沙苗の出迎え1
自分をどう判断して己をどう見極めるか。自分は世の中を見るとき何を基準にするか。自分が生きようとするとき何を手本にするか。
今なら過去を見るとき、それに対してどんな価値判断を持って下すか。ここで澤村はその一端を掴んだのだ。だが石塚はひと月近くここに居ながら、多くの人の考えを聞いてもそれが何なのか気付いていなかった。
「それだけ」
越村にすれば、石塚のここでの航跡を簡単に伝えたつもりだ。
「それで十分だと思うけど何かもの足りない?」
意外な言葉に越村は砕けた。縦貫自動車道は亀岡市付近を快調に走って、ハンドルを持つ沙苗さんもだいぶ落ち着いてきた。
「そうね、その澤村って言う人の廃墟って何なの。それがどう弟の心に響いたか問うてるの」
此処は廃墟でなく、抜け殻だと気付かせた澤村さんのひと言が、どれほど彼奴に浸透したかに因る。
「おそらくぼくがが訊ねても、石塚はぬかに釘を打つように何も示さない。要するにお互いの心の中に分け入ろうとする努力の結晶があの二人に芽生えたとしか言えない」
「いやに回りくどい言い方ね」
「ハア〜、それは沙苗さんが具体的にと言ったから……」
もう、唐変木。とひと言発して彼女は車を加速させた。スピードメーターは急激に右に振れた。
「もっとましな言い回しはないの」
とにかく澤村さんから感銘を受けた今の石塚にすれば革命的な進歩だ。
「ここは澤村さんに任せてみませんか」
彼女はアクセルを急に緩めた。スピードメーターはさっきの位置に戻りだした。どうやらこれが返事らしい。




