北村篠4
この食い違いを篠さんも掛川も互いに譲れないのは、まだどっちも心の距離を詰められないのか? 二人にそれほどの敵愾心もなければ笑って見ていられる。
問題は絵の売れゆきが気になる。それに依って二人の仲がどうなるか、分かれ道にならないとも限らない。親にしても提供した画材に見合う見返り以上のものを期待していいもなのか。それとも将来の単なる跡継ぎなのか。その辺りは未知数だ。それはこの絵の価値に依って決まりそうだ。
「彼が出展した二科展の作品を見ないと解らないが、二科展から画風が変わったと聞いたが、それはどう変わったんだろう。例えば線に丸みが帯びた。またはその反対か、色彩はどう変わった。題材にも大きな変化はあったのか。今はここで風景を描いてるがモデルにもよるが人物画はどうなのか」
一気に捲し立てられて篠は「此の人、何なの?」と目を丸くした。
それでも篠さんが越村の質問に答えたのは、彼の絵に対する視点の違いと、そこから来る新たな理解力に関心を示したのだ。
「人物画は描きたいと思う人がいないと描かない。だからほとんどモデルは雇わない。線は丸みがなくなったと云うより、繊細で細かく描くようになった」
とにかく並べ立てられた質問には答えて、彼の反応を待った。
「そう言われてもピンとこない」
「じゃあ、どうしてそんな質問をするのよッ」
「この絵と、今日見たこの茅葺きの集落とは、合わないところを並べてみたんだけど……」
これには正確に捉えていると篠は感心した
「今日、着いたばかりだと掛川から聞いたけど、よく観察しているのね」
「それが、ここへ来た目的なんだから、じっくりと観察しないと」
沙苗さんに合わす顔がない。
「変ねー、別に絵は描かないんでしょう」
「描いたことはないけど、見るのは好きで、時には批評だけはする」
「そうか、それで三千メートルの頂から下界を見下ろしているのね」




