深山常弱5
「実は家内も教員免許を持っていて、それで代行をしてもらってる」
これは相当な理由がないと許可が下りない。それを頼む住職の心境を知りたい。
「そんなことがまかり通るんですか」
ここでも疑問を挟まない石塚に代わって越村が追求した。
「それが寺を潰してもいいのかのひと言で、今回は初めてまかり通った」
それほど山間部では、住職のなり手に困窮しているのを逆手にとって、ここでのんびりして住職が務まるなんて、今日、石塚から聞いた話と矛盾する。が酒が入ると本音がぽろぽろ出る処が変に可笑しい。
「では、ここを知って、そのまま居座っているのはそう言う事ですか。常弱さん」
急に越村に戒名で呼ばれて住職は頭を掻いた。
「実は今さら言いにくいのですが、本当は常寂と書くんです。お寺では常寂で、ここでは常弱で通ってしまって……」
「オイオイ、そんなん俺は聞いてないぞ」
石塚にすれば何で越村に言われて直すんだと機嫌を害した。
「旅館の年配の女将さんが、わたしの発音を聞いて常弱と書かれて、それを訂正してないだけです」
ウ〜ンと越村は唸りたくなった。石塚はまったくこの坊さんに丸め込まれている。あの画家もしかりで、此の辺りから彼奴の間違った信念を突き崩せば、沙苗さんには面目が立ちそうだ。
「学校もそうだが、先生に慣れた生徒が気の毒だなあ」
「それが代行の家内の方が生徒の受けが良くて、教職に復帰する切っ掛けをなくしてしまった。それで困っている」
「それでは、今までの話と違うがな」




