石塚の誘い2
「あの日は沙苗さんに報告して、翌日は迎えに来る予定が、かやぶきの里のバス停までだった」
「そうだ。姉貴は他の道は知らんからそうなった」
「だがお前ら二人は、呑気に歩いて来るからイライラした」
「あの時は澤村さんが大阪へ来ないかって誘われたんだ」
ユニバーサルスタジオジャパンって言われて、なんだそれは撮影所かと言って笑われた。
「石塚、そりゃあ俺だって嗤うぞ」
「とにかくそんな話をしてバス停に着く頃には、そこに行く話が纏まったんだ」
バス停に着くと丁度バスが来て、ここで姉貴を待ってくれと言い残して、二人は越村を残して行ってしまった。
石塚と澤村はかやぶきの里からバスに乗り、日吉駅でJRに乗り換えて更に京都駅から大阪行きの東海道線に乗り換えた。
「行きの新快速で澤村さんからお前の事を色々訊いたぞ」
「色々って言っても、彼女とは槍ヶ岳の山荘での俺しか知らないだろう」
「それだ、聞いたぞ、槍ヶ岳を中心にして穂高連峰を片っ端から縦走したそうだなあ。何でも北穂高には澤村さんの友達がいて伴走したようだなあ」
「ああ、あそこは厳しい難所で、女の子一人では危険だから付いていった」
「そこで澤村さんがへばりかけたときに、てこでも動かない俺を引き合いに出したそうだなあ」
これには笑ってしまった。
「てこでも動かない男が、芦生の原生林の森を二日間も走破するか」
と石塚に居直られて、ふん、と今度は鼻で嗤ってやった。澤村さんと金が無ければあの旅館で野垂れ死にする奴だ。此奴だけは火事になっても逃げるのが邪魔くさいと言いかねない。
「言い換えればそれほど気にする澤村さんに、お前のことを引き合いに出した。お陰で彼女の関心が高まっただろう」
「ウン、まあ、そうだが」
さっきまでの石塚の勢いはスッカリ鳴りをひそめた。




