植物園3
「森を案内した人の説明を聞けて、弟が歩いた原生林の森と同じ感触がここで得られて今日は良かった」
「全く人の手が行き届かない原生林の中を歩くと、人生は判らなくても社会の現実は肌に染みて来るはず、それを実感できただけでも石塚が踏み込んだ森から得た意義は大きいでしょう」
「でも、あたしはまだそんな弟を見てなくて今日、戻ってくるのが楽しみ。そうなればそれ以上に貴方への気持ちも変わるかも知れないわね」
なんか訳ありな言葉を云われると気持ちが刺激される。
最初は越村の肩に掴まりながら歩いていた沙苗さんも、この鬱蒼とした森に慣れれば、越村を頼らなくても一人で歩き出す頃に視界が開けて広い道に出た。
「こうして開けた場所にパッと出ると、あの森はなんか急に魔法の世界に飛び込んだみたいね」
「そう謂えばディズニーランドは行ったんですか?」
「子供頃に祐司と一緒に両親に連れられて……」
「その頃の石塚は施設のアトラクションには平気でしたか」
「だってゲートを通れば直ぐ乗り物で、後は勝手に周囲が変わって出口ではもう下りるのかとつまらなさそうにしてたわよ」
「その頃から歩くよりエスカレーターに乗る癖が付いたか」
「そう。だからその後は、町中で電動カートを見付けるとせがまれて、母があれは足腰の弱い人の乗りもので祐司には元気な足がちゃんとあるでしょうと説教されて、あの頃の弟は全く思慮のない子供だったのよ」
「そんな奴が、よくもまあ、あの芦生の原生林の森を数時間も歩けたのは澤村さんの御利益だなあ」
「まあ、御利益なんて、仏さまじゃあ有るまいし」
と実に微笑ましい顔で澤村さんを見直した。紹介した越村すれば悦びもひとしおだ。
「どうですか、次の日曜日は何処かに行きませんか」
これで思い切って誘うと、彼女は快く応えてくれた。




