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メインクエスト21「古代の王の墓を暴け⑦」

 「あ」


 と、ロゼちゃんがピタリと足を止めてから、深いため息を吐いた。


 「はぁ、ようやくですか」


 そこにあったのは、上へと続く階段だ。


 「ああ。やっと次の階に進むことができるようだな」


 王墓はまぁ、それはもう、広大だった。ピラミッド型だから一階が一番広いというのはあるんだろうけど、迷路みたいだし、グールはうろついてるし。この階段を見つけるまで、かなりの時間がかかった気がする。


 さっさと次の階に行きたいと言わんばかりに、ロゼちゃんがブサメンを追い越して階段に足をかけた。その瞬間、カコン、と彼女が足をのっけた階段の一部が、スイッチを踏んだかのように沈み込む。


 「あ」


 ロゼちゃんからさっきの「あ」とは別の「あ」が零れたその瞬間、天井の一部が勢いよく落ちてきた。


 「!!」


 あっぶね!!


 寸でのところでロゼちゃんの腕を引っ張って、彼女が天井の染みになるのを回避した。

 腕の中のロゼちゃんからは、バクバクという激しい心臓の鼓動音がブサメンにまで伝わってきた。


 「あ、ありがとうございます。死ぬかと思いました」


 「気を抜くな。少しの油断で命を落とすぞ」


 それにしてもいやらしい位置にトラップが設置してあるな。

 階段を見つけてやっほいと喜んだら、一気にあの世に直行させるコースだった。


 しばらくすると、自然に天井が上がって行って、元の位置に戻る。いわゆる吊り天井というトラップだ。おそらく魔力で天井を吊り上げる仕掛けを動かしているのだろう。


 一度トラップが発動すれば終わりというわけではなく、魔力がある限り何度も再装填されるトラップなわけだ。これがあるから、人工のダンジョンは嫌なのだ。


 落ち着いて階段をよく見ると、スイッチになっている部分が、わずかに色が変わっている。


 それを踏まないように注意してソロリソロリと階段を上った。そうして、ブサメンたちはようやく王墓の二階に辿り着いた。


 階段を上った先は、T字路になっていて、どちらも暗闇の奥へと続いている。ここからじゃその先は見通せず、どちらに行けばいいのかも見当がつかない。


 とりあえず左の道から進んでみることにして、トラップに気を付けながら薄暗い通路を歩く。しばらくすると、鉄格子がはめられた小部屋があった。


 (……なんか、あの時を思い出す部屋だね)


 ああ。丁度ブサメンも同じことを考えていた。ブサメンがまだ孤児院がいた頃に起こった事件。あの地を納める男爵が自分の屋敷の地下に孤児を閉じ込め、人身売買や悪魔の生贄にしていた、あの地下牢、それを彷彿とさせる小部屋だった。


 ただ、この小部屋には鍵がかけられていないようで、南京錠が外されて扉が半開きになっている。中を覗き込んでみるが、空っぽだ。誰もいない。


 「なんでしょうね。この部屋」


 ロゼちゃんに言われて考える。どう見ても牢屋的な部屋だ。つまり、誰かを閉じ込めていたのだろう。となれば……。


 「……おそらく、生き埋めにした使用人や兵士を閉じ込めていた場所だろうな」


 生き埋めにされた奴の中には、生き埋めなんて嫌だと思った奴だっていただろう。あるいは全員が、そうだったかもしれない。そんな彼らが墓から脱出できないように、ここに閉じ込めたのだ。


 そして一階で出会った古代の戦士のグール。彼らがここに閉じ込められていた、生き埋めにされた戦士だと言うのなら、グールになったことでこの檻から解放された……と考えることができる。アンデッドとして復活した、古代の王によって。


 「反吐が出ますね」


 「その怒りは、今はまだ、しまっておけ。財宝があるのは、王の間だろうからな。蛮行の原因とは、そこで嫌でも相対することになる」


 「そうします」


 気合を入れるようにブォンブォンとハンマーをぶん回すロゼちゃん。

 ちょ、危ない危ない。怖い怖い。


 やる気満々のロゼちゃんは、もはや自らどんどん前を歩いていく。じゃんけんの意味が……。


 しばらくすると、一際大きな牢屋が見えてきた。そこの扉だけは、しっかりと鍵が掛けられているようだ。まさか誰かが入れられているのだろうかと思って鉄格子の隙間から中を見ると、そこには。


 「て、テメェ、クソガキ!」


 なんと山賊風の冒険者こと、ガラハドがいた。


 なにお前、なんでこんなとこにいんの?


 「なんだ貴様。まさか、こんなところに住んでいたとはな。いい部屋ではないか、家賃はいくらだ? ん?」


 あなたにお似合いの物件ですね。


 「っ、うるせぇ! 構うんじゃねぇ!」


 「あ、おい、バカ! 助けを求めないでどうする!」


 助け……ってことは、誰かに掴まってここに放り込まれたのか。ぷぎゃーww、ざまぁ。


 ガラハドは反射的に反抗的な態度をとってしまったようで、お仲間のゼストに頭をひっぱたかれていた。


 はは、哀れ☆


 「ふん、状況判断もまともにできんとはな。猿が」


 「なんだと!?」


 「はいはい、話が進まないので、イケメンさんも少しお口チャックしてましょうね」


 ブサメンに話をさせていても埒が明かないと判断したらしいロゼちゃんがブサメンを押しのけて前に出る。


 「あなた方は、どうしてこんなところにいるんですか?」


 「……お前ら、あの化け物みたいなアンデッドに遭わなかったのか」


 「アンデッド? それならここに来るまでの間に大量に倒してきましたが」


 「そこら辺にいる十把一絡げのグールじゃねぇ! もっと化け物みてぇな奴だ!」


 「と、言われましても、もう少し具体的に教えていただかないとわかりません」


 と、ロゼちゃんが苦言を呈すれば、ガラハドもようやく詳しいことを話し始めた。


 「そいつは……首のないアンデッドだった。剣と盾を装備していて……動きだってそこら辺のグールみたいにトロくさくねぇ。まるで高レベルの戦士を相手にしているみたいだった。そのグールは、俺たちを殺さずに、捕まえてこんなところにぶち込みやがったんだ」


 「首のない、グール、ですか」


 チラリ、とロゼちゃんが「何か知ってますか」と視線を送ってきた。


 「……おそらくそいつは、デュラハンだろうな」


 グールと同じくアンデッド系の魔獣で、生前、名のある騎士だった者がなるアンデッドだ。デュラハンが誕生する条件は、二つ。一つは生前、名のある騎士だったこと、そしてもう一つは、首がないこと。


 その昔、まだ戦が頻繁に起こっていた時代。高名な騎士が戦場で討たれると、その首が戦功の証として敵に持って行かれることが多かった。そのため、戦場には首のない騎士の死体が幾つも転がっていた。


 その首のない死体は赤い月光に曝され、アンデッドと化した。そうして生まれたのが、デュラハンだ。生前の高度な戦闘技術と高いステータスを維持している上に、アンデッドであるが故に痛みや死、恐怖と言ったものに鈍感で、自分の身体がどれだけ傷つこうとも構わず襲ってくる騎士の怪物。


 「どうして殺さずに、わざわざこんな檻に放り込んだのかはわからんが……まぁ、このままここにいれば碌な運命を辿らないことくらいは容易に想像がつく」


 それを聞いたガラハドたちが顔を真っ青にする。


 「い、今までのことは謝る。ここから出たら罪も償う! だから――」


 出してくれ、そう続けようとしたのだろう。だが、ズシンという重たい音にその言葉はかき消された。


 「き、来た! この足音! 早く俺たちをここから出してくれ! おい、早くしろよ! 出せって! 出せよおおおおおおおおおお!!」


 ガラハドとその仲間が尋常ではない様子で、牢屋の格子を掴んでガチャンガチャン揺らす。


 「な、なんですか、この人たち」


 ロゼちゃんが顔を引きつらせて、牢屋から一歩離れる。


 「何が来るって言うんでしょうか」


 「ふん。そんなもの、決まっているだろう。こいつらをこんなところに放り込んだ――」


 足音は、近づいてくる。


 「化け物が、だ」


 そして、そいつは姿を現した。


 砂漠の国特有の関節部と胸部のみを覆った軽装の鎧。左腰には鉈のような大剣を佩き、背中にはタワーシールドを背負っている。そして……右腰にさげているのは……もしかして銃か? 古めかしい文様の刻まれた散弾銃のような物がぶら下げられていた。


 「あの銃……もしかして宝具ですか?」


 「だろうな、魔力を感じる」


 おそらく、連射できるようなものではない。単発式だろう。その銃口から放たれるのは、鉛玉ではなく、魔弾だ。遠距離攻撃あり、か。威力にもよるが、面倒な相手だ。


 他の装備も、たぶん宝具だろう。魔力を感じるし、何より独特の威圧感がある。

 だが何より目につくのは――。


 「首が、ありませんね」


 ロゼちゃんが静かに呟く。


 ブサメンたちの前にいる騎士は、首から上がなかった。

 予想通り、ガラハドたちを襲ったのは、デュラハンだった。


 しかし、デカい。身長は、軽く二メートル以上はありそうだ。

 鑑定魔法でステータスを視る。



 名前:デュラハン

 レベル:50

 種族:アンデッド

 体力:三日三晩素振りができる

 魔力:ほぼないと言ってもいい

 筋力:一度剣を振るえば、敵を十人薙ぎ払える

 防御:その筋肉は鎧のごとく断ちにくい

 敏捷:速く、捉えにくい

 知力:アンデッド故にほぼない

 抵抗:レベルの割には低い

 幸運:主君に恵まれず、死に方も恵まれなかった

 スキル:エナジードレイン

 装備:

 ① 幽体剣:魔剣。その刀身は夢と現を彷徨い、夢にあっては触れることが叶わず、現にあっては凡百の剣である。(透明化と実体化)

 ② 異邦狩りの散弾銃:砂の国の戦士が他国を攻め込む際に装備していた宝具。異邦人に多くの血を流させ、屍の山を築いた悪名高き武器。(他国人に対し攻撃力プラス20%)

 ③ 魔除けの大盾:魔除けの紋章である五芒星が刻まれた巨大な盾は、あらゆる魔法を拒み、所有者の抵抗値を上げる。古代の戦士は屈強な肉体を誇る反面、魔法やスキルに対する抵抗値が低かったため、この巨大な盾は戦場では必須の防具だった。(魔法無効化)


 備考:砂と神秘に覆われた古代の国の戦士長だった。生き埋めにされる際、その死後も、王の護衛としてアンデッドになることが決められており、より強力な護衛にするため首を切り落とされ、デュラハンとして蘇らせられた。



 (あいっかわらず読みにくい鑑定魔法だなぁ、もう!)


 言わんとすることはわかるよ。数字とかで表現して見やすくしてほしいんだろ? でもブサメン的にはこういう匂わせるテキストというか、遠回しな説明文というか、まさにフレーバーな言い回しが大好きだ。


 (はいはい、さよですか。で、シンクゥ? あの幽体剣って、どんな効果なの?)


 ……よくわかんない。


 (よくわかんないかぁ。鑑定魔法の意味よ……まぁ、でも、名前とフレーバーテキストから察するに、幽霊みたいに透明になれる剣ってところかな。だとするとあの剣、ちょっとロゼちゃんとは相性悪いかも)


 ふぅむ、確かにな。


 それに、盾の方はブサメンの天敵だ。強力な魔法を撃ってもあの盾でガードされるだけだろう。

 本体のレベルも高い。グールのように腐ってないから、動きが鈍いわけでもなく、装備も充実している。


 ……これは……ブサメン、ピンチの予感。


 デュラハンは、こちらを見ていた。


 目はなくともわかる。こいつは今、ブサメンたちを計っているのだ。強いか弱いか。殺せるか殺せないか。そして奴の出した結論は――。


 「来るぞ!!」


 殺せる、だ。


 デュラハンは左腰の剣を掴み、火花をまき散らす勢いで鞘から一気に引き抜いた。

 ならばと、こちらも雷鳴剣とハンマーを構え迎撃の体勢を取る。


 「あの剣、宝具だ。気をつけろよ!」


 「効果は!?」


 「……おそらく、物体をすり抜けることができる」


 「す、すり抜ける?」


 「つまりな――」


 デュラハンはブサメンを先に始末することにしたらしく、大きく跳躍してロゼちゃんを跳び越えると、落下の勢いそのままにブサメンに斬りかかってきた。


 「凶弾落ちて朽ちること違わず――鉄の花は開かれり(コスモティアーゼ)


 それに対し、ブサメンは防壁魔法を展開する。円形の、半透明のバリアが生成される――が、ブサメンは急いでそこから飛び退いた。


 着地と同時に振り下ろされたデュラハンの剣は、防壁魔法を()()()()、地面を斬りつけた。


 「こういうことだ」


 「なんですか、今の!」


 防壁魔法を斬り裂くでも、破壊するでもなく、すり抜ける。現に防壁魔法は破られず、まだ残っている。奴の剣、幽体剣は、幽霊のようにシールドをすり抜けたのだ。


 夢と現を彷徨う剣。夢とはつまり触れることができないもの。非実体の状態。対して現は確かにそこにあるものを指す。つまりあの剣は、非実体と実在の状態を行き来することができるわけだ。そして防御手段をすり抜けた直後に非実体化を解き、斬りつけてくる。それがあの剣の効果。


 防御魔法や鎧、盾といった防御手段は意味をなさず、もしもあの剣で斬られようものなら、筋肉さえもすり抜けて、内臓を直接斬られることになるだろう。だから防御力高めのロゼちゃんとは相性が悪い。その防御力がなんの役にも立たないのだから。


 「近接戦用の武器としては、反則級ですね。しかし剣は一本。私とイケメンさんのどちら一方が囮になって剣の攻撃を誘っている間に、もう片方が逆サイドから攻撃する。これでいけますね」


 ロゼちゃんが囮役でいい?


 (君が囮役やるんだよ!)


 へーい。


 「ならば俺が囮役をやってやる。貴様が攻めろ」


 「へぇ、意外と紳士的ですね?」


 「……まぁな」


 そういうことにしといてください。


 「来るぞ!」


 再び斬りかかってくるデュラハンを二手に分かれるようにして避け、ブサメンは幽体剣が握られている右手側へ、ロゼちゃんは何も握られていない左手側へ行き、挟み撃ちにする。初手は牽制用の魔弾だ。


 「雷光、装填。集い来たりて敵を討て――雷の魔弾(ボルテックス)


 轟音をなびかせ、雷を帯びた魔弾がデュラハンに襲い掛かる。


 「ちょお!?」


 すると反対側にいたロゼちゃんから驚いたような声が。

 それもそのはず、デュラハンが躱した魔弾が、ロゼちゃんの方に飛んでいったのだから。

 あ、しまった。挟み撃ちにしてるから放出系の魔法は使っちゃまずいのか。


 「何やってるんですかイケメンさん!?」


 ごめんよ。パーティーで戦うのに慣れてないんだ。いつもソロだったから。でもまぁ君の防御力なら当たっても大丈夫でしょ。余裕余裕。


 「うりゃあ!」


 しかしロゼちゃんは驚くべきことに、魔弾をハンマーで打ち返し、がら空きだったデュラハンの左半身に魔弾をぶち当ててみせた。


 思わずたたらを踏むデュラハン。これはチャンスかと距離を詰め、雷鳴剣とハンマーで両側から襲い掛かった。それに対しデュラハンが取った行動は、真上への大ジャンプ。天井まで飛び上がった奴は幽体剣を天井に突き刺し、左手で腰のホルスターに納められているショットガンを引き抜いた。


 うわ、やば!


 「凶弾落ちて朽ちること違わず――鉄の花は開かれり(コスモティアーゼ)


 咄嗟に防壁魔法を頭上に展開。ロゼちゃんは――ハンマーを掲げて防御態勢にはいっている。次の瞬間、こちらに向けられたショットガンのトリガーが引かれ、散弾がぶちまけられた。半透明の魔法防壁が途端に破壊されてしまうが、ブサメンの身体は無傷。ロゼちゃんも持ち前の防御力で耐えたようだ。


 デュラハンは剣を引き抜き地上に降りてくると、ショットガンをホルスターに戻し、背中のタワーシールドを構えた。ロゼちゃんは、その装備を持ち替える隙を狙って、獣狩りの戦槌をフルスイングする。しかしギリギリのタイミングで、盾に持ち替えられ、彼女の一撃はガードされてしまった。


 だが、まだだ。ロゼちゃんと息を合わせるように、雷鳴剣で斬りかかる。稲妻のごとく迸る剣撃は、デュラハンの腹を捌く軌道を描いていたが、幽体剣にその進路を阻まれた。


 破格の性能を持つ二つの宝具が、その優劣を競い合うように、鍔迫り合い、火花を散らせる。


 右側からは、ブサメンの雷鳴剣が。左側からはロゼちゃんの戦狩りの戦槌が。それぞれデュラハンを押し込む様に圧力をかけていく。


 デュラハンは双方向からかかる力に段々と膝を折り曲げていく――……が、渾身の力でタワーシールドを押し出してロゼちゃんを吹っ飛ばすと、幽体剣で雷鳴剣を弾き、こちらの腹を鋭い刃で薙ぎ払おうとした。


 「チッ」


 咄嗟に後ろに飛び退り、寸での所で刃を回避する。そのまま下がろうとするブサメンをしかし、デュラハンは逃がさなかった。その巨体からは想像もできない俊足で追い縋り、幽体剣を振り下ろす。


 (避けて!)


 その斬撃を反射的に受け止めようとして、クロロの声でそれがNGだったことを思い出す。


 そうだった、すり抜けてくるんだった! 


 咄嗟に身を捻り斬撃をやり過ごす。


 あっぶな! あのまま防御していたら雷鳴剣をすり抜けてきた斬撃にブサメンは真っ二つにされるところだった。


 「ええい面倒くさい!」


 こちらが回避に専念したのをいいことに、デュラハンの猛攻が始まった。


 連続で繰り出される剣捌きは、反撃の隙を与えてくれない。本来なら雷鳴剣で幽体剣を弾いてから攻勢に転じたいところだが……防御しちゃいけないって、むっちゃ不利だな!


 こちらの攻撃は剣を実体化させて防ぎ、こちらの防御は非実体化で無視してくる。受け身に回った瞬間に、一気に不利になってしまうのだ。


 だがこちとら魔法使いだ。剣の勝負で不利でも、まだまだ攻撃手段はある。


 クロロもよろしく!


 (オッケー!)


 「雷光装填、集い来たりて敵を討て――雷の魔弾(ボルテックス)


 クロロの発動させた数十の魔弾が解き放たれる。ただし、真上に向かって。


 奴がその軌跡を追うように上を見上げると、魔弾は弧を描き、デュラハンの頭上に落ちてこようと急降下を始めるところだった。デュラハンが咄嗟に盾を頭上に掲げ、魔弾をガードする。


 だが残念。それは囮だ。

 デュラハンの足が止まった隙に、今度はブサメンが詠唱を開始した。


 「破滅をもたらす極光、打ち鳴らすは雷鳴。灰となりて散る者よ、その名を墓標に刻み込め――」


 本命は。


 「雷の如く落ちる撃鉄(ヴォルザーク)


 こっちだ。


 指先から解き放たれた破壊の雷が、がら空きの奴の腹をぶち抜いた。ダンジョン内に激しい雷鳴が駆け巡る。


 雷のレーザービームを受けたデュラハンは、その衝撃に耐えることができず、壁際まで吹っ飛んだ。巨体が王墓の壁に激突し、もうもうと煙が立ち込める。


 その煙が晴れ、次第にデュラハンの姿が露になっていく。

 さすがにこの攻撃は効いたみたいだな。


 奴の身体は、黒焦げになっていた。

 だが死んでは、いない。デュラハンはズタボロの身体で、しかし再びゆっくりと動き始めた。


 そう、こいつはアンデッド。アンデッド倒すには、頭を潰すしかない。つまり、デュラハンを倒すには、どこかにある頭を見つけだして叩き潰さなければいけないのだ。


 だからこの戦闘には、意味がない。ブサメンたちは勝てない、勝ちきれない。


 そんなことはブサメンもロゼちゃんも分かっている。だからこれは、只逃げる時間を稼ぐためにデュラハンを弱らせておきたかっただけの戦闘だ。


 そして今、目的は達した。あとは逃げるだけだ。

 デュラハンも今の状態では碌に走れまい。


 ブサメンはデュラハンに背を向け、さっさと逃走しようとした。その時。


 「イケメンさん!」


 ロゼちゃんの声にはっとして振り返る。デュラハンが盾を投げ捨て、ショットガンをこちらに構えていた。


 「チッ」


 咄嗟に防壁魔法を張り、身を護る。だがデュラハンのそれは、驚くべきことに、ブラフだった。一瞬硬直したこちらの隙を見逃さず、デュラハンは――幽体剣の投擲体勢に入っていた。


 「!!」


 あ、やば。防壁すり抜けられたら、ブサメン、死――。


 「せいりゃあああ!!」


 死を悟ったブサメンの耳に、ロゼちゃんの雄叫びがなだれ込んできた。

 幽体剣が投げつけられる寸前で、彼女がデュラハンの懐に潜り込み、奴を殴り飛ばしたのだ。


 体勢を崩し、幽体剣の投擲に失敗するデュラハン。


 た、助かった!


 「生きてますか!」


 「ギリギリな! 礼を言う!」


 これでデュラハンの足掻きも失敗した。今度こそ逃げるぞ。


 「撤退だ!」


 「了解です!」


 だが、デュラハンは剣を杖代わりにして立ち上がり、ボロボロの身体で追いかけようとしてくる。


 しつっこい! そんな身体で動こうとするとか、主人公かよ。クソが! 万が一にも追いつかれるわけにはいかない。


 「盾だ!」


 「! はい!」


 たったそれだけでロゼちゃんは、ブサメンの意図を悟ってくれたらしく、すぐさまデュラハンが放り投げた魔除けの大盾を担ぎ上げると、来た道を戻るように走り出した。


 「な、なんだよ、助けてくれよ!! 追いていくなよおおおおおお!!」


 その背中に、ガラハドたちの絶望的な叫びが追い縋ってくる。

 だが、さすがに他人を助けている余裕は、なかった。


 その叫びを振り払うように、ブサメンもロゼちゃんの後に続いて、走り出した。

 後ろから激しい足音が聞こえてくる。ちらりと振り返ると、首のない巨体が右手に剣、左手にショットガンを持って追いかけてくるという最悪の絵面があった。


 ホラーゲームでも中々見ない絵面だぞ!


 ブサメンたちは懸命に走った。二階の通路を走り抜け、一階へ降りる階段の所まで戻ってきた。


 「流れよ――川の如く(アクオーズ)


 階段に魔法で水をぶちまけ、ロゼちゃんが担いでいた大盾をそこに放り投げた。そしてブサメンたちがそれに飛び乗ると、二人を乗せた大盾は、階段の傾斜と水が流れる勢いにのって一気に滑り落ちていく。


 「イイイイイイケメンさん! トラップのこと忘れてませんよね!?」


 「だだだだ大丈夫だ! 任せろ!」


 こんな時に喋るな。舌噛むぞ。揺れすごいんだから。


 この階段の一段目には、天井が落ちてくるトラップがある。このまま滑り落ちて行けば、それが発動するだろう、けど問題ない。いや、むしろそれが目的なのだ。


 一階が見えてきた。大盾は、そのまま階段を駆け抜け、ブサメンたちは一階の壁に激突する前に大盾から飛び降りた。わずかに遅れてトラップが発動し、天井が落ちてくる。大盾の滑り落ちる速度が速すぎて、トラップが作動する前にブサメンたちは、落ちてくる天井を潜り抜けたのだ。


 よし、あとは――。


 「凍り付け――凍結(フリースト)


 水びたしの階段に吊り天井が落ちる。それを狙ってブサメンは凍結魔法を発動。水が凍り、落ちてきた天井と階段がくっついた。そう、階段を仕切る壁ができたのだ。デュラハンはこれでもう追って来れない。


 「……」


 「……」


 まさかとは思うが、壁を破壊してデュラハンが追ってこないとも限らない。ブサメンたちは、息を殺して、身構えた。だが、壁が壊される気配はない。どうやら、デュラハンはブサメンたちを追うのを諦めたようだ。


 「「つ、つかれた」」


 何とか逃げ切ることができたブサメンたちは、顔を見合わせ、深い深いため息を吐く。


 「なんですか、あの化け物」


 「ガラハドたちがビビるのも、まぁ、わからんでもないな」


 壁に背中を預け、そのままずりずりと腰を抜かすように座り込む。


 「少し、休むか」


 「賛成です……」


 ロゼちゃんもぐったりである。


 このダンジョンに入ってからどのくらいの時間が経ったのかはわからない。何せここには窓なんてないのだから外の様子がわからないのだ。でも腹が減ってきたところを見ると、もしかしたら既に夕食の時間なのかもしれない。


 ブサメンはポーチの中から携帯食料を取り出して口の中に放り込んだ。口の中の水分がごっそりと持って行かれるような携帯食料に顔を顰めながら、同じくポーチから取り出した青白い液体の入った試験管を取り出して、口の中に含んだ。


 「なんです? それ」


 「……冷却液だ。魔法使いは、魔法を大量に使用したり、大容量の術式を演算しようとしたりすると脳みそが異常な熱をもつ。この状態が続くとオーバーヒートを起こして一時的に魔法が使えなくなる。これは、その熱を冷ますためのものだ」


 そう言うブサメンの額には玉のような汗が浮かんでいる。魔法の連続使用で頭が熱を持ったせいだ。


 「へぇ、なんか、身体に悪そうな色してますね。味は……ああ、美味しくないんですね」


 「……わかるか」


 「それはもう。顔を見れば。ゲロ吐く一歩手前みたいな顔してますよ」


 そうなんだよ。なんか下剤みたいな味すんだよ。これ。


 できればあんまり飲みたくない物だが……このダンジョンにいる限り、いつあのデュラハンと遭遇するとも限らない。万全の状態にしておかなければ。


 あとは魔力回復薬とか、体力回復薬とかあればよかったんだけど、意外なことに、この世界にはそういう物がない。


 ゲームに登場するような、いわゆるポーションがあれば、もうちょっと派手に魔法が使えるのに。そしたら、あのデュラハンも、もう少し楽に倒せるかもしれない。そう思いながら、ちびちびと冷却液を口にする。


 「……それで、どうします? あのデュラハン」


 ロゼちゃんも同じように携帯食料を取り出し、モソモソとそれを咀嚼した。

 昼飯(?)を食べながら魔獣攻略会議……これぞ異世界版ランチミーティング。


 「どうもこうも、あれを倒すには、奴の頭を見つけ出さなければならん。この王墓の中のどこかにあるとしても、広すぎる。見つけられん」


 「じゃあ、無視ですか?」


 「それがいいだろう。不安なのは、王の間にいるであろう古代の王との戦闘中に、デュラハンに挟み撃ちにされると面倒だ、という点だが」


 「……そうなったら、どちらかがデュラハンを足止めして、もう片方が古代の王の相手、ですかね」


 「ああ。そうなった場合、問題はどうやってあのデュラハンの足止めをするか、だが。あの魔剣……幽体剣は厄介極まりない。防御に回ったら、ほぼ詰む。近接戦は避けた方がいい」


 「ってことは、もし古代の王とデュラハン、どちらも相手することになったら、私が王の相手でイケメンさんがデュラハンですか」


 「そうなる」


 「わかりました。それはいいんですけど、勝てるんですか?」


 「確かに殺しきれないのは厄介だが、冷静に考えてみれば、どうとでもなる」


 「どうするんですか?」


 「拘束系の魔法で動きを止めてしまえばいい」


 (あれ、君、拘束系の魔法使えたっけ?)


 使えない。でもさっきトラップにしたように、氷漬けにしてしまうとか、そういうことならできる。


 (なるほど。まぁそれも、詠唱してる余裕があれば、だけどね。あの巨体にあの素早さだ。ちょっとやそっとの魔法じゃ、動きを止めることなんてできなさそうだ)


 なんとか隙を作るしかないな。


 「……今更なんですけど」


 「なんだ」


 「別にこのダンジョン、無理に攻略しなくてもいいのでは?」


 なんだと?


 そう訊き返そうとして、やめた。ロゼちゃんがブサメンを見る目に、申し訳なさが浮かんでいたからだ。なんでそんな顔するんだろうとも思ったけど、この子、まさか自分のせいでこんな目に遭ってるとか考えてないだろうな。


 自分が武器を造ってほしいなんて言わなければ、工房を建てるのを急ぐ必要もなく、こんなダンジョンに挑むこともなかったと。


 「ふん、本当に、今更だな」


 「でも、あんな化け物相手にしなくても……」


 「現存する未攻略のダンジョンにだって、あいつと同レベルの魔獣はいるだろうし、それに加えて高レベルの冒険者とだって競わないといけない可能性もある。だったらこっちの方が幾分かマシだろう……それに」


 「……なんですか?」


 「貴様、功績が欲しいのだろう。誰もが認め、貴様を称えるような功績が」


 彼女が保有するスキル、妖精賛歌で自身を強くするために。

 バハムート討伐の功績をブサメンから買いたいと言ったのも、そのためなわけだし。


 「ならばこのダンジョンを攻略しない理由はないだろう。必要だというのなら、このダンジョンを見つけた功績も、攻略した功績も、くれてやる」


 ブサメンの言葉を聞いたロゼちゃんの目が、大きく見開かれる。


 「ま、まさか最初からそのつもりで? でも、分かってるんですか? 伝説に残っているようなダンジョンですよ!? それを見つけたっていうだけでも、歴史に名を残せるレベルなのに……それを、どうして……私に? どうして、そこまでしてくれるんですか?」


 「別に、タダでくれてやるわけでもない。ただ、売るだけだ。金は払ってもらう。俺は、自分の工房が持てればそれでいい」


 ふふ、ハードボイルドだろう?


 (本音は?)


 ロゼちゃんの好感度が欲しいだけです。


 でもブサメンの女の子からの好感度って、命を懸けて危機から救ってあげてもたいして上がんないし、伝説のダンジョンを見つけた功績を譲ってあげても、どうせ上がんないんだろうなってのは、予想はしている。それでも、貢がずにはいられないんだ。これが……姫に弄ばれる童貞の気持ち。


 (何言ってんの?)


 まぁ、他にもちゃんとした理由はあるんだけどさ。恥ずかしいから言わないけど。


 「俺がここまでしてやるのだ。今更攻略をやめるなどと言ってくれなよ」


「……はい。あなたがそこまで言うなら、私も覚悟を決めます」


 驚きに見開かれていた彼女の目が、鋭く強い眼光を宿した。


「ふん。それでいい。休憩は終わりだ。行くぞ」


「はい」


 かくして冒険は続く。


 デュラハンという厄介な敵と、この墓の主であり、かつて暴虐の限りを尽くした王のアンデッドという、まだ見ぬ脅威を残しながら。けれども、なんとなく、終わりが近いような気がしていた。遠からず、古代の王とも相まみえることになるだろう。負けるわけにはいかない。勝って、財宝を持ち帰るのだ。


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