植物園1
北山門から園内に入ると開けた場所に出る。そのまま南へ行けば良く整備された植物や花が観賞できる。越村はそこには行かず、左手の鬱蒼とした森がある『ながらぎの森』に入った。
沙苗さんは植物園に来て、何で郊外の雑林に似た森に入るのか不思議そうだ。
「どうして植物園に来て、こんな鬱蒼とした森に入るのかと思った?」
「ええ、これじゃ入園料まで払って来る意味がない」
早い話が近くの裏山と変わらない。余りにも忽然すぎて沙苗さんは不安な足元から越村の腕に縋って歩き出した。これだけでもここへ誘った半分は達成できた。
「でもここは植物園にしては、珍しく手入れされなくて自然のままなんですよ」
そう言えば足元も辛うじて細い小径があるだけで他に路はない。
「山に奥深く分け入れば、こんな獣道しかないけれど、ここは園内だけあって獣は通りませんが、そのまま再現してるんです」
「ひょっとして芦生の原生林の森もこんな感じなの?」
やっと気付いてくれたか、これが誘った主な理由だ。
「まあ、似てますけど。この森も数百メートルの範囲なので、絶対に道に迷わないし、この森の直ぐ外には自販機もあり、鬱蒼としているのはここだけ。芦生は数十キロもあり、福井や滋賀まで続く広大な原生林の森なんです」
「あら、そうなの。でも不思議ね。門を潜って十分もしないのにもう鬱蒼とした森と小さな川のような池、それに苔むした小さな橋まで架かって。弟はこんな森を数時間も歩けば足元はフラつくでしょう」
「芦生は由良川の源流域で小さい川はあっても、橋なんてひとつもなく石伝いに渡れます。それになんぼ深い森でも下草はなくて、地面が見えてる所が多くてここより歩きにくいってことはないです」
「エッ! どうして。そんなんおかしい、秘境なのに」




