石塚の帰郷3
夕べ澤村は旅館に戻ると、
ーー今から駅に行くバスはあるかしら?
と言い出されて石塚は慌てた。
ーーエッ! もう一泊するんじゃなかったの。
ーーもうここには私を引き留める情感がないのよ。仕事なら別だけど。
ーー俺もそう思うが、でもひと月もこの集落に居る石塚にはもうそんな心境は通り越している。
ーーじゃあ、何のために居るの。
と突っ込まれると石塚には益々返答に窮した。
ーーここの景色や風情でなく、それを求めてやって来る人の考えや、それに同調する人を求めてずっと此処に居続けてるんだ。
どうしてガイドでもないあなたが居るのか、考え方を変えれば、家族に対する不満でもあるのか追及された。あっても言い負かせるだけの根拠のない石塚は困惑した。
ーーとにかくもうバスはない。明日帰ればいいだろう。
と石塚は引き留めた。
澤村さんは悪気があって言ってないのは、山でのバイトで越村は解っていた。
ーーそうね。
越村同様にアッサリ引っ込めた。
ーーそれより石塚、お前も明日一緒に帰れば。お前だけ残ってどうするんだ。このままだと大学留年するぞ。
ーーそうなの。石塚さんって子供みたいにして親を困らせたかったんだ。
そんな訳がないと石塚は強く否定した。
ーーじゃあ今日は派手に送別会をやるか。
いったい誰の送別会を今更やるかと越村は呆れた。
ーーまだ残るのか。
と云われて、これには石塚は慌てた。
ーーいいや。俺も一緒に明日帰る。長く居たこの旅館とのお別れの送別会だ。
ヤレヤレ往生際の悪い奴だ。
ーーやっとこの廃墟から抜け出すことを考えたのね。
澤村さんは打って変わって優しく微笑んだ。
ーーここは廃墟じゃないだろう。
ーーあなた以外の人にとってはね。でもやっと自分の足であの原生林を楽しみながら歩けばもう此処はあなたにとっては廃墟に等しいから。
ーーそうだった。俺は俺の抜け殻に今まで浸っていた。この目でこの集落を初めて君と一緒に歩いて心の中にやっと自分を見出せた以上はここに留まる理由はない。




