深山常弱4
最初のビールをひと呑みすると続きを言うでもなく、魚の刺身を頬張るとひと山向こうの寺の住職が亡くなって代務住職、即ち掛け持ちをやってもらえんかと言う話を断った。
ここで初めて住職の箸の持ち方がおかしい。どこに徳を積んできたのかと越村は気付いた。さりげなく石塚を視ても、彼は無頓着なのか意に介していない。それどころか、
「それでその話はどうなりました」
と耳を傾けている。此の辺りの躾が行き届いてない、苦労知らずの末っ子を垣間見た。
ひと山向こうと言っても、中国山地を越えた向こうで、つまり鳥取県側のお寺とこっちの岡山県側のお寺を掛け持ちする話が舞い込んだ。いくら何でもそれは無理だった。
「何で山向こうでなく、近在の鳥取県下でも日本海側ならまだしも、そんな山奥からひと山越えてこっちのお寺に話を持ってきたんだ?」
石塚は雪に閉ざされた冬の厳しい日本海側の気候には関心ないのか。
「それでそのお寺はどうなったんです?」
石塚を無視して淡々と越村は訊いた。
「潰れた。それほど住職のなり手がなくて、四苦八苦してると言うことだ」
お寺は昔から坊主丸儲けという言葉が先走りするようだが、都会の本山も苦しいが、地方の寺を預かる我が身としてはとんでもない言い草で、日々混沌として副業のアルバイトで寺どころか、一家の生計を支えている実状を懇々と語り出した。
住職は地元高校で先生をやりながら、忘れた頃に舞い込んでくる法事に従事している。当然、頼む方も日曜祭日か、春夏冬の学校が休み時に頼まれる。それで何とかお寺を維持している。住職が此処に居る間、越村はバイトに明け暮れた穂高連峰の話をして、学校は夏休みが終わっていると気付いた。
「先生なら夏休みはとうに終わっているのに、じゃあ学校はどうなってるんですか?」
石塚と違って苦労人の越村には一番気になる問題だ。




