北村篠3
篠さんは奥からB0サイズぐらいの平べったい段ボール箱を持ってきた。
「もう梱包したんですか」
そんな大層なことはしてませんと、蓋を開けて絵を出して壁に立て掛けてくれた。
「写真の全紙サイズぐらいかと思ったが、結構大きいですね」
「これは50号のキャンバスサイズなの。風景画ならこれ位でないと見たときに受けが良くないの、もっとも、絵の良し悪しは中身ですけれど……」
篠さんはガラス障子の向こうにある肘掛け椅子を持ってきて、座って目の位置になるようにかけ直して、二人は座敷机からじっくり絵を眺めた。
「細かく写実的に描いてありますね。これはこの茅葺きの集落の何処かなんでしょうね」
「でもこんなキッチリと収まった風景はないわよ」
ウフフと笑いながら云った。そう言えば石塚も似たようなことを言っていた。
「これ、どうするんですか?」
「家の店で売ってるの」
画材店は狭いが、ちょっとしたギャラリーも併設されていた。どうやらそこで掛川の絵を展示している。
「そうなのか。じゃあ掛川さんはある程度は、お客さんの要望に応えて描いているのか」
「見て分かるように、そうでもないでしょう」
「そうかなあ〜。ぼくにはそうは見えないけど。でもこんな風景にも、どこが掛川さんの主張がある気がする。例えば今日散策した中で、山の稜線の角度が少し滑らかじゃないし、茅葺きの民家も白川郷を連想させる。集落の奥行きも広がりも違う。なんか桃源郷みたいだ」
「そう言ったのはあなたが初めて」
不思議そうに篠は作品を眺める越村を見詰めた。
「当人はどうなんですか?」
と隣を振り向ければ、真面に篠さんの目とかち合って彼女は慌て目を逸らした。
「どうでしょう。あたしには何も言わないから」
ウッ、さっきと話が違う。じゃあ無口なのはあの絵描きの方なのか。狸とキツネか、どっちも食い違うところが可愛いが、これではどっちの話を聞いていいのが解らなくなった。




