掛川寛人・8
受け付けには沙苗さんと一緒に来たときに居た三十前後の女性が、お帰りなさいと迎えて、篠さんが部屋でお待ちですと伝えた。ここで掛川とは一旦別れた石塚は、越村の宿泊手続きをした。相部屋と聞いて受付の女は愛想良くなった。出された宿泊カードに越村は、名前と住所と連絡先を記入して今夜の夕食も頼んだ。
「ここの料理は美味いぞ。なんせ女将さんの旦那さんは、大阪の一流ホテルでシェフをやっていた人なんだ」
「もうッ、石塚さん、煽てても何も出ませんよ」
「正直に言ったまでですよ」
「良いか悪いかは今日から泊まられる越村さんがお決めになることですから、それから次回からは集落を通らずに来るようにお姉さんに伝えて下さい」
二人は語尾を背中に聞きながら部屋に戻った。そう広くない部屋が全部で十二室あった。トイレは付いているが風呂は別だ。
越村の疑問は今朝、沙苗さんと来た時はかやぶきの里から集落を通ったが、彼女の車は見掛けなかった。
この旅館は集落の果てにあり、かやぶきの里から集落を通らず、ここまで車で来られる道路があったのだ。なんせ集落は緊急車両以外は集落の許可が要る。石塚はまったく何も言ってなかった姉に、次からは説明する必要が生じたが、こう言うところは無頓着な男だった。次に越村は、篠と呼ばれた女性付いて尋ねた。
「彼女は確かに掛川の云うように口数は少ないが、気が合えば驚くほどペラペラと喋って来るから愉しみにしていろ」
画家の話と石塚で、どっちが合っているのか首を捻りたくなった。
「その篠さんと画家とはどう言う関係なんだ。単なる画材の不足分を揃えるだけじゃあないだろう」
「そうとも言えないんだ」
「どう言うこっちゃ」




