ドライブ1
彼女は車の運転は好きだが校内に駐車スペースがなくて、通学にはバスを使って休日に車をよく使う。この日も秋を思わすよく晴れた日曜の朝、沙苗さんは越村の住まい近くまで車で迎えに来てくれた。彼女は手を伸ばして助手席側のロックを外し、それが合図のように越村はドアを開けて乗り込んだ。
「待ち合わせ場所を考えると車かなあと思ってた」
「そう、越村さんの予想どおり車で来たわよ、それとも電車かバスの方がよかった?」
車はもう既に行き先も告げずに走り出している。
「それは行き先によります」
「そうね、電話では時間と待ち合わせ場所しか決めてなかったわね」
と言いながらも彼女は行き先は決めているようにハンドルさばきに迷いはなかった。取り敢えず中心部に出て幹線道に入れば、だいたいの行き先は解る。それまで当たり障りのない話をした。
「石塚はユニバーサルスタジオで澤村さんと楽しんだと言ってたけど、今日はどうしてるんだろう」
「多分、今日はもっと楽しんでるはず」
「何処へ行ったか知ってるんですか」
ウフフと含みのある笑いを浮かべて快調に車を走らせている。どうやら石塚の奴も澤村さんと今日も何処かに行っている。此の前、昼食に誘った折には澤村さんとは色んなアトラクションでお手々繋いで乗ったと騒いでいた。澤村さんの北穂高での頑張りを見て引き合わすと決めて、問題はないと思ってるだけに内心ホッとしている。
「沙苗さんはあの二人が何処へ行ったが聞いてるんですか?」
「それがニタニタして白状しないのよ。越村さんは何か聞いてる?」
「此の前、石塚から昼食に誘われて行った大学近くの店で、芦生の原生林の森へ二人が足を踏み入れてから、何か共通の理念のようなものが芽生えたと言ってた」
「それって何なの。まさか澤村さんが、あの足もすくむような槍ヶ岳三千百八十メートルに弟を連れて行くつもりなのかしら?」
「ご心配なく、それはない。澤村さんにしても連れて行く自信はない。二人とも三千メートルの頂から滑落死するのが目に見えている。彼女もそこまで誘う勇気は持ち合わせてないが、滑落の危険がない山なら誘うかも知れない」
「例えばどんなとこ?」




