北村篠6
「それじゃあ、今はギャラリーに来るお客さんには、どんな説明をしてるんです?」
「もう特定の場所は言わないで、丹波の山奥にある風景だ。としか言ってないのよ」
「それで買う人はいるんですか?」
「矢っ張り、二科展に入選した彼の作品を知ってる人が、珍しがって買っていくのよ」
この絵そのものの魅力に憑かれたのではないのか。過去の画風と比較して買っているのなら、そんなに長く続くのだろうか。
「お客さんは満足して買った訳じゃあないんですね」
「ウ〜ン、評判はどうかしら? まだこの風景シリーズは作品が少ないから。でも買ってるくれる人が、彼の過去の作品を知ってる人だから、今が潮時かも知れない」
もし売れ残ればいつまでも展示出来ず掛川には、ここでの作品作りを断念させる。今がその見極めの時だと、篠さんは気付いているが、本人はここが気に入って重い腰を上げそうもなく気を揉んでいる。
「それでは、この絵の出来が、ここで作品を描き続けられるかの分かれ道なんですか」
そうね、と顔を曇らせながら、椅子の上に置いた絵を、平べったいダンボール箱に仕舞い出した。
「掛川さんの過去の作品に、囚われない人が買ってくれば期待できるんですか?」
「そうですけれど……」
篠さんは言い澱んで、箱にしまった絵を暫く見詰めていた。この光景を見ると、単なる画家と画材店の娘さん以上の何かがひしひしと伝わって来る。
「越村さん」
篠さんは急に彼を名指した。
「はい、何か」
「先ほど越村さんはこの絵を見て、掛川がこの絵で何かを主張しているって言いましたよね」
「ええ」
急に念を押されて、何を言い出すのか身構えてしまう。




