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新たな来客1

 石塚と旅館に帰ると常寂が部屋に居ないと騒ぎ出した。よほど気になるのか旅館の若女将に訊きに行った。住職は今朝、石塚が芦生の原生林に行ってるうちに岡山へ帰ったと聞かされ、そこに越村を移すように頼んだが、越村がもう既に予約していた。

「常寂の空いた部屋にいったい誰が来るんだ」

「来るのは茅葺の里を知った大阪に居る大学生で、部屋が空いたばかりだとメールを送れば来るって言うから直ぐに予約してやった。今日の夕方までにはチェックインするから、まあ来てからのお楽しみだ」

 と相手を明かさなかった。

「それじゃあ、常寂はどうしてサッサと帰ったんだ」

「己の力の限界を感じたんだろう。ここでうだうだするより代行している奥さんを説得する方に気が変わった。つまり他人を説教するより、自分の足下をしっかり固めようとしただけだ。それよりまだ少し陽はある。これから集落をゆっくり見て回ってここの良さを説明してくれ」

 長居する石塚は、親の小言を避けるにも、ここの良さをアピールしておきたいはずだ。何処《どこ》を歩いても見飽きないが、石塚は画家が特にいつも描いている場所に案内した。

「あの画家がここで絵を描いているのを何度か見かけた」

「そう言えば、部分的には昨日見た絵に似ているが、こうしてみると矢張り昨日見た絵とは違う」

「そうかなあ。でもここで描いている時は忠実に描《えが》いていたが、どこで別なものを描き加えたのか、俺は知らない」

「何《なん》だ。じゃあ出来上がった絵は一度も見てないのか」

「見てないし、見ようとも思わなかった」

 絵に関心が薄いのか、しかたねぇなあー。

「それじゃあ石塚は、ここのどこが気に入ってるんだ。それともここに来て意気投合する客を目当てに逗留しているのか」

石塚の虚ろな目に、何処か彼奴の行き詰まりを感じた。


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