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メインクエスト19

 近衛騎士団長カルナ・シャディク。

 こんなのとやり合うのはごめんだ。ブサメンは逃げるぞ!


 「逃がさん!」


 カルナが叫ぶと同時、キィイイイイイイン、と鋭く甲高い音が聞こえてきた。まるで戦闘機が離陸前にエンジンをふかしているような音だ。なんでそんな音がするんだと後ろを振り返ると、魔剣の炎をその切っ先に集め、力を溜めるかのごとく炎を圧縮するカルナの姿があった。


 ゾワリ、と嫌な予感がしたブサメンは、慌てて廊下の突き当りを滑るように曲がった。その瞬間。


 ドン!!!


 と爆音が響き、ブサメンは吹っ飛ばされた。


 「!?」


 何が起こったのか分からず、廊下の壁に叩きつけられた状態のまま、状況を把握しようとする。


 「ぐ、いったい、何が……」


 壁にもたれかかったまま顔を上げたブサメンが見たのは、大剣を振りぬいた状態で静止するカルナの姿だった。


 なんだ、今の。クロロ、何が起こったか分かるか?


 (たぶん、炎を利用した高速移動だよ。魔剣で生み出した炎を後ろに向かって一気に放出することで高速移動を可能にしたんだ。それこそ、ジェットエンジンみたいにね)


 そしてその勢いのままブサメンを斬り捨てようとした、と。


 バターのようにきれいに両断された廊下の壁が、その威力を物語っている。壁の切断面は赤熱化し、ドロリと溶けていた。斬撃の鋭さ、込められた熱量、全てが規格外だ。


 間一髪で曲がり角に逃げ込むことができたが、直撃していたら死んでいたぞ。


 ブサメンを吹っ飛ばしたのは、高速移動の時に発生した衝撃波だろう。こんな攻撃を何度も受けたら衝撃波だけで身体がズタボロにされそうだ。


 (うん。でも、そのスピード故に曲がることが難しいみたいだよ。現にカルナさんは廊下を曲がった君を追うことができなかった)


 なるほど。ってことは直線コースで逃げるのはなしだな。コーナーをうまく利用しよう。


 (だね)


 身体の痛みも引いてきたし、そろそろ動けそうだ。


 (……あれ、そういえば、今の今まで結構隙だらけだったのに、どうして追撃してこなかったんだろう)


 身体を起こしたブサメンに、クロロが疑問を投げかける。

 確かに。痛みで暫く動きが鈍っていたのに、と、カルナの方を見れば、奴は両断された壁を見て「しまった」みたいな顔をしていた。


 ……ああ、なるほど。


 「ふん。城を守る騎士がむしろ破壊活動とは、恐れ入る」


 「……ぬぅ、お前を捕縛し、この壁を破壊したのはお前だということにするのはどうだろうか。近衛騎士団長と不審人物の話なら、みな、私の話を信じてくれるはずだ」


 駄目に決まってんだろ。何言ってんだこいつ。


 (でもこれは、チャンスかもしれないよ)


 ああ。こいつのジェットエンジン走法、周りに気を遣ってもう使わないかもな。

 だったら、逃げ切れる。


 そう判断したブサメンは、再び逃走することを選んだ。こんな奴と戦う必要はない。

 それに、さっきから随分と大きな音を出してしまった。他の騎士や兵士がすぐに集まってくるだろう。

 包囲されれば逃げられなくなってしまう。


 (こんな時こそロゼちゃんに助けてもらうべきなんじゃ?)


 それだ! 念話魔法発動!


 (銀髪! 近衛騎士団長に見つかった! 他の騎士もすぐに集まってくるだろう。騎士団長は俺が何とかする、せめて他の騎士を俺のところに近寄らせないようにしろ!)


 彼女がどうにかしてくれることを祈りながら、ブサメンは走った。


 当然、後ろからカルナが追いかけてくるが、やはりジェットエンジン走法は使わないようだ。それでも、素のステータスは向こうが上なのか、徐々に距離を縮められている。


 ぬおおおお、このままじゃ追いつかれる! この状況を打開するには……魔法で攻撃するか、どこかの部屋に隠れるか……ゲームならここで選択肢が出てくるところだ。そして間違った方を選ぶとバッドエンドになるのだ。


 (この場合の正解は!?)


 正解は……こうだ!


 ブサメンは、廊下に飾られていたとある壺を掴んだ。王城に忍び込んだばかりの時に見つけた、東の皇国の人間国宝とやらが作った壺だ。


 「受け取れ!!」


 そしてブサメンはその壺をカルナに向かって放り投げた。


 「お前!? その壺は――!?」


 そう、この壺は皇国から友好の証として贈られた物。時価一億ゼニーの芸術作品。


 だがその価値は金額のみにあらず。これを無碍に扱えば、両国間の関係は最悪になる。うっかり割ってしまいました、なんてことはあってはならないのだ。だからカルナは、これを無視することができない。


 「貴様ああああああああああああ!!」


 カルナが絶叫し、床に落ちる寸前の壺をダイビングキャッチした。彼は壺が割れていないことを確認して、バッと飛び起きるが――しかしその時には既に、ブサメンの姿は、もうどこにもなかった。



 ◇◇◇



 カルナの気を逸らし、なんとか城を脱出したブサメンは、ようやく宿に戻ることができた。自分の部屋のベッドでぐったりしていると、遅れてロゼちゃんがやって来た。


 「無事でしたか。イケメンさんからの念話が聞こえてきた時は、どうなることかと思いましたが、私の誘導、うまくいったみたいですね。感謝して下さいよ?」


 そういえば、カルナに追われている最中、他の騎士や兵士に追いかけられなかったな。ブサメンの念話はしっかり届いていたらしい。


 「……ふん、貴様にしては、まぁ、いい働きだった。褒めてやる。よくやった」


 「……その褒め方、ちっとも嬉しくないんですけど」


 べ、と舌を出した彼女は深いため息を吐く。


 「ま、いいですけど。それで、手に入ったんですね?」


 「ああ」


 と、ブサメンは懐からエメラルドグリーンに輝く宝玉を取り出した。


 「これが……王墓を暴く最後のキー」


 部屋の中のランプの僅かな光をさえも反射して、キラキラと輝く美しい緑色の宝石。確かに、何かしらの魔法の痕跡を感じる。


 「これと、あの魔法を組み合わせれば、何かが起こるはずだ」


 「……ですか。それはいいんですけど」


 「なんだ」


 「明日に、しません?」


 伝説のダンジョンがすぐそこまで迫っているとなれば、すぐにでも行きたい気持ちはある。だけど、まぁ。


 「……そうだな」


 さすがに疲れた。


 「では、こうしよう。明日、食料の調達や武器の手入れと言った準備は午前中に済ませ、その後、宝玉と魔法を使って『古き王の眠りし墓』に挑む」


 「わかりました。そうしましょう」


 すべては明日だ。明日、伝説の有無が明らかになる。

 ……はぁ、腹、減ったな。晩飯にしよう。


 そういえば、宿屋の娘ことJCが、ここのオムライスは絶品とか言ってたな。今から外に食べに行くのも面倒だし、ここで済ませるか。予約とかしてないけど、作ってくれるかな。


 「おい銀髪。俺は今から飯を食いに行く。貴様はどうする?」


 「……え? 今私のこと食事に誘いましたか? デートですか? ごめんなさい。あなたとは確かにパートナーですけど、それはあくまでビジネス上の話であってプライベートな関係は遠慮していただけませんか?」


 「誰が貴様のようなちんちくりんをデートに誘うんだクソ戯け」


 「クソ戯け……そんなことを言われたのは生まれて初めてです」


 そりゃ、王族にそんなこと言える奴いないだろうし。でもブサメンはロゼちゃんが王族だって知らいない体なのでぇ、言いたい放題なんですぅ。やーいクソ戯けぇ。クソ戯けったらクソ戯けぇ。ロゼちゃんのクソ戯けぇ。


 「なんだか無性にイケメンさんの顔をクソ戯けにしたくなったのですが」


 顔をクソ戯けにするってなんだろう。でも良いことじゃないのは確かだから突っ込むのはやめておこう。


 「はぁ。まったく……たとえデートではなくとも、異性の誘い方としては0点ですよ、0点。そんなんじゃあ、この先一生女の子に相手にされませんよ」


 はいはいブサメンが悪うございました。


 「そんな可哀そうなイケメンさんの思い出に残るように、私が一緒にお食事してあげます。っていうか正直、今からお店を探すの面倒です。もし、イケメンさんの知っているお店があったらそこでいいです」


 「ここで済ませる。宿屋の主が作るオムライスは絶品らしいぞ。身内の評価だから、あてにはならんがな」


 「またそういうことを言う……じゃあ、私もここで食べていきます」


 ブサメンたちは階段を下りて、一階のラウンジスペースに来た。


 「店主、食事を用意してもらいたい。できるか?」


 「はい、なんにしましょうか」


 ブサメンとロゼちゃんはオムライスを頼んだ。


 「かしこまりました。少々お待ちください」


 そう言って奥に引っ込んでいった店主は、十分ほどで戻ってきた。


 「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


 お皿にのせられた艶やかな黄金の卵とチキンライス。ついでにサラダ。早速一口。

 あ、うっま。


 「こういう言い方は失礼ですけど、予想外にすごく美味しいですね」


 まぁ、言わんとすることはわかるよ。この宿屋、人いないしね。人気ないのかなとか、思っちゃうよね。


 「はっはっは、お気になさらず。むしろ、美味しいと言っていただけて、光栄です」


 店主はロゼちゃんの言葉を受けて、嬉しそうに笑った。肉付きの良い頬とお腹がタプタプと揺れる。


 「この宿屋って、食事だけってありなんですね」


 「はい。宿泊のお客様でなくとも、提供させていただきます」


 「いいですね。通っちゃおうかな……あれ、今更ですけれど、ここのお宿の名前ってなんていうんです?」


 「ええと……」


 と、店主が恥ずかしそうにしていると、厨房で手伝いでもしていたらしいJCが手を拭きながらやって来て、代わりに答えた。


 「英雄たちの宴亭だよ!」


 「リオン。お客様には敬語を使いなさい」


 「はぁい」


 しょげるJCに苦笑しながら、ロゼちゃんが宿の中をぐるりと見渡す。


 「英雄たちの宴亭……いい名前じゃないですか」


 「いやはや、身の程を弁えない名前をつけてしまいました。お恥ずかしい」


 そういえば、この宿に来たばかりの頃もそんなことを言ってたな。


 「恥ずかしい? そんなことはないと思いますが……」


 ロゼちゃんがそう言うと、今度は店主が苦笑を浮かべた。


 「あなたは、冒険者のロゼ様でいらっしゃいますね?」


 「私のことを?」


 「ええ、ええ。何体もの大物魔獣を倒した冒険者として、最近お名前をよく聞きます。麗しい見た目からは想像もできないほどの戦果を誇る冒険者だと」


 「そんな、私なんて……」


 と少し心苦しそうな顔をしているのは、そこにブサメンからお金で買った戦果も混じっているからだろう。けれど彼女と同じくらい、店主は苦しいような悲しいような顔をした。


 「私も昔は冒険者になりたかったのです。気の置けない仲間たちと命を預けあって、危険な魔獣を倒し、艱難辛苦を乗り越えダンジョンを攻略し、そして冒険譚を語り合いながら酒を酌み交わす。そんな御伽噺の中の冒険者に憧れた時期がありました」


 いいよね。ブサメンもそういうの大好物。


 「ですが私は今やただの宿屋の主。冒険者になる勇気などありませんでした。だからせめて、冒険者たちが安心して冒険譚を語り合い、酒を飲み、存分に体を休めることのできる宿にしようと、この宿の名前にそういう願いを込めました」


 そう言って少し悲しそうに言う店主は、その願いさえも叶えられていないことを、恥じているのだろうか。JCが心配そうに父を見上げている。まったく、娘にそんな顔をさせるもんじゃないよ。


 「……ふん。何かと思えば。くだらん」


 ずっと黙ってオムライスをぱくついていたブサメンは、最後の一口を飲み込んでから口を開く。


 「ちょっと! イケメンさん!」


 ロゼちゃんがブサメンを睨むが、構わず続ける。


 「安心しろ。何しろ、この俺が泊まった宿として、すぐに有名になるのだからな」


 「え?」


 「明日、俺たちの名は国中に轟くことになる。客なんぞ、その内に嫌になるくらい入ってくるだろうよ。それまでに、せいぜい宿の掃除でもしておくんだな」


 スプーンを置き、席を立つ。


 「うまかった」


 「あ、ちょっと!」


 と、ロゼちゃんも食べ終わったのか、慌ててブサメンの後を追いかけてきた。


 「銀髪。古き王の眠りし墓を攻略する理由が一つ増えたな」


 「……イケメンさん」


 ロゼちゃんもさらにやる気になっているのだろうか、じっとブサメンの顔を見ている。


 「今のはちょっとイキりすぎです。見てるこっちが恥ずかしかったです」


 「……」


 そういうこと言うなよぉ。今更恥ずかしくなってくるだろぉ。


 「でも、少し見直しました」


 さいですか。ならよかったです。



 ◇◇◇



 ロゼちゃんを見送り、部屋に戻ったブサメンは、ベッドに腰かけほっと一息ついた。


 今日も今日とてよく動いた。最近はなんというか、一日が濃い。砂漠を走り回ったり、王都を走り回ったり、王城を走り回ったり……走り過ぎである。


 今日はもう何の用もないし、さっさと風呂入って寝るべ。


 そう思ったブサメンだったが、どうやら世界はブサメンを放っておく気はないようだ。


 よっこいしょ、とベッドから立ち上がろうとした時、ドンドンドンドンと外からけたたましい音が聞こえてきた。どうやら誰かが宿屋の一階の扉を叩いているらしい。


 もう夜もいい時間だ。こんな時間にどこのどいつだ、と顔を顰める。


 「開けろ! ここにいることはわかっているんだ! クソガキ!」


 野太い声が二階まで聞こえてくる。


 ……おい、この声はまさか。


 ブサメンは部屋を出て、急いで階段を下り、一階へ。そこには、フライパンを構えた店主とその背中に隠れるJCの姿があった。


 「何事だ」


 「そ、それが、さっきから扉の外で、ここに宿泊している奴を出せ、と怒鳴られておりまして」


 「もう一度言うぞ! 大人しくここを開けてシンクゥとか言うクソガキを渡せ!」


 ぐへぇ。やっぱこの声、最近嫌と言うほど聞いている。ガラハドだ。

 さてはブサメンが持つ古き王の眠りし墓の情報を聞き出しに来たな?


 (またあの人!? 宿屋の人たちまで巻き込んで……今回ばかりはちょっと徹底的にやらないといけないかもね)


 さすがのクロロもご立腹だ。


 「最後通告だ! ここに泊まってるガキを出せ! でないと、この扉ぶっ壊して押し入るぞ!」


 「で、ですから、ウチにそのようなお客様はおりませんと、何度言ったら!」


 しかしそう言い募る店主の言葉を無視して、ガラハドは実力行使に出た。宣言通り、斧で宿の扉を破壊し始めたのだ。シャ〇ニングかよ。


 もはやガラハド達もなりふり構わなくなってきたな。まぁ、確かに伝説のダンジョンさえ攻略できれば一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るだろうし、こんだけ無茶をしても金さえあれば国外逃亡でも何でもして、自由に生きられる。リスクを冒す価値はある、と判断したか。


 宿屋の扉には大穴が空き、ガラハドはそこから腕を突っ込んで扉の鍵を開けようとした。

 だが。


 「ええい!」


 どこか気の抜けた声と共に、店主がフライパンでガラハドの腕をぶっ叩いた。

 ガコーンと、いい音が鳴る。


 「ぐあ!?」


 ガラハドは思わず腕を引っ込めた。ステータス的にはどうということはないんだろうけど、まさかフライパンでぶん殴られるとは思ってもみなかったのだろう。それはブサメンも同じだった。


 「ご宿泊中のお客様をどこの馬の骨とも知れぬ無礼な輩に渡す宿屋がどこにあるか! 消えなさい!」


 おお……まさか店主がこんな啖呵を切るとは思ってもみなかった。


 「――っ、もう許さねぇ、ぶっ殺してやる!」


 扉の外で、魔力の気配がした。獣化スキルで一気に扉を破壊するつもりなのか。

 さすがにそれを見過ごすわけにはいかない。


 「店主、下がっていろ」


 「いいえお客様。この宿とそこに泊まるお客様を守るのは私の務め。どうか手を出してくださるな」


 この人、いい人すぎやしないか。


 「貴様こそ手を出すな。こいつは俺の客だ。俺が行く」


 「し、しかし危険です」


 「……危険、か。そうだな。では店主」


 と、ブサメンは懐から金貨を一枚取り出し、指で弾いて店主に放った。


 「貴様のその勇気、金貨一枚で買い取らせてくれ」


 (おえええ)


 なんだよ、かっこいいだろ今の。キマッてただろう!


 (お薬はキマッてたかもね)


 やってねーよ!


 プンスカしながらブサメンは、店主からフライパンを取り上げて、扉を勢いよく開け放った。


 「ぶはぁ!?」


 扉で顔面を殴打されたガラハドは後ろに転がる。


 「呆れた奴だ。こんなところまで来るとはな。さては貴様、俺のファンだな? サインを書いてやろう。ガラハド君へ、でいいか?」


 「この!!! どこまでもむかつくガキだ!!」


 吼えながら武器を構えるガラハドと、その後ろにいる仲間たち。対するブサメンの武器はこの――フライパンだ。


 「聞け。我が歌を。魂無きものでさえ、打ち震えるこの歌を」


 「奴に詠唱させるな! 止めろ!」


 遅い!


「戦いの旋律ト短調――歴戦調律(フーガ)


 武器を強化する魔法をかけられたフライパンは、今や折れることも曲がることもない歴戦の武器と化した。


 「おおおおお!」


 気合と共に斧を振り下ろすガラハドの攻撃を、フライパンで弾く。


 「ば、バカな!」


 素っ頓狂な声を上げたガラハドの顔面を、フライパンの側面で引っ叩こうとするが、盾を持った男が横から割って入ってきた。パーティー内の盾役か。


 「邪魔だ!」


 構わずフライパンを振り抜くと、盾持ちごと後ろのガラハドの身体を、向かい側の建物の壁まで吹っ飛ばす。


 「雷光、装填。集い来たりて敵を討て――雷の魔弾(ボルテックス)


 続けざまに雷の魔弾を四十発ほど生み出す。

 そして、壁に叩きつけられたまま、折り重なるようにぐったりしている盾持ちとガラハドを指でさし示すと、大量の雷の魔弾が、彼らに殺到した。


 ズドドドドという炸裂音と、それに続く男たちの悲鳴。さらに追撃を仕掛けようとするブサメンだったが、その進行方向を塞ぐように矢が飛来した。


 「チッ、鬱陶しい!」


 前進をやむなく諦め、矢が飛んできた方向を睨みつける。


 弓矢を放ったのは、あの逃走劇の時にも馬車にいるブサメンを射抜いこうとした弓使いだ。だが遠距離戦で魔法使いに勝てると思うなよ。


 弓使いを即座に攻撃しようとして――思いとどまる。

 攻撃が、手ぬるい。彼らが全力で攻めてきているなら、こんなもんじゃないはずだ。


 今まで攻撃してきたのは……ガラハド、盾持ち、弓使い。

 足りない。博物館で見かけたとき、ガラハドのパーティーメンバーは四人だった。あと一人、チーターの獣人であるゼストがいない。


 (シンクゥ! こいつら囮だ! 彼らの狙いは――暗号の答えだ!)


 ! そうか、こいつら、ブサメンが石板と手記の古代語を解読して、王墓の手掛かりを見つけたと、見当をつけていたんだ。その手掛かりがブサメンの部屋にあると判断し、囮役を用意してまで宿屋に踏み入ってきた。そしてその考えは正しい。『古き王の眠りし墓』の位置を教えてくれるだろう呪文をメモした紙と宝玉が、部屋にある――それが狙いか!


 「チッ」


 ブサメンはフライパンを投げつけて弓使いを牽制すると、すぐさま振り返って宿に戻った。階段を駆け上がり、自分の部屋の扉を開ける。


 「やられた!」


 窓ガラスは割られ、床には靴の後。机の上にメモは、ない。

 急いで宿の前まで戻るが、そこにはガラハドたちの姿はどこにもなかった。


 (逃げたみたいだね)


 宿屋の通報を受けた兵士が来る前に消えることを選んだか。

 まんまとやられたな。


 (……まぁ、でも、問題視するほどじゃないね。彼ら、王墓に行くには、宝玉も必要だってところまでは、わかってなかったみたいだし)


 ああ。

 確かに呪文をメモした紙は盗られたが、それだけしか持って行かれなかった。宝玉は机の引き出しの中に残っていた。呪文自体は覚えているし、盗られたのがメモだけなら、被害はないも同然だ。


 つまり、ガラハドたちの今回の強襲は失敗に終わった、と言っていい。


 (なら気を付けるべきは、尾行だね)


 メモ用紙だけじゃ意味がないと気づいたあいつらが、次の手段として、ダンジョンに向かうブサメンたちの後ろをつけてくる可能性は十分にある。奴らは獣人。気配を消しながら獲物を追うのは得意中の得意だろうな。


 ……今回の冒険も、中々荒れそうだ。


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