄し、魔弾を猛追し始めたのだ。そして左手に持ったショットガンを後方に向け発砲。その反動で推進力を得た巨体が魔弾を追い越し、そして王の骸の盾となる様に射線上に割り込んだのだ。


 数十発の雷の魔弾を浴びたデュラハンはその巨体を麻痺させ、硬直する。


 デュラハンは王の骸を守る騎士。ならば、攻撃を王の骸に向ければ、身体を張って守ろうとする――ブサメンの考えは正しかった。これで、ロゼちゃんの援護をしつつデュラハンの猛攻を中断させることに成功した。


 だが麻痺の効果も一瞬だけだ。


 デュラハンはすぐさま麻痺から復帰し、王の骸に追撃をかけようとしているロゼちゃんに斬りかかった。対するロゼちゃんは、小柄な体躯を活かして、幽体剣を振り上げていたデュラハン懐にスルリと潜り込み、強烈な一撃を叩き込んだ。


 デュラハンの無防備な脇腹に鉄塊がめり込み、筋肉と骨を抉りながら大きく殴り飛ばす。その巨体の落下地点は――ブサメンの目の前だ。


 吹っ飛んでくる巨体の影で僅かに視界を暗くしながら、ここぞとばかりに、クロロと揃って魔法の詠唱を開始する。


 「飛翔する大地は天蓋の如く、聳え立つ摩天楼はバベルの如し――地を這う者は空を舞う(グランパルト)


 「白い牙、命を食む星の触覚、等しく価値無き命は地に沈む――大地の牙(グラブハザー)


 一つは、地面を隆起させ、カタパルトのように対象を押し出す魔法、もう一つは地面や壁から棘を生やす魔法だ。


 弧を描いて吹っ飛んできたデュラハンが、地面の上に出現した魔法陣の上に落下した。次の瞬間、魔法が発動し、地面が勢いよく盛り上がり、スドン、とデュラハンの身体を天井付近まで撃ち上げた。


 その衝撃でデュラハンの背骨はへし折られ、身体を「く」の字に折り曲げられながら、宙を舞う。


 真上に跳ばされたデュラハンを待ち構えるのは――鋭い棘が生えそろった天井だ。クロロの魔法で創り出された棘が、デュラハンを待ち受けていたのだ。カタパルトで吹っ飛ばされ宙を舞うデュラハンに、これを回避する手段はない。


 グシャアッ、と生々しい音がして、魔法の棘は奴の身体を串刺しにした。地面に滝のような血がぶちまけられる。


 だが、これだけしてもまだデュラハンは死んでいない。頭を潰さなければ。


 降り注ぐ血の滝の下を潜り抜け、王の間の一点に向かって走り出した。そこは、王の骸が最初にワープホールを開いて見せた場所。すなわち、デュラハンの首が放り込まれている財宝の山がある場所だ。


 ブサメンの狙いは、デュラハンの首。首を潰してしまえば、奴はもう起き上がってこれない。二対一になれば、この戦いの形勢は、こちらが有利になる。


 だがそれが面白くないのが、王の骸だ。奴の鬼火がどす黒く染まり、憎々し気に燃え上がる。


 「舐めるなよ、墓荒らし風情があああ!」


 その罵声は、デュラハンの頭を狙うブサメンに向けられたものだ。だが奴の前にはロゼちゃんがいる。


 彼女を無視してブサメンを攻撃すれば、その瞬間、ロゼちゃんの打撃が嵐の如く王の骸を襲い、奴の防御手段――守護の指輪をあっという間に破壊し尽くすだろう。


 王の骸は、再び二択を迫られる羽目になった。ブサメンを攻撃するか、ロゼちゃんを攻撃するか。さっきは対応できていなかった。なら今度も――そう思った。だが。


 王の骸は、腐っても一代で巨大国家を築き上げた王だった。頭が悪いわけはない。奴は同じ過ちは繰り返さず、完璧に対応してみせた。


 ブサメンが財宝の山の中に雷鳴剣を振り上げながら突っ込もうとすると、目の前にワープホールが開いたのだ。


 「!?」


 いきなりのことに困惑するが、今更足を止めることもできず、ブサメンはそこに入り込んでしまった。


 そして――そのワープホールの転送先には、今にもハンマーを王の骸目掛けて振り下ろそうとしているロゼちゃんの横顔があった。


 うっそだろおい!? このままじゃ、ロゼちゃんに斬りかかることになっちまうぞ!


 彼女の真横に出現したワープホールから放り出されたブサメンは、雷鳴剣を振り下ろそうとする自分の腕を慌てて止めようとするが、もう間に合わない。


 ヤバいどうする腕、止まらな――。


 (スイッチ!)


 パニックに陥った頭の中にクロロの声が響く。その瞬間、ブサメンは雷鳴剣のスイッチを切った。シュン、と音がして、雷の刀身が消える。刀身が消えた雷鳴剣――の柄は、ロゼちゃんの身体の前を通過し、なんとか同士討ちという最悪の結末を回避することに成功した。


 しかし身体の勢いは殺しきれず、ロゼちゃんにぶつかる形で押し倒してしまう。その衝撃で彼女の手からハンマーがすっぽ抜けてしまった。


 これが漫画ならラッキースケベの一つでもあってもいいところだが、残念ながらそれを期待するだけの余裕は、今のブサメンにはない。


 すぐさま飛び起きて、襲い掛かってきた月光弾を再起動させた雷鳴剣で斬り捨てた。


 「チッ」


 だが迎撃し損ねた一発が、ブサメンの身体に命中し、装備していた防具がジュッと音を立てて溶けだした。


 一発喰らっただけでこれか! これだから安物は! 早く工房を持って防具も宝具にしたいなぁ!


 そう思いながら、半分溶解した防具を外して放り捨てる。

 その間にもデュラハンは天井の棘に刺さった状態でありながらも、藻掻くように暴れて、棘を破壊して抜け出してきた。


 ズダン、と着地したデュラハンは、血まみれになりながらも、幽体剣を構える。


 穴だらけの身体は、普通なら致命傷。アンデッドに限って言えばその限りではないが、それでも、動きは鈍っているようだ。幽体剣を持つ腕が、下がり気味だ。おまけに異邦狩りの散弾銃は棘に串刺しにされたときに壊れたらしい。その残骸が地面に転がっている。


 ……デュラハンにとどめを刺すことには失敗したが、奴の武器を一つ破壊することができたと思えば、まぁ、無駄ではなかったか。


 「さて、これからどうします?」


 「……」


 考える。


 デュラハンは大ダメージを負い、王の骸の防御手段も残すところあと二つ。着実に追い詰めてはいる。対してこちら側は、スタミナは多少消費したものの、ロゼちゃんはまだまだ戦えるし、ブサメンだって魔力に余裕はある。


 防具は壊れてしまったが……まだまだ戦える。大丈夫、こちらが有利だ。有利だが……。


 チラリ、とロゼちゃんの視線が、地面に転がっているハンマーに向く。彼女は、武器を手放してしまった。


 「(オー)……」


 ブサメンが魔法で呼び寄せようとするが、それより先に王の骸が、こちらを分断するように月光弾を放った。ブサメンとロゼちゃんは左右に別れるように回避するしかなかった。


 「チッ、面倒なことをっ」


 「これは、ちょっとまずいかもですね」


 ロゼちゃんと分断させられたブサメンの前には、王の骸が立ちはだかっていた。ならば当然、ロゼちゃんが相手をするのは、デュラハンだ。武器無しでアレの相手をするのはきついだろう。


 デュラハンがロゼちゃんに襲い掛かる。なんとかロゼちゃんの援護をしようとするが、先ほどのワープホールによる同士討ち攻撃に味を占めたのか、王の骸は、ブサメンが援護の動きを見せれば月光弾で攻撃してきて、雷鳴剣や魔法で王の骸に攻撃しようとすれば、ワープホールを開いてその攻撃をロゼちゃんの近くに転送し、同士討ちを狙おうとする。


 ロゼちゃんはデュラハンの攻撃を回避しているが、いつまでそれが続くか。デュラハンは身体がボロボロにも関わらず、動き続ける。痛みを感じず、手足が千切れようと動き続けられるアンデッドの強みだ。


 「きゃあ!?」


 ついにデュラハンの剣がロゼちゃんの腕をかすめた。彼女の白い腕が、赤く染まる。やはり幽体剣とロゼちゃんは相性が最悪だ。せめて彼女にも武器があれば――。


 いや、この手があったか!


 自分の閃きに従い、王の骸に斬りかかる――フリをする。


 「血迷ったか。愚かな」


 それが演技とも知らず、やはり奴はワープホールを開いてきた。もう一つのワープホールが開いた先は、ロゼちゃんの真正面だ。


 ブサメンは攻撃を中断し、黒い穴の中に雷鳴剣を放り込んだ。


 「受け取れ! 銀髪!」


 当然それは、彼女の正面のワープホールから出てくる。反射的にロゼちゃんが突如視界に飛び込んできた雷鳴剣をつかみ取る。


 自分が掴んだ物がなんであるかを理解したロゼちゃんは、即座に反撃体勢に入った。

 一方で、唐突な雷鳴剣の出現に、しかしデュラハンもすぐさま反応して見せた。ロゼちゃんの腕の動きで剣筋を読み、幽体剣で防御の構えを取る。


 うまく相手の意表を突いたつもりだったが、この攻撃はガードされる。そしてまた斬り合いが始まれば不利になるのは、ロゼちゃんだ。このチャンスを逃せば勝機はもう――。


 そう思った。しかしどうやらロゼちゃんの頭は冴え渡っていたようだ。


 彼女は幽体剣と交わる直前で雷鳴剣の()()()()()()()()


 唐突に消える刀身。結果、雷鳴剣の柄は、その刀身を防ぐつもりで構えられていた幽体剣の目前を素通りすることになった。


 そして。

 柄だけになった雷鳴剣が幽体剣の内側へと潜りこんだ瞬間。


 彼女は雷鳴剣を再起動させた。雷鳴と共に出現した雷の刀身が、デュラハンの身体を貫き、そのまま袈裟懸けに斬り裂いた。


 (ロゼちゃん頭いいね! 雷鳴剣で疑似的に幽体剣と同じことやったよ! 君より使いこなしてるんじゃない?)


 ほっとけ! だがロゼちゃんはよくやった!


 「雷光、装填。集い来たりて敵を撃て――雷の魔弾(ボルテックス)


 ブサメンは、自分のワープホールが利用されたことに唖然としている王の骸の隙をついて、デュラハンの頭が放置されている財宝の山の中に魔弾を放った。それと同時に、クロロに呼び寄せの魔法を使ってもらい、地面に転がっていたロゼちゃんのハンマーを自らの手の中へ呼び込む。


 なんとしてでも、今ここで、デュラハンを殺しきっておきたい。

 王の骸が我に返り、魔弾がデュラハンの頭が埋まっている財宝の山に届く直前で、ワープホールを出現させた。そして同時に、ブサメンの真後ろにもワープホールが開く音がした。


 王の骸がニヤリと笑う。自分の攻撃で背中を撃ち抜かれろ、とか思ってそうだ。


 だが、残念だったなと、ブサメンは笑い返す。お前ならそうすると思っていた。これはブサメンが予想した展開……いや、誘導した展開だ。


 魔弾に込めていた自壊術式を発動させ、ワープホールに呑まれる前に魔弾を消滅させる。


 「なに!?」


 王の骸が驚く声が聞こえる。


 ブサメンは、その声を置き去りにするように反転し、真後ろのワープホールに自ら突っ込んだ。転移した先は、当然、デュラハンの頭が隠されている財宝の山の真正面。そしてブサメンの手には、ロゼちゃんの武器であるハンマーが握られている。で、あるならば。


 辿り着く結論は一つだ。

 財宝を蹴散らし、露になったデュラハンの頭を、容赦なく叩き潰した。


 ロゼちゃんに斬られたにも関わらず起き上がろうとしていたデュラハンが、急に動きを止め、糸が切れた人形のように――崩れ落ちた。


 どれだけボロボロになろうと起き上がってきたデュラハンは、しかし、もう立ち上がる気配は、なかった。


 愕然とする王の骸を余所に、ブサメンとロゼちゃんは互いの武器を交換し、自分の手に戻ってきた相棒を王の骸に向け、嗤う。


 「これで二対一」


 「ですね」


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