沙苗の出迎え5
「どうやら落ち着いたようね。槍ヶ岳の修験者さん」
ハア? とまじまじと彼女を見た。彼女もナイフとフォークを両脇に置いて、籠に入った紙ナプキンで口元を整えた。
「まさか、山でご一緒だったその澤村響子さんも、そんな食べ方はしないでしょうね。弟が見たら驚いて腰抜かしそう」
「するわけないでしょう。夏休み前からかなりの粗食だったので、つい羽目を外してしまっただけです」
「なるほど、脂肪太りでは三千メートルの岩場は危険この上ないわね」
「そんな肥満体は地上でも危ない」
そう言えば石塚とは、学食で越村と同じカロリーのある日替わりメニューで済ましている。なのに出不精な割には細身の体で、彼奴はいったい普段は何をやってるんだ。
「お母さんも細い方ですよね。そう言う家系なんですか」
「そんなことどうだっていいでしょう。それよりその澤村響子ってどんな子なの、昨日の電話では何も問題ないって言ってるけど、そんな人が今どきいるわけない」
ひと癖二癖あるのが普通で、それが弟には良いように見えるのか、それを問題視している。
「僕の口から言うより、石塚が今日帰って来て聞いた方が確かでしよう」
「あの子が当てにならないから越村さん、あなたに訊いているの」
そうか、彼奴に女を見る目がないとは云わんが、乏しいと思われているのか。先ずは誤解のないように澤村さんを説明するか。
「電話でも少し話したけど、澤村響子さんとは今年と去年の二ヶ月一緒だった。それ以外の場所で会ったのは昨日が初めてです」
去年の夏、越村は初めて山小屋でバイトをした。その時に彼女は、かなり慣れた手付きで山小屋の仕事をこなしていた。訊けば高校生の時に来たことがあるそうだ。お父さんもアルピニストでヒマラヤの遠征隊に加わった。勿論登頂アタックのメンバーでなくキャンプで待機する支援隊だ。と言っても登頂できるだけの体力と技術は持ち合わせていた。




