メインクエスト20「古代の王の墓を暴け⑥」
明くる日の朝。
ブサメンは王都の入り口の近くでロゼちゃんと合流した。携帯食料や携行ライトなど、冒険に必要になりそうなものを買い出しながら、ガラハドたちに襲撃されたことを明かした。
「はぁ!? あの人たち、宿まで来たんですか!?」
「ああ。おかげで寝不足だ」
「別にイケメンさんのことはどうでもいいですけど……宿屋の店主さんとリオンちゃんは?」
冷たいなこの子。クールビューティーロゼちゃんだ。
「……無事だ。破壊された宿の扉も魔法で直してきたし、問題はないだろう」
「そうですか……じゃあ、ガラハドさんたちがダンジョン内で襲ってくる危険性があるんですね」
「そういうことだ。ダンジョンの中で不意を撃たれると厄介だ。足の引っ張り合いになるかもな」
うんざりとため息を吐いたブサメンに、ロゼちゃんがニヤニヤと笑いかける。
「なんですかー? もしかしてビビっちゃいました?」
「抜かせ」
「ですよね。よかった。じゃあ、私たちの予定に変更はなし、ということでいいですね?」
「問題ない。たとえ貴様がビビったのだとしても、俺一人で行く予定だった」
「別に私だってビビってませんよ。じゃあ、さっさと行っちゃいますか?」
トライホーンを借りて、砂漠に出る。王都から少し離れたところで、ブサメンは宝玉を取り出した。
「イケメンさん、よろしくお願いします!」
よしきた。
「清廉なる女神の光、煉獄の炎となりて彼の者の罪を暴き出さん――月光は墓を荒らす」
魔法の詠唱と同時、ブサメンが持っていた宝玉が輝き始めた。
「な、なんかすごい光り始めましたけど!?」
宝玉から放たれた輝きは、やがて一本の光の筋へと収束し、砂漠の彼方へと伸びていった。
「なるほどな。呪文と宝玉、この二つが揃うことで、墓の位置を指し示す仕掛けが起動するわけか」
「じゃあ、この光の筋を辿って行けば?」
「ああ。そこに王墓があるに違いない。行くぞ」
「はい!」
トライホーンを駆り、光の筋を追って走り始めた。
日の光が厳しい砂漠では、速さこそ命。もたもたしていたら体力が奪われるばかりだ。トライホーンの体力が続く限りは、足を止めるつもりはない。
そうして走っている内に、前方に大きく盛り上がった砂丘が見えてきた。光の筋はそこを突っ切って大砂丘の向こう側まで伸びている。どうやらこれを越えないといけないらしい。トライホーンが、水かきのついた足を砂の斜面に差し入れ、勢いよく登っていく。
砂丘の天辺からは、あたり一面が見渡せたが、ブサメンたちが目指す王墓らしきものは見えない。
まだ時間がかかるようだ。そう思って大砂丘を下り始めた時。
グラグラと地面が大きく揺れ始めた。
「なんだ、地震か?」
「……の、ようですね」
さすがにトライホーンの足を止め、様子を見ることにする。
そういえば、王都に来るときも地震があったな。
ブサメンたちが乗っているトライホーンは、魔獣との戦闘にもよく駆り出されるせいか、この程度では動揺しないらしい。
頼もしい子。王都に来た時には、地震のせいで馬が暴れて荷台から放り出されて、挙句に兵士に捕まりそうになったからな。あの時は焦ったなぁ。
今回の地震もかなり大きい。すぐには収まりそうになさそうだ。
「イケメンさん!」
だが、のんびりしている場合ではないようだ。
ロゼちゃんの鋭い声と共に、ブサメンの耳がドドドド、と何か凄まじい音を捉えた。
音源の方、後ろを振り返るとそこには――大量の砂が押し寄せてくる最悪の光景があった。
砂の雪崩、土砂崩れだ。
「走れ!!」
怒鳴る様に叫び、手綱を操ってトライホーンを最速で走らせる。
トライホーンは跳ぶように走り出し、追いかけてくる雪崩からひたすら逃げる。
「ちょ、これ逃げれるんですか!?」
「いいから走れ! 文句を言ったところでどうにもならんぞ!」
「わかってますけどぉ!!」
ブサメンたちはやがて砂丘を下り切り、それでも止まらず走り続けた。
魔法魔法なんかこの状況を切り抜けるまほあああああああ駄目だ考えがまとまらねええ!!
うおおおおおおおおおおおおおおお、とりあえず逃げろおおおおおおおお!!
ドドドドドドドと凄まじい砂塵が巻き上がり、遂に雪崩はすぐそこに。うわ死んだかこれ、と反射的に目をつぶる。
「……?」
だがいつまでたっても衝撃が来ない。
恐る恐る目を開けてみれば、もうもうと砂埃が舞い上がっているが、雪崩はギリギリのところで収まっていた。
「た、助かった」
ロゼちゃんも真っ青な顔で息を荒くしていた。
「この辺りは、地震が多いのか?」
「いえ、今まではそんなことはありませんでした。地震が頻発するようになったのは、最近のことです」
ふぅん。なんか原因があんのかね。
そんなトラブルはありながらも、いくつもの砂丘を越え、流砂の滝を突破し、未だ誰も到達したことのない領域を目指した。道中、小さな魔獣には出くわしたものの、バハムートクラスの魔獣にエンカウントすることもなく、無傷かつ物資もほぼフルの状態で、宝玉が指し示す光の終点に近づいて行った。
そして一際大きな砂丘を越えた時、それは姿を現した。
ここまで来れば、もはや光の筋を辿る必要もない。見えた。あれだ。
天にそびえる四角錐の建造物。巨大な石を何百万、何千万と積み上げて造られた巨大な建物。まるでピラミッドだ。
ここが――。
「古き王の眠りし墓、なのか」
かつて邪悪と唾棄され、恐れられた王が眠る墓が、そこにはあった。
王墓は所々が崩れていたが、その荘厳さは失われておらず、時間の重みを感じさせるような出で立ちで、ブサメンたちを待ち構えていた。
その雰囲気に飲まれたように、ブサメンもロゼちゃんも、しばらくの間、ただただ王墓を見つめていた。
「……ようやく、辿り着きましたね」
「ああ」
「……あれ? でも確か手記によると、砂の津波で王墓は飲み込まれたんじゃなかったでしたっけ?」
そう言えばそんなことが書かれていた。
「地震のせいかもな。さっきのような大きな地震で、王墓を覆い尽くしていた砂が崩れたのかもしれん」
歴史と砂に埋もれた王墓。
だがここは、只の墓でも観光地でもない。ダンジョンだ。内部にはトラップがあるだろう。魔獣もいるかもしれない。
「本番は、ここからだ。行くぞ」
砂丘を降り、王墓に近づく。ぐるりとその周囲を回り、王墓の入り口らしき扉をみつけた。トライホーンから降り、その扉に近づく。
扉の両脇には、巨大な古代の戦士の像が置かれていて、それぞれの像が剣を掲げ宙で交差させている。その刀身には文字が彫られていた。
「なんて書いてあるんですか?」
「……片方の剣には、『世界を征服せし偉大なる覇王、ここに眠る』とあるな。もう片方には、『何人たりともその眠りを妨げることは許されぬ』だ」
「その文句から察するには、墓荒らし避けのトラップとかがあるんでしょうね」
「貴様、罠解除の経験は?」
「ありませんよ。斥候じゃないんで。そういうイケメンさんは?」
「あるわけないだろう。ダンジョンに潜るのさえ初めてだぞ」
「……」
「……」
「イケメンさん、先頭歩いてくださいよ。かわいい女の子を守る大役を、あなたに任せてあげます」
「俺は紳士だからな。レディファーストを常に心掛けている。俺の配慮に打ち震え、むせび泣け」
「……」
「……」
「だっさなきゃ負けよー、さーいしょはグー!」
「!?」
え、いきなり!?
「じゃんけん――」
ぽん!
「私の勝ちでーす。イケメンさんご愁傷さまでーす」
「勝手に死んだことにするな! まだ罠に引っかかってすらいないだろうが!」
「はいはい。じゃあ先頭お願いしまーす」
「いやいや待て待て待て! ちょっと待て! 常識的に考えて、前衛たる貴様が前を行くべきではないか? 貴様の防御力なら漢解除したところで問題ないだろう!」
「前衛とか後衛とか関係ありませーん。じゃんけんの結果は、この世のすべてにおいて優先されるんでーす」
「そんなクソみたいな世界に転生した覚えはない!」
「はい? 転生?」
あ、いや、なんでもありません。
(まぁ、いいんじゃない? 君なら前衛も張れるでしょ)
ぐぐぐ、わ、わかったよちくしょう。
ブサメンは渋々、巨像が掲げる剣のアーチを潜り、王墓の入り口に進み出る。
そこには石でできた両開きの扉があり、ちょっとやそっとの力じゃ開きそうにない。
魔法で破壊するべきかとも思ったが、どうやらその必要はないようだ。
ブサメンの持つ宝玉に何やら紋章が浮かび上がると、王墓の扉にも同じ紋章が浮かび上がり、自動的に扉が開き始めたのだ。
この宝玉、入り口を開ける鍵の役目も担っていたのか。一瞬浮かび上がった紋章は……古代の王家の紋章か何かかな。
ゴゴゴゴゴ、と重い音を立てて開いていく扉は、やがて動きを止めた。
中は暗く、光源はない。
「光よ、あれ」
魔法の光を浮かべ、ブサメンとロゼちゃんは、ついにダンジョンの中に足を踏み入れた。
何百年、あるいは千年以上の時を経て、人間が王墓に入った瞬間だった。そしてそれは、ダンジョンが招かれざる客を迎撃する準備を開始した瞬間でもあった。
ドクン、と。人間の心臓のようにダンジョンが強く脈を打つ。
「なんだ、今のは?」
「ま、まさか、ダンジョンコアが起動した音では!?」
ダンジョンには、色々な種類がある。かつて人間が住んでいた場所に魔獣が住み着き、そう呼ばれるようになったもの。もとから魔獣の巣であったもの。色々なダンジョンがあるが、中でも特殊なのが、この王墓のような侵入者がいることを前提とするようなダンジョンだ。
墓系のダンジョンは、墓荒らし対策として、人工的なトラップが仕掛けられているケースが多い。そしてそのトラップの多くは魔力で起動する。その魔力をダンジョン全体に供給する装置、それがダンジョンコアだ。
つまり、この王墓にはダンジョンコアが設置されていて、休眠状態になっていたそれが、扉が開いたのを感知して、再起動した、と言ったところか。そう考えたところで、ブサメンは光源魔法を消した。ダンジョン内は「昼間のように明るい」とは言い難いものの、魔法に頼る必要がないほどには、明るくなっていた。
これもダンジョンコアが起動したからだ。ダンジョンコアは、ダンジョンの壁を走っている回路……魔力回路を通して魔力をダンジョン全体に行き渡らせる。血管のようなものだ。魔力回路に流れ込んだ魔力は緑色に輝いており、それが光源となっていたのだ。
トラップがあるのは、確定だが……まぁ、視界が確保できたのはよし、と前向きに考えよう。これでこの部屋……エントランスがよく見えるようになった。
「うへぇ、趣味悪いですね」
王墓内の澱んだカビの臭いに顔を顰めながら、周りを観察していたロゼちゃんが眉間にしわを寄せた。なんぞや、とブサメンもそちらを見てみれば、なるほどこれは確かに趣味が悪い。
部屋の両脇には、人間の顔を象ったモアイのようなオブジェが幾つも並べられており、その表情はどれも嘆き苦しんでいるかのようなおぞましいものだった。
これを造らせた古代の王の趣味か、あるいは、ここに生き埋めにされることになった人たちを哀れに思い、その苦しみを少しでも誰かに伝えようと、彫刻家がそうデザインしたのか。
ブサメンたちは、そんな人の顔を模したオブジェの視線に曝されるようにエントランス中央を歩く。
かなり広いな。天井も高いのか、ブサメンたちの足音や武器がこすれる金属音がよく響いた。
エントランスの奥は、三股に別れた通路になっていて、このどれかが王の亡骸がある場所、いわゆる王の間に繋がっているのだろう。
「どれが正解のルートですかね」
「ううむ」
わからない。手記にも王墓の内部のことまでは書かれていなかった。
「……真ん中ですかね」
「なぜそう思う」
「勘です」
ちなみにブサメンは左の道だと思う。もちろん勘だ。クロロは?
(じゃあ……真ん中で)
よし。多数決により、真ん中の道を進むことになりました。
「いいだろう。では中央だ」
◇◇◇
通路を歩く。
外から見たとき、この王墓の一片の長さは数百メートルあるように見えた。かなり大きな建物だ。それに加えて、盗掘対策なのか、中は通路が別れて入り組んでおり、迷路になっているようだ。
通路もエントランス部分と同様にかび臭い所かと思ったが、空間が細くなっている分、ロゼちゃんとの距離が近づいたおかげで……うん、なんというか、いい匂いがした。カビの臭いが薄れていくようだ。
……もしかして、ロゼちゃんは殺菌作用でも持っているのだろうか。そんな君にはカビ〇ラーの称号を与えよう。今日から君はカビ〇ラー・ロゼだ。
(誰がありがたがるんだい、その称号)
床の上にうっすら積もった砂と靴がこすれ合い、ジャリジャリと音を立てる。音が鳴る足元を見て、気づく。何か、跡がある。
「これは、足跡か? いや……」
思わず足を止めてしまい、後ろから来たロゼちゃんがブサメンの背中に顔から突っ込んだ。
「うぷ、ちょっと、いきなり止まらないでくださいよ……って、なんですか?」
「足元を見ろ。何かの跡がある」
足跡のようにも見えるし、何かを引きずった跡にも見える。
「私たちが一番乗りのはずでは? まさか、ガラハドさんたちですか?」
「いや、奴らが来ていたとしても、俺たちより後ろのはず。こんな跡が残るはずが……」
と、その時、ロゼちゃんのとんがった耳がピクピクと動いた。
「イケメンさん、何か来ます。警戒を」
ズルリ、と通路の奥から、何かを引きずる音が聞こえた。
ブサメンもクロロを左手に憑依させ、ロゼちゃんもハンマーを構えた。
やがて魔力回路の光に照らされ姿を現したのは――人間の死体だった。
死体が動いているのだ。
アンデッドだ。
死後、瘴気によって穢され、魔獣となり果てた者の総称。
ボロボロの鎧を身に着け、刃こぼれをした曲刀を持つ姿は、まるでシェヘラザード王国の兵士のようだった。おそらく、生き埋めにされたという古代の戦士なのだろう。それが三体。
まずは鑑定魔法で戦力を偵察する。
名前:グール
レベル:30
種族:アンデッド
体力:少ない
魔力:少ない
筋力:少ない
防御:柔らかい
敏捷:遅い
知力:皆無
抵抗:少ない
幸運:なし
信仰;なし
スキル:エナジードレイン
アンデッドの中でも最弱のグールか。レベルの割にステータスが低いのは、こいつらが腐った死体だからだ。身体が腐っているため、筋力はなく、俊敏に動くこともできない。
当然知性なんてあるわけもない。唯一グールになったことの利点を挙げるのならば、魔獣になったおかげで、魔人種であった頃にはなかったスキルが持てるようになっていることか。
床の跡は、こいつらが足を引きずりながら歩いていた跡だったようだ。
「奴ら、エナジードレインのスキルを持っている。直接触れるな。体力を持っていかれるぞ」
「そんなヘマしませんよ」
そう言いながらロゼちゃんが前に出る。
「イケメンさんは、いざと言うときのために、魔力を温存しておいてください。こいつらは、私がやります」
「いいだろう。アンデッドの弱点は、頭だ。潰せ」
頭を潰さない限り、腕や足だけであっても地面を這うように動くらしいからな。
「了解です」
ロゼちゃんが両手で握るハンマー『獣狩りの戦槌』に力を込めると、ユラリ、と桃色のオーラが浮かび上がった。魔獣特攻が発動した合図だ。
「すぐに楽にしてあげます」
ハンマーのフルスイング。片手持ちにもかかわらず、その鉄塊はグールの頭を容易く引きちぎり、壁に叩きつけた。
難なく一体。続けざまに襲ってきたグールの足を払い、地面に転がったそいつの頭にハンマーを落とす。残り一体。最後のグールは、既に曲刀を振り上げ、攻撃態勢に入っている。
躱す余裕はないだろう、と判断し、ブサメンが手を出そうとするが、それより早く、なんとロゼちゃんは斬撃を受けながら、しかし、ちっとも怯んだ様子もなく、グールの腹に蹴りを叩き込んだのだ。そして、たたらを踏んだグールの頭上からハンマーを振り下ろし――頭から股下までを削り取った。
獣狩りの戦槌。魔獣を倒す時に威力を増すそのハンマーの性能が遺憾なく発揮された瞬間だった。
戦闘はあっけなく終わった。曲刀を受け止めたロゼちゃんの身体には、傷一つない。
彼女の装備は、一見すればただの洋服にしか見えないようなものだ。とは言え、もちろん、ただの服なわけはなく、魔法が付与された宝具だ。ただの服とは一線を画す防御性能を誇っている。
それにしたって、一切防御態勢を取ることもなく……。
これがロゼちゃんの戦い方か。高い防御力を活かして相手の攻撃を受け、高火力を誇るハンマーの一撃でカウンターを取る。肉を切らせて骨を断つ、とでも言うべきか。まぁ、肉すら切れてないが。
しかしこれがグールか。数体なら問題ないが、大量にいると脅威だな。感情がないから死を恐れることもなく、指一本でも触れてしまえばエナジードレインで体力を奪われ、抵抗ができなくなる。
ブオン、とロゼちゃんがハンマーを薙ぎ払い、こびりついたグールの肉片を振り払った。
ブサメンはねぎらいの言葉をかけようとするが、ロゼちゃんは盛大に顔を顰めていた。
「どうした。うっ」
彼女のハンマーを見てみれば、グールの血というか体液というか、なにやら強烈な臭いの腐汁が、まだまだベットリとこびりついていた。思わず顔を顰めてしまうくらいには、強烈な臭いを放っている。
何を思ったのか、ロゼちゃんはおもむろにこちらを振り返り――ブサメンの服でハンマーを拭き始めた。
「最悪です。ふきふき」
「最悪は貴様だあああああああああああああああああああああ!! きさ、きさm、貴様あああああああああああ!!」
何するかああああ!! こ、このガキ、赦さん!
ブサメンはロゼちゃんの手からハンマーをぶん捕ると、彼女の服にグリグリと押し付けてやった。フハハハハ! どうだ、ざまぁみろ!!
「んぎゃあああああああああああああああ!? なにっ、なにしてんですかああ!?」
「それはこちらのセリフだ!!」
「臭いんだから仕方ないでしょ!?」
「だからと言って俺の服で拭くな!」
「ふくだけに? やめてくださいよ。そんな面白くもないダジャレ言うの」
「ダジャレを言った覚えはないわクソ戯け!! 貴様という奴は! 貴様という奴は!!」
「ハンマー押し付けないでえええええ!! 臭い!! ラフレシアみたいな臭いになるうううう!!」
「今日から貴様のことはラフレシアと呼んでやる!」
「本当にやめてください!」
「ええい近づくな! 臭いが移る!」
「い、イケメンさんも十分臭いです!」
ぎゃーぎゃーぎゃーと、ブサメンとロゼちゃん(臭)のどっちの方が臭いか言い争っていると、鼻をつく臭いがさらに強烈になった。
「な、なんだこの臭いはっ」
「私じゃないですよ!? 私じゃないですからね!?」
ロゼちゃんがショックを受けた顔をする。
わかってるよ、ロゼちゃんじゃない。
思わず手で鼻を庇い臭気がする方を見ると、そこには何体ものグールが立っていた。
ブサメンたちが騒ぎまくったせいで、グールを呼び寄せてしまったらしい。
「もう、イケメンさんが騒ぐからですよ」
「もとはと言えば貴様がくだらん真似をするからだろうが。もういい、この数だ。俺が魔法で片付ける。俺の前に出るなよ」
「はーい」
「破滅をもたらす極光。打ち鳴らすは雷鳴。灰となりて散る者よ、その名を墓標に刻み込め――雷の如く落ちる撃鉄」
ドッ、と鉄砲の形にしたブサメンの指先から、紫電が走る。幾筋にも枝分かれした雷は、並み居るグールどもの頭を一斉に貫き、灰へと還していった。
ふ、と雷を放出し終えた指先に息を吹きかける。まぁ、そんなことをしても意味はないんだけど、様式美だ。
「お疲れ様です」
主に君のせいでな。
「この調子でさっさと攻略してしまいましょう。私、帰ってお風呂入りたいので。イケメンさんのせいで」
「ふん。俺もとっとと風呂に入りたいものだ。汗と砂とラフレシア臭が酷いものでな。銀髪のせいで」
「……」
「……」
「行きましょうか」
「うむ」
◇◇◇
シンクゥ達がグールと戦闘をしている頃。
王墓の入り口には、山賊のような見た目をした冒険者たちの姿があった。ガラハド一行だ。
「お、おいおい、マジであったぜ! これ、あの古代の王が眠ってるっつー墓だろ!?」
「伝説は本当だったのか。すげぇ」
「どうする? 俺たちだけじゃ心もとないし、クランの連中も呼んでくるか? もしかしたら団長が動くかも」
「いや、っていうか、これ、わざわざダンジョンを攻略しなくても、ここを見つけたって報告するだけで俺たち歴史に名を刻めるぜ。あいつらから手柄を横取りしちまおうぜ」
「馬鹿野郎!」
浮足立つパーティーメンバーをガラハドが一喝する。
「いいか。ここに来たのはダンジョンの攻略が目的だ。そうすりゃ財宝も手に入るし、名声だって思いのままだ。ダンジョンの発見ごときで満足してんじゃねぇ。俺はあのガキよりも早く攻略して、奴の鼻を明かしてやるんだ!」
「金持ちになれて復讐も果たせる。一石二鳥ってわけか」
「……まぁ、ここまで色々やらかしてきちまったんだ。最後までリーダーに従うぜ」
「おうよ、それこそ、墓場まで、な」
「チッ、縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇ。行くぞ、お前ら!」
「応!」
彼らは確かにシンクゥに戦闘面で後れを取ったが、しかし冒険者としては、踏んできた場数が違う。トラップの少ない道、魔獣の気配、そういったものを、これまでの経験で培ってきた勘で見抜き、効率的に攻略を進めることができるだろう。
そう、ダンジョン攻略に限って言うなら、あるいはシンクゥ達を出し抜くことさえ可能だったかもしれない。
『奴』さえいなければ。
最初に不穏な気配を感じたのは、斥候役の男、ゼストだった。
ダンジョンの奥から漂ってくる尋常ならざる気配に、思わず息を呑む。
何かが、近づいてくる。最初に聞こえてきたのは、足音だ。
おそらく鎧を着ているであろう、重量感のある足音。
足音は、エントランス奥の暗闇でピタリと止まった。
まるで暗闇から彼らを観察しているような気配。
そして次の瞬間、それは猛然と駆けだし、ガラハドたちの前に姿を現した。
それは、首のない騎士だった。
Tips アンデッド
封印された邪神から漏れ出した瘴気、すなわち赤い月光を浴びた結果、死体が魔獣として蘇った者の総称。グール、レイス、デュラハン、リッチなど、多くのアンデッドが存在しており、身体の一部を切り落としたり、心臓に穴をあけたりしても動き続ける。唯一の討伐方法は、頭部を破壊することだけである。幽霊であるレイスや首のない騎士であるデュラハンの倒し方は、少々癖があり、レイスの場合は、どこかにあるレイスの元となった死体を見つけだし、頭を潰すことで討伐が可能となる。デュラハンも同じく、どこかにある頭部を探し出し、潰す必要がある。




