北村篠2
「そう言われれば、いつもそんな厳しい顔をしていれば、心在る人は遠のくでしょうね」
「それで篠さんは、掛川さんに寄り添ってるのか」
「まあッ、どうでしょう。あたしは画材屋の娘ですから。絵に対する目利きは肥えています。それで父にも頼まれてこうして来てるだけです」
「おィ、それは初耳だなあ。そうなのか」
掛川は石塚の問いには、肯定も否定もしないまま沈黙を守った。
「まあいいや」
アッサリ石塚は撤回して、出来上がった絵があるか聞いた。
「ええ、あたしはそれを受け取りに来たの」
「オッ、それは丁度いい。越村が絵を見たいと言ってるから見せてくれ」
篠さんは越村をじっくり観て、どうぞと立ち上がった。越村はエッ向こうから持ってくるんじゃないのかと躊躇した。
「俺には絵は解らんから、向こうでユックリ見てこい」
篠さんはもう出口まで行きかけている。越村は掛川にも目でいいのかと了解を求めた。彼も軽く頷くと越村は篠さんのあとに続いた。廊下に出て篠さんは振り返った。
「あの人は二科展に出展した頃とは画風が変わってきているのよ」
「そう言われても、二科展にはまだ行った事がないのでよく解らない」
「その方が余計な先入観念に囚われずにいいわね」
と篠さんは安堵して歩き出した。
旅館の一階は家族連れ用に間取りの多い部屋で、二階の八室はどれも同じ間取りになっていた。案内された掛川の部屋は思ったより綺麗だ。
「此処で絵は描いてないんですか?」
「そうでもないわよ。気の向かない時はここでも描いてる。あっ、そうか、部屋が綺麗なのは光子さんのお陰よ」
「光子さんって、松枝さんのことですか」
「そうか、今日来たばかりなのね、じゃあ無理もない。そう、その松枝光子さんが毎日お掃除して下さるの」




