北村篠1
見に行くまでもなく向こうから描いた本人がやって来た。
入り口のドアを開け、半畳の三和土から引き戸を開けて掛川が入って来た。八畳の和室の向こうに、ガラス障子で区切られた板張りの張り出した空間で、ローテプルに向かい合う椅子に石塚と越村は座っていた。上がり込んだ画家と篠さんは、八畳の和室のど真ん中にある座敷机に座り込んだ。
ここも同じ作りなんだと篠さんは上がり込んだ部屋を見回している。
「どうしたッ」
石塚が尋ねた。
「修験者が来てると言ったら、篠がどんな人? って珍しがって連れて来た」
石塚が立ち上がり和室に戻ると越村も続いて、座敷机を挟んで画家と篠さんの向かい側に腰を下ろした。そこで初めて篠ですと挨拶された。慌てて越村も付け足すように挨拶した。
篠さんはジーパンにティシャツだ。髪はポニーテールのように後ろに束ねてある。虚ろな感じの眼の奥には、画家も引き寄せられたと思わせる瞳が輝いてる。
「なんだ越村の事か、行列が出来るパンダほどでもないだろう」
「石塚さんって、もっと気の利いた言い方は出来ないのかしら」
言い出して篠は、越村の方に目をやった。真面に目が合った越村は、慌てて愛想良く見詰めた。越村の眼を見て、ちっとも修験行者じゃないと篠さんに言い返された。
「顔で決めるなッ」
掛川が一喝した。
「わかってるけど。もっと荒々しい男を予見していただけよ」
「オイ掛川、ちゃんと言ったのか。下界では見たとおりの男だが、俺は穂高に挑んでる越村の姿を一度も見てなくて何とも言えんが、同じ山男からは目が鋭くて近寄りがたいそうだ」
「そんな目をしてたかなあ。まあそれでも穂高は凄い岩場の連続で気が抜けなくて、どうしても頭より先に目が鋭い岩場に食い込むように見る。そこで張り詰めた神経が緩んで仕舞えば命取りになるんだ。どうしても切り立った突き刺す岩場を見ると自然と厳しい表情になってしまう、これは癖なんだ」




