石塚の帰郷1
もう見るものはないと、昨夜の夕食どきに三人とも明日は宿泊しないと話が纏まった。頼んだ姉が旅館まで迎えに来る予定が、集落を通らず来る道が判らず、かやぶきの里で三人は待ち合わせた。
朝の十時頃に沙苗さんの車がバス停に来た。だがかやぶきの里のだだぴっろい駐車場の端にある三坪ほどのバス停の待合室から出て来たのは越村一人だった。
「どう言うこと」
沙苗さんは一応待合室を覗いてから車を出した。
「ねぇ、弟とその夕べ、電話で言っていた澤村響子さんの二人はどうして来ないの。まさか二人一緒にあの旅館にまた泊まるって言うわけないでしょうねッ」
話が違うと沙苗さんはかなり苛ついてる。
「心配ない、昨夜、話したように、もうあの旅館には宿泊は入れてない。だから心配ないよ」
「だから心配しているのよ。まったく何処へ行ったの」
「判らないけど、ここからバスに乗って、電車で彼女の家まで送るそうだ」
「こんな所から真っ直ぐ、で、彼女、その澤村響子、さんってどこに住んでるの」
「大阪」
「あのばか、大阪まで行くつもりなの」
悪いことに車は集落を取り囲む峠に入ったが、この調子では彼女は速度を落としそうもない。
「でも、石塚にすれば、京都駅でハイさいならはないだろう」
案の定、峠道で越村は左右に揺られた。
「そんなに好い関係なの。昨日会ったばかりでしょう」
「今は好奇心半分って所でしょう、お互いに。石塚は会ったばかりだが相手の澤村響子さんは僕が石塚についてかなり吹き込んでいる。それで手応えを感じて、これなら沙苗さんの要望に応えられると呼んだのですよ」
「まあ確かにあの引き籠もった旅館からは引きずり出せたけど、他に方法がなかったのかしら」
「有ればこっちが伺いたいです」
峠を過ぎて何とか車は安定した走りになったが、出来れば峠道では速度を落としてくれれば、そんなに左右に揺られなくて良かったのに。




