メインクエスト12
ドサドサと重い音を立てて落ちた氷塊が、砂の下へと沈んでいく。
ああ、待て待て、沈むな沈むな。
素材が閉じ込められたままの氷塊を魔法で回収して紐を括り付け、トライホーンに牽いてもらう。
「勝った……?」
「ああ、勝ったな」
素材を回収しながら、信じられない光景を見るかのように呟く少女に頷いて応える。それでようやく戦闘が終わったことを受け入れられたのか、ふらり、と少女は力が抜けたように倒れ込もうとする。
いや君、そのまま倒れると砂漠の上に真っ逆さまだぞ。慌てて彼女の腕を掴んで支えてやる。
「おい、しっかりしろ」
「あ、申し訳ございません。ちょっと、気が抜けてしまって……でも、勝ったんですよね。これなら……」
「ふん?」
「……いえ、なんでもありません。改めて、助けていただいて、ありがとうございました」
そう言って少女は深々と頭を下げた。
お、おお、このブサメンが可愛い女の子に感謝されている。
ここは、バイブルで学んだオラついたセリフでこの子の気持ちを鷲掴みだ!
「この程度の雑魚に苦戦するとはな」
「……は、はは」
少女の顔が引きつる。
(あーあ、人の印象って、第一印象が9割って言うからね。もうだめだよ君。この子から好かれることは一生ないよ)
で、でもバイブルにはこう言えって……。優しさよりもちょっと突き放した物言いの方が女子受けいいって……。
(焚書だよ焚書)
「え、ええと、それで、一つご相談、というかお願い事があるんですけど」
彼女はブサメンの発言をスルーすることにしたらしい。
「厚かましいとは思いますが、元居た所まで連れて行っていただけませんか? 一緒に来た仲間が心配ですので……」
少女が、上目遣いでこちらを見てくる。
可愛すぎて、ブサメン、なんでも言うこと聞いてあげたくなっちゃう。
「チッ、手間の掛かる……まぁいい。掴まっていろ」
ブサメンは華麗にトライホーンをターンさせ、少女を拾った場所まで戻った。
ところが彼女の仲間はどこにも見当たらず、代わりに、王都方面へと伸びるトライホーンの足跡……というか、航跡ならぬ馬跡を見つけた。
ううん……まぁ、端的に言うとこれは……。
「……。あの、もしかして見捨てられましたか? 私」
「……バハムートに食い殺されたと思ったのではないか?」
「ま、まぁ臨時で組んだパーティーですからね。あの人たちも今日パーティーを組んだばかりの人間の安否なんて、気にしてはいられないでしょう。この件で、あの人たちを責めることは、私にはできません」
(いい子じゃないか。見捨てられても、こんな風に言える人間なんて、そうそういないよ。少なくとも、君が彼女と同じ立場なら、今頃文句垂れ流してるでしょ)
永遠に下痢になる魔法とか使って復讐しただろうな。
(魔法っていうか呪いじゃん。こわぁ)
お前もあんまり余計なこと言ってると下痢魔法使うぞ。
(その場合君がトイレに篭ることになるだけなんだけどね)
そりゃそうだ。
とまぁ、少女が仲間に見捨てられるという事態が発生したが、ひとまずブサメンたちは砂漠に飲まれない岩場の上で休憩することにした。
ブサメンたちもトライホーンも相当疲労が溜まっている。それにもう辺りも暗い。
人工の灯りなんてあるはずもない砂漠の夜は、完全なる闇だ。魔法で火をおこし、ブサメンと少女で火を囲む。
淡い光に照らし出される彼女の顔を見れば、その整った顔立ちが夜の闇の中でよく映えた。
肩まで伸びた月光を束ねたかのような美しい銀髪、宝石の如く輝く桃色の瞳。こんな砂漠にあっても瑞々しい桜色の唇。そして彼女がファンタジー世界の存在であることを強烈に訴える長く尖った耳。
年は……ううん、どうだろう、小学生にも見えるし、中学生にも見える。身長は低いが、こんなところで冒険者なんてやってるくらいだし、ここはファンタジー世界。見た目と実年齢が違っている、ということもあるのかもしれない。
というわけで、ごにょごにょと小さく呪文を唱え、神秘解体、鑑定魔法発動! プライバシー侵害魔法の恐ろしさをとくと見よ!
名前:ロゼッタ・エル・シェヘラザード
レベル:26
種族:妖精種
性別:女
体力:一週間くらいなら徹夜できる
魔力:多い
筋力:地球人の顔面を殴るとそいつは潰れたトマトになる
防御:いずれ核シェルターになれる逸材
敏捷:重い武器を持っている割にはすばしっこい
知力:学はある
抵抗:精神攻撃耐性高め
幸運:悪運は強い
スキル:聖域展開、妖精賛歌
装備:獣狩りの戦槌(魔獣の絶滅を願う魔法使いが作り出した宝具。魔獣を前にした時、圧倒的火力を発揮する。魔獣特攻、筋力50%増加)
備考:シェヘラザード王国第二王女。年齢13歳。冒険者活動中。ランク3の冒険者。
ほげぇ。
(ほげぇ)
こいつ王族だ!
(しかもこの子、森人種じゃないよ! 耳が長いからてっきりそうだと思ってたのに!)
森人種、いわゆるエルフのことだが、その特徴は耳が長いこと。この子みたいに。けれど彼女は妖精種。確かに妖精種も耳は長いが、妖精人種と森人種じゃ天と地ほども違う。
妖精種は……そう、かなり特殊な種族で、その他の種族から割と嫌われていることが多い。
(シェヘラザード王国の王族って魔人族だよね。王族でありながら妖精種か……色々事情がありそうだね)
ああ。それも冒険者だなんて。王侯貴族と冒険者が馬鹿みたいに仲が悪いことくらい知ってるだろうに。ギルドや他の冒険者に王族だと知られたらまずいぞ。
内心冷や汗をかくブサメンだが、少女はそんなこと気づきもせずに話しかけてくる。
「ようやく落ち着いてお話ができますね。申し遅れました、私はロゼと言います。ランク3の冒険者をやってます。よろしくお願いしますね」
そう言って偽名女は微笑んだ。
(いや君、偽名女って)
だって本名名乗らないし。
彼女が見せてくれた冒険者証のドッグタグにも、ロゼという名前と、ランク3の冒険者という記載があるだけで、本名は載っていない。ブサメンにも名乗るつもりはないようだし、王族というのはさすがに隠さないといけないというのは、わかっているようだ。
「お兄さんのお名前をお伺いしても?」
ロゼちゃん(偽)はにっこりと人当たりのいい笑顔を浮かべる。
この偽名少女は、自分が偽の名前を使っているのに、ブサメンには名乗れと言いたいらしい。よろしい、ならば。
「イケメン・ザ・パーフェクトだ」
こちらも偽名で対抗だ!
(ひっどい偽名。この世のものとは思えない名前だね)
いいじゃんかよぉ。偽名くらいでくらい自分の理想像を語らせてくれ。
(っていうか別に名前くらい教えてあげればいいだろうに。王族の彼女と違って君の名前には秘密も価値もないよ)
え?
(ん?)
……なんにせよ初対面で個人情報を教える気はない。
(相手には鑑定魔法とかいうプライバシー侵害魔法バンバン使うのに、自分の個人情報だけはブロックとか。嫌な奴)
「イ、イケメン、さん、ですか? それは……なんとも変わったお名前ですね」
なんだぁその顔。似合ってないとでも言いたげだな。ええ?
(だから似合ってないんだって。ロゼちゃんもどう反応していいかわからなくて困ってるじゃないか)
「ま、まぁいいです。よろしくお願いしますね」
そう言って銀髪ロリータはふんわりと笑った。
お、おお、なんて可愛らしい笑みだ。並みの男ならイチコロだろうな。けれどブサメンは並みの男ではないのだ。そんな笑顔一つで偽名を使う奴に心を許してやれるほど、甘くはない。美少女なんかに負けないんだから!
(君、モテないくせにプライド拗らせてるよね)
「ふん」
よろしくねの挨拶も返さずに鼻を鳴らしたブサメンに、ロゼちゃんは若干顔をひきつらせた。しかしすぐに笑顔を取り戻し、にこやかに話しかけてきた。
さすがだな、たいていの女の子はブサメンと話すことさえ嫌がるというのに。
これが王女のコミュニケーション能力か。きっと外交とかで磨いたに違いない。いい、ブサメンを嫌がらずに話しかけてくれる美少女。
(君、即落ち二コマ多いね)
さっきはブサメン自身が否定したけど、バハムートから華麗に助けてあげたわけだし、ブサメンに惚れてたりしないかな。
(しないと思うよ。君は華麗にって言うけど、詠唱噛んだり、雷鳴剣外したり、割と情けない所見せてるし、ないない)
ほげぇ。
少しくらい夢を見させてほしかった。
「それで、イケメンさんはどうしてこんな砂漠まで?」
「何を言うかと思えば、貴様は阿呆か?」
「……」
あ、すんごい嫌そうな顔。もう会話すんのも嫌だなって思われてる顔だ。
「わかり切ったことを聞くな。貴様と同じだ」
「バハムートの討伐、ですか」
「ああ。だが先に貴様らが討伐しようとしていたから様子を見ていたのだが……あまりにも情けない戦いをしていたものだから、な」
(その一回言葉切ってからの『な』やめない? イラっとするんだけど)
やめない。かっこいいから。
「だから途中で介入した、ですか?」
「そうだ。文句を言われる筋合いはない」
「それは……」
と、ロゼちゃんは言いよどむ。何か不満があるのだろうか。
「何か、言いたげだな」
「あ、いえ、そんな……」
何でも言うといいよ。たいていのことはしてあげちゃうよ?
(メロメロじゃないか)
「まさか貴様、俺に助けられた身で報酬を山分けしろとでも言うつもりか?」
別にいいけどね。少しくらいなら。好感度のためだ。
「いえ、そうではなく」
いらないらしい。じゃあなんだろう。
(やっぱ、君の態度が気に食わないから治せって言いたいんでしょ。彼女からすれば、相手が自分は王族だって知らない人だったとしても、それでも君、かなり失礼な言葉遣いしてるし。今に始まったことじゃないけど)
でも、もう何度も言ってるけど、こんな感じで喋った方がモテるって、ブサメンの聖典「ゴブリンにもできる恋愛術」に書いてあったんだ。
(じゃあ君はゴブリン以下ってことだね)
……しんらつぅ。
「あの、イケメンさん」
「……」
「イケメンさん?」
「……ん? ああ、そうだ。俺だ。俺はイケメンだ。イケメンとは、つまり俺のことだな?」
(イケメン呼びが慣れてなさ過ぎて会話のテンポが……)
「一つお伺いしたいことがあるんですけど、大丈夫ですか?」
「面倒だ。が、今の俺は気分がいい。訊くがいい」
バハムートの素材は手に入ったし、可愛い女の子とは知り合いになれたし。
「……あなたが使っているその武器は、なんですか?」
ロゼちゃんはブサメンの腰にぶら下がっている雷鳴剣に視線を落としている。
「バハムートのスキル……あの砂の触手を容易く迎撃していました。見たこともない、とても強力な武器です。その武器はいったい……」
「見たこともない、か」
と、ブサメンは雷鳴剣の柄を掲げる。ふふ、自慢しちゃおうかな。
「当然だ。これは俺が造った宝具だぞ。銘は雷鳴剣。我が至宝にして究極の剣である。そこらにある有象無象の宝具と一緒にするな。不愉快だ」
(ねぇ、いつものノリで不愉快とか言ってるけど、相手王族だよ? 大丈夫? 死刑になったりしない?)
今から土下座すれば許してもらえるかな?
(清々しいほどの掌返し)
死ぬときは一緒だよ。
(一人で死んでおくれ)
ブサメンは内心ブルっていたが、どうやらロゼ様はそれどころではないようだ。
「自分で、造った?」
ロゼ様は何やら深刻そうにお呟きになられ、考え込むご様子をお見せになる。
(心の中で敬語使っても意味ないんだよ?)
「イケメンさんは、機巧魔術師なのですか?」
機巧魔術師。戦闘に特化した魔法使いや、研究に特化した魔法使いがいる中で、宝具の製造を専門に行う魔法使いのことだ。ブサメンの場合は戦闘も魔法開発もするけど、まぁどちらかと言えば機巧魔術師寄りだ。
「そうだ。素材集めと、工房を建てる資金集めのために、こうして冒険者もしているがな」
「……つまり、あなたは今お金が必要、と。ふぅん」
「ふん?」
ブサメンが訝し気に鼻を鳴らすと、ロゼちゃんは、しばし何か迷うような素振りを見せていたが、意を決したように、こちらの瞳を覗き込むように目を合わせてきた。
「そんなあなたに、私から、二つの依頼があります」
「なに? 依頼、だと?」
なんだなんだ急に。
「はい……不躾なお願いではありますが、どうか私に、バハムート討伐の功績を譲っては頂けませんでしょうか」
「……なん、だと?」
つまりロゼちゃんがバハムートを討伐した、ということにしたいのか。
「こう言うのもなんですが、一応私も一撃を加えているので、功績を主張する権利が――……いえ、最後の一撃は譲ってもらっただけ、ですね……さすがに厚かましい申し出でしたね。ごめんなさい」
「謝罪なんぞいらん。それより、どういうことか説明しろ。理由はなんだ」
「それは、私のスキルに関係がありまして……」
「ほう」
彼女は二つのスキルを持っていた。一つは聖域展開。こちらは結界を張るスキルだった。なら彼女が言っているのは、もう一つのスキル妖精賛歌の方だろう。
「私には、妖精賛歌というスキルがあります。私の武勇とか偉業とか……そういったものが多くの人に伝わったり、文書に残ったりして、私の知名度が上がれば上がるほど、全てのステータスが上がる、というスキルです」
「いわゆる知名度補正というやつか。今回の場合だと、バハムートという怪物を倒した功績が、多くの人間に知られれば知られるほど、貴様は強くなれる、と」
「その通りです。私には……どうしても倒したい敵がいます。そいつを倒すためなら……私はなんだってします」
「ほう、敵。その敵とは?」
「……」
そう尋ねたが、ロゼちゃんは曖昧に微笑むだけで、何も言わなかった。これ以上は訊くな、と。
しかし妖精賛歌か。一つ疑問なんだが、偽名使ってても知名度補正の効果というのは、付与されるのだろうか?
(されるんじゃない? 要は、本名だろうと偽名だろうと、それこそ二つ名であろうと、彼女という存在が認知されればいいわけだから)
なるほど。
「まぁいい。つまり貴様は、自分の強化のために功績を譲れ、と」
「もちろん、私が欲しいのは功績だけですので、バハムート討伐の報酬は全額あなたのもので構いませんし、功績を譲っていただけた場合は、当然その対価としてそれなりの額を別途お支払いします」
……ううん、どうしようか。
(工房を持つ、という意味では、もらえるお金が増えるっていうのは、単純にうれしいよね)
ああ。けれどバハムート討伐の実績だって悪くない。手強い魔獣を倒せば倒すほど、冒険者としてのランクが上がり、将来的にはそっちの方が報酬は増えるわけだ。
(そうだね……つまるところ、先にお金をいっぱいもらうか、将来お金をいっぱいもらうか、そういうことだね)
まぁ、冒険者としての実績なんてこれから先、冒険やら依頼やらをしていれば嫌でも上がる。だったら、工房を建てるためにも今お金があったほうがいいな。よし。
「いいだろう。その話、受けてやる」
「! 本当ですか!? ありがとうございます。よかった……正直、斬りかかられても無理ないと思うくらいには失礼なお願いをしていると思っていたので……」
ああ、それで後ろ手でハンマーを握っていたのか。いつでも反撃できるように。
冒険者は富と名声を求めるもの。そのうちの名声を譲れと言っているのだから、一般的な冒険者なら激怒していただろう。
「それで、もう一つの依頼というのは?」
「イケメンさんを一流の機巧魔術師と見込んでの依頼です。私に武器を造っていただきたいのです――誰も見たこともないほどに、とびきり強力なやつを」
「武器……つまり、宝具だな? それも、どうしても倒したい敵とやらと戦うためか?」
「はい」
短く答えるロゼちゃんには、静かな気迫があった。
それに関しては断る理由はないな。元々宝具造って商売しようと思ってたし。とは言え……。
「工房がない。先にも言ったが、俺は工房を建てる金を稼ぐために冒険者になった。宝具を造るには工房は必須だ」
「でしたら、私も資金集めに協力させていただきます」
「なんだと?」
「魔獣の討伐、ダンジョンの攻略、なんでもお手伝いします。そこで得た金品はすべてあなたのものにしても構いません。バハムート戦では情けない姿を見せてしまいましたが、これでもそれなりにダンジョンに潜ったり魔獣を倒したりしています。王都の酒場の吟遊詩人にも歌われたことがあるんですから。あ、その実績は嘘ではありませんよ。今回のように買ったものではありません」
そう言えば受付嬢のイレイナさんが、最近頭角を現し始めた冒険者が空いるって言ってたな。彼女のことだったのか。
(なんというか、破格の条件だけど……これは……)
ううん、まぁちょっと、怪しいよな。
「正気か? 貴様。初対面の俺のためにそこまですると?」
「私自身のためです。イケメンさんのための行動が、ひいては私のためになります……話がうますぎて、警戒しますか?」
「当然だ」
当然なんだけど、でも彼女王族だし、お金はたくさん持ってるだろうから、別に自分の取り分がなくなろうと、どうでもいいのかな。そう考えれば、別におかしな話ではないのか。
「……私だって、こんな話、警戒するのは当たり前だって思います。まして詳しい事情も話せないようならば尚更……だから、依頼を受けていただくためにどうしても話せと言うことであれば――」
「受けてやる」
「え?」
「受けてやると言った。話したくないのなら、それでいい。くだらん詮索はしない。そこまで貴様に興味もない。金が集まると言うのなら、それでいい。不服か?」
いいさ。どんな事情があっても。彼女にはどうしてもやらなければならないことがある。ブサメンにもどうしてもかなえたい夢がある。
ブサメンたちは似た者同士なのだ。お互いに何か尋常ではない目的があって、ブサメンは彼女のそれを応援できるのだ。ならば詳しいことはわからなくとも、応援しよう。
今だけは好感度のためだとか、そんなものは抜きで。夢をかなえようとする同志として。詐欺じゃなさそうだし。
「い、いいえ、ありがとうございます!」
「逆に訊きたいが、貴様は俺を信じられるのか?」
彼女は雷鳴剣を造ったのがブサメンだからこそ、武器製造の依頼をしてきたわけだけど、そもそも雷鳴剣の自作というのが嘘だとか、思わないのだろうか。見栄を張るためだとか、金をだまし取るための嘘だとは思わないのか。
「信じます。あなたの魔法の腕は、卓越しています。バハムートの巨体を一瞬で凍り付かせた魔法も、その時に感じた魔力の保有量も。それにもし仮に、私を騙していたとしたら――」
ん?
「全力で報いを受けていただきますが」
微笑むロゼちゃん。
こっわ。国家権力とか使ってくんのかな。最高の武器を造ってあげよう。
しかし、しっかりと釘を刺してくるあたり、こういう交渉ごとに慣れてるって感じ。
「いい度胸だ。俺のパートナーになるには、そのくらいでなければな」
自分でもどれだけ上から目線なんだよ、と言いたくなる物言いだが、ロゼちゃんは早くも慣れ始めたらしい。そつのない笑みを浮かべて見せた。
「どうやら、あなたのお眼鏡にかなったようですね。それで、さっそくお仕事の話がしたいのですが……資金を集めるにあたって、どこかダンジョンを攻略する予定はありますか?」
「いや、ない。どこか稼ぎのいいダンジョンを知っているか?」
「そうですね……すぐには思いつきませんが……少し考えてみます。イケメンさんも、思いついたら教えてください」
「そうしよう」
「では、改めて。よろしくお願いしますね。イケメンさん」
「ふん。せいぜい俺の足を引っ張らないようにすることだな、銀髪」
「はい――はい? 銀髪?」
「貴様のあだ名だ」
「いえ、普通にロゼと呼んでくだされば……」
だって女の子の名前呼ぶとか恥ずかしいし。
(思春期男子か)
思春期男子だよ。肉体年齢的には。
(精神年齢換算だと君30代じゃん。その年齢で女の子の名前呼ぶの恥ずかしいって……きっつ)
ブサメンこいつ嫌い。いいじゃん別に。どうせ「ロゼ」だって偽名なんだから。
「今日から貴様は、銀髪だ」
「か、髪の色で呼ばれるのはちょっと……」
「よろしくな、銀髪」
こうして話は一段落着いた。
その後もロゼちゃんはあだ名のことでぶー垂れていたが、全部無視した。
なにはともあれ、ロゼちゃんは自分の依頼が受理されたことに安堵したのか、さっきよりも肩の力が抜けたように見える。ほっとしたような表情で焚火を見ながら、ブサメンが魔法で淹れてあげたお茶を飲んでいる。
「ところで、一つ聞いておきたいことがある」
「なんですか?」
「貴様、さっきそれなりにダンジョンに潜ったり魔獣を倒したりしていると、言っていただろう。ダンジョンを共に攻略することになる身として、具体的な戦績くらいは知っておきべきだと思ってな」
「そうですね。その通りです。では……何からお話しましょうか。雪女の怨念が宿った妖刀に支配されてしまった『凍てつく波動の冬将軍』と戦った話と、千年前に氷の大地の下に封印された『古き時代の千年オーガ』と戦った話、それか王都から西に進んだところの砂鯨の巨大骨の下から見つかった『地下帝国ダンジョン攻略』の話、どれをご所望ですか?」
面白そうなんで全部聞かせてください。
「逆にイケメンさんは、これまでにどんな冒険をしてきたんですか?」
そもそもブサメン、冒険者になったの今日だから。
「というか、冒険者ランクはどのくらいなんですか? バハムートの相手ができるくらいなんですからきっと――」
ブサメンは無言でドッグタグを見せた。
「あ、ランク1――。………。……」
ロゼちゃん絶句。
「で、でも関係ないですよね。すごい魔法使いなんですし!」
哀れまれている。いいだろう。ブサメンの冒険譚を聞かせてやる。とっておきの、そう、悪魔を倒した話とかな!
(! そ、その話は君にとって色々デリケートな話でしょ! やめときなよぉ)
ええいうるさい!
「ならば話してやろう。俺が悪魔を滅ぼした話を」
「悪魔!? 神話に出てくる怪物!?」
(いやまぁ倒したわけではなくて、魔界に送り返しただけだけどね)
うるさい。
ブサメンは、男爵のことは適当に誤魔化して、邪神を崇拝する邪神教の連中が悪魔を召喚したという話にすり替えて、ブサメンが華麗に悪魔を討伐した話をした。ロゼちゃんはとても興味深そうに聞いていた。
「それから魔法学校時代には、校内で起こった大事件を解決したこともあった」
「魔法学校で起きた……なんだかとても面白そうな響きです」
「気になるか? いいだろう。語ってやる。魔法学校には、世に出れば大きな被害をもたらす危険な宝具の数々が封印されている宝物庫があってな。ある時、それらの宝具が暴走してしまったのだ。そこで俺は校内の安全を守る風紀委員と共に大昔の魔法使いが造った呪われし宝具の暴走を食い止めようと――」
冒険者たちが夜通し語り合う。
その内容は、言ってしまえばただの自慢だ。
けれど、それは。
焚火を囲んで互いの冒険譚を、己の功績を競うように語り合い、俗人が聞けば荒唐無稽と笑うであろうその冒険譚を互いに賞賛し、憧れ、ならば自分はもっとすごい話を聞かせてやろうと息を巻くその光景は、ブサメンが前世で夢想した冒険者像そのものだった。
それから一晩、煌々と輝く青と赤の二つの月の光の下、ブサメンとロゼちゃんは寝るのも忘れて、お互いの冒険譚を語り合うのだった。
Tips 種族
この世界には、魔人種、獣人種、人魚種、鉄火人種、森人種、妖精種、天体種など多くの人類種が存在している。各種族には、ステータスやスキルに特徴があり、魔人種の場合、人口が多く知力が高い。一方で獣人種の場合は身体能力が高いが、知力が低い、など、種族の数だけ特性がある。




