来客の頼み4
澤村はドッシリと腰を落ち着けてビールを呑んでいる。石塚は心なしか呑みっぷりまで衰退している。この好対照の二人を会わせようとした越村には、ないものねだりより足らないところを補えればと思った。これは槍ヶ岳の山荘でバイトを二回続けて四ヶ月彼女を観察して、石塚について刷り込んだ結果だ。勿論、彼女自身に関心がなければただの世間話に終わった。今年は彼女と初めて槍ヶ岳から北穂高に縦走した。あれは凄い難所だった。そこで音を上げそうになった彼女に、ふと石塚と変わらないと言うと俄然、難所の岩場に取っ掛かり出した。これには余程、気にしているんだと驚いた。そのあと下界との気圧差がある北穂高で呑んだ生ビールは美味かった。なんせ炭酸ガスは地上と同じ圧力だが、気圧の薄い北穂高で呑めば、これが堪らなく内臓を刺激してくれた。それと似た刺激が功を奏して菅原さんは期待に応えてくれた。
菅原さんも今まで説明した中で石塚が一番やりがいがなかっただけに、越村の熱意に押し切られた。
少し時間が掛かって越村が戻って来た。
「難交渉だったの」
「菅原さんは山の保全状態を調べる人で、ガイドじゃないんだ」
これで一息吐いた石塚を見て、
「だけど一人でも多くの人に山林の状態を知ってもらうのはやぶさかじゃないと言ってくれたんだ」
石塚がどっと肩を落とした。
「これで決まりね、さあ呑みましょう」
彼女は残りの瓶ビールの栓を抜くと石塚のコップに注いだ。
「さあ明日の英気を蓄えましょう」
と思い切り笑ってコップを掲げた。石塚も躊躇しながらもそれに合わせた。
翌日も天気は良かった。菅原さんの起床時間に合わせて、四人は下の広間で食事を摂った。
菅原にしてみれば、昨日関心を示さなかった石塚が、よくぞ、また一緒に来る気になったのが不思議なようだ。彼女がここまで誘えば石塚も、今度はじっくりと芦生の原生林を観察してくれると口説き文句にした。なるほどと朝食時には、菅原さんは澤村さんを気に掛ける石塚を見て納得しながら箸を動かしていた。




