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メインクエスト14

 「あーもう、イライラする! クソですクソですクソです!」


 暴言を吐き捨てながら壁を殴りつけるロゼちゃん(ビースト)。


 「あああ!!」


 そして最後に一際強く壁をぶん殴った。彼女の拳は壁に埋まり、ぱらぱらと石の欠片が地面に落ちる。殴っている建物が揺れた気さえするような気迫だった。


 「はー、はー……」


 一通り吐き出すもんを吐き出したのか、ロゼちゃんは肩で荒い息を吐いていた。


 「……あー、すっきりした。私としたことが、こんなところで我を忘れるなんて、誰かに見られたらどうすんだって話ですよ……せっかく積み上げてきた名声が台無しになっちまいます」


 彼女は自分に言い聞かせるように、ぶつぶつと呟き始めた。……だいぶ荒ぶってるな。ちょっと怖い。


 「そうだ、ポジティブに考えるべきですよね。逆にあそこまでピンチになったからこそ、あのイケメンとかいう鬱陶しい人と知り合えたわけで。言動はやばい奴だけど、実力と宝具だけは一級品なわけだし、あいつさえ味方に引き入れることができれば……」


 あばばばば、ヤバい本性を知ってしまったぞ。


 (シ、シンクゥ、こんなところを見たのを知られるのは、まずいんじゃないかな?)


 そ、そうだな。一刻も早く退散しよう。


 「あ、てめぇは! ようやく見つけたぞ!」


 「この前はよくもやってくれたな!」


 !?


 その時、二日ほど前に、路地裏で金を巻き上げてやったゴロツキどもが、わらわらと現れた。


 「ここらで張ってればまた来ると――ぎゃああ!!」


 うおおおお馬鹿野郎こんなところで騒ぐんじゃねええ!!


 ブサメンはすぐさまゴロツキども意識を刈り取ったが、時すでに遅し。


 「あ」


 「あ」


 騒ぎを聞きつけたロゼちゃんと目が遭ってしまった。


 「い、イケメン、さん……?」


 「……どうやら、邪魔をしたようだな。俺はかえ――」


 「ちょっと待ってください」


 肩を掴まれた。


 「見ました、ね?」


 「……安心しろ。貴様がどんな人物であろうと、俺にはどうでもいいことだ」


 「見ましたね?」


 肩が。メリメリと嫌な音を立てている。痛い痛い痛い。肩もげちゃうよ。


 「確かに見たが、俺は――」


 「ちょっとお話できるところまで行きましょうか?」


 はい。


 「ほら、こっちです」


 そうしてブサメンが連れて来られたのは、何やら品のよさそうなカフェテリアだった。レディッシュブラウンの外壁に、ガス灯(魔力で光るから魔灯か?)がなんともお上品な雰囲気を醸し出している。


 けれど、人に知られたくない話をするだろうに、こんなところでいいのだろうか。そう思ったが、杞憂だったようだ。


 店内にはフォーマルな装いの紳士淑女が談笑とお紅茶を楽しんでおり、店の奥には個室もあるらしい。どうやら魔法がかけられているらしく、話し声が外に漏れることはないようだ。この騒がしい王都で、静けさと美味しいお茶を味わいたい人にはうってつけってわけだ。


 さて、一見すればそんな優雅なお店ではあるが、今のブサメンにとっては閉め切られた取調室と同じだ。そして尋問に対する答えを間違えると拷問部屋に代わるに違いない。


 用意された椅子に腰かけたロゼちゃん(裏)は、腕と足を組み、据わった目でブサメンを睨め上げた。年齢の割にムチッとした太もものお肉が形を変える。


 「どこから見てました?」


 太もも。

 あ、どこを、じゃなくてどこから、か。


 「……クソクソ言っているところからだな」


 「……最初からじゃないですか。あーあ、迂闊でした。ストレスが溜まると、ああして吐き出してしまうんですよね。悪い癖です……まさか人に、ましてやあなたに見られてしまうとは……」


 (どうやら仲間に見捨てられたのが、実は相当ショックだったみたいだね)


 「それで、イケメンさん。あなたはこのことを知ってどうする気ですかー?」


 じぬろ、と据わった目でブサメンを睨みつけるロゼちゃん。気だるげだが剣呑な声だ。これが彼女の本性か。


 「どう、とは?」


 「は? 鈍い人ですね。私のことを脅す気はないのか、という話です。私は、自身の容姿が優れていることを自覚していますし、これまでの話からして、私がある程度のお金持ちだということくらいは、あなたも察しているのではないのですか?」


 そうだね、王族だしね。最強かよ。


 「それを知った上で、私を脅す気はないのか、ということをお聞きしているんですよ」


 なるほどね……だが。


 「舐めるなよ小娘。この俺がそんな低俗な真似するものか」


 即座に斬り捨てる。


 「へぇ……」


 ブサメンの言葉に、ロゼちゃんは感心したように唸った。そして腕と足を組み替えながら意外そうに言うのだ。


 「意外ですね。あなたみたいな人は、欲望に忠実な人間かと思っていましたが……見た目も言動もあてにならないもんですね」


 そうですね。その言葉、そっくりそのままお返し致します。彼女のヤバい現場を目撃してしまったせいか、ロゼちゃんの言動に容赦がなくなってきている。


 「でも、そう言っていただけるのは、素直に助かります」


 「ふん?」


 「私のスキル、妖精賛歌の効果はお話しましたよね」


 「ああ。知名度が上がれば上がるほど、ステータスも上がる、というやつだろう?」


 「はい。ただ、正確に言うと、ステータスが上がるのは、肯定的な噂……言ってしまえば、私を褒め称えてくれる噂の場合だけ、です。マイナスのイメージがつき纏う噂だと、逆にステータスが下がってしまうんです」


 「ほう」


 ははあ、つまり、彼女が裏では人を罵倒するような人物であると知られると、ステータスが下がってしまうと。


 「ですので、あなたが見たものを言いふらされると、私はとてもとても困ってしまうわけですよ」


 「先にも言ったが、言いふらすつもりなどない」


 だからハンマーを握りしめるのはやめてください。


 「ましてそれを脅迫の材料にする気など、さらにない。だが……そうだな、信用できないと言うのなら、契約魔法でも結ぶか」


 「契約魔法、ですか?」


 「どちらか一方、もしくは双方が出した条件を必ず守らせる魔法だ。この場合、俺が貴様の本性を誰にも言わない、という契約を結ぶわけだな。これに対して契約を破った場合のペナルティを、俺に付与することができる。俺が契約を破ろうとした場合、つまり貴様の本性を誰かに話した瞬間、そのペナルティが自動的に発動する」


 「私が死ねと言えば、あなたは死ぬと?」


 「そうだ」


 「……」


 即答したブサメンに、一瞬、ロゼちゃんが言葉を詰まらせる。


 「……その魔法、使用者であるあなたには解けないのですか?」


 「無理だな。契約魔法は絶対だ」


 「……なるほど」


 そう言った彼女は、こちらの言葉に嘘がないかを確かめるように、ブサメンをじっと見つめた。しばらくそうしていたかと思うと、軽くため息を吐き、なぜか椅子から立ち上がって……ブサメンに向かって――ペコリと頭を下げた。


 なんぞ?


 「ごめんなさい。バハムートから助けてもらった上に、私の身勝手依頼を受けてもらった相手に対して、失礼なことを言いました。その契約魔法も結ばなくて大丈夫です」


 え、いいよ。頭上げてよぉ……と、言うわけにもいかないか。これが彼女の誠意だと言うのなら、受け止めよう。


 「ふん。貴様の謝罪、確かに受け取った」


 (いやぁ、まだ小さいのに、随分しっかりした子だね。これが王族ってやつのなのかな。君が彼女と同い年くらいの頃は確か……まだ魔法学校に通っていたんだっけ? あの頃の君は、魔法が暴発して教室が吹き飛んだら、その責任を隣の席の子になすりつけてたよね。こいつの魔法が失敗して爆発してました、とか)


 記憶にございません。


 (クズめ)


 「ありがとうございます。では、私の本性を踏まえたうえで、仕事のことをお話させていただきます」


 と、彼女は再び椅子に座りながら言う。


 おお、敬語なのは変わってないんだけど、さっきまでの雑な敬語とは違って、丁寧な雰囲気に戻った。本性を晒すのはここまで、ということらしい。


 「私は内面に色々と抱えている人間ですが、昨夜の私の依頼は引き受けていただいたまま、ということでよろしいですか? もし私に不信感があるようでしたら……」


 「依頼は完遂する。今更反故にしたりしない」


 「……わかしました。では、契約はこのまま続行、ということで」


 ロゼちゃんはほっとしたようにテーブルの上の紅茶を口にしていた。

 ブサメンもすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す。


 真面目な話はこれで終わりのようだ。

 ブサメンは席を立ち上がった。


 「もう行くのですか?」


 「ああ。貴様ほど暇ではないのでな」


 本当はもう少しお茶していたんだけど、バハムート討伐の疲れと、さっきまでの君とのやり取りの緊張感で、正直、疲労度が限界を超えそうなんだ。


 「……このお店の支払いは私が持ちます。ではまた」


 ブサメンの言動に顔を顰めたロゼちゃんが、ため息混じりにそう言った。

 こうして取調室から解放されたブサメンは、無事、日の光を見ることができるのだった。


 いやー、なかなか強烈な子だったな。ロゼちゃん。


 (だねぇ。人は誰しも多かれ少なかれ、表と裏の顔を使い分けるものだけど、ロゼちゃんは、なかなか裏表が激しい性格だね)


 なー。怖いよなぁ。


(言うて君も相当なもんだけどね。でも君、あんまりショックを受けてないね? 結構気に入ってたじゃないか。あの子のこと)


 そうだな。ロゼちゃんのおかげで、ブサメンの性癖が、実はロリなんじゃないかと思うくらいには、気に入り始めていたな。だってこんな不細工なブサメンにも割と優しく話しかけてくれてたんだもん。異世界に来て判明した驚愕の真実! ブサメンの性癖はロリだった!


 (死ねよ)


 ……。


 (死ねよ)


 いいよ。二回も言わなくていいよ。自分でも業の深い性癖だってわかってるから。


 けれどもそうだな、確かに砂漠で話していた時は、こんなブサメンとの会話も嫌がらないとてもいい子だと思っていた。しかし心のどこかではわかっていたんだ。そんな子が現実にいるもんか、と。


 そしたらほら、この通りだ。ブサイクなブサメンに向けられたあの笑顔は、ブサメンの能力を利用したいがために向けられていたものだった……あれ、でもそれってブサメンの能力は認めてくれてるってことだよな……じゃあいいか。


 (メンタル最強かよ)


 それになんだかんだ、あの整った可愛い顔で、あの鈴の音を転がすような可憐な声で、あんな暴言吐くんなら、正直それはそれで興奮するよね。ギャップ萌えってやつ?


 (さては君、無敵だな?)


 いやー、最初の冒険で大収穫だな。可愛い女の子と出会い、己の性癖を知り、大金まで手に入る算段がついた。


(性癖の話はもういいよ。それより、これからどうするんだい?)


 おん?


 (ほら、ロゼちゃんがダンジョン探索に付き合うって言ってくれてたろ? どこのダンジョンを冒険するか、早く決めないと、工房の建設がどんどん先延ばしになっていくよ)


 ああ、そのことか。明日、ロゼちゃんと噴水広場で会うことになってるだろ? その時までに一つ二つ候補を考えておこうとは思ってるんだけど、なかなかいいダンジョンに心当たりがなくて。


 王都周辺にはダンジョンがいくつかあるけど、低レベルのダンジョンなんて当の昔に誰かが攻略して、宝物は全部取られているだろうし……じゃあ未攻略のダンジョンはどうかと言えば、当たり前だけど危険が満載だ。


 ダンジョン内部の情報はほとんど出回っておらず、どんな魔獣がいるのかもわからない、どこにトラップがあるのかも不明、さらに同業者、それも自分よりもはるかに高レベルの同業者を警戒しながら攻略しないといけないわけだ。


 (まぁ、ゲームじゃないんだから、冒険者になったばかりの初心者にちょうどいいダンジョンなんてあるわけないよね)


 だよなぁ。そっちは何かいいアイデアはないか?


 (ふふ、そう来ると思っていたよ。まぁ、僕は君のサポートをするのが役目だからね。役目はしっかり果たさせてもらうとしよう)


 お、なんか自信ありげじゃん。


 (この案は何かと破天荒な君にも気に入ってもらえるんじゃないかと自負しているよ)


 ほーん、その案ってのは?


 ブサメンがそう問いかけると、クロロは待ってましたと言わんばかりの声音でこう言った。


 (妄想冒険録に挑んでみない?)



 Tips 妄想冒険録


 冒険者たちの間で長年に渡り語り継がれてきた数々の伝説の総称。その内容は以下の通りである。信憑性については、ただのホラ話とされるものもあれば、歴史に基づいた考察からそこにあってもおかしくはないと言われるものまで様々。そこに語られる伝説のどれか一つでも見つけることができれば、その者の名は永遠に歴史に刻まれることになり、巨万の富を得ることができると言われている。だが現実は非常だ。いまだにそれらを見つけ出した冒険者はおらず、頭の中で伝説に至り、冒険者として成功することを妄想するしかない。故に、妄想冒険録なのだ。


 第一の伝説:かつて世界を征服した古代の国の王がいた。彼の者が眠る墓には、世界中から略奪した財宝が王の骸と共に眠っており、その墓を暴いたものは世界一の金持ちになれるという『古き王の眠りし墓』の伝説。


 第二の伝説:ある嵐の夜、一隻の船が海岸に漂着した。その船は黄金で出来ており、船内にも大量の黄金が積まれていた。そのことから、この世界のどこかには、大地、建造物、あらゆる物が黄金でできている国があるのではないかという、『黄金郷』の伝説。


第三の伝説:深い霧に包まれた原初の大森林、その奥に生るという、口にした者は不老不死になれる『不老不死の果実』の伝説。


第四の伝説:ある日、太陽神が死を迎えた。燃えるその体は塵と化したが、この世のどこかには、いまだに燻る小さな灯が残っているという。それを手に入れた者は、すべてのステータスが爆増するという『太陽神の残り火』の伝説。


第五の伝説:かつて神々が率いる人類と邪神が率いる魔獣との間で戦争が勃発した。その最終決戦の地となった世界樹の根本には、勇者の亡骸と、魔王を串刺しにしたままの聖剣が今なお眠っており、その聖剣を引き抜いた者は次代の勇者になるという『世界樹の聖剣』の伝説。


などなど、他にも多くの伝説がある。


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