来客の頼み5
靴だけはしっかりしたものを履いて、軽装で四人は菅原さんの四駆で旅館を出た。
車は研究所で入林の届けを出す。ここからは関係者以外の車は通れず徒歩になるが、前回同様に長治谷小屋まで車で行く。
ここ以外には、白神山地と関西では大峰山系がある。大峰は植林地もあり、完全な由良川水系の水源地としてなにも人の手が入っていない原生林は、ここと青森と秋田にまたがる白神山地だけだ。京都大学農学部が芦生一帯の地上権を買い取って演習林として今日まで管理し現在に至っている。
「それで手付かずの原生林として残ったのですか?」
「残ったと言うより材木の需要がなくなり、その後は演習林でなく研究林としてこれより奥は道もなく一般者は立ち入れないようになったんですよ」
車は長治谷小屋に着いた。ここからは芦生の原生林の核心といえる上谷に、徒歩で分け入るが石塚は率先して歩き出した。
菅原さんが先を歩きながら地形を説明するが、昨日はほとんど黙って聞いていた、今日は澤村さんが質問してより丁寧に答えていた。
「なんかこの辺りは木が密集してませんね」
「ええ、その方が日当たりがいいでしょう」
「だったら余計に木々に覆い尽くされてもいいのに」
「最初はどんぐりの背比べですが、良く見てもらえれば、その内に勢いのある丈夫な木が日光を一番多く浴びて、どんどん成長した木だけがここでは生き残れるんですよ」
木と木の間隔が広いのは、最初は密集しても大きく育った木が枝葉を伸ばした結果、ここは自然とその下では陽が当たらずに新しい芽が育たない。そうした新陳代謝を繰り返して百年掛けて出来た森だ。あとは前回も言いましたが、下草は鹿に食われない草だけが残って、陽が当たらなくて養分のない場所には、菌糸を伸ばす地衣類や苔がはびこっている。




