芦生原生林1
常寂さんに誘われて夕食を同席したが、期待したほどに盛り上がらずに、一時間ほどで越村と石塚は引き上げた。石塚に言わすと今日の住職はいつもの精彩を欠いて石塚には合点がいかないと首を傾げている。
「お前はいつもあの住職から何を聞かされているんだ」
「有り難い話だと思っている」
「そうか、まあ今日は疲れたからこれから風呂へ入ろう」
二人は浴衣に着替えてタオルを引っ掛け浴場に行った。ガラス戸を開けるとどうやら先客が一人居た。先客は石塚を認めると声を掛けてきた。
「なんだあの人も知り合いなのか」
「今朝、説明した砂防ダム工事の現場責任者だ」
そう言われて見れば、少し日焼けしていた。
「今日は偉い遅うまで頑張ってはったんですか」
「ちょっと手違いが生じて、やり直した箇所があってそれで遅れましてね」
「夏で良かったですね。陽が早い冬なら翌日また一からやり直しですか」
「石塚さんもだいぶこっちの仕事の段取りが分かってきましたね。そっちはお友達ですか」
言われて石塚の紹介を待たずに越村は自己紹介した。
「同じ大学生ですか」
中年男性に丁寧に言われると、こっちもそのつもりで畏まってしまう。
「石塚の話ですと、この丹波の山には自然美が残ってるそうですね」
「何分にも鉄道と高速道路が迂回して取り残されてますからねぇ」
「何で避けたんです」
「今と違ってトンネルの掘削機がなかって、手掘りではどうしても大きな川沿いの方が鉄道や道路が作りやすく山深い丹波は遅れる。切り出した材木なら支流でも集積場まで流して、そこから鉄道輸送すればそれだけ自然が残ります」




