新たな来客2
ここは人生の行き止まりではない。今日、分け入った原生林の森に、石塚は何を感じたのだろう。少なくとも文明に俗化されない世界に足を踏み入れたのは今日が初めてなのか。案の定あれほどの人跡未踏には立ち入ってないと解った。
「別にそうでもないが、ここの集落は自然で落ち着く」
自然を自負する森でも、石塚は十分も歩けば自販機に巡り合うのに、数時間も文明の恩恵もない世界は初めてだ。
「それで今日、行った森はどうなんだ」
越村に言わせれば原生林の核心まで車で行くだけで、既に文明の恩恵を受けすぎて物足りないが、石塚が歩いた原生林の森はほんの一部だった。それでも石塚には十分すぎるのも無理もない。そんな男がここに逗留できたのは現実との交わりがあったからだ。これが完全に隔離されれば直ぐに音を上げて帰っていたはずだ。僧侶も引き上げ、掛川さんもあの調子だとそろそろ絵の題材に尽きるはずだ。僧侶や画家はここで何かを成し遂げようとしたが、最初から確たる目的もなくここに迷い込んだ石塚はなにも残してない。石塚はそれほど潮時を見極められないほど空虚な信念の持ち主だと感じて宿に戻ると、澤村響子さんが丁度旅館に着いた。
「あらお久し振り」何て言われても一週間も経ってないのに、槍ヶ岳から下界で再会すればそんな郷愁が去来しても不思議でない。それほど遠い世界観を感じさせる隔たりが此処にはあった。
「誰、此の人?」
と呆気に取られる石塚が面白い。
「槍ヶ岳の山荘で二ヶ月バイトした仲間なんだ」
「そうで〜すぅ」
澤村さんは愛嬌良く石塚を迎えた。そこで女将さんがチェックインを催促されるほどお構いなしに彼女は喋った。




