メインクエスト13
砂漠の向こう側に太陽が昇り始めた。それを合図に、ブサメンとロゼちゃんは王都に向かって移動し始めた。
「……お話、しすぎましたね」
「……ああ、さすがにな」
結局、一晩語り明かしたブサメンたちは、トライホーンの上でこっくりこっくり舟をこぎながらも、なんとか王都に帰還することができた。
そのまま昨日ぶりの冒険者ギルドに向かう。ギルドの中は昨日と変わらず、荒くれ者な冒険者たちでいっぱいだ。
その中で、唯一華やかなのは、今日もお勤めのイレイナさんたち受付嬢がいるカウンターだ。
依頼が張り出されている掲示板の前に大集合する冒険者達が、ブサメンが引きずっているバハムートの素材入り氷塊に驚いたように注目する中、受付カウンターに向かい、その机の上にバハムートの素材の一つを解凍してから放り出すように載せた。
無事に帰ってきましたよ、イレイナさん。
「こ、これは、バハムートの素材ですか? あ、あなた方が倒してきたのですか?」
「と言うより、ほぼこいつ一人で、だな」
ブサメンは隣にいるロゼちゃんを顎で指し示した。
「俺がバハムートの生息地域に着いた時には、もうこいつと、そのパーティーメンバーが戦っていたからしばらく静観していたんだが」
「私のトライホーンがやられてしまったので、こちらの方のトライホーンに乗せていただいて戦いました。支援魔法の一つくらいはもらいましたが、ほぼ私が一人で片付けました」
約束通り、ブサメンはバハムート討伐の功績を彼女に売った。
とは言え、ブサメンがロゼちゃんを助けたのは、いなくなった彼女のパーティーメンバーに見られている。助けておいてロゼちゃんがすべて一人でやったというのもおかしな話になると思い、魔法での支援をちょっぴりした、という話にしたのだ。
「そう、ですか。詳しいことは報告書で確認させていただきますが、そのご様子ですと、バハムート討伐の報酬はロゼさんに支払われることになってしまうかもしれませんが、もし不服があるなら今のうちにどのように分配するか話し合いをしておいた方が……」
と、イレイナさんは主にブサメンの様子を伺いながら提案してくる。
「すべてこいつに、くれてやれ。他人の活躍を奪ってまで金を稼ごうとは思わん」
「そ、そうですか……見た目によらず、理知的な性格のですね……あ、失礼しました」
なぁに、いいさ。
「しかし、まさかあの怪魚を討伐するなんて……おめでとうございます。ロゼさん、また吟遊詩人に歌われますね」
「いえ、そんな……それで、一つお聞きしたいことがあるのですけど」
彼女はイレイナさんに、パーティーメンバーが先に帰ってしまったことを話し、ここに顔を出していないかと尋ねた。
「そうですか。パーティーメンバーの皆さんが……もしかしたら仲間を見捨てたという罪悪感で顔を出せないのかもしれませんね」
「そうですか……もし見かけたら、私は気にしていないと、そうお伝えください」
「かしこまりました――では、バハムートの素材を鑑定してきます。その間にこちらの書類を書いておいてくださいね。あ、ドッグタグをお預かりしても?」
そう言ってイレイナさんはカウンターの奥に引っ込んでいった。
「これで、後は待っていればいいのか?」
「はい。バハムートの素材が本物だと鑑定されれば、晴れて依頼は達成となります」
「さきほどもらった書類は?」
「提出用の報告書ですね。どこで獲物を見つけて、誰が、どのように倒したのかを書いて提出すればオッケーです。今回は私が書きますね。この報告書をもとに、冒険者ランクのポイントが加算されたり、報酬が支払われたりします」
「そうか」
報告書か。冒険者ってそんなこともやるんだ。なんか、思ってたのと違う。いやまぁ、一仕事終えたら報告書書くのは当たり前なんだけどさ。
なんか、異世界っぽくない。まぁいいや。ロゼちゃんが書いてくれるって言ってるし、少し時間がかかるみたいだから、のんびり待ってるか。
「俺は隣の酒場にいる。終わったら呼べ」
「あ、はい。朝からお酒ですか?」
「貴様には関係のないことだ」
ふ、ブサメン、お酒の味なんてわかりません。だから飲むのはミルクです。
と、回れ右して酒場に行こうとしたら、いつの間にか、ブサメンたちの後ろには冒険者の人だかりができていた。
「ロゼちゃん、まさかバハムートを倒したのか!?」
「す、すげぇ」
「あんなちっこい体のどこにそんなパワーが」
どうやら彼らの目的はロゼちゃんらしい。しかし……そうか、もしブサメンがバハムート討伐の功績を売らずにいたら、この賞賛の声を受けていたのはブサメンだったのか。そう思うと、少し惜しいことをしたかもしれない。
「い、いえ、私なんて、そんな大したことはありません。え? そんなことはない? ありがとうございます! 握手ですか? はい、喜んで!」
「アタシ、雑誌に載ってたロゼちゃんの真似して髪のインナーカラー青にしてみたんです!」
「はい、よくお似合いですよ。素敵だと思います」
アイドルかな?
ロゼちゃんはあっという間に冒険者たちに囲まれ、ブサメンはどけ邪魔だと輪の外に放り出されてしまった。
その時、冒険者たちと擦れ違いざまに、
「チッ」
「ロゼちゃんに寄生して魔獣討伐のおこばれでも預かろうとしたかこの寄生虫め!」
とかいろいろ言われた。なんだか悲しくなったブサメンは大人しく酒場でミルクを飲んでいることにした。
(寄生虫って言われる人の気持ちがわかったかい?)
クロロは寄生虫に寄生する寄生虫だったのか。
(ぶっ殺すぞ)
ぎゃーぎゃーと脳内でやり合っていると、ロゼちゃんが駆け寄って来た。
「イケメンさん。イレイナさんがお呼びです。鑑定結果が出てみたいですよ」
「そうか」
仕事速いな。
ブサメンたちは再びカウンター前まで戻った。
「バハムートの討伐が確認されました。報告書も問題ありません――バハムート討伐クエスト、クリアですね。おめでとうございます。こちらが報酬になります」
ドスン、と重い音がして机の上に金貨が詰まった革袋が置かれる。ロゼちゃんはそれを受け取ると、丁寧に頭を下げた。
「では、今日はこれで失礼しますね」
「はい。またのご利用をお待ちしております」
イレイナさんに見送られ、ギルドを出る。
「ようやく、一息付けますね」
ぐ、と伸びをしながらロゼちゃんが言う。
「ああ、そうだな」
さすがに疲れた。ブサメンはこのまま宿に戻って寝よう。
「では、イケメンさん、これがバハムート討伐の報酬です」
「うむ、確かに受け取った」
人目につかない通りに入ったところで、ロゼちゃんは重たい革袋を渡してきた。
「討伐の功績を売っていただいた分の報酬は、次回会ったときのお支払いで大丈夫ですか? さすがに大金を持ち歩いているわけではないので……明日、この時間に王都の噴水広場前に来ていただけませんか?」
「いいだろう。ではな」
「はい。お疲れさまでした」
こうしてブサメンはロゼちゃんと別れた。
と、こんな感じでブサメンは初めて冒険者の仕事を成功させた。
少し予想外の展開になったが、かわいい女の子ともお知り合いになれてむしろラッキーだ。気分は少し高揚気味。でもやっぱり体が疲れている。徹夜明けのテンションだ。
(さ、宿に戻ろうか)
そうするか。あ、でも砂まみれだし、寝る前にシャワーを浴びたいな。でもあの宿屋って、確か風呂はついてないんだよな。
(じゃあ公衆浴場にでも行く?)
そうするかぁ、と思い、ショートカットをすべく路地裏へ。
そしてせまっこい路地を、少し歩いた時のことだった。
「――!!!!」
何やらものすごい怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
なんだなんだ何事だ。
(完全に日が昇っているとは言え、路地裏だからね。治安はあんまりよくないのかも。ショートカットしようと思って通ったけど……急がば回れとは、よく言ったものだね)
まだ遅くない。怒鳴り声なんて無視して行こうか。
(ええ!? 無視するのかい!? もし誰かがゴロツキに絡まれたりしてたらどうするのさ!?)
ええー、それでブサメンが怪我したら、それこそどうすんだよ。
(大丈夫だよ。ゴロツキ程度じゃ、悪魔にさえ勝つ君には傷一つつけられないよ。それにもし絡まれてるのが可愛い女の子だったら、確率は極僅かかもしれないけど、いい関係が築けるかもしれないよ?)
よし、行くかぁ。
(相変わらず頭がお花畑で助かるよ。まだ絡まれてるのが女のことも決まってないのに)
なんか言ったぁ?
(言ってないよ)
そんなわけでクロロの甘言に惑わされたブサメンは、踵を返して声のする方へ足を向けた。
果たしてそこにいたのは――。
「クソクソクソクソ!! 何私のこと見捨てて逃げてんですか!? 誰の許可があって!? 仲間なら助けに来いよ!! 見捨てる!? 普通見捨てる!? はあああああああ????? くたばれ!! あのビッチども!!!」
なんかものすごい暴言を吐きながら路地裏の壁をぶん殴る――――ロゼちゃんなのでした。




