北村篠7
篠さんはあの絵を見て、画家として認められた二科展の作品から脱却して、果たしてあの人に未来はあるのか、と篠さんは不安を感じていた。今までと違う作品だけに彼女はどう彼に接していいのか迷った。越村の評価で彼が何を主張しているのか気になったのだろう。
「掛川の絵がどう変わったのですッ」
これには越村は呆気に取られた。
「御免なさい。越村さんは掛川の全盛期だった二科展に、毎回入選していた頃の絵を知らないかったんですね」
「まあ、そうですが……」
越村にすれば特に深い考えがある訳がない。ただ今日、見た掛川の雰囲気からして、あの絵は合わないところを無理に合わそうとすれば、そこに何か掛川の主張が、絵の中に含みある線や色調になって現れている気がした。そうでなければ見たままの風景をキャンバスに描き込んでいくはずだ。それが逸脱しているのは、視覚から捉えたものを理性が拡張して、景色を作り替えているとしか考えられない。それをストレートに 心が捉えた感情に任せて彼女に言ったまでだ。それを具体的に聞かれても答えようがない。
「ここで篠さんに言えるとすれば、今日一日を通して掛川から受けた彼の印象は、二科展の絵は専門家に気に入られた過去の画風で、それと違うと言われても、私が今見た絵は現在の掛川さんが描きたい絵なんです。それが今の彼そのものだと気付いただけで、訊ねられても他に意味ない」
「それじゃあ言い方を変えると、越村さんが今日、この集落を掛川と一緒に歩いて彼にどんな印象を持ったんですか」
「余りおごり高ぶった処がない。いやほとんど見受けない。淡々と目の前にあるものに一心不乱で絵に打ち込めるタイプじゃないのかなあ。どうです、ぼくの見立ては」




