芦生原生林2
「話を聞けばこの奥にはまだ手付かずの森が残ってるんですか?」
「そこは大学の演習林で、芦生原生林と呼ばれて百年以上保存され、京都では一番長い川、由良川の源流域なんですよ」
「それはぜひ行ってみたいが、バスの本数が少なくて……」
「よかったら案内しましようか。営林署のわたしが使ってる車は結構な山道でも行けますよ」
ここで越村と菅原さんとは話が弾んだ。
長く逗留すると顔馴染みの泊まり客に出合い、ここの逗留も悪くないだろうと石塚が思っているのが見え見えの態度だ。確かに画家と僧侶に比べれば真面な感覚の持ち主だが、菅原さんに石塚は少し気持ちが引けていた。越村は早速翌日には芦生の原生林を菅原さんに案内してもらうことにした。
菅原さんとは同じぐらい逗留しているのに石塚は芦生に一度も連れてもらってない。どんな付き合いなんだと疑いたくなる。菅原さんは画家や僧侶と違って仕事で毎日この丹波の山や森を駆け回り切っ掛けがないと聞いたが、石塚の弁明も怪しい。越村が頼めば菅原さんは翌日には案内してくれる。
翌日は菅原さんと一緒に早めの朝食を摂り、早朝から彼の四駆で出掛けた。
芦生研究所で車を止めて届けを出した。一般の人は此処から徒歩で入るが、車は林道を更に奥へ入った。
長治谷小屋まで車で行き、ここからは芦生の原生林といえる上谷に徒歩で分け入る。菅原さんはここまで何度か途中下車して辺りの地形から植生を説明した。何もないところから植物が芽吹き、そこから次第に百年かかって太陽を独り占めできる強い樹だけが生き残り、今あるこの森を作っている。今は鹿が増えて、下草を食べられて土が剥き出しになっているところを、菅原さんは調べている。
「平地なら良いですが傾斜地だと、豪雨災害が起こりやすいんですよ」
菅原さんの仕事は、そんな地形から砂防ダムの必要箇所や、長年の土石流で痛んだ砂防ダムの補修点検をしている。
「鹿はそんな増えてるんですか」
「ええ、凄い繁殖力で、今は人間でなく鹿から身を守れる植物が増えてますね」




