↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/35

メインクエスト22「古代の王の墓を暴け⑧」

 吊り天井と階段を凍結させていた氷塊を溶かし、自動で上がっていく天井の下を潜り抜ける。


 「どうだ、大丈夫そうか?」


 「……はい。行けそうです」


 そうして再び二階に上がって、ひょっこりと通路の曲がり角から顔を出したロゼちゃんが、デュラハンの姿がどこにもないことを確認する。


 どうやらデュラハンは、ブサメンたちを追うのを諦めてどこかへ行ったらしい。


 「そういえば、ガラハドさんたちを放置して逃げて来てしまいましたが、よかったのでしょうか?」


 「助けようにも、あの牢屋を開けるには鍵が必要だし、助けたところで、奴らと行動を共にするのは無理だろう。後ろから襲われかねん。ダンジョンから出る時に、余裕があって、まだ、あいつらが生きていたら助けてやればいい」


 厳しいようだけど、あいつらだって冒険者だ。命を落とす覚悟くらいしているだろうし、散々迷惑をかけられたこっちが進んで助けてやる義理もない。


 「まぁ、そうですね。そうしましょうか」


 王墓の二階は、生き埋めにする対象を閉じ込めておくのが主目的の階なのか、一階ほど複雑な構造になっているわけではなかった。


 おそらくロの字を描くように通路が作られていて、その通路に不等間隔で牢屋のような小部屋が設置されているのだ。


 またガラハド達が捕まっている牢屋の前を通って何か言われるのが嫌だったので、さっきとは逆回りで二階の探索をしていたのだが、特に分かれ道があるわけでもなく、ただただ同じような景色の道が続くため、この階の通路構造をそう理解した。


 しかしあれだな、ほぼ一本道なのは迷わないから助かるけど、デュラハンと出くわす可能性が高まるのが嫌だな。もし遭遇したら逃げる方向は一つしかないし、それに……。


 「イケメンさん、グールのお出ましです」


 こうして時折遭遇するグールとの挟み撃ちにでもなったら面倒だ。だからエンカウントしたグールは逃げてやり過ごすことはせず、すべて倒すことにしている。幸い、こいつらはただの雑魚魔獣。数もそう多くない。倒すのは、容易だ。


 そう考えている間にもロゼちゃんが暴風のごとく獣狩りの戦槌を振り回し、複数いたグールを肉片に変えた。

 これでとりあえずは大丈夫。


 「二階に来てから、グールとの遭遇頻度が高くなりましたね」


 「ああ。それにトラップの数も多い」


 吊り天井に始まり、毒ガスとか矢とか落とし穴とか、色々だ。


 これはつまり……王の間とかそんな感じの部屋が、近くにあるから警備が厚い、という理解でいいのだろうか? 

 この王墓が何階建てなのかはわからないが、次の階くらいで財宝を見つけられるといいなぁ。


 そんなことを考えながらも、忙しなく視線を動かす。


 探しているのは、財宝はもちろんだが、デュラハンの首も、だ。見つけられたらいいなぁ、程度だが。

時折見かける牢屋の中を覗き込んだり、どこかに隠し部屋的な物があって、その中にあるんじゃないかと色々と探ったりしてはみたものの、何も見つけられず、結局、三階へと続く階段を見つけてしまった。


 「あ、上、行けちゃいますね」


 まぁ、見つけてしまったのなら仕方がない。行くか。

 さて、お次はどんな悪趣味な仕掛けが待ち受けていることやら。


 そうして階段を上った先に広がっていたのは、墓の中とは思えない光景だった。

 広い空間に、これまでの砂と石でできたダンジョンの殺風景な景色とは違い、床にはなんと十字を描くように小さな水路が走っているではないか。


 そこをチョロチョロと魔法で生み出された水が流れており、さらにはその水路によって四つの区画に分けられた床にはそれぞれ、白い花、水色の花、桃色の花、黄色の花が植えられており、とてもじゃないが、墓の中とは思えない。


 ブサメンもロゼちゃんも口をぽかんと馬鹿みたいに開けるしかなかった。


 これじゃ庭園だ。どうして墓の中にこんなものが、と思いもしたが、()()を見た時、すぐに理解した。この庭園には、豪華な椅子がいくつか用意されていて、それぞれにドレスを纏った女性が腰かけていた。


 肉は腐り落ち、落ちくぼんだ眼窩に眼球はない。かつては美しかったであろう髪も頭蓋骨に数本こびりついているだけ。ドレスも黒ずみ破れ、ぼろぼろの布切れと化していた。その女性だったものに、わずかに動く気配があった。


 こいつらもグールか。武器を構える。だがなぜか襲ってくる気配がない。

 魔獣が人間を襲うのは本能だ。だというのに、なぜ。


 「イケメンさん、まさか、この人たちは……」


 「……ああ」


 こちらに襲い掛かってこない理由は分からないが、代わりに彼女たちの正体には、すぐに察しがついた。


 この王墓に生き埋めにされたのは、戦士、使用人、そして――王の妻。他の誰にもとられたくないという理由で自分の妻を全員生き埋めにするという、横暴の結果、彼女たちはここに閉じ込められ、朽ち果てたのだ。つまり、彼女たちは、かつての王妃。言うなればここは、王妃の間なのだ。


 彼女たちは、この庭園にブサメンたちが入ってくると、軋むような動作で俯けていた首を動かし、こちらを見た。表情もなければ眼球もない頭蓋骨からはなんの感情も見ることはできない。


 そんな彼女たちの一体が、何か光る球体を膝の上で抱えるように持っていた。それはドクンドクンと脈打ち、幻想的にも、あるいは毒々しくも見える緑色の光を放っている。その光は、壁や天井を伝い、ダンジョン全体に伝わっているようだった。


 「まさかそれは……ダンジョンコアか」


 ダンジョンの心臓、墓が作られてから千年が経過しようと失われることのない膨大な魔力を内包する神秘の結晶。


 すっ、とダンジョンコアに見惚れていたブサメンの視線を誘導するように、王妃のグールが庭園の奥にある通路を指さした。それから、ダンジョンコアを持ち上げ、ブサメンの方に差し出すような動作をする。


 どうやら何かを伝えようとしているようだが……。この奥に行けばダンジョンコアをあげる、とでも言いたいのだろうか? そんなことあり得るのか?


 (でも、僕にもそう言っているように見えるよ。正確には、『この奥にいる奴を倒せば、これをあげる』、だと思うけどね)


 この奥にいる奴……王妃たちよりも奥の部屋にいる奴なんて、心当たりは一人しかいない。古代の国で暴虐の限りを尽くし、国が亡びることになった元凶であり、使用人や戦士、王妃たちを生き埋めにさせた悪逆の魔王。すなわち古代の王だ。


 「ようやく古代の王とやらとご対面の時間ですか? ずっと胸糞悪い人だと思っていたんです。ぶっ飛ばしていいと言うのなら、遠慮なく」


 ロゼちゃんはやる気満々のようだ。ブサメンとしても、まさか死んでいるとは言え、ご婦人からダンジョンコアを奪う訳にもいかない。古代の王を倒せばそれをくれるというのなら、異論はない。


 しかし、魔獣であるグールが攻撃対象である人間を襲わず、それどころか頼みごとをしてくるとはな。


 (魔獣としての本能よりも、王への恨みが勝ったってことかな。それに、手記にも書いてあっただろう? 死後も王にとらわれている我々を解放してほしい、みたいなこと。きっとこの人も手記を書いた人と、同じことを言いたいんだよ)


 「ふん、そういうことならば、いいだろう。銀髪、準備は?」


 「いつでもオッケーです」


 これまでのダンジョン攻略でスタミナは減っている。だが、士気は高い。つまり、問題はない。


 「いくぞ」


 庭園から伸びる通路を歩く。すると、すぐに大きな石の扉が見えてきた。

 この先にいるのが古代の王だと言うのならば、たとえ死者であろうと敬意を払う必要はない。


 「たのもう! です!」


 ロゼちゃんは石の扉をハンマーでぶん殴り、死者の眠りを妨げるような大きな破壊音を立てて、王の間に踏み入った。


 扉が粉々に吹き飛び、破片が王の間に散る。


 そこは、黄金に輝く空間だった。円形の広大な部屋と、天井を支える数本の巨大な柱、そして部屋の隅にところ狭しと積み上げられた――金銀財宝。その中心には、一脚の椅子。まるで玉座だ。いや、まるで、じゃないか。ここがどこなのかを考えれば、まさしくこれは、玉座なのだろう。


 であるならば。その玉座に座っている、この骸こそが、かつて暴虐の限りを尽くした王、その骸だ。


 白骨化した体に伽藍洞の目、片腕でブサメンの身長ほどもある杖を抱えるようにして眠っている。その杖の先端には、拳ほどの大きさの赤い宝石がついており、それが月の光を反射して、怪しく輝いていた。


 ダンジョンの中にいる間に夜になっていたらしい。


 上を見れば、天井の一部がガラスのように透明になっていて、そこから月光が降り注いでいる。そういえば手記に書いてあったな。王の遺体はアンデッドとして復活することが前提で埋葬された、と。この天窓から差し込んだ赤い月光を当てることで、アンデッド化させたのか。


 一歩踏み出そうとすると、聖なる青と穢れた赤が入り混じった、紫色の月光を浴びていた骸の指が、ピクリと動いた。


 その指が、杖を掴む。俯かせていた頭をゆっくりともたげ、そして――空洞の目が、ブサメンたちを捉えた。


 「城内が……」


 ! 喋った!?


 「城内が、妙に騒がしいと、思っていたのだ。なるほど、余の城に侵入した盗人がいたか」


 ただのグールは、話すことなんてできない。こいつは――高い知能を持ったアンデッド、おそらく、リッチだ。


 「余の財宝に目が眩んだか? 王の財宝に手を出そうなどと、この下民めが……」


 地獄の底から響くような声で、王の骸は吐き捨てるように言った。


 「万死に値する」


 ボッ、と伽藍洞だった眼窩に赤黒い炎が灯る。

 ダンジョン、古き王の眠りし墓――最後の戦いが始まった。



 ◇◇◇



 名前:リッチ

 レベル:30

 種族:魔獣

 体力:少ない

 魔力:極大

 筋力:ほぼない

 敏捷:かなり遅い

 知力:かなり高い

 抵抗:高い

 幸運:高い

 スキル:宝具マスタリー:その王の手は、掴んだあらゆる宝具の性能を理解し、そのスペックを完全に解放することができる。どれほど難解で、どれほど強大な宝具であっても、王の手はそれを屈服させる。

 装備:

①混沌の王笏:空間を捻じ曲げ操るその杖は、文字通り世界に混沌をもたらした。幾人もの反逆者を屠り、その血を啜った穢れた王笏。王を王たらしめる力の象徴。(空間操作)

②魔王の冠:それは支配者の証。それを纏った者は、彼の者の居城たる王墓の核とつながり、魔なる力の祝福を一身に受けることができる。(ダンジョンコア接続)

③守護の指輪×3:非道な王に苦しめられていた人々の、大切な人を守りたいという願いから造り出された守りの指輪。あらゆる攻撃から、持ち主を一度だけ守る。されどその指輪は、憎むべき王の手に渡った。(攻撃無効化)

④死霊の指輪:永久の眠りに就いた者の魂を穢し、己に従わせる呪いの指輪。人の道から外れた力を宿すその指輪は、封印されていたが、それを破り、死を支配下に置いたその不届き者は、いつか裁きの時を迎えるだろう。(死霊術)

 


 鑑定魔法が王の骸のステータスをつまびらかにする。


 ――おい、ちょっと待て。空間を捻じ曲げ操る杖!? くくく空間魔法ってこと!? 空間魔法は、神話の時代に存在したと言われる伝説の魔法だぞ。その術式が込められた宝具を敵が持っているだと? ほ、欲しい。ぜひ研究したい!


 (王の骸を倒したら手に入るさ。倒せれば、ね……)


 脳内に響くクロロの声が引きつっている。


 まぁ、伝説と言われるだけあって、強力な魔法だろうしな。

 っていうか、そんなもん持ってる王がいたら、そりゃ大昔の人間も、どんな理不尽な命令されたって逆らえないだろうさ。あの宝具自体が、この部屋に転がっている金銀財宝にも劣らない価値がある。


 「死人に財宝なんて必要ないでしょう。私たちが有意義に使ってあげます。それともなんですか。お墓から出て、一緒にショッピングでもしますか? お財布としてなら、同行させてあげますよ?」


 ロゼちゃんが王の骸を挑発するように言う。それから、チラリとこちらに目配せしてきた。なるほど、これは……パフォーマンスだ。


 戦闘が始まる前に、念話で作戦会議の時間をつくるための、パフォーマンス。ここはロゼちゃんの思惑通りにしよう。


 『いいか銀髪。奴の主武装は、あの手に握っている杖だ。空間を操る力がある。具体的に何をしてくるのかは、何とも言えんが……空間転移で背後からいきなり攻撃してくる、くらいのことはしてきそうだ。迂闊に突っ込むな。まずは俺が、遠距離から魔法攻撃で様子を見る』


 「愚かな小娘が……その(ほう)、家畜の餌にしてやろうか。ふん、食いでは、なさそうだがな」


 『おそらく一番厄介なのが、この混沌の王笏だ。しかしこちらは二人。向こうは一体。空間系の攻撃は強力だが、制御は難しいはず。俺たち二人を相手にしながら、精密な宝具の操作は厳しいだろう』


 「は? セクハラですか? ああ、あなたの時代にセクハラなんて言葉ないから意味わかんないですよね? 私が説明してあげましょうか、時代遅れの老害さん?」


 ロゼちゃんから返事がないが、そもそも念話魔法は一方的に話しかけるだけの魔法なので当たり前だ。王の骸の言動に、頭に血が上ってブサメンの話を聞いていない、なんてことはないはずだ。たぶん。


 『混沌の王笏は、その効果故に魔力もバカ食いするだろう。それを補助するのが、魔王の冠だ。あれでダンジョンコアから魔力を受け取っているようだ。そして低い防御力を補うための守護の指輪まで装備している』


 つまり攻守ともに完璧だ。めんどくせぇ。


 死霊の指輪は……今はあまり気にしなくていいだろう。その効果は、死体をアンデッドと化して復活させ、使役するというもの。この死霊の指輪で、生き埋めにされた連中をアンデッドにしたのだろう。生きているブサメンたちにはあまり関係ない。殺されたらあいつの奴隷にさせられるけど。


 「余の時代には、その方よりも豊満な女など腐るほどいた。その方など、話にもならぬ。時代は進んでも、人は退化してしまったらしい。それも、随分小さく、慎ましやかに。どこがとは言わんが、な」


 そして奴のスキル――宝具マスタリー。これも直接の攻撃手段ではないが、フレーバーテキストを読む限り、装備している宝具の能力を十全に引き出すというかなり珍しいスキルだ。王の骸が、空間操作のできる王笏などというオーパーツを操作できるのは、このスキルのおかげだろうな。


 「は? 女の子の体型に口出しとか正気ですか? 長い年月を生き続けて、頭がアッパラパーになっちゃいましたかー?」


 ブサメンが長々とロゼちゃんに情報を渡している間、ロゼちゃんはひたすら王の骸と口撃を交わしていたらしい。


 何を言って何を言われたのか、ブサメンは、奴のステータスを読み解くのに夢中でほぼ聞いていなかったが、彼女のこめかみには青筋が立ち、王の骸の眼窩の鬼火は苛立たし気に燃えている。


 「口の聞き方がなっていないな。余自らが躾けてやろう」


 と、そこで眼球代わりの鬼火がブサメンを捉えた。


 「その方の相手は、我が国の戦士長がする。戦士長。来い」


 王の骸が声を張り上げる。


 なんだ、仲間を呼ぶ気か? というか戦士長ってまさか、あのデュラハンか!?


 「……」


 しかし王の骸の声に反して、デュラハンはやって来ない。


 「ぬ? なぜ来ない……その方ら、まさか戦士長を倒したとでも言うのか?」


 と、そこで王の骸は、持っていた混沌の王笏を一振りした。


 すると、王の骸の手元と、そこからかなり離れた所の部屋の隅の一角の空間に、穴が開いた。何もない空間に、黒い穴がぽっかりと。


 王の骸は、自身の手元側にできた穴に手を突っ込むと、なんと、もう一つの部屋の隅にある穴から王の骸の手が出てきた。そしてすぐ傍に散らばっている金銀財宝の山の中に腕を突っ込み、中を漁り出した。


 お目当てのものはすぐに見つかったのか、その白骨の手は何を掴んだようだ。ズルリと黒い穴から引き抜かれた王の骸の手には――生首が握られていた。おそらく、これが……あのデュラハンの頭部なのだろう。


 まさかあんなところにあったとは……。


 「ふむ、頭はここにある。ということは、まだ死んでいないはず。まったく、奴め、何をやっておるのだ」


 王の骸が腹立たしげに呟く。

 それを見ていたロゼちゃんが、ゴクリと慄いたように喉を鳴らした。


 「……あれが空間を操る力、ですか」


 離れたところの空間を、あの黒い穴――ワープホールとでも呼ぶべきか――で繋ぎ、物体の転移を可能とする。それがあの混沌の王笏の力。 


 ワープホールを設置できる範囲が、どの程度なのかはわからないが、もしこのダンジョン内全域に設置できるとしたら。

 それはつまり……。


 「来い、我が従僕」


 再び、王の骸が杖を振り、ワープホールを出現させる。


 「まさか!」


 黒いワープホールから出てきたのは――首のない騎士、デュラハンだった。


 右手にはあの曲刀。左手には……なぜか一体のグールを掴んでいる。黒焦げのボロボロにしてやったにもかかわらず、デュラハンの肉体は元通りになっていた。筋骨隆々の身体は炭化しておらず、エネルギーに満ち溢れている。


 回復しているだと? ……いや、なるほど、そういうことか。だからグールを掴んでいるのか。


 デュラハンのスキル、エナジードレインでグールから体力を奪ったのだろう。王の骸が奴を呼んでも来なかったのは、回復中だったからか。


 「戦士長、そこの醜男の相手をしろ」


 王の骸の言葉に、デュラハンがグールを投げ捨てて、曲刀を構えた。

 そして――床を抉る勢いで踏み込み、ブサメンに向かって一直線に突進してくる。


 「雷光、装填。集い来りて敵を撃て――雷の魔弾(ボルテックス)


 「破滅をもたらす極光、打ち鳴らすは雷鳴。灰となりて散る者よ、墓標にその名を刻み込め――雷のごとく落ちる撃鉄(ヴォルザーク)


 ブサメンとクロロによる同時詠唱を開始。

 魔法で迎撃しながら後ろに下がり、距離を保とうとする。


 幸い、デュラハンは盾を失った状態だ。ブサメンたちがこいつから逃げるときに奪ってスノボー代わりにして、そのまま乗り捨てたからな。


 だがデュラハンは、死を恐れない不死の戦士。多少の被弾などお構いなしで突っ込んでくる。とはいえ、「雷の如く落ちる撃鉄(ヴォルザーク)」は一撃で奴の全身を黒焦げにするくらいの威力はある。


 デュラハン自身もそれを、身をもって経験しているからか、この魔法だけは躱し、魔弾は被弾覚悟で接近してくる。


 敏捷と耐久力を兼ね備えた戦士か。

 こういう手合は、大規模魔法で一気に制圧したくなるが……。


 (今弾幕を薄めると、即座に接近されるよ)


 だよな。


 (雷鳴剣のリミッター外す?)


 当たるか? 刀身がでかくなって威力と攻撃面積はデカくなるが、その分振り回しにくくなるぞ。


 (じゃあ、あっちのスタミナが減るまで持久戦?)


 ……アンデッドにスタミナという概念があるのだろうか。

 それより、せっかくデュラハンの頭がある場所がわかったんだ。

 そっちを直接攻撃したいが……試しに首が隠されている財宝の山に向かって魔法の照準を合わせると――。


 ズガンッと異邦狩りの散弾銃を撃ち、ブサメンを牽制してきた。


 チッ、そううまくはいかないか。

 と、散弾を魔法で防ぎながら舌打ちをする。


 何にしろ、いつまでも逃げ回っているわけにはいかない。

 どこかで隙を見て、奴の頭を潰しに向かわないと、ジリ貧だ。



 ◇◇◇



 シンクゥがデュラハンに苦戦している一方で、ロゼもまた、王の骸の攻略に難儀していた。


 彼女から見れば、王の骸なんぞ細っこい骨でしかない。彼女が握る獣狩りの戦槌でぶん殴れば、複雑骨折なんて表現も生ぬるい、バッキバッキのバラバラの粉々になって、終わりだろう。事実、王の骸の防御力は低い。


 ただ、それも接近できれば、の話だ。


 敵は空間を操るなどというぶっ飛んだ力を行使してくる。ロゼにとっては、未知の力を扱う敵だ。迂闊に突っ込むことはできない。


 慎重にならざるを得ないロゼとは違い、王の骸は自らの力に絶対の自信を持っているのか、様子見なんてせずに、早々に攻撃態勢に入った。


 天窓から差し込む月光に向かって、混沌の王笏を掲げるように突き出す。すると、杖の先端の赤い宝石が怪しく輝き、降り注いでいた紫色の月光が、青い光と赤い光に分離し、二股に別れた。


 青い月光は王の骸を避けるように地面に当たり、赤い月光は杖の先端に留まり、球体に収束していく。

嫌な予感がする。


 それを見たロゼは、自分の予感に従っていつでも動けるように、わずかに踵を地面から浮かせた。その瞬間、チカッと混沌の王笏の先端が輝いたと思ったら、赤い光球が弾丸のごとく発射された。


 「!?」


 赤い月光の弾丸――すなわち、邪神の瘴気が漏れ出したものであり、人間にとっては毒でしかない。


 ロゼは間一髪のところで横っ飛びに躱した。地面に着弾した赤い月の弾丸――月光弾は着弾地点をその毒性でわずかに溶かしたらしく、白い煙が上がっている。


 「今のはなんですか!?」


 というのは、もちろん敵である王の骸に向けられた疑問ではない。彼女の暫定的パートナー、シンクゥに向けられたものだ。


 魔法に精通している彼なら、今の攻撃の原理を解き明かしてくれるだろう、と期待を込めての問いかけだったが、果てしてシンクゥからの返答は――。


 「!? く、ちょっと待て!」


 だった。


 それはそうだ。彼は彼で首のない騎士に追い回されている。月光弾のことを解説する余裕なんてない、そう思ったとき、シンクゥが叫ぶようにしてこう言った。


 「その杖で! 空間を! あぶなっ、捻じ曲げたのだろう! 光は空間に沿って! 進む性質がある! 細かい原理はさておき、その杖を使えば、光の屈折、任意の波長の抽出ができるのだろうよ!」


 「!」


 そこまで学問に精通していなロゼにはわからないが、空間を操ればそういうことが可能、ということなのだろう。そして聖なる青い月光と瘴気である赤い月光が混じり合っている紫色の月光から、赤い月光のみを弾丸としてこちらに飛ばしてきた、そういうことだ。


 幸い、月光弾の弾速はそこまで速くはないし、直線上にしか飛んでこない。だったら、躱すことはそう難しくない、とロゼは判断した。


 「ほう、今のを躱すか」


 そう零す王の骸の声には、微かながら感嘆が混ざっていた。


 「ならば、こうだ」


 再び月光弾が飛んでくる。しかしその射線上に、ワープホールが開かれた。それと同時、自分の背後からブォン、という微かな音が聞こえてきた。ロゼは目で確認するよりも早く、反射的に振り返りながら、獣狩りの戦槌で自分の背後を薙ぎ払った。


 その行動は、正しかったようだ。ハンマーに何かが当たった感触があった。振り抜いた自分の得物を見れば、わずかに白い煙が上がっている。


 射線上にあったワープホールを通って、自分の背後に出現したもう一つのワープホールから出てきた月光弾を、ギリギリ打ち砕くことができたのだ。


 あの「ブォン」という音は、おそらくワープホールが開くときの音だ。


 そのわずかな音に気付けなければ、背後から月光弾を食らっていた。その事実に、ロゼの心臓が早鐘のように鳴る。


 「驚いた。まさかこれほどとはな」


 王の骸の方が、カタカタと揺れる。どうやら笑っているようだ。

 そして何を考えたのか、とんでもないことを言いだした。


 「その方、余の軍門に下れ」


 「は?」


 「我が軍勢の補充をしなければと、思っていたところだったのだ」


 それを聞いてロゼは、何を言っているのかと顔を顰める。しかしすぐに脳内に閃くものがあった。


 「まさか、ここに乗り込んできた冒険者を殺さず牢屋に閉じ込めたのは……」


 「ふん? ああ、戦士長が捕らえたあやつらか。あの薄汚い冒険者どもは、ただの情報源だ。ダンジョンの外の情報を教えてもらうための、な。そしていずれ殺さずに解放し、このダンジョンの位置をほかの冒険者どもにバラまいてもらうのだ」


 かつて王の骸は、アンデッドとして蘇り、アンデッドの軍勢を率いて自分の国を襲った。その時、一人の宮廷魔法使いの魔法によって砂の津波に飲み込まれ、王の骸の配下の多くが砂の下に呑まれた。


 アンデッドのエネルギー源は、魔力もしくは瘴気だ。砂の下に埋まり、赤い月光を浴びることができなくなったアンデッドは、その活動を停止させた。


 「砂に呑まれたアンデッド兵どもの代わりが、必要なのだ。余の配下となる代わりのアンデッドが」


 ガラハドたちがばら撒いた王墓の情報におびき出された冒険者を殺し、アンデッドにして自分の配下にする。そうして自分の勢力を拡大させるつもりなのだ。


 「もう一度言う。余の軍門に下れ。特別に生きたままでも構わん。生者の国にスパイとして送り込むには、生きている方が好ましい。さすればそこの醜男の命だけは助けてや――」


 「お断りします」


 一刀両断。即断即決。

 交渉の余地などない。


 そして、ロゼはハンマーを構えた。ホームラン宣言をするバッターのごとく、王の骸に暴力の塊のような鉄塊を向けて。その可愛らしい顔に壮絶な笑みを浮かべて。


 「そのとち狂ったことしか考えられない頭蓋、私が叩き割ってあげますよ」


 ――宣言する。


 「……どこまでも癇に障る小娘だ」



 Tips リッチ


 生前、高い知力を有していた、あるいは、高い地位にいた人間が赤い月光に侵されて変貌したアンデッド。基本的にアンデッドが言葉を話すことはないが、リッチだけは別。生前が魔法使いだったのなら、魔法を使う可能性さえある。例に漏れず、頭部を破壊すれば倒すことは可能。捕獲は難しく、また珍しい魔獣であるため研究が進んでいない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。